
先に結論:強い背部痛に発熱や炎症反応があるときは、早く造影MRIで確認する病気
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 脊柱管の中の硬膜外腔に、細菌感染で膿や炎症組織がたまる病気。まれだが麻痺の危険がある |
| 症状 | 多くの人は強い局所の腰背部痛を訴える。「発熱・背部痛・神経症状」の3つがそろうのは約10%にとどまる(Tetsuka 2020) |
| MRIの見え方 | 膿はT1強調像で低信号、T2強調像で高信号、拡散強調像で高信号。造影で膿の周りの縁が強く造影される(Tetsuka 2020) |
| 化膿性脊椎炎との関係 | 化膿性脊椎炎の47人中26人でMRI上の硬膜外膿瘍があった(Park 2023)。椎体・椎間板の炎症と一緒に確認する |
| 緊急度 | 神経症状があれば緊急の判断が必要。診断の遅れがあると運動麻痺が残りやすい(Davis 2004) |
脊髄硬膜外膿瘍とは
脊髄は、背骨の中の脊柱管を通っていて、「硬膜」という丈夫な膜に包まれています。硬膜と骨の間にある隙間が硬膜外腔で、血管が豊富です。ここに細菌が入り、膿や炎症のかたまりができる病気が、脊髄硬膜外膿瘍です。
硬膜外腔の前側は、硬膜・後縦靱帯・椎体の骨膜がぴったり付いているため、膿は主に脊髄の後ろ側にたまります。また、硬膜外腔は縦に細長いため、膿は発生した高さから上下の複数の椎体にまたがって広がることがあります(Tetsuka 2020)。
原因菌で最も多いのは黄色ブドウ球菌(メチシリン感受性)で、全体の約3分の2を占めます。感染の入り口は、近くの感染からの波及、血流にのった菌(尿路感染や心内膜炎など)、硬膜外麻酔や脊椎の処置などです。原因がはっきりしないこともあります(Tetsuka 2020)。糖尿病、静脈注射薬の使用、ステロイドの長期使用、脊椎の手術や外傷などが、かかりやすい条件とされています(Tetsuka 2020)。
脊髄が傷む仕組みには、膿による直接の圧迫のほか、周囲の静脈の血栓、動脈の血流の途絶、細菌の毒素による炎症があります(Tetsuka 2020)。
症状と診断の遅れ
教科書的には「発熱・背部痛・神経症状」が3つそろうとされますが、実際にそろうのは約10%です。それでも、ほとんどの患者は強い局所の腰背部痛を訴えます(Tetsuka 2020)。
救急外来の研究では、硬膜外膿瘍の63人と、背部痛で受診した126人の対照を比べています。最初の受診時に3つの症状がそろっていたのは13%でした。一方、リスクとなる条件が1つ以上あったのは、膿瘍の患者の98%、対照の21%でした。診断の遅れは膿瘍の患者の75%にあり、遅れがあった人では運動麻痺が残った割合が45%で、遅れがない人の13%より高くなっていました(Davis 2004)。
別の研究では、リスク条件の確認に続けて赤沈(ESR)とCRPを測り、そのあとにMRIを行う手順を導入しました。導入前は55人中46人(83.6%)に診断の遅れがありましたが、導入後は31人中3人(9.7%)に減りました。診断時に運動麻痺があった人も、81.8%から19.4%に減っています。リスク条件のある人での赤沈の感度は100%、特異度は67%でした(Davis 2011)。また、リスク条件の評価でMRIを行う人を選ぶことが、診断の遅れを減らすとするレビューもあります(Schwab 2020)。
病期は、次の4つに分けられます(Tetsuka 2020)。
| 病期 | 症状 |
|---|---|
| I期 | 背部痛 |
| II期 | 神経根の症状 |
| III期 | 筋力低下・しびれ |
| IV期 | 麻痺(足が動かせない状態) |
(Tetsuka 2020)
III期からIV期への進行は、膿の範囲が広いときや重い基礎疾患があるときなど、24時間以内に急速に進むことがあります(Tetsuka 2020)。足に力が入りにくい、おしっこの感覚がおかしいなどの症状があるときは、すぐに医療機関を受診してください。
MRIでの見え方
MRIは、病変が早い時期から見え、膿や周囲の炎症の範囲を示せるため、診断の中心になる検査です。ガドリニウム造影MRIは、診断に最も感度が高く、特異度も高く、有用な方法とされています(Tetsuka 2020、Bluman 2004)。
| 撮像 | 見え方(膿瘍) |
|---|---|
| T1強調像 | 低〜中等度の信号。液状の膿は低信号 |
| T2強調像 | 高〜中等度の信号。膿の周囲に、線維成分を反映した低信号の被膜様の縁が見えることがある |
| 造影T1強調像 | 液状の膿の周りの縁(肉芽組織)が強く造影される。初期の炎症のかたまり(蜂窩織炎期)では全体が均一に造影される |
| 拡散強調像(DWI) | 膿のたまりが強い高信号となり、ADC値は低下する |
(Tetsuka 2020)
報告例では、腰椎のほぼ全体に硬膜外の炎症のかたまりが広がり、軸位断では硬膜嚢が後ろから圧迫されている様子が確認されています。このように、矢状断で上下の広がりを、軸位断で圧迫の程度を、それぞれ確認します(Tetsuka 2020)。
造影のパターンは、病期によって2つに分けられます。発症の早い時期(蜂窩織炎期)は、膿のたまりがほとんどなく、炎症を起こした組織が全体に均一に造影されます。進行すると、液状の膿の周りの炎症が縁取るように造影されます(Tetsuka 2020)。
症例 頸椎〜胸椎の硬膜外膿瘍

引用:Tetsuka S, et al. JMA J. 2020;3(1):29-40(Figure 2). PMC(CC BY 4.0)
矢状断の造影T1強調像です。脊柱管の後ろ側(矢頭)に、縁が強く造影される被膜様の構造があり、内容は低信号の膿瘍です。頸椎の画像(A)では、咽頭の後ろにも造影される腫瘤(咽後膿瘍)が写っています。胸椎の画像(B)でも、後ろ側に膿瘍が広がっています。
造影MRIは、膿の範囲を示すのに有用ですが、感染の範囲を実際より広く見せてしまう可能性があると報告されています(Tetsuka 2020)。範囲を判断するときは、T2強調像・拡散強調像・軸位断など、ほかの画像と見比べます。
化膿性脊椎炎との関係
脊椎の感染症では、椎体や椎間板の炎症(化膿性脊椎炎・椎間板炎)と、硬膜外膿瘍が同時に見つかることがよくあります。化膿性脊椎炎の47人を調べた研究では、全員が造影MRIを受け、26人にMRI上の硬膜外膿瘍がありました。手術を受けた群では、硬膜外膿瘍のある人が有意に多く、CRPや来院時の体温も高くなっていました。この研究は、化膿性脊椎炎でMRIの硬膜外膿瘍の有無は、早期の手術を考える重要な判断材料になるとまとめています(Park 2023)。
そのため、MRIでは椎体・椎間板だけでなく、脊柱管の中、傍脊柱の筋肉、腸腰筋まで見ておく必要があります。化膿性脊椎炎・椎間板炎の画像は化膿性脊椎炎・椎間板炎とは?原因菌・症状とMRI画像所見、腸腰筋に膿がたまった場合は腸腰筋膿瘍とは?原因・症状・治療とCT・MRI画像所見の特徴をご覧ください。椎体炎と硬膜外膿瘍を一緒に扱ったレビューもあり、症状・リスク因子・画像所見の把握が重要とされています(Boody 2015)。
| 疾患 | 硬膜外腔の所見のポイント |
|---|---|
| 硬膜外膿瘍 | 発熱・炎症反応を伴う。T2高信号で、縁が造影され、DWI高信号 |
| 硬膜外血腫 | 経過が急(突然の痛み)で、血腫は縦に長く広がる。脊髄(脊椎)硬膜外血腫の症状とMRI・CT所見を参照 |
| 硬膜外腫瘍(転移など) | 骨の破壊や腫瘤を伴う。脊椎・脊髄腫瘍の分類を参照 |
| 結核性 | 椎体の破壊や冷膿瘍を伴う。結核性脊椎炎(脊椎カリエス)の画像診断を参照 |
緊急度と治療の考え方
治療は、抗菌薬と、膿を取り除く手術(除圧・ドレナージ)が柱です。神経症状がある硬膜外膿瘍では、緊急の手術による除圧が選択されます。神経症状がなく、膿瘍の位置や形、免疫の状態、菌の毒性などから神経合併症のリスクが低いと判断された場合は、抗菌薬による治療が代わりの選択肢になります(Bluman 2004)。
神経症状が出る前に診断され、原因菌もわかっている場合は、抗菌薬だけで治療できる例があります。一方、保存的な治療を選んだ患者の約30〜40%は、手術なしでは治療に失敗します(Tetsuka 2020)。保存的治療が失敗するリスクとして、診察時の運動麻痺、病的骨折や圧迫骨折、活動性の悪性腫瘍、糖尿病、感覚の変化、膿瘍が背側にあることなどが挙げられています(Tetsuka 2020)。
手術と保存的治療のどちらを選ぶか、手術のタイミングをいつにするかは、脊椎外科・感染症科などが、神経症状の経過とMRIの所見を合わせて決めます。抗菌薬の種類や期間の判断も、主治医が行います。読影では、膿の範囲に加えて、脊髄・馬尾がどの程度圧迫されているかも確認します。
MRIで見るポイント(チェックリスト)
| 見る所 | 確認すること |
|---|---|
| 範囲 | 矢状断で、膿が何椎体にまたがっているか。上下の端はどこか |
| 圧迫 | 軸位断で、硬膜嚢(脊髄・馬尾)がどちらから、どの程度押されているか |
| 造影のパターン | 縁が造影される膿のたまりか、全体が均一に造影される炎症のかたまりか |
| 拡散強調像 | 膿のたまりが高信号か(ADC値の低下) |
| 椎体・椎間板 | 脊椎炎・椎間板炎を伴っているか。椎間板の高信号や椎体の骨破壊 |
| 周囲の軟部組織 | 傍脊柱の筋肉や腸腰筋に炎症・膿瘍が広がっていないか |
| 脊髄そのもの | 脊髄内に信号の変化(T2強調像の高信号など)がないか |
よくある疑問(Q&A)
Q. 背中の痛みだけでも、この病気を疑うのですか?
A. ほとんどの患者が強い局所の背部痛を訴えますが、背部痛のほとんどは別の原因です。そこで、発熱、血液検査の炎症反応(赤沈・CRP)の上昇、感染のリスクとなる条件などを合わせて、MRIを急いで行うかを考えます(Tetsuka 2020、Davis 2011)。足の力が入りにくいなどの症状があるときは、早めに受診してください。
Q. 診断のために腰椎穿刺(髄液を採る検査)はしないのですか?
A. 硬膜外腔の感染を脊髄のほうに広げるおそれがあるため、くも膜下腔に針を進める検査は、硬膜外膿瘍を除外するまでは原則として避けることが勧められています(Tetsuka 2020)。
Q. 造影MRIで見える膿の範囲は、実際の範囲と同じですか?
A. 造影MRIは感染の範囲を実際より広く見せる可能性があると報告されています(Tetsuka 2020)。T2強調像や拡散強調像、軸位断など、ほかの画像と見比べて評価します。
Q. 造影剤が使えない場合はどうしますか?
A. 腎機能やアレルギーの状況で、造影の可否は検査施設と主治医が判断します。造影MRIが診断に有用とされる病気のため、造影を使えるかどうかは検査前に確認されます。
あわせて読みたい:頭部CT・MRIで造影が必要なとき・いらないとき
参考文献
- Tetsuka S, Suzuki T, Ogawa T, et al. Spinal Epidural Abscess: A Review Highlighting Early Diagnosis and Management. JMA J. 2020;3(1):29-40. PubMed
- Davis DP, Wold RM, Patel RJ, et al. The clinical presentation and impact of diagnostic delays on emergency department patients with spinal epidural abscess. J Emerg Med. 2004;26(3):285-91. PubMed
- Davis DP, Salazar A, Chan TC, et al. Prospective evaluation of a clinical decision guideline to diagnose spinal epidural abscess in patients who present to the emergency department with spine pain. J Neurosurg Spine. 2011;14(6):765-70. PubMed
- Park J, Han S, Jeon Y, et al. Spinal epidural abscess as predicting factor for the necessity of early surgical intervention in patients with pyogenic spondylitis. BMC Musculoskelet Disord. 2023;24(1):586. PubMed
- Bluman EM, Palumbo MA, Lucas PR. Spinal epidural abscess in adults. J Am Acad Orthop Surg. 2004;12(3):155-63. PubMed
- Schwab JH, Shah AA. Spinal Epidural Abscess: Diagnosis, Management, and Outcomes. J Am Acad Orthop Surg. 2020;28(21):e929-e938. PubMed
- Boody BS, Jenkins TJ, Maslak J, et al. Vertebral Osteomyelitis and Spinal Epidural Abscess: An Evidence-based Review. J Spinal Disord Tech. 2015;28(6):E316-27. PubMed
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