
先に結論:見落としは「小さい影が、骨・血管・心臓と重なる所」で起きる。場所を決めて見直すと拾いやすくなる
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 見落としの実態 | 「異常なし」と報告された胸部レントゲン2,407枚の約19%に、報告されていない所見があった(Kaviani 2022) |
| 隠れやすい場所 | 肺尖、鎖骨と第1肋骨の重なり、肺門、心陰影の裏、横隔膜の下、肋骨など骨と重なる結節 |
| 見落とされた肺癌の特徴 | 他の構造と重なっていたものが71%(発見された結節では2%)、大きさの中央値は16 mm(Quekel 1999) |
| 見直しのコツ | 毎回同じ順番で見る・死角を1か所ずつ見直す・過去の画像と比べる・側面像やCTで確かめる |
胸部レントゲンの見落としは、どのくらい起きるのか
胸部レントゲンは、病変が骨や心臓、血管の影と重なると見えにくくなる検査です。見落としの頻度を調べた報告をみてみます。
インドと米国の8施設で、「異常なし」と報告された胸部レントゲン2,407枚を胸部放射線科医2人が見直した研究があります。410枚(18.9%)に報告されていない所見があり、そのうち312件(76.1%)は臨床的に重要と判定されました。内訳は肺結節157件、浸潤影60件、線状影37件、縦隔の拡大21件、肺門の腫大17件、胸水11件、肋骨骨折6件、気胸3件でした(Kaviani 2022)。見落としの最多は肺結節です。
肺癌に絞った研究では、診断された非小細胞肺癌のうち、レントゲンで結節として写っていた259人を調べています。49人(19%)で、結節が見落とされていました。見落とされた結節と、見つけられた結節を比べると次のとおりです(Quekel 1999)。
| 見落とされた結節 | 見つけられた結節 | |
|---|---|---|
| 他の構造との重なり | 71% | 2% |
| 大きさ(中央値) | 16 mm | 40 mm |
| 診断までの遅れ(中央値) | 472日 | 29日 |
見落とされた49人のうち、21人(43%)は、診断のときにはT1からT2へ進んでいました(Quekel 1999)。この研究では、見落とし率は結節のある部位によって差がありませんでした。場所そのものより「何と重なっているか」と「小ささ」が見落としを分けると読めます。
肺癌の診断の誤りの約9割はレントゲンで起きるとされ、原因は、見る範囲から漏れる(走査の誤り)、見たのに気づかない(認識の誤り)、気づいたのに判断を誤る、別の所見で満足して探すのをやめる(satisfaction of search)といった観察者側の要因が中心です(Del Ciello 2017)。最後の点は、読影の見落としはなぜ起こるのかで詳しく解説しています。
見落としやすい場所の一覧
解剖学的に「重なりが多く、知覚の誤りが起きやすい」場所は、blind spot(死角)と呼ばれ、見る順番にそれらを組み込む方法が提案されています(Ropp 2015)。代表的な場所を表にまとめます。
| 場所 | 隠れやすい理由 | 探し方のコツ |
|---|---|---|
| 肺尖(肺のてっぺん) | 鎖骨・第1〜2肋骨・首や肩の軟部組織が重なる | 左右の肺尖を並べて比べる。左右差、丸み、濃さの違いを探す |
| 鎖骨・第1肋骨との重なり | 骨の影が結節の輪郭を隠す | 骨の縁をたどり、骨の線と合わない丸い影・ふくらみを探す |
| 肺門 | 血管・気管支・リンパ節が重なって複雑 | 左右の位置、大きさ、濃さを比べる。片側だけ大きい・濃い・高いに注意 |
| 心陰影の裏(左下葉・縦隔側) | 心臓や大動脈の白い影の裏に肺が隠れる | 心臓の輪郭の内側に、肺の血管や横隔膜の線が透けて見えるかを確認 |
| 横隔膜の下 | 肺の底は横隔膜の背側に深く入り込み、腹部の影と重なる | 横隔膜の線の裏まで肺の黒さが続くか確認。側面像で後ろ側を見る |
| 骨と重なる結節 | 肋骨・鎖骨・肋軟骨の濃さに溶け込む | 肋骨の下縁・上縁ごとに区切って、1本ずつ見る |
場所ごとの見方
肺尖・鎖骨・第1肋骨の重なり
肺尖は鎖骨、第1肋骨、第2肋骨、肩の軟部組織が何重にも重なる場所です。小さな肺癌が骨の影に隠れやすく、症例報告でも、肩の痛みで受診した患者さんの肩のレントゲンに写っていた肺尖部の胸膜肥厚が見過ごされ、肺尖部の肺癌(Pancoast腫瘍の例)の診断が遅れた経過が報告されています(Laouar 2025)。肺尖部の左右差、境界の明瞭さ、丸みを見て、異常な影かどうかを区別します。
次の症例は、第1肋骨に重なる小さな肺癌です。
症例 70歳代女性 左肺尖部の肺癌(T1b)

引用:Radiopaedia(T1b apical lung cancer)
左の第1肋骨の前方に重なる2 cmの陰影があります。症例ページでは、CTで2.2 cmのスピキュラ(とげ状の辺縁)を伴う左肺尖部の結節で、肋骨に重なるため胸部レントゲンでは見落としやすい早期肺癌であり、肺尖が見直す場所になっていると記載されています。
肺尖の見かたの基本は、肺野(肺尖部・上肺野・中肺野・下肺野)の区分と、鎖骨・肋骨の写り方を知っておくことです。
肺門
肺門は、肺動脈・肺静脈・気管支・リンパ節が集まる場所で、血管の影が複雑に重なるため、腫瘤やリンパ節腫大と正常の血管を区別しにくい場所です。Kaviani 2022の見落とし所見にも、肺門の腫大が17件含まれていました。
肺門は左右を比べるのが基本です。右の肺門は左より少し低い位置にあるのが通常で、この位置関係が逆転していたり、片側だけ大きい・濃い・外側へふくらむ場合は、腫瘤やリンパ節腫大、無気肺による引き込みなどを疑います。正常な肺門の陰影は、正常な胸部レントゲン画像の見方で、右第1弓・左第1〜4弓と合わせて確認できます。
心陰影の裏
左下葉の一部は、心臓の裏(心陰影の背側)にあり、正面像では心臓の白い影の中に隠れます。ここに腫瘤や肺炎があっても、「心臓の影が少し濃い」程度にしか見えないことがあります。
見直すときは、心臓の陰に重なって、下行大動脈の外縁(左の背骨寄りの線)や、肺の血管の影が見えているかを確かめます。心臓の裏が普段より白く、これらが見えなくなっていれば、何かがあるサインです。
症例 50歳代 左下葉の肺癌(心臓の裏)

引用:Radiopaedia(Lung cancer – left lower lobe (retrocardiac))
円で囲んだ部分に、心臓の陰に重なる境界のはっきりした腫瘤があります。症例ページでは、左の心臓の裏に約3 cmの腫瘤があり、左の肋骨横隔膜角(横隔膜と胸壁のあいだの角)に軽い胸膜肥厚があると記載されています。右肺は異常がないとされています。
横隔膜の下
肺の底の一部は、横隔膜のドーム(丸みを帯びた最上部)よりも背中側へ深く回り込んでいます。そのため、正面像では腹部の臓器の影と重なり、肺の病変や胸水が隠れます。横隔膜の線の外側と、背骨の両脇までを、肺の黒さが続いているかどうかで確認します。
この場所は側面像が得意です。胸水の液面(メニスカス)が側面像で見え始める量は約50 mL、正面像では約200 mLという報告があります(Blackmore 1996)。仰向けで撮った写真での気胸の見落としは、臥位のfree airと気胸の見落としで解説しています。
骨と重なる結節
肋骨の重なる場所では、結節が骨の濃さに溶け込みます。肋骨の下縁に沿って、骨の輪郭のすぐ外側に出る丸い影がないかを見ます。肋軟骨の石灰化や乳頭、皮膚のほくろなどが結節に見える場合もあるため、疑わしいときは側面像や過去画像、CTで確認します。
見落としを減らす見直しの手順
胸部レントゲンの読み方は、毎回同じ手順で行うことが勧められています。臨床医自身が報告書を読む前にまず自分で見て、そのあとに放射線科医と所見を話し合うこと、過去の写真と比べることは必須とされています(Raoof 2012)。死角を手順に組み込んだチェックリストを示します。
| 順番 | 見ること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 撮影の条件 | 息がしっかり吸えているか、体が傾いていないか。条件が悪いと影が重なりやすくなる |
| 2 | 全体を左右で比べる | 肺の黒さ、血管の太さ、横隔膜の高さ、縦隔の幅の左右差を見る |
| 3 | 死角を1か所ずつ | 肺尖→鎖骨・肋骨の重なり→肺門→心臓の裏→横隔膜の下の順に、視点を移して見直す |
| 4 | 骨をたどる | 肋骨・鎖骨の輪郭を1本ずつたどり、骨の線に合わない丸みを探す |
| 5 | 過去の画像と比べる | 前回と同じに見えても、並べて見ると小さな増大に気づくことがある |
| 6 | 疑わしいときは追加 | 側面像、後日のレントゲン、CTで確かめる |
1つ所見を見つけたあとも、手順をやめないことが大切です。見落とされた肺癌が診断までに要した期間の中央値は472日でした(Quekel 1999)。
画像を見る人の見直しは、今も欠かせません。気になる症状が続くときは、レントゲンの結果にかかわらず医療機関に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. レントゲンで異常なしなら、肺癌はないと考えていいですか?
A. 小さな肺癌は、骨や心臓と重なると写っていても見えないことがあります。見落とされた結節の大きさの中央値は16 mmでした(Quekel 1999)。咳や血痰、体重減少などが続くときは、結果にかかわらず医療機関に相談してください。
Q. 見落としは、経験の少ない医師だけが起こすのですか?
A. 経験にかかわらず起こります。見落としの原因は、走査・認識・判断の誤りなど観察者の要因と、病変の大きさ・重なりなどの要因が組み合わさります(Del Ciello 2017)。だからこそ、手順を決めて見直すことが勧められています。
Q. 側面像を撮ると、見落としは減りますか?
A. 側面像は正面像で隠れる部分を補います。ただし、小さな肺結節の検出では、正面像に側面像を加えても診断能は有意には向上しなかったという研究もあります(Kluthke 2016)。側面像は、胸水や心臓の裏、肺門のように、見る目的を決めて使うのが実際的です。
Q. 見落としを防ぐ方法は、ほかにありますか?
A. 過去の画像との比較が基本です。そのうえで、疑わしい所見があればCTを追加します。CTでも見落としは起こるとされ、Del Ciello 2017はその要因を整理しています。
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参考文献
- Raoof S, Feigin D, Sung A, et al. Interpretation of plain chest roentgenogram. Chest. 2012;141(2):545-558 PubMed
- Ropp A, Waite S, Reede D, et al. Did I miss that: subtle and commonly missed findings on chest radiographs. Curr Probl Diagn Radiol. 2015;44(3):277-89 PubMed
- Del Ciello A, Franchi P, Contegiacomo A, et al. Missed lung cancer: when, where, and why? Diagn Interv Radiol. 2017;23(2):118-126 PubMed
- Quekel LG, Kessels AG, Goei R, et al. Miss rate of lung cancer on the chest radiograph in clinical practice. Chest. 1999;115(3):720-4 PubMed
- Kaviani P, Kalra MK, Digumarthy SR, et al. Frequency of Missed Findings on Chest Radiographs (CXRs) in an International, Multicenter Study: Application of AI to Reduce Missed Findings. Diagnostics (Basel). 2022;12(10):2382 PubMed
- Laouar L, Dammene Debbih N, Laouar N. When Patient and Clinician Miss the Signal: A Delayed Diagnosis of Pancoast Tumor. Cureus. 2025;17(9):e91732 PubMed
- Kluthke RA, Kickuth R, Bansmann PM, et al. The additional value of the lateral chest radiograph for the detection of small pulmonary nodules-a ROC analysis. Br J Radiol. 2016;89(1067):20160394 PubMed
- Blackmore CC, Black WC, Dallas RV, et al. Pleural fluid volume estimation: a chest radiograph prediction rule. Acad Radiol. 1996;3(2):103-9 PubMed
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