膵切除後に見られる術後変化
- 膵頭部癌などで膵頭十二指腸切除術(PD)後の早期には、吻合部の消化管に一過性の浮腫性変化を認めることがある。
- また、胆道再建を行うためその過程で、胆道内にairを認め(pneumobilia)、主膵管にもairを認めることがある。
- 膵体尾部切除術(DP)後は、消化管の再建は行わず上記の所見は認めないが、膵切除縁に均一な低濃度の液貯留を認めることがある。
- PD後やDP後に、腹腔動脈周囲やその分枝、また上腸間膜動脈周囲に軟部影が約6割で認め、perivascular cuffingと呼ばれる。多くは術後の炎症性変化だが、再発所見と鑑別を要し、フォローが重要となる。
- 膵外分泌機能の低下により、脂肪肝が術後に認めることがある。
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膵切除後に見られる術後合併症
膵切除後の合併症としては、
- 膵液瘻
- 術後出血
- 腹腔内膿瘍
- 胃内容排出遅延(delayed gastric emptying DGE)
- 門脈血栓、上腸間膜静脈血栓
- 吻合部狭窄
がある。
膵液瘻
- 発生率は膵頭十二指腸切除で8~22%・膵体尾部切除で6.2~28%と報告されている。
- International Study Group on Pancreatic Fistula(ISGPF)により、『術後3日目以降に腹腔ドレーン排液のアミラーゼ値が血清値の3倍以上の状態』と定義される。
- 膵十二指腸吻合部・膵切除断端周囲の液体貯留として同定され、仮性動脈瘤を形成し術後出血を来したり、腹腔内膿瘍の原因となるため画像によるフォローが必要。
術後出血
- 膵頭十二指腸切除術(PD後)の出血は2.8~12%。
- 出血例の死亡率は30~58%にも及ぶ
- 大出血の前に警告出血がある。ドレーン排液や消化管出血に注意する。
- 出血部位:胃十二指腸動脈断端が最多・総肝動脈・固有肝動脈・上腸肝動脈の分岐
- 術後早期(2週間以内)と術後後期(2週間以降)で病態が異なる。
- 術後後期の出血の原因は膵液瘻による仮性動脈瘤破裂によるもの。
- 仮性動脈瘤の同定にはダイナミックCTが有用。
- 膵液瘻や腹腔内膿瘍に起因した仮性瘤は、炎症により手術で出血点の確認が難しい場合も多く、IVRによる塞栓術が選択される場面も多い。
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腹腔内膿瘍
- 消化管吻合部の膵液瘻が膿瘍の発生母地になる。
胃内容排出遅延(delayed gastric emptying DGE)
- 膵頭十二指腸切除(PD)後に多い合併症。
- International Study Group of Pancreatic Sugery(ISGPS)によると、「術後1週間以降も経口摂取が困難で、経鼻胃管の留置が遷延する状態」とされている。
- CTで胃流出部狭窄を伴った胃の著明な拡張が確認されるとこの病態が考慮される。
門脈血栓、上腸管膜静脈血栓
- 頻度はまれだが、拡大すると腸管虚血や腹水貯留が生じ、時に致死的となる。
吻合部狭窄
- 膵頭十二指腸切除(PD)後、遅発性の合併症として頻度が多い。
- 吻合部の線維化による狭窄。
- 膵空腸吻合部狭窄は4.6%/5年の頻度で、主膵管の拡張を認める。
- 胆管空腸吻合部狭窄は8.2%/5年の頻度で、胆管拡張を認める。
- 再発との鑑別が困難な場合がある。
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参考文献:
- 臨床画像 Vol.38 No.7 増刊号2022 P41-7