
先に結論:膝を伸ばせない外傷では、側面像で「膝蓋骨が高いか低いか」と「腱の影の途切れ」を見る。迷ったらエコーかMRIで腱を直接確認する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 膝伸展機構とは | 大腿四頭筋・大腿四頭筋腱・膝蓋骨・膝蓋腱がつながって膝を伸ばす仕組み |
| X線の手がかり | 膝蓋腱断裂は膝蓋骨が高い(patella alta)、四頭筋腱断裂は膝蓋骨が低い(patella baja)・腱の影の途切れ・膝蓋骨上縁の小さな剥離骨片 |
| 確定する検査 | エコーとMRI。MRIは部分断裂か全層断裂か、断裂の位置、腱の残り方まで分かる |
| 見落としの落とし穴 | X線だけでは正常に見えることがある。膝蓋骨骨折より少ないため、診察で気づかれず遅れやすい |
| 遅れると | 早期に診断して治療するほど手術や回復の成績がよい。遅れた断裂は手術が複雑になる |
膝伸展機構とは
膝を伸ばす力は、太ももの前の大腿四頭筋から、大腿四頭筋腱 → 膝蓋骨(お皿の骨) → 膝蓋腱 → 脛骨粗面の順に伝わります。この一続きを「膝伸展機構」と呼びます。どこで途切れても、膝を自分の力で伸ばせなくなります(Pengas 2016)。
大腿四頭筋腱は3層構造で、浅い層が大腿直筋、中間の層が内側広筋と外側広筋が合わさった腱、深い層が中間広筋の腱です。筋線維は膝蓋骨の約3cm上で腱に移り、浅い層は膝蓋骨の前面を越えて膝蓋腱につながります(Falkowski 2021)。筋の解剖は大腿四頭筋のMRI画像の解剖も参考にしてください。
どんな人に起こるのか
膝蓋骨骨折は、大腿四頭筋腱や膝蓋腱の断裂より約6倍多いと報告されています(Pengas 2016)。断裂のうち大腿四頭筋腱断裂は、膝蓋骨骨折に次いで2番目に多い伸展機構の損傷です(Falkowski 2021)。腱の断裂が少ないぶん、診察の場で最初から疑われないことが落とし穴になります。
| 項目 | 大腿四頭筋腱断裂 | 膝蓋腱断裂 |
|---|---|---|
| 頻度 | 年1.37人/10万人(Arnold 2022) | 一般では年0.48〜1.09人/10万人(Brinkman 2024) |
| 年齢 | 40歳以上に多い(Arnold 2022) | 40歳未満のスポーツ外傷に多い(Pengas 2016) |
| 背景 | 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、痛風、慢性腎臓病、二次性副甲状腺機能亢進症、糖尿病、末梢血管疾患など(Arnold 2022) | 結合組織疾患、慢性腎不全、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、ステロイドの使用。ジャンプ競技の繰り返しの負荷(膝蓋腱症)も土台になる(Brinkman 2024) |
| よくある原因 | 単純な転倒(Arnold 2022) | 急に強く膝を曲げながら大腿四頭筋が収縮したとき(Brinkman 2024) |
男性に多く、40歳以上の患者さんでは基礎疾患を背景にした大腿四頭筋腱断裂が目立つ、というのが総説での整理です(Pengas 2016)。診断はまず診察で、膝の自動伸展ができないことや腱の触れる欠損がきっかけになりますが、忙しい救急外来では見落とされやすいと指摘されています(Pengas 2016)。
X線の側面像:何を見るか
膝伸展機構の評価は、まず側面像です。膝を軽く曲げた側面像で、次の順に確認します。
| 見るところ | 所見 | 意味 |
|---|---|---|
| 膝蓋骨の高さ | 高い(patella alta)。Insall-Salvati比1.2超、Blackburne-Peel比1.0超、Caton-Deschamps比1.3超 | 膝蓋腱断裂を示唆(Brinkman 2024) |
| 膝蓋骨の高さ | 低い(patella baja) | 大腿四頭筋腱断裂で見られる(Whitmore 2025) |
| 四頭筋腱の影 | 途切れ・不明瞭 | 大腿四頭筋腱断裂(Whitmore 2025) |
| 膝蓋骨上縁 | 小さな剥離骨片 | 腱の断裂を示唆(Whitmore 2025、Falkowski 2021) |
| 膝蓋下脂肪体(Hoffa脂肪体)の輪郭 | 輪郭の乱れ | 膝蓋腱断裂の補助的な徴候(Chin 2005) |
| Merchant(軸射)像 | 膝蓋骨が上に引かれ、滑車溝が空に見える(empty Merchant sign) | 側面像より特異度・陽性的中率が高いと報告(Brinkman 2024) |
脂肪体の輪郭の乱れは、14人の小規模な研究で、手術で確認された7例の断裂を、2人の読影者がそれぞれ5例・6例見つけた所見です(Chin 2005)。この徴候がなくても、膝蓋骨が高ければ膝蓋腱断裂を考えます。逆に、膝蓋骨が高くない場合に断裂を見落とさないための補助として使う、というのが論文の位置づけです(Chin 2005)。
大腿四頭筋腱断裂では、膝蓋骨と腱の付着部にトゲ(骨棘)や石灰化があれば、以前から腱症があったことを示します(Whitmore 2025)。膝の外傷の側面像では、関節内骨折のサインである脂肪血関節症(FBI sign)も合わせて確認します。
膝蓋腱断裂:エコーとMRI
膝蓋腱断裂の疑いでは、X線のあとにエコーかMRIを行います(Brinkman 2024)。
| 検査 | 所見・長所と短所(Brinkman 2024) |
|---|---|
| エコー | 矢状断で、高エコーの腱の中に低エコーの領域が広がる。腱の全層で正常のエコー像が途切れていれば全層断裂。簡単で費用が安い反面、検者に左右され、断裂の診断の信頼性に疑問も示されている |
| MRI | 最も感度が高い。部分断裂か全層断裂か、断裂の位置、腱の変性、合併した軟部の損傷が分かる。正常の膝蓋腱は均一な低信号で、前後の縁が滑らか。断裂では腱線維が波打ち、途切れる。T2強調像で信号が上がる |
全層断裂の多くは、膝蓋骨の下端の付着部近くで起こります。腱の中ほどでの断裂は組織の質が悪く、手術がより難しくなります(Brinkman 2024)。全層断裂が確認されれば手術が基本で、手術までの時間が成績を左右する重要な要素とされています(Brinkman 2024)。
部分断裂とMRIの計測
ジャンプ競技の選手に多い膝蓋腱症(ジャンパー膝)は、部分断裂に進むことがあります。85人の膝蓋腱症の検討では、56人(約66%)に部分断裂があり、その91%が近位部の後面から後内側にありました。軸位像で、部分断裂のある腱は平均10mm、ない腱は6.2mmで、腱の厚さ8.8mm超が部分断裂と関連しました(Golman 2020)。
手術を受けた11人は全員、断裂が腱の厚さの50%を超えており、腱の厚さ11.45mm超・断裂55.7%超が手術の予測因子でした。この研究から、断裂の大きさでグレード分けする「Popkin-Golman分類」が提案されています(Golman 2020)。厚さの変化を軸位像で追うことが、保存治療の見通しを見るのに役立ちます。
症例 39歳男性 両側の膝蓋腱断裂(全身性エリテマトーデス・ステロイド治療中)

引用:El Ouali Z, et al. BMC Musculoskelet Disord 2020;21:477 (Figure 2) CC BY 4.0 PMC
両膝の側面像で、膝蓋骨が高い位置にあります(patella alta)。膝蓋腱の長さと膝蓋骨の長さの比(Insall-Salvati比)は右が2.5、左が2.25でした。症例の報告では、超音波で両側の全層断裂が確認され、手術で修復されています(El Ouali 2020)。
大腿四頭筋腱断裂:MRIで何を書くか
大腿四頭筋腱は3層構造なので、どの層がどこで切れたかを具体的に書くことが、手術計画に役立ちます。52人・53の断裂のMRIの検討を表にします(Falkowski 2021)。
| 項目 | 結果(Falkowski 2021) |
|---|---|
| 部分断裂が多い層 | 中間広筋(深い層)は部分断裂(39.6%)が全層断裂(37.7%)よりやや多い |
| 全層断裂が多い層 | 大腿直筋、内側広筋、外側広筋は全層断裂が64.2〜66% |
| 断裂の位置 | 膝蓋骨に付着する部位か、そのすぐ近くが84.8〜93.6% |
| 腱の引き込み | 断裂した腱の隙間は2.3〜2.7cm |
| 剥離骨片 | X線で剥離骨片があると、大腿直筋・内側広筋・外側広筋の断裂の程度が大きい |
この研究で手術を受けた27人のうち、96%は膝蓋骨に骨のトンネルを作って腱を固定する方法でした。膝蓋骨に近い位置の断裂は、腱の断端が短く質も悪いため、端と端をつなぐ修復に向かないためです。外科医にとって大切なのは、骨の付着部で切れたのか、それとも腱の断端が残っているのかではなく、断端の質だと著者らは述べています(Falkowski 2021)。
少なくとも2つの腱が切れていた例が手術を受けていたため、断裂した腱の本数と範囲を具体的に書くことが大切だと述べられています。ただし、ここまでの結果から「2つの腱の断裂が手術の基準」とまでは言えないと著者らは述べています(Falkowski 2021)。
症例 83歳男性 大腿四頭筋腱断裂(膝蓋骨の上)

引用:Falkowski AL, et al. Eur Radiol 2021;31:7674-7683 (Figure 4) CC BY 4.0 PMC
矢状断の中間強調像で、膝蓋骨のすぐ上で大腿四頭筋腱が全層で断裂しており、腱の断端も見えます。論文では、この症例は手術で、骨のトンネルによる固定が行われています(Falkowski 2021)。
見落としを減らすために
側面像だけで判断すると、断裂の見落としが起こり得ます。大腿四頭筋腱断裂では、典型的な症状と所見があっても、救急外来で最大50%が誤って読まれたという報告があります(Falkowski 2021)。診断が遅れると、より複雑な手術が必要になります(Pengas 2016)。見落としを減らすためのチェックを表にします。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 依頼文に「膝が伸ばせない」「転倒」「足が上がらない」とあるか | 骨折のない膝の外傷でも、膝伸展機構の断裂が隠れている(Pengas 2016) |
| 側面像で膝蓋骨の高さを測ったか | patella alta(Insall-Salvati比1.2超など)は膝蓋腱断裂の手がかり(Brinkman 2024) |
| 四頭筋腱の影と膝蓋骨上縁を見たか | 腱の影の途切れや小さな剥離骨片は四頭筋腱断裂の手がかり(Whitmore 2025) |
| 基礎疾患・ステロイドの使用を確認したか | 全身疾患やステロイドは腱が弱くなる背景(Brinkman 2024、Arnold 2022) |
| X線で異常がなくても、疑えばエコー・MRIを提案したか | 臨床診断が不確かなときに、エコー・MRIが行われる(Falkowski 2021) |
| 膝蓋骨の形や骨折を見分けたか | 分裂膝蓋骨や骨折は別の病気。分裂膝蓋骨(二分膝蓋骨)と膝蓋骨骨折の画像と区別する |
また、膝蓋腱断裂では、周囲の支帯(膝蓋骨の内外側にある線維の膜)がつながっていると、腱が切れていても、膝を伸ばして下肢を挙げられることがあります(Brinkman 2024)。「足が上がるから大丈夫」とは言えません。膝のMRIの基本は膝のMRIでわかることにまとめています。
膝を伸ばせない、膝のお皿の位置がいつもと違う、といった症状がある場合は、早めに整形外科などの医療機関を受診してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 骨折がなければ心配ありませんか?
A. 膝蓋骨骨折がなくても、大腿四頭筋腱や膝蓋腱が切れていることがあります。膝が伸ばせない、転倒後に膝のお皿の位置が違うといった症状があるときは、骨折の有無にかかわらずエコーやMRIでの確認が検討されます(Pengas 2016、Brinkman 2024)。
Q. 部分断裂の場合も手術になりますか?
A. 部分断裂は保存療法で経過をみることが多いとされます。ただし、膝蓋腱の部分断裂で手術を受けた11人は、全員が断裂が腱の厚さの50%を超えていました(Golman 2020)。
Q. エコーとMRIはどう使い分けますか?
A. エコーは簡便で、腱の連続性を直接確認できますが、検者に左右されます。MRIは部分断裂か全層断裂か、断裂の位置や合併損傷まで分かるため、手術を考える場合の評価に向いています(Brinkman 2024)。
Q. 若い人にも起こりますか?
A. 膝蓋腱断裂は40歳未満のスポーツ外傷に多く、ジャンプ競技を続ける人では膝蓋腱症が土台になることがあります(Pengas 2016、Golman 2020)。
あわせて読みたい:骨軟部腫瘍のWHO分類(2020年・第5版)、リン酸塩尿性間葉系腫瘍の画像診断、前立腺癌の監視療法とMRI
参考文献
- Pengas IP, Assiotis A, Khan W, et al. Adult native knee extensor mechanism ruptures. Injury. 2016;47(10):2065-2070. PubMed
- Arnold EP, Sedgewick JA, Wortman RJ, et al. Acute Quadriceps Tendon Rupture: Presentation, Diagnosis, and Management. JBJS Rev. 2022;10(2). PubMed
- Brinkman JC, Reeson E, Chhabra A. Acute Patellar Tendon Ruptures: An Update on Management. J Am Acad Orthop Surg Glob Res Rev. 2024;8(4). PubMed
- Falkowski AL, Jacobson JA, Hirschmann MT, et al. MR imaging of the quadriceps femoris tendon: distal tear characterization and clinical significance of rupture types. Eur Radiol. 2021;31(10):7674-7683. PubMed
- Golman M, Wright ML, Wong TT, et al. Rethinking Patellar Tendinopathy and Partial Patellar Tendon Tears: A Novel Classification System. Am J Sports Med. 2020;48(2):359-369. PubMed
- Chin KR, Sodl JF. Infrapatellar fat pad disruption: a radiographic sign of patellar tendon rupture. Clin Orthop Relat Res. 2005;440:222-5. PubMed
- Whitmore JA, Lele P, Lyons JG, et al. Quadriceps tendon ruptures: a narrative review. Ann Jt. 2025;10:15. PubMed
- El Ouali Z, Nassar K, Bassa E, et al. Bilateral patellar tendon rupture on lupus undergoing corticosteroids: a case report. BMC Musculoskelet Disord. 2020;21(1):477. PubMed
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