T1・T2マッピング MRIの定量値と基準値の落とし穴

心臓MRIのレポートに「native T1 1,050 ms」と数字が書いてありました。この数値は高いのですか?施設によって違うとも聞きました。
T1マッピングやT2マッピングは、MRIの画像の濃さではなく、組織ごとの緩和時間という数値を画素ごとに出す方法です。ただし基準値は装置・撮り方・磁場強度で変わるため、その施設の基準と比べるのが原則です。使い方と落とし穴を整理します。

先に結論:T1・T2マッピングは「組織を数字で測る」方法。基準値は撮り方で変わるので、同じ施設の基準と比べて読む

項目 ポイント
何か T1・T2などの緩和時間を、画素ごとの数値としてカラーマップにする撮像法
心臓での使い道 浮腫・線維化・アミロイド・鉄沈着・Fabry病など、心筋の性質の変化を数値で捉える
脳での使い道 1回の撮像でT1・T2・プロトン密度の値を得て、好きなコントラストの画像を作る(synthetic MRI)
最大の落とし穴 同じ心筋でも装置・磁場強度・シーケンスで値が違う。他施設の基準値をそのまま使えない
読み方の基本 自施設の基準値、同じシーケンス、同じ関心領域の取り方で比べる

強調画像とマッピングの違い

ふだんのT1強調像・T2強調像は、組織同士の明るさの違い(コントラスト)を見る画像です。明るさは装置の設定や撮像条件で変わるため、「白い」「黒い」は相対的な表現にとどまります。T1・T2の強調画像の見え方はT1強調画像(T1WI)とはやT2強調画像(T2WI)とはで解説しています。

これに対してマッピングは、組織が持つT1やT2という緩和時間(ミリ秒)を画素ごとに計算し、カラーのマップとして表示します。数値になるので、びまん性に広がる病変のように「正常の部分と比べる」ことができない場合でも、基準値と比べられます。患者間や経過の比較もしやすくなります(Messroghli 2017)。

用語 意味
native T1 造影剤を使う前のT1。水分が増える病態や、間質が広がる病態で延びる
T2 水分量に敏感。水が増える浮腫で延びる
T2* 鉄の沈着に敏感。鉄が多いと短くなる
ECV(細胞外容積分画) 造影前後のT1から計算する、組織のうち細胞の外が占める割合

心臓MRIでのマッピング

心臓では、マッピングの使い方が最も整理されています。SCMR(心臓血管MR学会)のコンセンサスでは、T1・T2・T2*・ECVの変化が、心筋の組成の変化を反映すると述べています。細胞の中の変化(鉄過剰、Fabry病の糖脂質の蓄積)、細胞の外の変化(線維化、アミロイドの沈着)、両方の変化(細胞内と細胞外の水が増える浮腫)に分けて理解できます(Messroghli 2017)。

心筋の変化 典型的な病態 マップでの傾向
浮腫(水が増える) 急性心筋炎、急性心筋梗塞など T1・T2が延びる
線維化・アミロイド(細胞外が広がる) 心筋症、心アミロイドーシスなど T1・ECVが上がる
鉄の沈着 鉄過剰症 T1・T2*が短くなる
糖脂質の蓄積 Fabry病 T1が短くなる

T2マッピングは、T2強調像より、びまん性の浮腫を信頼性高く評価できます。急性心筋梗塞、心筋炎、心移植の拒絶反応、拡張型心筋症などで証拠が強いとまとめられています(O’Brien 2022)。個別の病態は心アミロイドーシスの画像診断やたこつぼ心筋症の画像診断で、遅延造影(LGE)との関係は心臓MRIの遅延造影(LGE)とはで解説しています。

急性心筋炎での例

急性心筋炎が疑われる60人と対照50人の1.5テスラMRIの検討では、心筋の平均native T1は患者1011±64 ms、対照946±23 msでした。T1が990 msを超える領域を異常とすると、感度90%、特異度88%で、T2強調像や遅延造影より大きな範囲の障害を検出しました。従来の方法(T2強調像・遅延造影)の少なくとも一方が異常を示せなかった場合には、追加の30%の症例で、T1マッピングが診断の確信度を高めました(Ferreira 2014)。

症例 急性心筋炎の心臓MRI(シネ・T2強調・T1マッピング・遅延造影)

急性心筋炎 心臓MRI 短軸像 シネ・T2強調・T1マッピング・遅延造影
引用:Ferreira VM, et al. J Cardiovasc Magn Reson. 2014;16:36(Figure 1)、CC BY 2.0(図は加工していません)

急性心筋炎の心臓MRIで、短軸像を心基部から心尖部まで並べた図です。上から、A:シネ、B:ブラックブラッドのT2強調像、C:T1マッピング(カラー表示)、D:遅延造影(LGE)です。同じ心筋の断面を異なる方法で示しています。

落とし穴:基準値は施設ごとに違う

マッピングの最大の注意点は、数値が撮り方で変わることです。次の表は、健常者での報告の例です。

報告 1.5テスラ 3テスラ
native T1(Dabir 2014・102人・MOLLI) 950±21 ms 1052±23 ms
native T1(Granitz 2019・60人・MOLLI) 995.8±30.9 ms 1183.8±37.5 ms
T2(Granitz 2019) 55.8±2.8 ms 51.6±3 ms
ECV(Dabir 2014) 0.25±0.04 0.26±0.04

同じ「健常な心筋のnative T1」でも、磁場強度で値が違います。1.5テスラと3テスラの差は、Dabirらで約100 ms、Granitzらで約188 msでした。しかも同じ3テスラでも、Dabirらの1052 msとGranitzらの1183.8 msでは130 ms以上離れています(Dabir 2014、Granitz 2019)。一方、ECVは1.5テスラと3テスラでほぼ同じ値でした(Dabir 2014)。Granitzらは、心拍数や性別でも値が変わり、3テスラのT2測定や下側壁はアーチファクトを受けやすいことを示し、基準値は各施設で確かめてから使うべきと結論しています(Granitz 2019)。

シーケンスの違いも大きく、3テスラで同じ患者19人を測ると、MOLLIで測った心筋のT1はSASHAより19%、ShMOLLIでは25%低くなりました。ECVはこの偏りが小さくなるため、シーケンス間で比べやすくなります(Heidenreich 2019)。レポートの数値を他の施設の値と並べて「高い・低い」と判断しないことが大切です。

T1マッピングのシーケンスによる偏り

シーケンス 3テスラの心筋T1(SASHAとの比較)
SASHA 基準としての比較対象
MOLLI 19%低い
ShMOLLI 25%低い

(Heidenreich 2019・患者19人)

どのシーケンスでも、病変が疑われる部位は、病変から離れた正常な心筋と区別できたと報告されています。値の絶対値がずれても、「病変部と正常部の差」は見えるということです(Heidenreich 2019)。

基準値は施設ごとに作る

SCMRのコンセンサスは、医師、研究者、装置メーカー向けに、臨床での使い方の推奨を示しています(Messroghli 2017)。実際の運用では、Granitzらが勧めるように、自施設の装置・シーケンスで健常者の値を測り、基準値を持っておくことが出発点になります(Granitz 2019)。レポートには、磁場強度・シーケンス・基準範囲を併記すると、あとから読む人が判断しやすくなります。

読むときのチェックリスト

確認すること 理由
磁場強度とシーケンス(MOLLI・ShMOLLI・SASHAなど)は何か 同じ心筋でも値が違う
その施設の基準値はあるか 他施設・論文の値は参考にとどめる
関心領域は心筋内に取れているか 血液や周囲の脂肪が混ざると値がずれる
アーチファクトの多い部位ではないか 3テスラのT2や下側壁は影響を受けやすい
native T1だけでなくECVや他の画像と合うか ECVは偏りが小さく、LGE・T2・シネと合わせて判断する
心拍数・性別などの影響はないか 値は生理的な要因でも変わる

脳でのマッピング:synthetic MRI

脳では、マルチスライス・マルチエコー・マルチディレイの撮像で、R1(T1の逆数)・R2(T2の逆数)・プロトン密度・B1磁場を1回で定量できます。頭部全体の撮像に約6分かかり、専用のソフトで、繰り返し時間(TR)・エコー時間(TE)・反転時間(TI)を変えた任意のコントラストの画像を作ることができます。脳組織の自動分割、体積の測定、髄鞘の測定もできます。この方法は、小児の脳のsynthetic MRI(SyMRI)の総説で、撮像時間の短縮、客観的な評価、個別に最適なコントラストの利点がまとめられ、限界も整理されています(Andica 2019)。

T1マップは、造影の評価にも使えます。多発性硬化症47人の7テスラMRIで、造影前後のT1マップの差(ΔT1)を測ると、造影されない白質病変でもΔT1が測定でき、血液脳関門の破綻が定量できました(Choi 2021)。

よくある疑問(Q&A)

Q. 心臓MRIのnative T1が基準値より高いと言われました。病気ですか?
A. native T1は撮り方で値が変わるため、その施設の基準値と比べて判断します。急性心筋炎ではT1が延びる報告がありますが(Ferreira 2014)、数値だけでなく、T2・ECV・遅延造影・症状と合わせて評価します。気になる症状があれば医療機関に相談してください。

Q. 他の病院の数値と比べてよいですか?
A. おすすめできません。同じ健常者でも、磁場強度やシーケンスにより、native T1が1.5テスラで950〜996 ms、3テスラで1052〜1184 msと報告が分かれています(Dabir 2014、Granitz 2019)。経過を見るときは、同じ施設・同じ撮り方で比べます。

Q. マッピングは造影剤なしでできますか?
A. native T1とT2のマッピングは造影剤を使わずに撮れます。急性心筋炎では、native T1マッピングが、造影を使わずに遅延造影に近い障害のパターンを示した報告があります(Ferreira 2014)。ECVの計算には造影前後のT1が必要です。

Q. ECVとは何ですか?native T1とどう違いますか?
A. ECV(細胞外容積分画)は、造影前後のT1から計算する、心筋のうち細胞の外が占める割合です。線維化やアミロイドの沈着で細胞外が広がると上がります。native T1は水分や細胞内外の変化の両方を反映しますが、ECVは細胞外の広がりに絞った指標で、シーケンス間の偏りが小さくなる利点があります(Messroghli 2017、Heidenreich 2019)。計算には造影剤が必要です。

あわせて読みたい:ASL(arterial spin labeling)とは、アミノ酸PET(メチオニンPET)とは、血液脳関門(BBB)と造影MRIの仕組み

参考文献

  1. Messroghli DR, Moon JC, Ferreira VM, et al. Clinical recommendations for cardiovascular magnetic resonance mapping of T1, T2, T2* and extracellular volume: A consensus statement by the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance (SCMR) endorsed by the European Association for Cardiovascular Imaging (EACVI). J Cardiovasc Magn Reson. 2017;19(1):75. PubMed
  2. O’Brien AT, Gil KE, Varghese J, et al. T2 mapping in myocardial disease: a comprehensive review. J Cardiovasc Magn Reson. 2022;24(1):33. PubMed
  3. Ferreira VM, Piechnik SK, Dall’Armellina E, et al. Native T1-mapping detects the location, extent and patterns of acute myocarditis without the need for gadolinium contrast agents. J Cardiovasc Magn Reson. 2014;16(1):36. PubMed
  4. Dabir D, Child N, Kalra A, et al. Reference values for healthy human myocardium using a T1 mapping methodology: results from the International T1 Multicenter cardiovascular magnetic resonance study. J Cardiovasc Magn Reson. 2014;16(1):69. PubMed
  5. Granitz M, Motloch LJ, Granitz C, et al. Comparison of native myocardial T1 and T2 mapping at 1.5T and 3T in healthy volunteers : Reference values and clinical implications. Wien Klin Wochenschr. 2019;131(7-8):143-155. PubMed
  6. Heidenreich JF, Weng AM, Donhauser J, et al. T1- and ECV-mapping in clinical routine at 3 T: differences between MOLLI, ShMOLLI and SASHA. BMC Med Imaging. 2019;19(1):59. PubMed
  7. Andica C, Hagiwara A, Hori M, et al. Review of synthetic MRI in pediatric brains: Basic principle of MR quantification, its features, clinical applications, and limitations. J Neuroradiol. 2019;46(4):268-275. PubMed
  8. Choi S, Spini M, Hua J, et al. Blood-brain barrier breakdown in non-enhancing multiple sclerosis lesions detected by 7-Tesla MP2RAGE ΔT1 mapping. PLoS One. 2021;16(4):e0249973. PubMed

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