肝の血流異常
肝の血流異常は以下のように分けられる。
①動脈や門脈以外からの血流(異所性静脈環流=third flow)
- いわゆる右胃静脈
- 胆嚢静脈灌流
- Sappey’s vein
②肝内門脈血流の限局的障害=AP-shunt
third inflowとは
- 門脈本幹を経ずに肝内に流入する静脈血流。
- ある程度決まった部位に流入する。
- CTAP画像で血流欠損を呈することから重要性が認識された。
- 流入する部位の肝実質の変化を生じうる。
- ダイナミックCT、MRの撮像タイミングによっては周囲肝とthird inflow流入部位にコントラスト差が生じて病変のように見える(偽病変)。具体的には、
- 静脈灌流異常に伴う、限局性脂肪肝、限局性非脂肪肝(spared area in fatty liver)、肝硬変症例における限局性過形成。この原因は流入血のホルモンや成長因子などの濃度差が関与していると考えられる。
Third inflow部の過形成の画像所見
- T1WI高信号、T2WI低信号を呈し、高分化肝細胞癌や境界病変様。
- CTAPで門脈血流欠損(CTHAで濃染することあり)
- 特徴的な部位。
- Third inflowの存在。
- EOB肝細胞相:有用な場合が多い。
Third inflowに伴う限局性脂肪肝の注意点
- 経過観察で脂肪沈着の消退・出現を認めることがある。
- 肝硬変でSappey veinの流れが遠肝性の場合は、鎌状間膜付着部には脂肪沈着は生じない。
- 胃切除後、PD後などにいわゆる右胃静脈の血流が機能的に変化して脂肪沈着が出現することがある。肝転移の出現と間違えないよう注意。
いわゆる右胃静脈(pancreatico-pyloro-duodenal vein)
- 右胃静脈の肝への直接流入により生じる偽病変。
- 膵頭部、十二指腸、胃幽門部からの静脈血流。
→S4の背側に多いが、S2、S3に流入する場合もある。CTAP、CTHAでのみ所見を認め診断は容易なこと多い。
以下の場合はこの部位に肝実質変化があり注意が必要。
- 脂肪肝における限局性低脂肪化(focal spred area)
- focal fatty liver
- LCにおける限局性過形成→早期濃染を来たし、HCCと鑑別は困難なこともある。
▶focal fatty liver症例を画像でチェック
胆嚢静脈
- 胆嚢動脈は、腹腔動脈系から血流あり。
→血流が多ければCTHAで、胆嚢床周辺の濃染(+)。 CTAPでdefect(+)。これは急性胆嚢炎の時のように、胆嚢の血流が、増加しているときに顕著。
鑑別は
- 胆嚢癌の胆嚢床浸潤→非造影にて、腫瘤を確認する。
- アルコール性LCで、限局性過形成。→胆嚢床部に、T1WI high、T2WI low、多血性病変でない。 ※逆に胆嚢床に腫瘤様病変があれば、背景にアルコール性肝障害がないかを確認する。
胆嚢静脈還流の偽病変のタイプ
- Direct sinusoidal filling type:胆嚢静脈が直接類洞と吻合、CTHAで強い濃染を呈しやすい。
- Veno-portal anastomosis type:胆嚢静脈が末梢の門脈枝と吻合、CTHAで門脈枝の支配域に一致した淡い類円形の濃染を呈する。
Sappey’s vein
- 肝鎌状靭帯に分布する静脈(傍臍静脈、veins of sappey)の還流するS4鎌状靭帯付着部。
→傍臍静脈求肝性の血流を有している場合、門脈血との二つの血流のタイミングの差が出る。
→早期濃染或いはdefectされる。
※基礎疾患がない人、 SVC,IVC閉塞がある人ともに起こる。
※同部位にfocal fatty liverもできる。
AP-shunt(APシャント)
- 肝内門脈の血流が途絶。
→代償性に肝動脈血流が増加して、 動脈血>門脈血となると造影早期に濃染を呈する。
→AP shuntと定義する。
- CTHA濃染。CTAP門脈血流欠損。
- 楔状、扇状→わかりやすい。
- 点状、類円形。→HCCとの鑑別が問題。
- 肝実質変化なし→非造影では、指摘できない。
- 経過の長いものは肝細胞相で抜けることがある。
※肝硬変にできやすい。逆に肝硬変の小早期濃染の82%はAP shunt。
血流異常の位置と形態(まとめ)
兼松雅之先生ら、日医放会誌2001:61;781.を引用改変
中でも基本的に早期濃染され、以降の相にてisoとなるもの→早期濃染偽病変(early enhanced pseudolesion:EEPL)と表現してもよい。
参考)
小林聡先生ら;画像診断VoL21No.2001 P18-25、画像診断Vol.29 No.6 2009 P592-599