
先に結論:精神疾患の脳画像は「器質的な病気を除く」ために撮る。うつ病や統合失調症そのものを画像で診断することは、今はできない
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 撮る目的 | 腫瘍・脳炎・脳血管障害・認知症など、治療できる器質的疾患の除外。精神疾患の確定診断ではない |
| 見つかる頻度 | 初発の精神病でMRIによる治療方針の変更に結びつく所見は約5%という系統的レビューがある。高齢や認知症状があると増える |
| 研究段階の所見 | 統合失調症・うつ病では集団平均で皮質が薄いなどの差があるが、個人の診断に使える水準ではない |
| 「異常なし」の意味 | 少なくとも画像で分かる別の脳の病気は見つからなかった、という意味。精神疾患がないという意味ではない |
なぜ、精神疾患で脳の画像を撮るのか
幻覚・妄想・抑うつ・行動の変化は、精神疾患だけでなく、脳の病気や全身の病気でも起こります。初めて精神病症状が出た人の報告をまとめた総説では、5.6%に器質的な原因があったとされ、神経・自己免疫・遺伝・内分泌・感染など90の原因(群)が挙げられています(Tesnières 2026)。そのため、初回の評価では、問診・診察・血液検査とともに、画像が検討されます。
| 画像で探す病気 | 精神症状との関係 | 画像のヒント |
|---|---|---|
| 脳腫瘍(特に前頭葉・側頭葉・頭蓋底) | うつ、無気力、性格変化、幻覚などで発症することがある | 造影T1で腫瘤、FLAIRで周囲の浮腫 |
| 脳炎(自己免疫性・感染性) | 急な精神症状で始まることがある | 辺縁系(側頭葉内側)のFLAIR高信号。正常のこともある |
| 脳血管障害 | うつ、認知機能低下、行動変化 | DWI(急性梗塞)、FLAIR(白質病変)、SWI(微小出血) |
| 認知症・脳萎縮 | 高齢でのうつ・妄想の背景になる | 海馬・前頭葉・側頭葉の萎縮、脳血流の評価 |
| 水頭症・外傷・脱髄疾患 | 認知・行動・精神の変化 | 脳室の拡大、出血・挫傷、多発する白質病変 |
自己免疫性の脳炎は、精神症状だけで始まる例があり、見逃したくない病気です。精神病症状が主体で、神経症状がほとんどなく、神経細胞に対する自己抗体(主に抗NMDA受容体抗体)が陽性になって免疫療法が効いた例については、「自己免疫性精神病」という分類を設けるかが議論されています。国際コンセンサスは、慎重な形で「可能性」「ほぼ確実」「確実」の段階を示しました(Pollak 2020)。画像の所見は抗NMDA受容体脳炎とは、辺縁系脳炎とはに詳しくまとめています。
どのくらい「治療が必要な病気」が見つかるのか
画像の価値は、見つかる頻度を知ると現実的に考えられます。
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| 系統的レビュー(Albon 2008) | 初発・未治療などの精神病を対象にした24研究 | 多くの研究で、病歴・診察で疑われなかった治療方針に影響する所見はごくわずか。MRIで約5%、CTで約0.5% |
| 小児の初回精神病・行動異常(Kular 2021) | 神経所見のない子ども。MRI 34件、CT 6件 | 精神病の原因となる器質的疾患は0件。MRIの偶然の所見は4人(9%) |
| 精神科が依頼した脳MRI(Rakotondraibe 2026) | 532人。平均47歳 | 臨床対応が必要な所見は37%。そのうち93%は緊急ではない通常の対応。精神病性障害で28.8%、うつ病性障害で45.5%、認知症状で84.9% |
最後の研究では、臨床対応が必要な所見(actionable finding)は年齢とともに増え(1歳ごとに約1.06倍)、微小出血(SWI)や急性梗塞(DWI)のように、専用のシーケンスでしか分からない病変もありました。著者らは、FLAIR・3D T1・DWI・SWIの最小限のプロトコルで撮ることを勧めています(Rakotondraibe 2026)。つまり、若い人の初回の精神症状で、神経症状もない場合は、画像で原因が見つかることは少ない一方、高齢や認知症状があるときは見つかる割合がはっきり高くなる、というのが現実的な理解です。
画像を考えやすい場面
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| けいれん、意識の変化、強い頭痛、まひなどの神経症状 | 器質的疾患の可能性が高まる |
| 急な発症、数日〜数週間での急速な悪化 | 脳炎・血管障害・出血などを考える |
| 高齢での初発、認知機能の低下を伴う | 認知症・血管障害・腫瘍の頻度が上がる |
| 頭部外傷の既往、発熱、がんや免疫低下の背景 | 出血・感染・転移を考える |
| 通常の治療に反応しない、症状が非典型 | 別の原因を見直す |
症例 60歳代女性 うつ状態で発症した嗅窩部髄膜腫

引用:Silva A, et al. Cureus 2026;18(8):e113890(Figure 1)。CC BY 4.0、PMC(図は無加工、WebPをJPEGに変換)
64歳女性が、約4年かけて進んだ抑うつ症状(無気力、意欲の低下、行動の脱抑制、実行機能の低下)で精神科を受診した報告です。当初は喪失体験を背景とした抑うつ障害と解釈され、薬物療法に反応しませんでした。造影T1(矢状断)で、嗅窩を中心とした大きな境界明瞭な脳外腫瘤が強く均一に造影され、前頭葉を強く圧排しています(矢印)。報告では、手術で嗅窩部髄膜腫(WHO grade 2)と診断されています。

引用:Silva A, et al. Cureus 2026;18(8):e113890(Figure 2)。CC BY 4.0、PMC(図は無加工、WebPをJPEGに変換)
同じ症例のFLAIR(軸位断)で、両側の前頭葉に広範な血管原性浮腫があり(破線矢印)、脳溝が消えて圧排されています。うつ病に似た症状でも、治療への反応が乏しいときや非典型な経過では、器質的原因が潜んでいる場合があります。
統合失調症・うつ病の「研究段階の所見」はどこまで使えるか
研究では、統合失調症やうつ病の集団と健常者との間に、脳の構造の平均的な差が報告されています。世界の多施設共同研究(ENIGMA)では次のとおりでした。
| 疾患 | 対象 | 集団としての差 |
|---|---|---|
| 統合失調症(van Erp 2018) | 患者4,474人、健常者5,098人(39施設) | 皮質が広範に薄く(Cohen’s d −0.53/−0.52)、表面積も小さい。前頭葉・側頭葉で最大。薬を使用中の人でより大きい |
| うつ病(Schmaal 2017) | 成人患者2,148人、健常者7,957人(20コホート) | 眼窩前頭皮質、帯状回、島、側頭葉で皮質が薄い(d −0.10〜−0.14)。初発・成人発症で目立つ |
これらは、大規模な研究で集団の平均値に差があることを示しています。差の大きさ(Cohen’s d)はうつ病で0.1〜0.14と小さく、患者と健常者の分布は大きく重なっています。さらに、2026年の検討では、統合失調症、統合失調感情障害、自閉スペクトラム症、うつ病、双極性障害の5疾患について、59の施設ごとに(患者2,437人、対照2,065人)脳全体の灰白質の差のパターンを比べました。施設間の一致度は低く(中央値r≦0.16)、著者らは、現在の構造MRIの方法では頑健な形態の特徴は見つけにくいと結論しています(Cao 2026)。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 腫瘍・脳炎・梗塞・出血・水頭症などの除外 | 画像だけでうつ病・統合失調症と診断する |
| 治療前の脳の状態の記録(萎縮・白質病変など) | 薬が効くかどうかの個別の予測 |
| 集団を対象にした研究でのデータの蓄積 | MRIの小さな変化だけで重症度や予後を決める |
「撮って異常なし」の意味
MRIで異常がないという結果は、「画像で分かる、治療が必要な別の脳の病気は見当たらなかった」という意味です。うつ病や統合失調症では、通常のMRIの画像で目立った異常が出ないことが多く、これは病気がないということではありません。症状がつらいまま続くときは、画像の結果とは別に、精神科での評価と治療を続けることが大切です。
また、MRIでは「治療の必要がない偶然の所見」(血管周囲腔の拡大、副鼻腔の粘膜肥厚など)が見つかることもあります。Kular 2021でも、MRIの偶然の所見は9%にありました。これらの意味は担当医に確認してください。脳の萎縮と言われたときの考え方は脳萎縮と言われたら?にまとめています。
画像診断の側で気をつけること
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 依頼の目的を確認する | 「精神症状の精査」とだけあるときは、症状の経過・年齢・神経所見・既往を確認して、造影の要否を決める |
| 最小限のシーケンス | FLAIR、3D T1、DWI、SWI(Rakotondraibe 2026)。炎症や腫瘍を疑う場合は造影を追加 |
| 見る順番 | DWIで急性梗塞、FLAIRで白質・辺縁系、SWIで出血、T1で萎縮と腫瘤。頭部MRIの読み方の順番が使える |
| 偶然の所見の扱い | 臨床的意味が乏しいものは、過度に不安をあおらない書き方にする |
| 報告に書かないこと | 「統合失調症に合致する所見」のような、根拠の乏しい表現 |
造影が必要かどうかは頭部CT・MRIで造影が必要なとき・いらないときで整理しています。
よくある疑問(Q&A)
Q1. うつ病で頭のMRIを撮るのは普通ですか。
全員に撮るわけではありません。精神科が依頼した532人の脳MRIを調べた研究では、臨床対応が必要な所見はうつ病性障害の人の45.5%に見られました。ただし、これは精神科が必要と考えて依頼した人の集まりで、うつ病の人全体の頻度ではありません。年齢が高いほど多い傾向もありました(Rakotondraibe 2026)。担当医が必要と判断した理由は、遠慮なく聞いてみてください。
Q2. MRIで統合失調症かどうか分かりますか。
分かりません。集団の平均では皮質が薄いなどの差が報告されていますが(van Erp 2018)、個人の診断に使える水準ではなく、現在の方法では施設間で一致する形態の特徴が見つけにくいとされています(Cao 2026)。MRIは、別の病気がないかを確認するために使います。
Q3. 「異常なし」なら、症状は気のせいですか。
そうではありません。「画像で分かる別の病気は見つからなかった」という意味で、症状が実際にあることを否定するものではありません。症状が続く場合は、精神科で治療を続けてください。
Q4. 画像で見つかる別の病気には、どんなものがありますか。
腫瘍(髄膜腫など)、脳炎、脳梗塞や出血、水頭症、認知症に伴う萎縮などがあります。精神症状で始まった嗅窩部髄膜腫の例のように、うつ病に似た症状が器質的疾患の最初のサインのこともあります。気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
あわせて読みたい:神経精神ループス(NPSLE)のMRI
参考文献
- Tesnières C, Meunier S, Dollfus S. [Organic causes of first episode psychosis: Review of the literature]. Encephale. 2026;52(4):433-443. PubMed
- Pollak TA, Lennox BR, Müller S, et al. Autoimmune psychosis: an international consensus on an approach to the diagnosis and management of psychosis of suspected autoimmune origin. Lancet Psychiatry. 2020;7(1):93-108. PubMed
- Albon E, Tsourapas A, Frew E, et al. Structural neuroimaging in psychosis: a systematic review and economic evaluation. Health Technol Assess. 2008;12(18):iii-iv, ix-163. PubMed
- Kular S, Griffin K, Batty R, et al. The role of MRI and CT of the brain in first episodes of psychosis and behavioural abnormality. Clin Radiol. 2021;76(9):712.e9-712.e13. PubMed
- Rakotondraibe A, Megdiche I, Maraval A, et al. Brain MRI in patients with psychiatric disorders: A retrospective evaluation in routine clinical practice. J Neuroradiol. 2026;53(1):101415. PubMed
- van Erp TGM, Walton E, Hibar DP, et al. Cortical Brain Abnormalities in 4474 Individuals With Schizophrenia and 5098 Control Subjects via the Enhancing Neuro Imaging Genetics Through Meta Analysis (ENIGMA) Consortium. Biol Psychiatry. 2018;84(9):644-654. PubMed
- Schmaal L, Hibar DP, Sämann PG, et al. Cortical abnormalities in adults and adolescents with major depression based on brain scans from 20 cohorts worldwide in the ENIGMA Major Depressive Disorder Working Group. Mol Psychiatry. 2017;22(6):900-909. PubMed
- Cao T, Pang JC, Gajwani M, et al. The cross-site reproducibility of MRI morphometric phenotypes in psychiatric disorders. Nat Neurosci. 2026;29(9):2273-2282. PubMed
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