
先に結論:HGPPSは「水平に動かない目+進行する側弯」。MRIは橋の裂と延髄の蝶の形
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 生まれつき水平注視がなく、幼児期から側弯が進む常染色体潜性の病気。ROBO3遺伝子の変異(Pinero-Pinto 2020) |
| 目 | 水平注視は麻痺し、垂直注視は保たれる(Bosley 2005、Pinero-Pinto 2020) |
| MRI | 橋の背側正中の裂(split pons sign)、延髄の蝶の形、顔面神経丘の欠如、橋・小脳脚の低形成(Rossi 2004、Bosley 2005) |
| 診断 | MRIで疑い、ROBO3遺伝子の検査で確認(Pinero-Pinto 2020) |
| 診断の遅れ | 6人の報告で、症状の始まりの中央値1.5歳に対し、診断は11歳(Günbey 2024) |
HGPPSとは
HGPPS(horizontal gaze palsy with progressive scoliosis、水平注視麻痺と進行性側弯症)は、生まれつき水平方向の眼球運動(左右を見る動き)がほとんどなく、幼児期から側弯が進む、まれな常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。原因はROBO3遺伝子の変異です(Pinero-Pinto 2020)。ROBO3は、神経の軸索が脳の正中を越えて反対側へ交差するために必要な遺伝子で、HGPPSでは運動や感覚の神経の一部が交差せず、同じ側に走ります(Pinero-Pinto 2020、Bosley 2005)。
この病気は、脳MRIの形の異常(橋の背側の深い裂、延髄の蝶の形)から診断のきっかけが得られることがあります。MRIが最初に診断を示唆する検査になり、ROBO3遺伝子の検査で確認する、という流れが整理されています(Pinero-Pinto 2020)。
症状:目と背骨
5家系・11人の検討では、水平注視麻痺は全員にあり、生まれつきで、水平方向の動きがほぼすべて失われていました。輻輳(寄り目)や眼位、先天性の眼振、垂直方向の滑らかな追従は人によって違いました。全員が幼児期に側弯が進行し、保因者(ヘテロ接合体)は発症しませんでした(Bosley 2005)。系統的レビューでも、水平注視の制限または消失と、垂直注視が保たれることが共通でした(Pinero-Pinto 2020)。
側弯は受診のきっかけになることが多く、機能の障害、肺への影響、痛みを生じ、手術を要することも多いとされます(Pinero-Pinto 2020)。トルコの6人の報告では、症状の始まりの中央値が1.5歳でしたが、診断がついたのは中央値11歳でした(Günbey 2024)。最初の症状は眼の異常が4人、側弯が2人で、知的障害・難聴・性腺機能低下などを伴う人もいました(Günbey 2024)。
MRIの所見
HGPPSの脳幹の異常は、軸位(横断)のT2強調像で見つけやすい形をしています。
| 所見 | 見え方 | 見る場所 |
|---|---|---|
| split pons sign | 橋の背側(第4脳室側)の正中に、深い裂が入って橋が左右に割れたように見える | 橋のレベルの横断像(Rossi 2004) |
| butterfly medulla | 延髄が蝶の羽のような形に見える | 延髄のレベルの横断像(Rossi 2004) |
| 顔面神経丘(facial colliculus)がない | 第4脳室の底の左右のふくらみが見えない | 橋のレベルの横断像(Rossi 2004) |
| 橋・小脳脚の低形成 | 橋が小さい。小脳脚も小さい。橋・延髄の前後の正中に裂がある | 矢状断・軸位(Bosley 2005) |
| DTI(拡散テンソル) | 上小脳脚の交叉が見えない。背側の橋横走線維が見えない | (Günbey 2024) |
顔面神経丘は、橋の背側で、顔面神経の線維が外転神経核を回りこんでつくる小さな高まりです。HGPPSでは、この高まりがありません(Rossi 2004)。この検討では8人がMRIを受け、適切に調べられた全員で、橋と小脳脚の低形成と、橋・延髄の前後の正中の裂が見られました(Bosley 2005)。
症例 55歳女性 HGPPS

引用:Lin CW, et al. BMC Neurol 2018;18:75(Figure 2)。PMC、CC BY 4.0
引用元の図の説明では、a:胸部X線で胸腰椎のS字状の側弯があります。b:頭部MRIの軸位T2強調像で、橋の背側正中に裂(split pons sign、矢印)があります。c:延髄がbutterfly(蝶)の形をしています(矢印)。d:矢状断で橋が萎縮しています。症例の概要は、幼少期からの眼球運動の制限と、中学生のころからの側弯で、神経診察で水平性の共同注視麻痺があり、垂直方向は保たれていました(Lin 2018)。
なぜこの形になるのか:神経の交叉の異常
画像の形は、神経が正中で交叉しないことの結果と考えられています。電気生理の検査では、運動の線維(皮質脊髄路)と感覚の線維(後索-内側毛帯路)が、同じ側を走っていることが示されました(Bosley 2005)。55歳女性の報告でも、拡散テンソル画像で上小脳脚の交叉がなく、皮質脊髄路は延髄の錐体交叉の高さでも交叉せず、体性感覚誘発電位も同じ側の大脳皮質に主に出ていました(Lin 2018)。また、橋の被蓋(背側)が、皮質脊髄路の背側へのずれによって障害されていると考察されています(Lin 2018)。橋の背側・正中の構造の形成の異常が、この病気の成り立ちに重要だと仮説が立てられています(Rossi 2004)。
診断では、複数の検査を組み合わせます。
| 検査 | 見ること | メモ |
|---|---|---|
| 眼科・神経の診察 | 水平注視麻痺と垂直注視の保持 | 出生時からの経過が重要 |
| 脊柱のX線 | 側弯・後弯の程度 | Cobb角で経過を見る |
| 脳MRI(T2強調像・矢状断) | split pons、butterfly、顔面神経丘、橋の大きさ | 最初に診断を示唆する検査(Pinero-Pinto 2020) |
| DTI(拡散テンソル) | 上小脳脚の交叉・橋横走線維・皮質脊髄路 | (Günbey 2024、Lin 2018) |
| ROBO3遺伝子検査 | 変異の確認 | 診断の確認(Pinero-Pinto 2020) |
初心者向け:見る順番
- 臨床の情報を確認する(水平に目が動かない、側弯、小児期からの経過)。
- 橋のレベルの軸位T2強調像で、背側正中の裂(split pons sign)と、顔面神経丘の有無を見る。
- 延髄のレベルで、蝶の形(butterfly)かどうかを見る。
- 矢状断で、橋と小脳脚の大きさを見る。
- 拡散テンソル(DTI)があれば、上小脳脚の交叉と橋横走線維を見る。
- 脊柱全体の画像で、側弯・後弯を確認する。
- 正常のMRIと並べて、橋の厚みと第4脳室の底の形を比べる。
似た画像との見分け方と見落としやすい点
橋と小脳の低形成がある病気は複数あり、橋の低形成があると鑑別が絞られます(van Dijk 2018)。次の点を意識すると、HGPPSに気づきやすくなります。
- 眼球運動の情報が決め手。水平注視麻痺があり、垂直注視が保たれる、という組み合わせに注目します(Pinero-Pinto 2020)。
- 橋が小さいだけでは足りない。背側の正中の裂(split pons)と延髄の蝶の形がそろうかを見ます(Rossi 2004)。
- 診断が遅れやすい。症状の始まりから診断まで中央値で約10年の差がありました(Günbey 2024)。側弯のお子さんで眼の動きがおかしい場合は、神経軸のMRIを考えます。側弯のX線の見方は側弯症のレントゲンを参照してください。
- 画像の正常との比較。橋の厚み、顔面神経丘、延髄の形は、正常像との比較で気づきます。脳幹の見え方は中脳被蓋・橋被蓋・橋底部、小脳脚は小脳脚のMRI解剖、矢状断・冠状断の解剖は頭部MRIの矢状断・冠状断の解剖で確認できます。
- 画像の特徴は一定です。変異の種類や民族が違っても、臨床と画像の所見に大きな差はないと整理されています(Pinero-Pinto 2020)。
診断のあと
ROBO3遺伝子の検査で診断を確定すると、眼の経過観察、側弯の進行を抑える支持的な治療、遺伝カウンセリングにつながります(Pinero-Pinto 2020)。側弯は整形外科での丁寧なフォローが必要で、個別の対応が求められます(Günbey 2024)。気になる症状があるお子さんは、小児科・眼科・整形外科、小児神経科に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 側弯症の子どもは全員MRIが必要ですか?
A. すべてのお子さんに必要というわけではありません。側弯に加えて、目の動きの異常などの神経の症状があるときは、HGPPSなどを考えて脳MRIを検討します。MRIは、診断を示唆する最初の検査になります(Pinero-Pinto 2020)。
Q. split pons signとは何ですか?
A. 橋の背側の正中に深い裂が入り、橋が割れたように見える所見です。延髄が蝶の形に見える所見と合わせて、HGPPSを示唆します(Rossi 2004)。
Q. 遺伝しますか?
A. 常染色体潜性遺伝で、保因者(片方の遺伝子だけに変異がある人)は発症しません(Bosley 2005)。家族の再発の確率や検査は、臨床遺伝の専門医に相談してください。
Q. 目の動きは治りますか?
A. 水平注視麻痺は生まれつきで、神経の交叉の異常が背景にあります(Bosley 2005、Pinero-Pinto 2020)。眼科での経過観察が必要になります(Pinero-Pinto 2020)。具体的な対応は担当医に相談してください。
Q. 大人になってから分かることはありますか?
A. 系統的レビューの対象者の年齢は2か月から55歳まででした(Pinero-Pinto 2020)。55歳で、子どものころからの眼球運動の制限と側弯をもとにMRIでHGPPSと診断された報告があります(Lin 2018)。
あわせて読みたい:Dandy-Walker連続体とは、橋小脳低形成(PCH)とは
参考文献
- Rossi A, Catala M, Biancheri R, et al. MR imaging of brain-stem hypoplasia in horizontal gaze palsy with progressive scoliosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(6):1046-8. PubMed
- Bosley TM, Salih MA, Jen JC, et al. Neurologic features of horizontal gaze palsy and progressive scoliosis with mutations in ROBO3. Neurology. 2005;64(7):1196-203. PubMed
- Pinero-Pinto E, Pérez-Cabezas V, Tous-Rivera C, et al. Mutation in ROBO3 Gene in Patients with Horizontal Gaze Palsy with Progressive Scoliosis Syndrome: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(12):4467. PubMed
- Lin CW, Lo CP, Tu MC. Horizontal gaze palsy with progressive scoliosis: a case report with magnetic resonance tractography and electrophysiological study. BMC Neurol. 2018;18(1):75. PubMed
- Günbey C, Çavdarlı B, Göçmen R, et al. Horizontal gaze palsy with progressive scoliosis: Further expanding the ROBO3 spectrum. Ann Clin Transl Neurol. 2024;11(8):2088-2099. PubMed
- van Dijk T, Baas F, Barth PG, et al. What’s new in pontocerebellar hypoplasia? An update on genes and subtypes. Orphanet J Rare Dis. 2018;13(1):92. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
