
先に結論:造影MRIで脳が白くなるのは「BBBが壊れた病変」と「もともとBBBがない正常構造」。まず正常構造を知っておく
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| BBBとは | 血液から有害な物質や病原体が脳に入るのを防ぎ、物質の出入りを調節する仕組み |
| 造影剤はどうなる | 正常なBBBがあると脳の組織には出ない。BBBが壊れた所や、BBBがない所に出て造影される |
| 正常でも造影される所 | 脳室のまわりの小さな構造(正中隆起・下垂体後葉・松果体など)、血管、硬膜など |
| 造影されない=異常なしではない | MRIで造影されない多発性硬化症の病変でも、BBBの微小な漏れが測れる |
| 読み方の基本 | 造影前のT1強調像と比べ、正常構造と病変を分ける |
血液脳関門(BBB)とは
血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)は、神経に有害な血液中の成分、血球、病原体が脳に入るのを防ぎ、同時に物質の脳への出入りを調節する仕組みです。神経細胞の周りの化学的な環境を安定に保つ働きがあります(Sweeney 2019)。
形としては、脳の毛細血管の内側の細胞(血管内皮細胞)が互いにすき間なく結合し、周りを周皮細胞とアストロサイトの突起が囲んでいます。臓器の多くの血管と違い、脳の血管は壁のすき間から水以外の物質が漏れにくい構造になっています。
BBBの有無と造影剤
| 状況 | 造影剤の動き | MRIでは |
|---|---|---|
| BBBが正常 | 血管の外に出ない | 脳の組織は造影されない |
| BBBが壊れた(腫瘍・炎症・感染など) | 血管の外へ漏れ出す | 病変が造影される |
| もともとBBBがない(脳室周囲器官など) | 血管の外へ出る | 正常でも造影される |
造影MRIで使うガドリニウム造影剤は、血管の中から細胞の外の隙間に広がる性質の薬です。BBBが保たれていれば脳の組織へはほとんど出ないため、造影効果は「BBBの状態」を映していると言えます。造影が必要な場面の整理は頭部CT・MRIで造影が必要なとき・いらないときで解説しています。
正常でも造影される場所:脳室周囲器官
脳には、BBBがない、または乏しい7か所の小さな正中構造があり、脳室周囲器官(circumventricular organs)と呼ばれます。正中隆起、下垂体後葉、松果体、脳弓下器官、終板脈管器官、交連下器官、最後野です。ホルモンの分泌や、血液中の物質を感知する働きをもち、血液と脳をつなぐ「窓」のような場所です(Horsburgh 2013、Verheggen 2020)。
正常な成人100人の3テスラMRIでの検討では、造影される頻度は、正中隆起100%、下垂体後葉96%、松果体84%、終板脈管器官34%、最後野2%、脳弓下器官1%、脳梁下器官0%でした。小さくて淡い構造は病的な造影と取り違えにくいと考察されています(Horsburgh 2013)。
| 脳室周囲器官 | 造影される頻度(正常100人) |
|---|---|
| 正中隆起 | 100% |
| 下垂体後葉 | 96% |
| 松果体 | 84% |
| 終板脈管器官 | 34% |
| 最後野 | 2% |
| 脳弓下器官 | 1% |
| 交連下器官 | 0% |
(Horsburgh 2013)
健康な中高年20人に撮像時間を長くとる造影MRI(ダイナミック造影MRI)を行った検討では、脳室周囲器官は、白質・灰白質より造影剤の血液から脳への移行が有意に大きく、ホルモンを分泌する型の器官は感覚型の器官より移行が大きいことが示されました(Verheggen 2020)。
引用元の図 脳室周囲器官への造影剤の移行

引用:Verheggen ICM, et al. Fluids Barriers CNS. 2020;17(1):66(Figure 3)、CC BY 4.0(図は加工していません)
正中矢状断の造影剤濃度マップです。左は造影前、中央は造影直後、右は造影の約12分後で、枠内を拡大した下段に、脳弓下器官(SFO)、終板脈管器官(OVLT)、正中隆起(ME)、下垂体後葉(NH)、松果体(PG)、最後野(AP)の位置が示されています。
造影されない病変にもBBBの漏れがある
造影されないからBBBが保たれている、とは限りません。ダイナミック造影MRIで、血液から脳への造影剤の流入の速さ(Ki)を測った検討では、健常者の灰白質は白質より高く、多発性硬化症の造影される病変は、造影されない見かけ上正常な白質より高く、さらに多発性硬化症の見かけ上正常な白質も、健常者の白質よりKiが高いと報告されました(13人の健常者と12人の患者)(Varatharaj 2019)。
7テスラMRIで造影前後のT1マップを引き算して調べた研究では、多発性硬化症47人で、造影されない白質病変でも造影によるT1の変化(ΔT1)が測定でき、見かけ上正常な白質ではほとんど変化しませんでした。造影されない病変のΔT1は身体障害の程度(EDSS)とも相関しました(Choi 2021)。この方法は、T1の値そのものを画像にしたT1マップという定量画像を使います。
認知機能の低下でも、BBBの異常が研究されています。ダイナミック造影MRIで海馬のBBB透過性を調べた研究では、早期の認知機能障害のある人で、アミロイドやタウの異常とは別にBBBの破綻が見られ、BBBの破綻は認知機能障害の早期のマーカーになりうると報告されています(Nation 2019)。これは研究段階の知見で、日常診療でBBBの漏れを数値化しているわけではありません。
髄液が造影される:造影後FLAIR
造影後のT2強調FLAIRで、脳脊髄液(髄液)が白く見えることがあります。造影剤がBBBなどの破綻で髄液に漏れ出たことを示す所見で、44研究をまとめた総説では、頻度が病態ごとに報告されています(Freeze 2020)。
| 対象 | 髄液の造影が見られた割合(統合) |
|---|---|
| 髄膜炎(4研究・65人) | 82% |
| 急性期〜亜急性期の脳内出血(2研究・77例) | 73% |
| 脳動脈瘤の手術後(2研究・99人) | 64% |
| 頸動脈疾患の手術後(3研究・76人) | 40% |
| 急性期脳梗塞(9研究・1148人) | 27% |
| 多発性硬化症(6研究・897人) | 21% |
| 成人の対照(4研究・112例) | 13% |
(Freeze 2020)
健常な成人でも一定の割合で見られるため、髄液の造影だけで病気とは言えません。年齢が高いこと、大脳萎縮などと関連した報告もあります(Freeze 2020)。血管周囲腔に沿った細かな造影は脳造影MRIで血管周囲腔に沿う点状・線状の造影効果の鑑別も参考になります。
BBBが壊れる主な原因
| 原因 | 造影される理由 |
|---|---|
| 腫瘍 | 腫瘍の血管は正常の脳の血管と構造が違い、造影剤が漏れやすい |
| 炎症・脱髄 | 炎症で血管の壁の結合がゆるみ、活動期に造影される |
| 感染(髄膜炎・膿瘍) | 炎症に加えて、髄膜や膿瘍の壁が造影される |
| 脳梗塞(亜急性期) | 虚血で傷んだ血管の壁が修復される過程で漏れる |
| 放射線治療後・手術後 | 治療による血管の変化で、しばらく造影される |
造影のタイミングでも見え方は変わります。造影直後は血管の中の造影剤が濃く、時間がたつと血管の濃度は下がります。血管外へ漏れた造影剤は、漏れた部分にたまって見えるようになります。撮影の時間差は、上の図のような濃度マップでも確認できます。
造影される病変の見方
| 造影の形 | 考える病変の例 |
|---|---|
| 結節状・塊状 | 腫瘍、転移、炎症性の結節 |
| リング状 | 膿瘍、壊死を伴う腫瘍、脱髄病変(open ring sign) |
| 線状・血管に沿う | 血管周囲腔の周囲の炎症、血管そのもの |
| 髄膜に沿う | 髄膜炎、髄膜への腫瘍の広がり |
| 脳回に沿う | 亜急性期の脳梗塞など |
脱髄が腫瘍と間違えられる例は腫瘤形成性脱髄病変(TDL)のMRIで、治療後の造影病変の見方は脳腫瘍の治療後MRI:放射線壊死・pseudoresponseと再発の見分け方で解説しています。
読むときのチェックリスト
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 造影前のT1強調像で、もともと白くないか | 出血や脂肪などは造影前から高信号で、造影効果と紛らわしい |
| 場所が脳室周囲器官・下垂体・松果体・脈絡叢・血管などの正常構造か | BBBがない・少ない場所は正常でも造影される |
| 左右対称で、小さく淡いか | 正常構造の特徴。非対称で大きい・濃いときは病変を考える |
| 形はどれか(結節・リング・線状・髄膜・脳回) | 疾患の絞り込みの手がかりになる |
| 臨床経過に合うか | 亜急性期の梗塞、手術後などは造影される時期がある |
頭部MRIの全体の見る順番は頭部MRIの読み方にまとめています。
ガドリニウム造影剤の安全性について
ガドリニウム造影剤の安全性は、アレルギー様の急性反応、腎不全の人での腎性全身性線維症(NSF)、ガドリニウムの沈着、造影剤の曝露に関連する症状の4つの視点で論じられています。急性の反応はヨード造影剤より少なく、NSFは稀で、使う薬のグループの選択により大きく減りました。脳などへの微量のガドリニウムの沈着は、すべての薬で起こり、線状型のほうが大環状型より多く沈着する傾向があります。ただし現時点で、沈着による生物学的・臨床的な悪影響を示すデータはありません(Starekova 2024)。検査前の薬や腎機能の確認は、主治医・検査施設の指示に従ってください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 下垂体や松果体が造影されました。異常ですか?
A. 下垂体後葉や松果体、正中隆起はBBBがなく、正常でも造影されます(Horsburgh 2013)。大きさや形が不自然で、左右非対称、造影前から異常があるときは、病変の可能性を考えます。
Q. 造影されない病変は安心ですか?
A. そうとは限りません。多発性硬化症では、造影されない病変でもBBBの微小な漏れが測定でき(Choi 2021、Varatharaj 2019)、造影の有無だけで活動性や重症度を決めることはできません。
Q. 造影MRIの後、髄液が白く見えると言われました。
A. 造影後FLAIRで髄液が白くなるのは、BBBなどから造影剤が漏れた可能性を示します。髄膜炎や出血後などで頻度が高いものの、健常な成人でも13%に報告されているため、臨床と合わせて判断します(Freeze 2020)。気になる症状があれば医療機関に相談してください。
Q. 造影剤が脳に残ると聞きました。危険ですか?
A. 脳などに微量のガドリニウムが沈着することは、すべての薬で起こると報告されています。ただし現時点で、沈着による生物学的・臨床的な悪影響を示すデータはないとされています(Starekova 2024)。造影するかどうかは、診断で得られる利益と合わせて、主治医・検査施設とご相談ください。
あわせて読みたい:ASL(arterial spin labeling)とは、アミノ酸PET(メチオニンPET)とは、MRIの定量値(T1・T2マッピング)とは
参考文献
- Sweeney MD, Zhao Z, Montagne A, et al. Blood-Brain Barrier: From Physiology to Disease and Back. Physiol Rev. 2019;99(1):21-78. PubMed
- Horsburgh A, Massoud TF. The circumventricular organs of the brain: conspicuity on clinical 3T MRI and a review of functional anatomy. Surg Radiol Anat. 2013;35(4):343-9. PubMed
- Verheggen ICM, de Jong JJA, van Boxtel MPJ, et al. Permeability of the windows of the brain: feasibility of dynamic contrast-enhanced MRI of the circumventricular organs. Fluids Barriers CNS. 2020;17(1):66. PubMed
- Varatharaj A, Liljeroth M, Darekar A, et al. Blood-brain barrier permeability measured using dynamic contrast-enhanced magnetic resonance imaging: a validation study. J Physiol. 2019;597(3):699-709. PubMed
- Choi S, Spini M, Hua J, et al. Blood-brain barrier breakdown in non-enhancing multiple sclerosis lesions detected by 7-Tesla MP2RAGE ΔT1 mapping. PLoS One. 2021;16(4):e0249973. PubMed
- Nation DA, Sweeney MD, Montagne A, et al. Blood-brain barrier breakdown is an early biomarker of human cognitive dysfunction. Nat Med. 2019;25(2):270-276. PubMed
- Freeze WM, van der Thiel M, de Bresser J, et al. CSF enhancement on post-contrast fluid-attenuated inversion recovery images; a systematic review. Neuroimage Clin. 2020;28:102456. PubMed
- Starekova J, Pirasteh A, Reeder SB. Update on Gadolinium-Based Contrast Agent Safety, From the AJR Special Series on Contrast Media. AJR Am J Roentgenol. 2024;223(3):e2330036. PubMed
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