
先に結論:腫瘍ではなく「増えた硬膜外の脂肪」。T1高信号で硬膜嚢が三角・Y字・星形に変形する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 硬膜外腔に被膜のない脂肪が過剰にたまり、硬膜嚢や神経根を圧迫する |
| 原因 | 肥満、ステロイド薬の使用、内分泌疾患、原因不明。近年は肥満が最も多い |
| MRIの手がかり | T1で高信号、脂肪抑制で信号が低下。硬膜嚢の多角形・Y字・星形の変形、馬尾の混み合い |
| 落とし穴 | 軽度のものは報告に書かれないことが多い。椎間板ヘルニアなど変性所見に目を奪われて見逃す |
| 対応 | 原因の改善(体重・ステロイド)が基本。重い症状では手術 |
硬膜外脂肪腫症とは
硬膜外脂肪腫症(spinal epidural lipomatosis、SEL)は、被膜のない脂肪が硬膜外腔に過剰にたまり、脊柱管の狭窄や硬膜嚢・神経根の圧迫を起こす状態です(Tong 2025)。正常でも硬膜外には少量の脂肪があり、矢状断での厚さは3〜6mm程度とされます(Tong 2025)。
名前に「腫」とつきますが、脂肪腫のような腫瘍ではなく、脂肪の量が増えた状態です。腰椎の症状として、腰痛、足に広がる痛み、歩くと足がしびれて休むと楽になる間欠跛行、重い場合は脊髄症などを起こします(Tong 2025、Walker 2021)。
どんな人にできるか
原因は大きく5つに分けられます。外から入れるステロイド薬、肥満、体の中のステロイドホルモンが多い内分泌疾患、脊椎の手術後、そして原因不明です(Walker 2021、Kim 2019)。
| 項目 | 報告(Alomari 2022、145例) |
|---|---|
| 年齢・性別 | 年齢の中央値54歳、男性が79% |
| 原因 | 肥満関連が52%、ステロイド関連が22%、原因不明が26% |
| 部位 | 腰仙部が68.9%、胸椎が26.2% |
過去の報告ではステロイドが主な原因とされましたが、最近の報告は肥満が最大の要因になっています(Alomari 2022)。ステロイドが関係するタイプは胸椎に多く、麻痺を伴う割合が高いとされます(Kim 2019)。クッシング症候群などの内分泌疾患も原因になります(Tong 2025、Kim 2019)。症状が出た患者さんだけでなく、画像で偶然見つかることも多い病態です。
MRIの見方
MRIは硬膜外の脂肪の量、硬膜嚢や神経根への圧迫、合併する変性所見を評価できる最も有用な検査です(Tong 2025)。
| 見る点 | 所見 |
|---|---|
| 信号 | T1強調像で高信号、脂肪抑制で信号が低下(脂肪と同じ) |
| 分布 | 硬膜嚢の背側に目立つことが多く、前後から挟むこともある |
| 硬膜嚢の形 | 楕円形が保たれる→多角形→Y字・星形(三角)へ変形(Tong 2025) |
| 馬尾 | 神経根が束になって混み合う(crowding) |
| 併せて見る | 皮下脂肪・内臓脂肪の量(肥満の指標)。変性所見(椎間板ヘルニア、椎間関節症) |
症例 60歳男性 慢性腰痛と間欠跛行 中等度の硬膜外脂肪腫症

引用:Tong MH, et al. Cureus 2025;17(7):e87439(Figure 4)。CC BY 4.0。図は加工していません。PubMed
Aは矢状断のT1強調像で、腰椎の前弯が消え、L1からS2にかけて硬膜外の脂肪が目立ちます。Bは軽度の椎間板膨隆と椎間関節症を伴うL2/3の横断像(T2強調像)で、背側の硬膜外脂肪と変性により、硬膜嚢が多角形になっています。CはL5/S1の横断像で、前後の硬膜外脂肪に挟まれて硬膜嚢がY字に変形しています。報告ではどちらも中等度の硬膜外脂肪腫症とされ、馬尾が混み合っています(Tong 2025)。
Borré分類で量を評価する
Borréらは、2,528人のMRIで硬膜外脂肪を測り、4段階に分けました(Borré 2003)。S1椎体の上縁に平行な横断像で、脊柱管の前後径、硬膜嚢の前後径、硬膜外脂肪の前後径を測り、2つの指標を出します(Borré 2003、Tong 2025)。
| グレード | 内容 | 脊柱管に占める脂肪の割合 | 硬膜嚢/脂肪の比 |
|---|---|---|---|
| 正常 | 脂肪の量は正常 | 40%以下 | 1.5以上 |
| I | 軽度の過剰 | 41〜50% | 1.49〜1 |
| II | 中等度の過剰 | 51〜74% | 0.99〜0.34 |
| III | 高度の過剰 | 75%以上 | 0.33以下 |
(Borré 2003)
この検討では、グレードIは症状のある人がいませんでした。グレードIIで症状があったのは14.5%(165例中24例)、グレードIIIでは全例に症状がありました(Borré 2003)。軽度は偶然の所見で、高度は症状の原因として重要と整理できます。なお、L5/S1は脊椎すべり症や手術の影響で脂肪の量が変わるため、このレベルだけの評価では他の高さの過剰を見逃すことがあり、他のレベルや矢状断でも同じ測定ができると指摘されています(Tong 2025)。
見逃されやすい理由
腰椎MRI 450例を3人の放射線科医が評価した検討では、硬膜外脂肪腫症が75例(16.7%)にありました。しかし、報告書に書かれていたのはそのうち6例だけでした(Spinnato 2022)。
| 項目 | Spinnato 2022(腰仙椎MRI 450例) |
|---|---|
| 頻度 | 75例(16.7%)にあり。軽度65.3%、中等度32%、高度2.7% |
| 報告された割合 | 75例中6例のみ |
| 症状との関係 | 唯一の原因が9.3%、他の原因との併存が12% |
画像が目立つ変性所見(椎間板ヘルニア・椎間関節症)があると、硬膜外脂肪の量を見るのを忘れがちです。変性が軽くても、増えた脂肪が加わることで硬膜嚢や馬尾の圧迫が強くなることがあります(Tong 2025)。脊柱管狭窄の原因は脊柱管狭窄の原因まとめや脊柱管狭窄症とは、馬尾の見え方は馬尾弛緩(redundant nerve roots)で解説しています。正常の腰椎MRIは腰椎MRIの見方で確認できます。
内臓脂肪との関係
硬膜外脂肪の増加は、内臓脂肪の量、BMI、腹囲との関連が示されています(Tong 2025)。腰椎MRIで硬膜外脂肪が多いと気づいたら、皮下脂肪の厚さも見ておくと、肥満やメタボリックシンドロームの手がかりになります(Tong 2025)。内臓脂肪をCTで測る方法は内臓脂肪CTとはにまとめています。
治療の考え方
治療は原因によって決まります。体重を減らす、ステロイド薬を医師の指示のもとで見直す、内分泌疾患を治療する、といった保存的治療が基本で、神経症状が強いときは外科的な除圧が行われます(Kim 2019)。硬膜外脂肪は減らせる可能性があるため、原因の改善を優先する考え方が現在は主流とされています(Tong 2025)。システマティックレビューでは、保存的治療でも手術でも95%の患者で何らかの症状の改善がありました(Alomari 2022)。
急に馬尾の症状(両足の脱力、尿や便の異常、会陰部のしびれ)が出たときは、緊急の除圧が考えられます(Kim 2019)。ステロイド薬は自己判断でやめず、主治医に相談してください。
胸椎の硬膜外脂肪腫症と、他の硬膜外病変との区別
腰仙部が約7割を占める一方、胸椎にも約4分の1が報告されています(Alomari 2022)。ステロイド薬に関連するタイプは胸椎に多く、麻痺を伴う割合が高いとされるため、胸椎のT1高信号を見たら、ステロイド薬の使用歴を確認します(Kim 2019)。胸椎では脊髄を圧迫するため、足の脱力や歩行障害として現れます。
硬膜外腔の病変としては、血腫、膿瘍、腫瘍、血管脂肪腫なども考えます。硬膜外脂肪腫症はT1で高信号になり、脂肪抑制で信号が低下することが重要な手がかりです(Tong 2025)。T1で高信号でも脂肪抑制で信号が落ちない場合は、亜急性の出血など別の成分を考えます。硬膜外の膿瘍は造影で見え方が違います。
変性所見と一緒に見つけたときのレポート
硬膜外脂肪腫症は、椎間板ヘルニアや椎間関節症などの変性所見に合併することが多く、「脊柱管狭窄の原因は変性だけ」と読んでしまいやすい病態です(Tong 2025)。変性の程度が軽くても、増えた硬膜外脂肪が加わると狭窄が強くなることがあるため(Tong 2025)、レポートには次の点を書くと臨床医に伝わります。
| 書く内容 | 例 |
|---|---|
| 脂肪の分布 | 「L1〜S2の硬膜外脂肪が増加。背側優位」 |
| 硬膜嚢の形 | 「L5/S1でY字、L2/3で多角形」 |
| 重症度 | 「Borré分類で中等度相当」 |
| 合併所見 | 「椎間板膨隆・椎間関節症を伴い、狭窄に寄与」 |
研修医のための読影チェックリスト
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 矢状断T1で、硬膜外の脂肪が厚いか(正常は3〜6mm程度) |
| 2 | 横断像で、硬膜嚢が楕円か、多角形・Y字・星形に変形していないか |
| 3 | 馬尾が混み合っていないか |
| 4 | Borré分類のグレード(必要なら他のレベルでも測る) |
| 5 | 椎間板ヘルニア・椎間関節症など、重なっている変性所見 |
| 6 | 皮下脂肪・内臓脂肪の量。ステロイド薬や内分泌疾患の既往 |
| 7 | レポートには「硬膜外脂肪腫症(軽度/中等度/高度)」と所見を書く |
よくある疑問(Q&A)
Q. 硬膜外脂肪腫症は手術が必要ですか?
A. 原因の改善(体重減少、ステロイド薬の見直し)が基本で、症状が強いときや馬尾の症状があるときに手術が検討されます(Kim 2019、Tong 2025)。
Q. 軽度なら症状の原因ではないのですか?
A. グレードIでは脂肪による症状のある人はいませんでした(Borré 2003)。ただし、変性所見が重なると症状に関与することがあります(Tong 2025)。
Q. 痩せたら脂肪は減りますか?
A. 体重減少で硬膜外脂肪が減り、症状が和らぐことが報告されています(Tong 2025)。減量の方法は主治医と相談してください。
Q. 腰痛や足のしびれが続くときは?
A. 歩くと足がしびれる、足に力が入りにくい、排尿に異常があるときは、整形外科などの医療機関を受診してください。
あわせて読みたい:脊髄くも膜嚢胞のMRI
参考文献
- Borré DG, Borré GE, Aude F, et al. Lumbosacral epidural lipomatosis: MRI grading. Eur Radiol. 2003;13(7):1709-21. PubMed
- Spinnato P, D’Agostino V, Fiorenzo D, et al. Underreporting of spinal epidural lipomatosis: A retrospective analysis of lumbosacral MRI examinations from different radiological settings. Diagn Interv Imaging. 2022;103(5):251-257. PubMed
- Alomari S, Lubelski D, Khalifeh JM, et al. Etiologies and Outcomes of Spinal Epidural Lipomatosis: Systematic Review of the Literature and Meta-Analysis of Reported Cases. Clin Spine Surg. 2022;35(9):383-387. PubMed
- Kim K, Mendelis J, Cho W. Spinal Epidural Lipomatosis: A Review of Pathogenesis, Characteristics, Clinical Presentation, and Management. Global Spine J. 2019;9(6):658-665. PubMed
- Tong MH, Cheng HM, Mo KM, et al. Unrecognized Synergistic Effect of Spinal Epidural Lipomatosis on Spinal Stenosis and Its Radiological Grading: A Case Series. Cureus. 2025;17(7):e87439. PubMed
- Walker PB, Sark C, Brennan G, et al. Spinal Epidural Lipomatosis: A Comprehensive Review. Orthop Rev (Pavia). 2021;13(2):25571. PubMed
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