
先に結論:日本住血吸虫症は「過去の感染の跡」として、肝臓の亀甲状(turtle-back)石灰化・エコーの網目状パターン・腸管壁の線状石灰化で見つかる。流行地での居住歴があれば主治医に伝える
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな病気か | 日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)の感染症。貝を中間宿主とし、淡水に触れて皮膚から感染する。卵が肝臓や腸の壁に溜まり、線維化や石灰化を起こす |
| 日本の流行地と現在 | 片山地方・甲府盆地・筑後川流域が三大流行地。新しい感染の最後の報告は1977年。いまの入院患者は、過去の感染の後遺症の人が中心(Shingu 2026) |
| 画像の特徴 | 肝臓:エコーの網目状パターン、単純CTの亀甲状石灰化。腸:大腸などの線状・結節状の石灰化(電車の線路のように見えることがある) |
| 合併しうる病気 | 門脈圧亢進(食道静脈瘤)、肝硬変、肝細胞癌、大腸癌。国内の入院例では肝硬変が25%、肝細胞癌が14%(Shingu 2026) |
| 受診の目安 | 吐血・黒い便、お腹のふくらみ、黄疸があれば早めに受診。石灰化を指摘されただけなら、居住歴・旅行歴を伝えて主治医と今後の検査を相談する |
日本住血吸虫症とはどんな病気か
日本住血吸虫症は、日本住血吸虫という寄生虫による感染症です。ミヤイリガイという小さな淡水産の巻貝が中間宿主で、貝から水中に出た幼虫が、田んぼや水路などで水に触れた人や家畜の皮膚から入って感染します。成虫は門脈(腸から肝臓へ血液を運ぶ血管)系に住み、産みつけられた卵が血流に乗って肝臓や腸の壁に引っかかり、そこで炎症(肉芽腫)と線維化を起こします。急性期の症状よりも、長い年月のあいだに肝臓が硬くなる(線維化)、卵のまわりが石灰化する、という慢性期の変化が、画像診断で問題になります。
日本での研究の歴史は古く、1847年の「片山記」の記載から、1904年に桂田が日本住血吸虫を発見、1909年に藤浪・中村が経皮感染を証明、1913年に宮入・鈴木が中間宿主の貝を明らかにした経緯がまとめられています(Tanaka 1997)。
日本の流行地と、いまの状況
日本で感染が長く続いた地域のうち、主要な3か所は片山地方、甲府盆地、筑後川流域で、小さな流行地として沼津地方、利根川流域、小櫃川流域がありました(Tanaka 1997)。甲府盆地は国内最大級の流行地の一つで、国内で最後まで感染が確認された場所でもあります(Minai 2003)。
| 区分 | 地域(Tanaka 1997) |
|---|---|
| 主要な流行地(3か所) | 片山地方、甲府盆地、筑後川流域 |
| 小さな流行地(3か所) | 沼津地方、利根川流域、小櫃川流域 |
対策は、卵を殺すための糞尿の貯留、石灰窒素などによる貝・幼虫の駆除、水田の水路のコンクリート化(貝の生息地をなくす)、感染者への治療などでした。国内で見つかった患者の数は、1920年に約8,000人でしたが、1970年には438人まで減っています。新しく感染した人の最後の報告は1977年の甲府で、貝は1983年までに多くの地域で根絶されましたが、感染していない貝が甲府と小櫃川に少数残っているとされています(Tanaka 1997)。山梨県の報告でも、1977年の症例は治療薬(プラジカンテル)が使えるようになる直前で、対策の中心は貝の駆除でした。戦後の社会経済の発展に伴う土地利用や農業の変化と、水路のコンクリート化(水田の95%以上)が、患者数の急減につながったと考察されています(Minai 2003)。
いま病院にかかる人はどんな人か
2014〜2020年度の全国の入院データ(DPC)を調べた研究では、住血吸虫症の入院患者は111人で、93%(103人)が日本住血吸虫でした。日本住血吸虫の患者の平均年齢は77.4歳(日本住血吸虫以外は43.8歳)で、高齢者に山があり、山梨県と福岡県に集中していました。治療薬(プラジカンテル)が使われたのは4%(4人)にとどまり、現在の入院は、活動性の感染よりも、過去の感染の長期的な後遺症が中心だと考えられています(Shingu 2026)。画像診断で「昔の感染の跡」に気づく場面は、いまも残っているといえます。
なお、日本以外では、中国やフィリピンなどで日本住血吸虫の流行が続いており、これらの国で肝臓のエコーの網目状パターンが報告されています(Ohmae 2003)。流行地へ旅行・滞在した人は、症状の有無にかかわらず、その旨を医師に伝えておくと診断の助けになります。
画像検査でどう見えるか
画像診断では、慢性の感染で生じた「肝臓の線維化」と「卵の石灰化」を捉えます。日本では、X線、シンチグラフィ、エコー、CT、MRI、内視鏡などが使われてきました。肝臓の線維化と石灰化はエコーとCTで、門脈圧亢進はエコー・CT・胃内視鏡で見つかります(Ohmae 2003)。
| 検査 | 見える所見 | メモ |
|---|---|---|
| 腹部エコー | 肝臓に高エコーの帯が網の目のように走る「網目状(ネットワーク)パターン」 | 1970年代から使われる。安全で簡便、地域での検診にも使われる(Ohmae 2003) |
| 単純CT | 肝臓の中の隔壁に沿った線状の石灰化が亀甲状(turtle-back)に見える | 造影剤なしでも見える。エコーと併せると診断が絞られる(Cheung 1996) |
| CT(腸管) | 大腸・虫垂・回腸の曲線状や結節状の石灰化。S状結腸では電車の線路(tram-track)状 | 卵の石灰化が粘膜下層・漿膜下に沈着(Lee 1994) |
| CT・エコー・内視鏡 | 脾腫、側副血行路、食道・胃静脈瘤など門脈圧亢進の所見 | 内視鏡で見える病変の多くは卵の沈着による(Ohmae 2003) |
エコー:網目状(ネットワーク)パターン
日本の経験から、肝臓のエコーで、高エコーの帯が隔壁のようにモザイク状に並ぶ像が記載され、中国やフィリピンでも同じ網目状パターンが報告されました。この網目状パターンは日本住血吸虫の感染の重さと関係し、住血吸虫症の他の種類(マンソン住血吸虫・ビルハルツ住血吸虫)では記載されていません。網目の出現には、門脈周囲の線維化、壊死後の線維化、石灰化した卵といった病理変化が関わっています(Ohmae 2003)。
エコーで見える線維化には、隔壁間線維化(interseptal fibrosis)と門脈周囲線維化(portal fibrosis)という2つのタイプがあり、門脈圧亢進の危険に強く関わるのは門脈周囲線維化の方だと考えられています(Richter 2026)。
CT:亀甲状(turtle-back)石灰化
肝臓の石灰化は、石灰化した卵と線維化した隔壁が関わって生じ、単純CTでは肝臓を多角形に区切る線状の石灰化として見えます。亀の甲羅の模様に似ることから、亀甲状(turtle-back)石灰化と呼ばれます。香港の21人の検討では、エコーで網目状パターンがあったのは17人中14人(82%)、単純CTで亀甲状石灰化があったのは13人中11人(85%)で、両方の検査を受けた9人全員で陽性でした。この組み合わせは日本住血吸虫症の後遺症に特徴的で、生検を避けられる可能性があると、まとめられています(Cheung 1996)。
症例 30歳代女性 肝脾型住血吸虫症(フィリピン)

引用:Albano JE, et al. Misdiagnosis of Hepatosplenic Schistosomiasis as Hepatic Tuberculosis: A Case Report. Cureus 2023;15(2):e35169(Figure 1)(CC BY 3.0)
フィリピン在住の38歳の女性で、5年間の黄疸などを経て、肝臓の石灰化を調べるためにCTを受けた例です。造影CTで、肝臓のS5とS7に粗大な不整形の石灰化があり(赤い矢印)、4〜5年前の画像にも同様の石灰化が見られています(下段の赤丸)。最初は肝結核と考えられていましたが、のちに肝臓の結節の生検で住血吸虫の卵が見つかり、肝脾型住血吸虫症と診断されました。なお、この論文は住血吸虫の種類を明記していません。亀甲状石灰化の典型像ではなく、住血吸虫症の「肝臓内の石灰化」の一例として示します。
腸管:大腸壁の線状・結節状の石灰化
日本住血吸虫症では、腸の壁にも卵が沈着します。台湾の12人の検討では、CTで大腸の曲線状・結節状の石灰化が11人、虫垂が2人、回腸の末端が1人に見られ、5人ではS状結腸に電車の線路のような石灰化がありました。摘出標本の病理で、石灰化した卵が粘膜下層と漿膜下層に多く沈着していること(固有筋層には少ない)が、この電車の線路状の像をつくると示されています(Lee 1994)。この石灰化は、過去の感染の跡を示す所見です。
門脈圧亢進・肝硬変・肝癌との関係
日本住血吸虫の卵で肝臓の線維化が進むと、門脈の血液が肝臓を通りにくくなり、門脈圧亢進が起こります。その結果、脾臓が大きくなり、食道や胃に静脈瘤ができ、食道静脈瘤からの出血で亡くなる場合もあります(Richter 2026)。画像のくわしい見方は門脈圧亢進の原因、臨床症候、画像診断と食道静脈瘤のCT所見で解説しています。
肝硬変や肝癌との関係では、日本の入院データで、日本住血吸虫症の患者の25%に肝硬変、14%に肝細胞癌、4%に大腸癌が併存していました(Shingu 2026)。日本住血吸虫の感染は、肝細胞癌・大腸癌と関連があると報告され、疫学の解析では、B型・C型肝炎ウイルスの感染や飲酒などと並ぶ危険因子の一つとされています。ただし、寄生虫が発癌を促すしくみは分かっておらず、関係を確かめるにはさらに研究が必要とまとめられています(Ishii 1994)。つまり、「住血吸虫症だから癌になる」と断定する根拠はなく、肝臓の石灰化・線維化があるときに、肝炎ウイルスの検査や肝臓の定期的な画像検査を主治医と相談するのが現実的です。肝細胞癌の画像は肝細胞癌(HCC)のCT・MRI画像診断に詳しくあります。
他の肝臓の石灰化との見分け方
肝臓の石灰化は、肉芽腫(過去の結核や真菌感染など)、肝転移、腫瘍、結石など、多くの原因で見られ、多くは点状や塊状に見えます。これに対し、日本住血吸虫症の亀甲状石灰化は、線状の石灰化が連なって肝臓の中を網目に区切るところが違います(Cheung 1996)。一般的な肝臓の石灰化の鑑別は肝内石灰化(肝臓の石灰化)の原因とCT所見にまとめています。
住血吸虫症は、石灰化だけを見ると他の病気と間違えられやすい病気です。上の症例のように、肝結核と考えられて治療されていた例もあります。居住歴・旅行歴(淡水に触れる機会があったか)を医師が知っているかどうかが、診断の分かれ目になります。
治療と経過
感染そのものにはプラジカンテルという駆虫薬があり、国内では1977年の症例の時点で、まだこの薬が使えませんでした(Minai 2003)。現在の国内の患者は、すでに感染が終わった後の慢性の変化(肝硬変・門脈圧亢進・癌など)が中心で、駆虫薬が使われた人は少数でした(Shingu 2026)。後遺症(静脈瘤・肝硬変・癌)には、それぞれの病気に応じた治療が行われます。治療の方針は、専門医と相談して決めてください。
こんなときは受診を
- 吐血、黒い便、急なお腹の張りがある:食道・胃静脈瘤の出血などの可能性があり、急いで受診します。
- 皮膚や白目が黄色い、お腹が張る、足がむくむ:肝臓の機能が落ちているときの症状です。
- 血便、便通の変化が続く:大腸の病気(大腸癌を含む)の確認が必要です。
- 健診のCT・エコーで肝臓の石灰化や網目状の像を指摘された:過去に流行地に住んだ・旅行した、淡水に触れたことがあるなら、その事実を主治医に伝えます。
気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 日本住血吸虫症は、今でも日本でうつりますか?
A. 国内で新しく感染した人の最後の報告は1977年で、貝が根絶された地域が多いとされています(Tanaka 1997)。現在、入院する患者の多くは、過去の感染の後遺症の人です(Shingu 2026)。ただし、流行が続く海外で淡水に触れると感染する可能性はあります。
Q. 肝臓に石灰化があると、住血吸虫症なのですか?
A. いいえ。肝臓の石灰化の原因は多く、住血吸虫症だけの所見ではありません。線状の石灰化が肝臓を網目に区切る亀甲状の形や、エコーの網目状パターンが特徴的で、居住歴などと合わせて判断します(Cheung 1996)。
Q. 昔感染したことがありますが、肝臓癌になりますか?
A. 日本住血吸虫の感染は肝細胞癌・大腸癌の危険因子の一つとされていますが、肝炎ウイルスや飲酒など他の要因と合わせて考えられており、しくみはまだ分かっていません(Ishii 1994)。肝臓に線維化や石灰化があれば、ウイルス検査と定期的な画像検査を主治医と相談してください。
Q. 大腸の石灰化は治療が必要ですか?
A. 石灰化そのものは卵の跡を示す所見です。治療が必要かどうかは、症状や内視鏡などの結果を合わせて主治医が判断します。血便などの症状があるときは、大腸癌を含む大腸の病気の確認が必要です(Lee 1994、Shingu 2026)。
あわせて読みたい:肝臓の石灰化(肝内石灰化)とは?CTでの原因と鑑別
あわせて読みたい:肝蛭症とは
参考文献
- Tanaka H, Tsuji M. From discovery to eradication of schistosomiasis in Japan: 1847-1996. Int J Parasitol. 1997;27(12):1465-1480. PubMed
- Minai M, Hosaka Y, Ohta N. Historical view of schistosomiasis japonica in Japan: implementation and evaluation of disease-control strategies in Yamanashi Prefecture. Parasitol Int. 2003;52(4):321-326. PubMed
- Shingu T, Ohkubo N, Yamasaki K, et al. Nationwide epidemiology of hospitalized schistosomiasis in Japan: Coexistence of residual Schistosoma japonicum and non-japonicum infections. Parasite Epidemiol Control. 2026;34:e00527. PubMed
- Ohmae H, Sy OS, Chigusa Y, et al. Imaging diagnosis of schistosomiasis japonica–the use in Japan and application for field study in the present endemic area. Parasitol Int. 2003;52(4):385-393. PubMed
- Cheung H, Lai YM, Loke TK, et al. The imaging diagnosis of hepatic schistosomiasis japonicum sequelae. Clin Radiol. 1996;51(1):51-55. PubMed
- Lee RC, Chiang JH, Chou YH, et al. Intestinal schistosomiasis japonica: CT-pathologic correlation. Radiology. 1994;193(2):539-542. PubMed
- Richter J, Wu HW, Ning A, et al. Schistosoma japonicum infection: clinical significance of ultrasound findings. Trans R Soc Trop Med Hyg. 2026;120(4):313-321. PubMed
- Ishii A, Matsuoka H, Aji T, et al. Parasite infection and cancer: with special emphasis on Schistosoma japonicum infections (Trematoda). A review. Mutat Res. 1994;305(2):273-281. PubMed
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