
先に結論:髄液と同じ信号で造影されない袋。硬膜の内か外か、脊髄の前か後ろかを順に決める
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 脊柱管の中にできる、髄液またはそれに近い液体の袋 |
| MRIの基本 | T1で低信号、T2・STIRで均一な高信号。造影されない |
| 硬膜外タイプ | 硬膜の欠損から袋が出る。胸椎〜胸腰椎の背側に多く、脊髄や神経根を圧迫する |
| 硬膜内タイプ | 脊髄を前へ押す。背側のくも膜ウェブ(メスのように見えるscalpel sign)との区別が大切 |
| 手術の前に | 袋と髄腔の交通の有無・位置を、CTミエログラフィや動態MRIで確かめる |
脊髄くも膜嚢胞とは
くも膜嚢胞は、髄液またはそれに近い液体がたまった袋で、正常な髄液腔のそばにできます。脳にも脊髄にもでき、脊髄のものを脊髄くも膜嚢胞(spinal arachnoid cyst)と呼びます(Garg 2017)。脳のくも膜嚢胞は「くも膜嚢胞とは?症状・原因とCT・MRI所見」で解説しています。
脊髄のくも膜嚢胞は、場所と成り立ちで大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 種類 | 場所と特徴 |
|---|---|
| 硬膜外くも膜嚢胞 | 硬膜の外。硬膜の欠損からくも膜が袋状に出る。まれで、脊柱管の硬膜外病変の1%未満とされる(Messerer 2024) |
| 硬膜内くも膜嚢胞 | 硬膜の中で、脊髄の外(髄外)。脊髄を前方へ押すことが多い |
| 二次性(続発性) | 手術・外傷・くも膜下出血などのあとにできる。硬膜内が多い(Wang 2023) |
MRIでの見え方
脊髄の嚢胞は、髄液と同じ信号になります。硬膜外くも膜嚢胞の典型例では、T1強調像で低信号、T2強調像とSTIRで均一な高信号を示し、造影されません(Al-Suhaymi 2026)。髄液と信号が同じで、造影されず、壁がほとんど見えないことが基本です。
症例 32歳女性 胸腰椎移行部の硬膜外くも膜嚢胞

引用:Al-Suhaymi AS, et al. Cureus 2026;18(6):e111332(Figure 1)。CC BY 4.0。図は加工していません。PubMed
矢状断のT2強調像です。胸椎下部から腰椎上部にかけて、脊髄の背側に均一な高信号の嚢胞があり、脊髄は前方へ押されています。椎体の後ろの縁がえぐれるように変形(scalloping)しており、嚢胞が長い時間をかけて育ったことを示すと症例の報告に記載されています。

引用:Al-Suhaymi AS, et al. Cureus 2026;18(6):e111332(Figure 3)。CC BY 4.0。図は加工していません。PubMed
同じ症例の胸腰椎移行部の横断像(T2強調像)です。硬膜嚢は前方から圧迫され、嚢胞は左右の椎間孔の方向にも広がっています。報告では、椎間孔の拡大がみられ、Nabors分類のtype IAの硬膜外くも膜嚢胞と考えられました。
硬膜外くも膜嚢胞を読むポイント
硬膜外のくも膜嚢胞は、硬膜の欠損から髄液が漏れ出て袋になったものが多く、胸椎や胸腰椎に多く報告されています(Messerer 2024、Al-Suhaymi 2026)。脊髄の背側に長い嚢胞があり、脊髄や馬尾が前へ押されていたら、まず考える病気です。
| 見る点 | 確認すること |
|---|---|
| 場所 | 背側・胸椎から胸腰椎に多い。非交通性の硬膜外嚢胞も背側と胸腰椎に多い(Khan 2023) |
| 椎体・椎間孔 | 椎体後縁のscalloping、椎間孔の拡大は、慢性の経過を示す |
| 神経根の混入 | 神経根を含まないtype IAと、含むtype IIがある(Nabors分類) |
| 交通の有無 | 硬膜の欠損(交通部)の位置は、MRIだけでは分かりにくい。CTミエログラフィが有用(Khan 2023、Garg 2017) |
手術前に硬膜の欠損の位置を知ることには意味があります。非交通性の硬膜外くも膜嚢胞の系統的レビュー(21例)では、手術後の再発は20例中1例と少なく、硬膜の欠損を正確に処理しないと再発が大きく増えるとされています(Khan 2023)。ミエログラフィ、CTミエログラフィ、動態MRIは、嚢胞と髄腔の交通部の位置を示せます(Garg 2017)。ミエログラフィやCTミエログラフィの見え方は、既存の「脊髄造影(ミエログラフィ)・CTミエログラフィとは」の記事を参照してください。
臨床像と治療の考え方
手術を受けた11例の報告では、平均年齢は32.9歳、男女比は2.7対1で、下肢の脱力と痛みが多い症状でした。症状が出てから手術までの期間の中央値は9カ月で、10例が硬膜外、1例が硬膜内でした(Garg 2017)。硬膜外の嚢胞は、嚢胞の切除と硬膜欠損の閉鎖が通常の治療で、脊髄の前方にある硬膜内の嚢胞は開窓術(fenestration)が行われることが多いとされています(Garg 2017)。
無症状で偶然見つかった嚢胞の扱いは、症状と画像の経過を見ながら主治医が判断します。しびれ、脱力、歩きにくさ、排尿の異常が出ているときは、整形外科・脳神経外科を受診してください。
硬膜内の嚢胞:くも膜ウェブ・Tarlov嚢胞との見分け方
脊髄を前方へ押す硬膜内の「嚢胞様の所見」には、本当の嚢胞のほかに、くも膜ウェブ(arachnoid web)も含まれます。
| 病変 | 画像の特徴 |
|---|---|
| 硬膜内くも膜嚢胞 | 髄液と同じ信号の袋が脊髄を押す。脊髄の前方にあるものは、開窓術が行われることが多い(Garg 2017) |
| くも膜ウェブ | 背側の薄い膜で、脊髄が前へ押されてメスの刃のような形(scalpel sign)になる。胸椎の背側に出る(Voglis 2022、Delgardo 2022) |
| 神経根嚢胞(Tarlov嚢胞) | 主に仙骨の神経根の周りの嚢胞。脊髄を押す病変ではない(Tarlov嚢胞の解説) |
くも膜ウェブ12例の報告では、全例が胸椎の背側の硬膜嚢にあり、脊髄がメスの刃に似た形になるscalpel signが全例にみられ、脊髄内に小さな空洞(syrinx)が83%にありました(Voglis 2022)。17例の別の報告でも、全例でscalpel signがあり、41.2%でsyrinxを伴い、70.6%が胸椎の中部でした(Delgardo 2022)。詳しくは脊髄のscalpel signと鑑別疾患で説明しています。また、硬膜の欠損や異常が原因になる病気は脊柱管内の硬膜の欠損や異常の原因(duropathies)でまとめています。
二次性のくも膜嚢胞
手術、外傷、くも膜下出血のあとにできる二次性のくも膜嚢胞を集めた系統的レビュー(103例)では、原因は医原性、外傷、くも膜下出血が多く、硬膜内で脊髄の外にあるものが88例でした(Wang 2023)。硬膜内の嚢胞では、手術で切除したほうが開窓術よりも12カ月後の再発のリスクが低いと報告されています(21.43%と50.72%)(Wang 2023)。過去の手術や外傷の既往は、画像だけでなく問診で確認したい点です。脊椎・脊髄の腫瘍との違いは脊椎・脊髄腫瘍の分類が参考になります。
拡散強調像で見分ける嚢胞
脊柱管の髄液に似た嚢胞には、くも膜嚢胞のほかに類表皮嚢胞(epidermoid cyst)などもあります。くも膜嚢胞は髄液と同じ信号なので、拡散強調像で高信号にはなりません。拡散強調像で高信号を示すときは、類表皮嚢胞を考えます。脳の同じ鑑別は類上皮腫(類表皮嚢胞)のMRI画像診断で解説しています。
また、嚢胞の内部に壁在結節や造影される部分があるときは、嚢胞性の腫瘍(血管芽腫や上衣腫など)も考えます。くも膜嚢胞は造影されないことが前提です(Al-Suhaymi 2026)。
脊髄の評価と症状の聞き方
画像では、嚢胞そのものだけでなく脊髄がどれだけ押されているか、脊髄の中に信号変化や空洞があるかをいつも確認します。くも膜ウェブでは脊髄内の空洞が高い頻度でみられました(Voglis 2022、Delgardo 2022)。嚢胞による圧迫が続くと、脊髄に信号変化が出ることがあります。
症状は、嚢胞のできた高さと、脊髄や神経根が押される程度で決まります。手術を受けた11例では、下肢の脱力と痛みが多い症状で、症状が出てから手術までの期間の中央値は9カ月でした(Garg 2017)。経過が長いことも多いため、画像で嚢胞を見つけたら、症状の経過を依頼医に確認します。
研修医のための読影チェックリスト
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 髄液と同じ信号か(T1低・T2高・造影なし)。拡散制限や造影があれば別の病変を考える |
| 2 | 硬膜の外か内か。硬膜外なら硬膜の欠損・交通の位置を探す |
| 3 | 脊髄の前か後ろか。脊髄の背側ならscalpel sign(くも膜ウェブ)を除外 |
| 4 | 脊髄内の信号変化・syrinxの有無(脊髄の障害の程度) |
| 5 | 椎体後縁のscalloping、椎間孔の拡大(経過が長いことを示す) |
| 6 | 手術・外傷・出血・髄膜炎の既往(二次性かどうか) |
| 7 | 手術の可能性があるなら、CTミエログラフィや動態MRIの追加を提案 |
よくある疑問(Q&A)
Q. 症状がなくて、偶然見つかった場合も手術が必要ですか?
A. 治療として手術が行われるのは、症状のある嚢胞です(Al-Suhaymi 2026)。症状がなければ、経過の見方を主治医と相談します。
Q. 脊髄くも膜嚢胞は再発しますか?
A. 硬膜外の非交通性の嚢胞の系統的レビューでは、術後の再発は20例中1例でした(Khan 2023)。二次性の硬膜内の嚢胞では、手術の方法によって再発率が異なると報告されています(Wang 2023)。
Q. MRIだけで、硬膜外か硬膜内かは分かりますか?
A. 多くはMRIで判断できますが、硬膜の欠損の位置はMRIだけでは分かりにくく、CTミエログラフィなどで確認することがあります(Khan 2023)。
Q. 腰や背中の痛み、足の脱力があるときはどうすればよいですか?
A. しびれや脱力、排尿の異常が続くときは、整形外科・脳神経外科など医療機関を受診してください。
あわせて読みたい:硬膜外脂肪腫症とは
参考文献
- Garg K, Borkar SA, Kale SS, et al. Spinal arachnoid cysts – our experience and review of literature. Br J Neurosurg. 2017;31(2):172-178. PubMed
- Messerer R, Aldugman M, Morgado A, et al. Spinal extradural arachnoid cysts: a rare entity and review of the literature. Eur Spine J. 2024;33(3):872-880. PubMed
- Khan MSI, Ahmed N, Barua KK, et al. Pathogenesis, management strategies, and outcome of non-communicating extradural spinal arachnoid cyst (NEAC): a systematic review. Br J Neurosurg. 2023;37(2):213-219. PubMed
- Wang YB, Wang DH, Deng SL. Symptomatic secondary spinal arachnoid cysts: a systematic review. Spine J. 2023;23(8):1199-1211. PubMed
- Voglis S, Romagna A, Germans MR, et al. Spinal arachnoid web-a distinct entity of focal arachnopathy with favorable long-term outcome after surgical resection: analysis of a multicenter patient population. Spine J. 2022;22(1):126-135. PubMed
- Delgardo M, Higgins D, McCormick KL, et al. Clinical Characteristics, Outcomes, and Pathology Analysis in Patients With Dorsal Arachnoid Web. Neurosurgery. 2022;90(5):581-587. PubMed
- Al-Suhaymi AS, Sayed NM. Surgical Management of a Large Multiloculated Thoracolumbar Spinal Extradural Arachnoid Cyst via Decompressive Laminectomy With Selective Foraminal Fenestration: A Case Report. Cureus. 2026;18(6):e111332. PubMed
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