先に結論:胸腺過形成とは(胸腺腫との違い)

  • 胸腺は子どもで大きく、思春期以降はだんだん脂肪に置きかわって小さくなります。若い人のCTで前縦隔に胸腺が目立つのは正常のことが多いです。CTでは30歳未満の全例、30〜49歳の73%、50歳以上の17%で胸腺が見えたと報告されています(Baron 1982)
  • 胸腺過形成には、①全体が大きい真性過形成、②抗がん剤・ステロイド・放射線治療・重い病気のあとに、いったん縮んだ胸腺が元より大きくなる反応性過形成(リバウンド)、③重症筋無力症やバセドウ病などに伴うリンパ濾胞性過形成があります
  • 胸腺腫などの腫瘍との区別には、MRIの化学シフト画像(opposed-phaseで信号が下がれば脂肪が混ざった正常〜過形成の胸腺)が役立ちます。形が保たれていて脂肪が混ざっていれば過形成を考えます

胸腺過形成(thymic hyperplasia)の分類

胸腺過形成は

  • 真性胸腺過形成
  • 反応性胸腺過形成
  • リンパ濾胞性胸腺過形成

に分けられる。

真性胸腺過形成

  • 胸腺のびまん性腫大。
  • 組織学的に正常胸腺。
  • 胸腺の厚さが正常上限を超える。19歳以下は18mm、20歳以上は13mm(Baron 1982)。

thyroid

参考文献:Radiology 1982;142:121–125

症例 18歳男性 スクリーニング

動画解説。

症例 10歳男児 胸腺は目立つが正常範囲

Thymus

症例 11歳女児 正常範囲

normal Thymus ct findings

いずれも正常範囲の症例です。

胸腺は小児期に発達して、思春期以降は次第に退縮します。正常例154例のCTでは、胸腺が見えたのは30歳未満で100%、30〜49歳で73%、50歳以上で17%で、年齢とともに厚さが薄くなり、CT値も筋肉と同程度から脂肪に近い値へ下がっていきました(Baron 1982)。

小児の胸部レントゲンでの胸腺

  • 乳幼児では胸腺が大きく、胸部レントゲンで縦隔の影が広く見えることがある。
  • 胸腺が心臓の上に帆のような三角形の影をつくるthymic sail sign(セイルサイン)や、肋骨に押されて胸腺の縁が波打つthymic wave signは、いずれも乳児の正常所見である(Alves 2013)。縦隔気腫で胸腺が持ち上がる「spinnaker-sail sign」とは区別する。

遺残胸腺(胸腺遺残)とは

  • 成人になっても前縦隔に残っている胸腺組織のこと。脂肪の中に網目状・小結節状の軟部組織として見えることが多い。
  • 形が三角形〜両葉の形を保ち、脂肪が混ざっている場合は正常範囲の遺残胸腺と考えやすい。境界のはっきりした丸い結節は胸腺腫などとの区別が必要で、化学シフトMRIが役立つ(下記)。

反応性胸腺過形成

  • 全身的なストレスにより急激に縮小し、その後回復に向かうともとのサイズを越えて大きくなることがある。
  • 化学療法、ステロイド療法、放射線療法、熱傷、重症感染が全身的なストレスになる。
  • リンパ腫の小児で化学療法後に寛解し、CTを2回以上撮った31例のうち21例(67.7%)にリバウンドがみられた。PETを撮った6例中4例で前縦隔にFDG集積があったが、リバウンドのあった例で経過中にリンパ腫の再発はなかった(Chen 2017)。PETで集積しても、すぐに再発と決めつけないことが大切。
症例40歳代女性 左乳癌術後放射線治療後

治療前と比べて胸腺のサイズが増大しています。内部には脂肪組織が混在しており、過形成を疑う所見です。

放射線治療後の反応性胸腺過形成が疑われます。

リンパ濾胞性胸腺過形成

  • 髄質におけるリンパ球や形質細胞を伴う胚中心の過形成
  • B細胞系リンパ球が主体
  • 炎症性疾患の背景が強い。
  • 重症筋無力症、甲状腺機能亢進症、自己免疫疾患(橋本病、SLE、ベーチェット病)

胸腺過形成のMRI所見

  • T1WI,T2WIともに均一な中等度の信号強度を示す。
  • 年齢とともに脂肪置換を反映して信号強度が上昇し、成人においては皮下の脂肪組織とほぼ同程度の信号強度となる。
  • chemical shift MRIを用いた場合、10歳を越える頃より脂肪含有を示す信号強度の低下が見られる。正常95例(7〜25歳)の検討では、10歳以下では有意な信号低下はなく、11〜20歳の70.8%、21歳以上の全例で信号低下がみられた(Inaoka 2005)。(まだらな脂肪織を含む点が成人の胸腺の特徴。過形成も同様)
  • 逆に信号低下が見られない場合、胸腺腫や悪性リンパ腫などの腫瘍性病変を疑う。41例の前向き検討では、過形成群(バセドウ病18例・リバウンド5例)は全例でopposed-phaseの信号低下を示し、chemical shift ratioは過形成0.614±0.130、腫瘍(胸腺腫・胸腺癌・リンパ腫)1.026±0.039と明瞭に分かれた(Inaoka 2007)。

胸腺過形成と胸腺腫の違い(まとめ)

胸腺過形成・正常胸腺 胸腺腫などの腫瘍
形 胸腺の形(三角形・両葉)を保ったまま全体が大きい 結節状・腫瘤状で、胸腺の一部がふくらむ
脂肪の混在 脂肪が混ざることが多い 脂肪を含まない充実性
化学シフトMRI opposed-phaseで信号低下あり(過形成23例全例 Inaoka 2007) 信号低下なし(腫瘍18例全例)
背景 治療後(リバウンド)、バセドウ病、重症筋無力症など 重症筋無力症を合併することがある

参考:

  1. 困ったときの胸部の画像診断 P295
  2. Inaoka T, Takahashi K, Mineta M, et al. Thymic hyperplasia and thymus gland tumors: differentiation with chemical shift MR imaging. Radiology. 2007;243(3):869-76. PubMed
  3. Nishino M, Ashiku SK, Kocher ON, et al. The thymus: a comprehensive review. Radiographics. 2006;26(2):335-48. PubMed
  4. Baron RL, Lee JK, Sagel SS, et al. Computed tomography of the normal thymus. Radiology. 1982;142(1):121-5. PubMed
  5. Inaoka T, Takahashi K, Iwata K, et al. Evaluation of normal fatty replacement of the thymus with chemical-shift MR imaging for identification of the normal thymus. J Magn Reson Imaging. 2005;22(3):341-6. PubMed
  6. Chen CH, Hsiao CC, Chen YC, et al. Rebound Thymic Hyperplasia after Chemotherapy in Children with Lymphoma. Pediatr Neonatol. 2017;58(2):151-157. PubMed
  7. Alves ND, Sousa M. Images in pediatrics: the thymic sail sign and thymic wave sign. Eur J Pediatr. 2013;172(1):133. PubMed

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