大動脈解離のmimic 解離に見える拍動アーチファクトと変異

夜間の造影CTで上行大動脈に線が見えて、解離かと思って慌てました。解離に見えるけれど解離ではないもの、にはどんなものがありますか?
拍動によるアーチファクトがいちばん有名ですが、大動脈の中を横切る索状構造、拡張した静脈、大動脈炎の壁肥厚なども解離や壁内血腫に似ることがあります。見分けるポイントを整理しましょう。

先に結論:解離のフラップに見える線や、壁内血腫に見える壁肥厚には「まねるもの(mimic)」がある。疑わしければ心電図同期CTや多断面・3D表示で確かめる

まねるもの 何に似るか 見分けるポイント
拍動によるアーチファクト 上行大動脈の解離フラップ 上行大動脈に多く、上大静脈・右肺動脈にも同時に出ることがある。心電図同期CTで消える
大動脈内索状構造(intra-aortic cord) 解離フラップ・浮遊血栓 内腔を横切る索。付着部の壁が内側に引かれてへこむ(dimple sign)
拡張した奇静脈系の静脈 胸部X線で解離(縦隔の拡大) 造影CTで静脈と確認できる
IgG4関連大動脈周囲炎 壁内血腫 境界明瞭な均一な壁肥厚、後期相で均一に造影。他の臓器のIgG4関連疾患
動脈瘤の壁在血栓内の三日月状高吸収 偽腔閉塞型解離・壁内血腫 大動脈瘤の血栓内の急性出血で、切迫破裂の所見

大動脈解離の診断で「まねるもの」が問題になる理由

急性大動脈症候群(大動脈解離・壁内血腫・穿通性潰瘍)は命にかかわり、治療方針の決定を急ぐ病気です。いっぽうで、解離に似た見え方をするものを解離と判断すると、不要な手術や長い経過観察につながります。

解離の基本的なCT所見(フラップ・真腔と偽腔・偽腔閉塞型)は大動脈解離のCT画像診断まとめ、急性大動脈症候群の全体像は急性大動脈症候群とはをご覧ください。

拍動によるアーチファクト(pulsation artifact)

心電図同期を行わないCTでは、心臓の拍動が伝わる上行大動脈の動きによって、内腔に線状の構造が見えることがあります。

1秒スキャンのCTで胸部CT136例を調べた報告では、解離に似たアーチファクトが上行大動脈に99例でみられ、そのうち26例で上大静脈、10例で右肺動脈にも同じアーチファクトがありました。下行大動脈や下大静脈には見られず、拍動が原因と考えられています(Nasu 1995)。

  • 出やすい場所:上行大動脈(とくに大動脈基部に近いところ)
  • 手がかり:上大静脈や肺動脈など、隣の血管にも同じような線が出ていないか確認する
  • 確かめ方:心電図同期CTでは拍動によるアーチファクトがほぼなくなり、上行大動脈の小さな病変も評価しやすくなります(Ueda 2012)。

上行大動脈の解離(Stanford A型)は緊急手術の対象になるため、アーチファクトか迷うときは心電図同期での再撮影を検討します。

症例 30歳代女性 拍動アーチファクトによる偽の解離(aortic pseudo-dissection)

大動脈の拍動アーチファクト 造影CT(肺動脈CT) 横断像
引用:Radiopaedia(Aortic pseudo-dissection)

肺塞栓を調べるために撮ったCTで、上行大動脈の中に弧を描く線が見え、A型解離のフラップのように見えます。

症例 30歳代女性 拍動アーチファクトによる偽の解離(撮り直しのCT)

大動脈の拍動アーチファクト 造影CT(大動脈CT) 横断像
引用:Radiopaedia(Aortic pseudo-dissection)

大動脈の造影CTで撮り直すと、同じ高さの上行大動脈にフラップは見えません。症例ページでは、大動脈根部の拍動による動きのアーチファクトと考えられ、心電図同期の大動脈CTで確かめることがすすめられています。

大動脈内索状構造(intra-aortic cord)

大動脈の内腔を横切る細い索状の構造で、解離の内膜フラップと区別が必要な異常です。

2例の自験例と既報6例を見直した報告では、ボリュームレンダリング(3D)表示で、索の付着部の大動脈壁が内側に引き込まれてへこむ「dimple sign(えくぼ徴候)」が8例中6例でみられ、内膜フラップとの区別に役立つとされています(Puppala 2025)。

  • フラップのように大動脈の長い範囲に連続せず、索として内腔を横切る
  • 3D表示で付着部の壁のへこみを確認する

拡張した奇静脈系の静脈

下大静脈が奇静脈・副半奇静脈へ連続する変異(azygos/accessory hemiazygos continuation)では、拡張した静脈が胸部X線で大動脈解離に似た見え方をした症例が報告されています。この例では造影CTで正しく診断できました(Evans 1993)。

縦隔の拡大や大動脈の輪郭の異常を見たときは、拡張した静脈の可能性も考え、造影CTで動脈と静脈を区別します。

IgG4関連大動脈周囲炎

IgG4関連疾患が大動脈やその分枝に起こると、壁が厚くなります。17例・22病変のCTを調べた研究では、病変は胸部大動脈4、腹部大動脈〜腸骨動脈13などで、動脈壁の肥厚(平均11mm)、比較的明瞭な境界、後期相での均一な造影効果が特徴でした。71%で他の臓器にもIgG4関連疾患があり、ステロイド治療で壁肥厚は速やかに改善しました(Inoue 2011)。

上行大動脈のIgG4関連大動脈周囲炎がCTで壁内血腫に似て、不要な手術につながった症例も報告されています(Byeon 2011)。壁肥厚を見たときは、膵臓・胆管・後腹膜など他の臓器の所見や経過も合わせて評価します。

大動脈炎の別の代表である高安動脈炎は高安動脈炎のCT・MRI画像診断で解説しています。

「三日月状の高吸収」の取り違え

三日月状の高吸収という言葉は、別の2つの病態で使われるため混同しやすい所見です。

大動脈瘤の切迫破裂 偽腔閉塞型解離・壁内血腫
何が高吸収か 腹部大動脈瘤の壁在血栓の中の三日月状の高吸収 大動脈壁内の三日月状の高吸収(血腫)
意味 血栓内への急性出血で、切迫破裂のCT所見のひとつ(Rakita 2007) 偽腔閉塞型解離・壁内血腫の所見(偽腔閉塞型大動脈解離の画像診断)

大動脈瘤の有無と、高吸収が瘤の血栓の中か壁の中かを確かめることで区別します。

よくある疑問(Q&A)

Q. 拍動アーチファクトか解離か迷ったらどうしますか?

隣の血管にも同じ線がないか、線が大動脈の長い範囲に続いているかを確認します。それでも迷う場合は心電図同期CTを検討します(Ueda 2012)。

Q. 大動脈内索状構造は治療が必要ですか?

報告では、解離フラップと区別することで大きな手術や長い経過観察を避けることが目的とされています(Puppala 2025)。報告数が少ないため、扱いは循環器・心臓血管外科と相談して決めます。

Q. 壁肥厚が壁内血腫か大動脈炎か、どう考えますか?

IgG4関連大動脈周囲炎は境界明瞭な均一な壁肥厚で、他の臓器の病変を伴うことが多いとされます(Inoue 2011)。症状の出方、他の臓器の所見、経過を合わせて判断し、主治医・専門科と相談します。

参考文献

  1. Nasu K, Fujimoto H, Yamamoto S, et al. [Dissection-like artifact on one-second scanning time CT]. Nihon Igaku Hoshasen Gakkai Zasshi. 1995;55(11):727-31. PubMed
  2. Ueda T, Chin A, Petrovitch I, et al. A pictorial review of acute aortic syndrome: discriminating and overlapping features as revealed by ECG-gated multidetector-row CT angiography. Insights Imaging. 2012;3(6):561-71. PubMed
  3. Puppala S, Tingirides C, Forsyth J. The ‘DIMPLE SIGN’ of Intra-Aortic Cord. Vasc Endovascular Surg. 2025;59(4):374-378. PubMed
  4. Evans AJ. Case report: azygos/accessory hemiazygos continuation of the inferior vena cava mimicking dissection of the aorta. Clin Radiol. 1993;48(3):207-9. PubMed
  5. Inoue D, Zen Y, Abo H, et al. Immunoglobulin G4-related periaortitis and periarteritis: CT findings in 17 patients. Radiology. 2011;261(2):625-33. PubMed
  6. Byeon K, Han J, Kim JS, et al. Immunoglobulin G4-related periaortitis mimicking an intramural hematoma. Ann Thorac Surg. 2011;92(4):1506-8. PubMed
  7. Rakita D, Newatia A, Hines JJ, et al. Spectrum of CT findings in rupture and impending rupture of abdominal aortic aneurysms. Radiographics. 2007;27(2):497-507. PubMed

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