胸部レントゲンを読む際には、異常影が「どこにあるのか」を正確に表現する必要がある。そのためにまず理解しておきたいのが、正面像における肺の部位表現である。

胸部レントゲンでは、肺を大まかに肺尖部、上肺野、中肺野、下肺野に分けて記載することが多い。これは病変の位置を共有するための実用的な表現であり、厳密な解剖学的肺葉分類とは異なる。

胸部レントゲン正面像における肺尖部、上肺野、中肺野、下肺野の区分
胸部レントゲン正面像における肺野の区分。第2肋骨前側の端と第4肋骨前側の端を目安に、上肺野・中肺野・下肺野を分ける。

胸部レントゲンでは「肺葉」ではなく「肺野」で表現する

胸部CTでは、右上葉、右中葉、右下葉、左上葉、左下葉といった肺葉単位で病変を局在できる。しかし胸部レントゲン正面像では、3次元の胸郭内構造が2次元画像として重なって投影される。

そのため、正面像だけで「右上葉にある」「右下葉にある」と断定することは難しい場合がある。特に肺裂は斜めに走行しており、正面像では肺葉の境界が明瞭に見えないことが多い。

そこで、胸部レントゲンでは病変の位置を表す際に、上肺野、中肺野、下肺野という「肺野」の表現を用いる。これは読影所見や教育の場で非常に重要な基本である。

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肺尖部とは?

肺尖部とは、鎖骨より上に見える肺の領域を指す。胸部レントゲン正面像では、左右の肺の最上部が鎖骨の上方に投影される。この部分が肺尖部である。

肺尖部は、結核後変化、肺尖部胸膜肥厚、気胸、肺尖部腫瘤などを確認する際に重要な領域である。特に小さな気胸では、肺尖部の胸膜線や血管影の消失に注目する必要がある。

ただし、肺尖部は鎖骨、肋骨、肩甲骨、軟部陰影が重なりやすい領域である。そのため、左右差や過去画像との比較が重要である。

上肺野・中肺野・下肺野の分け方

胸部レントゲン正面像では、以下のような目安で肺野を分ける。

部位 目安 表現例
肺尖部 鎖骨より上 右肺尖部に胸膜肥厚を認める
上肺野 鎖骨下から第2肋骨前側の端付近まで 右上肺野に結節影を認める
中肺野 第2肋骨前側の端から第4肋骨前側の端付近まで 左中肺野に浸潤影を認める
下肺野 第4肋骨前側の端より下方 右下肺野に網状影を認める

実際の読影では、正面像で第2肋骨前側の端第4肋骨前側の端を目安に水平線を引くと理解しやすい。

第2肋骨前側の端より上を上肺野、第2肋骨前側の端から第4肋骨前側の端までを中肺野、第4肋骨前側の端より下を下肺野として表現する。

前側の肋骨を目安にする理由

胸部レントゲン正面像では、肋骨には「後側の肋骨」と「前側の肋骨」が写る。後側肋骨は比較的水平に近く、前側肋骨は外側上方から内側下方へ向かって斜めに走行する。

肺野区分の目安として用いるのは、前側の肋骨の端である。第2肋骨前側の端、第4肋骨前側の端を探すことで、上肺野・中肺野・下肺野を視覚的に分けやすくなる。

初心者が混乱しやすい点は、後側肋骨を数えてしまうことである。肺野を区分する際には、前側肋骨の端を意識することが重要である。

肺野と肺葉は一致しない

最も重要な注意点は、上肺野・中肺野・下肺野は、上葉・中葉・下葉と同じ意味ではないという点である。

例えば、右下肺野に見える陰影であっても、それが右下葉にあるとは限らない。右中葉、右下葉、あるいは前胸壁・乳房・骨性胸郭の重なりである可能性もある。

また、右中肺野に見える病変が右上葉に存在することもあれば、右下葉の一部が重なって見えていることもある。胸部レントゲンは投影像であり、奥行き方向の情報が失われるためである。

したがって、レポートでは正面像だけで無理に肺葉名を断定するよりも、まずは「右上肺野」「左中肺野」「右下肺野」といった肺野表現を用いる方が適切なことが多い。

病変部位の記載例

胸部レントゲンで異常影を記載する際には、以下のような表現が使いやすい。

  • 右上肺野に小結節影を認める。
  • 左中肺野に淡い浸潤影を認める。
  • 右下肺野優位に網状影を認める。
  • 両側下肺野に線状影を認める。
  • 左肺尖部に胸膜肥厚を認める。
  • 右肺尖部に気胸を疑う胸膜線を認める。

このように、胸部レントゲンでは「左右」と「上下方向の位置」を組み合わせて表現すると、病変の位置を共有しやすい。

肺野区分を使うと読影が系統的になる

肺野区分を意識すると、胸部レントゲンの読影が系統的になる。例えば、左右を比較しながら以下のように確認できる。

  • 右肺尖部と左肺尖部を比較する。
  • 右上肺野と左上肺野を比較する。
  • 右中肺野と左中肺野を比較する。
  • 右下肺野と左下肺野を比較する。

胸部レントゲンでは、左右差が重要な手がかりになる。片側だけ濃い、片側だけ透過性が高い、片側だけ血管影が乏しいといった所見は、病変を見つけるきっかけになる。

一方で、撮影条件、体位、回旋、吸気不良、乳房陰影、皮膚のしわ、衣服や外部物質によって左右差が生じることもある。したがって、肺野区分はあくまで病変を探すための入口であり、最終的には画像全体の整合性を確認する必要がある。

下肺野は横隔膜より下にも肺が存在する

胸部レントゲン正面像では、横隔膜のドームより下には肺がないように見える。しかし実際には、肺は後方で横隔膜の背側に入り込んでおり、後肋横隔膜角まで広がっている。

このため、下肺野や肺底部の病変は正面像だけではわかりにくいことがある。側面像を併用すると、後方肺底部や後肋横隔膜角の異常が見つかりやすくなる。

特に少量胸水、下葉肺炎、背側優位の無気肺などでは、正面像で目立たず、側面像やCTで明らかになることがある。

胸部レントゲン所見を書くときの注意点

胸部レントゲン所見を書く際には、以下の点に注意する。

1. 肺野と肺葉を混同しない

「右下肺野」と「右下葉」は同じではない。正面像だけで肺葉局在が不確かな場合は、肺野表現にとどめる方がよい。

2. 左右差を必ず比較する

胸部レントゲンでは、同じ高さの左右肺野を比較することが基本である。右上肺野と左上肺野、右中肺野と左中肺野、右下肺野と左下肺野を順に比較すると、淡い異常影を拾いやすい。

3. 骨・軟部陰影の重なりを意識する

鎖骨、肋骨、肩甲骨、乳房陰影、皮膚陰影は肺野に重なって写る。特に肺尖部や上肺野では、骨性胸郭との重なりによって小病変がわかりにくくなる。

4. 必要に応じて側面像やCTで確認する

胸部レントゲン正面像は病変のスクリーニングに有用であるが、病変の正確な局在や性状評価には限界がある。肺葉局在、結節の有無、すりガラス影、気管支拡張、間質性陰影などを詳しく評価するには、CTが有用である。

まとめ

胸部レントゲンでは、肺を肺尖部、上肺野、中肺野、下肺野に分けて表現する。

鎖骨より上を肺尖部とし、第2肋骨前側の端と第4肋骨前側の端を目安に、上肺野・中肺野・下肺野を区分する。

ただし、これらはあくまで胸部レントゲン正面像における実用的な部位表現であり、肺葉とは一致しない。胸部レントゲンは3次元構造を2次元に投影した画像であるため、正面像だけで病変の肺葉局在を断定できない場合がある。

読影では、肺野区分を使って左右を比較しながら、肺尖部から下肺野まで順に確認することが重要である。肺野の表現を理解しておくことで、胸部レントゲン所見をより正確に記載できるようになる。

参考文献

  1. Boyars M. Chest Roentgenography for Pulmonary Evaluation. In: Walker HK, Hall WD, Hurst JW, editors. Clinical Methods: The History, Physical, and Laboratory Examinations. 3rd edition. Butterworths; 1990. NCBI Bookshelf. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK370/
  2. Goodman LR. Imaging the Chest: The Chest Radiograph. In: Diseases of the Chest, Breast, Heart and Vessels 2019-2022. Available from PMC. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8139021/
  3. Radiology Masterclass. Chest X-ray Anatomy – Lung zones. https://www.radiologymasterclass.co.uk/tutorials/chest/chest_home_anatomy/chest_anatomy_page3
  4. pacs.de / Radiopaedia-derived term. Chest radiograph zones. https://pacs.de/term/chest-radiograph-zones

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