肝蛭症 被膜下のトンネル状低吸収域と好酸球増多

熱が続き、血液検査で好酸球が増えていると言われました。CTで肝臓に影があり、「肝蛭(かんてつ)症」という寄生虫の病気の可能性があるそうです。どんな病気ですか?
肝蛭症は、肝蛭(Fasciola hepatica)という寄生虫が、水辺の植物などを通して人の体に入り、肝臓から胆管へ移動する病気です。急性期のCTでは、肝臓の表面に近い部分に、トンネルのように連なる低吸収の影がみられます。肝膿瘍や転移、リンパ腫と間違えられやすいため、好酸球の増加や食べ物の履歴が手がかりになります。画像の特徴と見分け方を整理します。

先に結論:肝蛭症は「肝臓の被膜下に連なる低吸収域+好酸球増多」が手がかり。急性期(肝実質移動期)は肝臓の中を虫が動き、慢性期(胆管期)は胆管に入る

項目 ポイント
どんな病気か 肝蛭(寄生虫)による人獣共通感染症。水草などの水生植物に付いた幼虫(メタセルカリア)を食べて感染する
経過の2つの時期 ①肝実質移動期(幼虫が肝臓の中を進む) ②胆管期(胆管に入って成虫になる)
CTの特徴 肝臓の被膜下に、連なる境界不明瞭な低吸収域(トンネル状)。辺縁が軽く造影される。時間とともに場所が移ることがある
血液検査 好酸球の増加、肝酵素の上昇。早期は便の虫卵検査が陰性で、抗体検査が診断の手がかり
受診の目安 野生の水草・水辺の野菜を生で食べたあと、発熱・右上腹部の痛みが続くときは、内科・消化器内科へ。食歴を伝える

肝蛭症とは

肝蛭症は、肝蛭(Fasciola hepatica)が起こす寄生虫の病気です。肝蛭は、ウシやヒツジなどの草食動物に寄生する吸虫で、人は、淡水の植物に付いた幼虫(メタセルカリア)を食べて感染します(Dusak 2012)。感染した人の経過は、2つの時期に分けられます。最初は、未熟な幼虫が肝臓の実質に入る肝実質移動期(急性期)、次に、幼虫が胆管に入る胆管期です(Dusak 2012)。症状がないか、あっても急性・慢性の形で現れ、貧血や栄養障害などの長期の問題につながることもあります(Caravedo 2020)。

どこから感染するのか

肝蛭症は、淡水の水生植物を生で食べることで感染します。フランス北部の2002年のアウトブレイクでは、18例が確認され、聞き取りができた14人のうち13人(93%)が、市販の生のクレソン(ウォータークレス)を食べていました(オッズ比86.7)。生産者の栽培場所には、中間宿主の貝(Lymnaea truncatula)への対策がなかったと報告されています(Mailles 2006)。

日本では、小規模な牧場で働く人や、その近隣の人に患者さんが見られたと報告されています。次に紹介する70歳代の日本人女性は、牧場の近くに住み、家の庭で育てた野菜を食べていましたが、感染経路は特定できませんでした(Nishioka 2021)。

症状と検査

肝蛭症の症状は、特異的ではありません。右上腹部の痛み、微熱、倦怠感、食欲の低下などがみられます(Salahshour 2021)。血液検査では、好酸球の増加と、肝酵素の上昇がみられることが多く、70歳代の症例では、好酸球が6,020/μLに増えていました(Nishioka 2021)。

診断で注意したいのは、早期には便の虫卵検査が陰性になることです。虫卵が便に出るのは、寄生虫が胆管に達して病気が進んだあとだからです(Dusak 2012)。早い時期の診断には、抗体検査が唯一の方法とされています(Caravedo 2020)。画像診断は、診断のきっかけとなる大切な手がかりです。

画像診断:2つの時期で見え方が違う

時期 CT・MRI・超音波の特徴
肝実質移動期(急性期) CT:被膜下の低吸収の結節が、連なって蛇行する線状・トンネル状の病変になる。MRI:T1で低〜等信号、T2で高信号。超音波:特異的ではない
胆管期 超音波:胆嚢や総胆管に、動く虫体(音響陰影のない高エコーの粒)。CT:胆管の拡張、門脈域に沿った所見(periportal tracking)。胆管壁の肥厚

急性期(肝実質移動期):被膜下のトンネル状の低吸収域

急性期のCTで特徴的なのは、肝臓の被膜下に、連なる境界不明瞭な低吸収域です。感染後の最初の数週間は、被膜の下に結節状の低吸収の病変があり、6週ごろまでに、曲がりくねって集まった病変になるとされます。病変は、辺縁が軽く造影され、肝臓の被膜(Glisson鞘)の入口から奥の実質へトンネルのように進みます。これは「tunnels and caves sign(トンネルと洞窟のサイン)」とも呼ばれます(Salahshour 2021、Lim 2008)。23人の検討では、肝実質移動期のCTで、多発し、融合した、線状でトンネル状の、造影されない低吸収の病変が見られました(Kabaalioğlu 2000)。

MRIでは、同じ病変が、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号になり、肝臓の被膜から深部、門脈域へ広がります(Salahshour 2021)。出血を伴う病変の評価や、病変の数の把握では、CTよりMRIが優れるとされます(Dusak 2012)。

症例 30歳代女性 肝蛭症(肝実質移動期)

肝蛭症(肝実質移動期) 肝被膜下から門脈域に連なる低吸収域 造影CT
引用:Salahshour F, et al. J Med Case Rep 2021(Figure 1)(CC BY 4.0)

造影CTの横断像です。a では、肝臓の被膜から深部の実質、門脈のまわりへ向かう、パッチ状の低吸収の領域が、辺縁が軽く造影されながら連なっています(矢印)。b では、低吸収の病変がかたまって(クラスター状に)見えます。この方は、症状が出る約1か月前にイランの流行地を旅行しており、右上腹部の痛み、微熱、倦怠感、食欲の低下を訴えました。血液検査で好酸球の増加があり、血清の抗体検査(ELISA)で診断が確認されました。

時間とともに場所が移る病変

幼虫は肝臓の中を動くため、病変の場所が、時間とともに移ることがあります。70歳代の日本人女性の報告では、発熱と食欲の低下があり、CTで肝臓に低吸収域が見つかりました。最初は悪性リンパ腫が疑われましたが、診断がつかないまま経過し、再度のCTでは、以前の病変が消えて、新しい多房性の低吸収域が現れていました。この「移動する低吸収域」が、寄生虫の動きを反映した所見として、診断の手がかりになったと説明されています(Nishioka 2021)。

症例 70歳代女性 肝蛭症(移動する肝臓の低吸収域)

肝蛭症 肝臓の低吸収域が移動する造影CTの経過
引用:Nishioka H, et al. Am J Trop Med Hyg 2021(Figure 1)(CC BY 4.0)

造影CTの経過です。A では肝臓に低吸収域があり(矢印)、B では以前の病変が消えています。C では、新たな多房性の低吸収域が現れています(矢頭)。肝生検では、好酸球を伴う肉芽腫とシャルコー・ライデン結晶が見つかり、寄生虫感染が疑われました。便・胆管・肝組織から虫卵や成虫は見つかりませんでしたが、血清の抗体検査で抗Fasciola hepatica抗体が陽性で、肝蛭症と診断されました。

胆管期:胆管の中の虫体と、胆管の変化

胆管期には、虫体が胆管や胆嚢に入ります。超音波では、胆嚢や総胆管に、浮かんで動く、音響陰影のない高エコーの粒として見え、特徴的な所見とされます(Kabaalioğlu 2000)。拡張した胆管の中を虫体が動く様子は、超音波で確認できます。CTでは、中枢側の胆管の拡張と、門脈域に沿った所見がみられます(Dusak 2012)。MRIのT2強調像やMRCPでは、軽い胆管の拡張や、低信号の欠損像(フィリングディフェクト)が見えることがあります(Salahshour 2021)。ただし、軽い胆管の拡張は、MRIでは評価しにくいとされます(Dusak 2012)。胆管期のCT所見は、感染後10週ごろから見られるとされます(Salahshour 2021)。

合併症と、治療後の変化

36人の肝蛭症のCTでは、胆嚢壁の肥厚、肝内胆管の拡張、門脈周囲や右横隔膜下のリンパ節の腫れ、肝被膜下や腹腔内の出血、腹水などが評価され、治療の前後で比較されました。治療の後(平均25か月)に、肝実質の病変、胆管の変化、肝臓・脾臓の腫れ、リンパ節の腫れ、被膜下の血腫が改善し、腹水も消えました(Göya 2022)。病変には、膿瘍の形成や、出血性の梗塞を伴うものもあります(Dusak 2012)。

見間違えやすい病気と、見分け方

肝蛭症は、肝臓の炎症や腫瘍に似た画像を示すため、診断が遅れたり、不要な手術につながることがあります。鑑別には、胆管炎、肝炎、肝膿瘍、ブルセラ症、胆嚢炎、胆石、原発性・転移性の肝臓の悪性腫瘍などがあります(Salahshour 2021)。

鑑別する病気 見分けのヒント
肝膿瘍(細菌性など) 画像が似ることがある。肝蛭症は被膜下に連なるトンネル状の病変で、好酸球増多と食歴が手がかり(Salahshour 2021)。肝膿瘍は肝膿瘍とは?で解説
肝転移・悪性リンパ腫 肝蛭症は、転移に似た結節になり、誤って腫瘍と診断されることがある(Salahshour 2021)。経過で場所が移ること、好酸球増多、抗体検査が区別に役立つ(Nishioka 2021)。転移に似た良性病変は肝細胞癌・肝転移に見える偽病変も参照
胆管炎・胆石 胆管期には、胆管の拡張や壁の肥厚があり、胆管炎・胆石と似る。超音波で、胆管の中の動く虫体が見えれば手がかり(Kabaalioğlu 2000)。胆管炎の画像は急性胆管炎のCT画像所見で解説

肝蛭症は、診断の遅れが、長引く胆道の症状や色素胆石の危険につながるとされます(Salahshour 2021)。肝臓の被膜下の連なる低吸収域に好酸球の増加が重なるときは、水辺の植物や野菜、生の肝臓などの食歴を詳しく聞くことが大切です。同じように、食べ物から感染する寄生虫の病気には、肺吸虫症があります。

治療

治療に使われる薬は、トリクラベンダゾールだけとされ、耐性の報告もあります(Caravedo 2020)。胆管の閉塞や胆管炎があり、薬の効果が乏しい場合は、内視鏡(ERCP)で虫体を取り出したり、胆管の減圧を行ったりします。胆嚢に病変があれば、胆嚢摘出が必要になることもあります(Salahshour 2021)。薬の使い方や治療の選び方は、感染症や消化器の専門の主治医と相談してください。

予防と、受診の目安

予防は、野生の水生植物や、水辺の野菜を生で食べないことです(Salahshour 2021)。クレソンなどの水辺の植物は、栽培の管理が不十分だと、感染源になることがあります(Mailles 2006)。

  • 水辺の野菜や野草を生で食べたあと、発熱や右上腹部の痛みが続く
  • 原因のはっきりしない熱や倦怠感があり、血液検査で好酸球が多いと言われた
  • CT・超音波で、肝臓の影や胆管の拡張を指摘された

強い腹痛、黄疸、高い熱と寒気があるときは、急いで受診してください。診断や治療は、検査結果をふまえて担当の医師が決めます。気になる症状があれば、医療機関に相談してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 肝蛭症は日本にもありますか?
A. あります。日本では、小規模な牧場で働く人やその近隣の人に、患者さんが見られたと報告されています(Nishioka 2021)。

Q. 便の検査で虫卵が見つからなければ、否定できますか?
A. できません。虫卵が便に出るのは、病気が進んで虫が胆管に達したあとで、早期には陰性です。早い時期の確認には、抗体検査が使われます(Dusak 2012、Caravedo 2020)。

Q. CTで肝臓に影があるだけで肝蛭症とわかりますか?
A. わかりません。被膜下に連なるトンネル状の低吸収域は手がかりになりますが、肝膿瘍や転移と区別するには、好酸球の増加、食歴、抗体検査を合わせます(Salahshour 2021、Nishioka 2021)。

Q. 治療すれば画像の影は消えますか?
A. 36人の追跡では、治療の後(平均25か月)に、肝実質の病変や胆管の変化などが改善しました(Göya 2022)。治療後に、石灰化が残る例も報告されています(Dusak 2012)。

あわせて読みたい:日本住血吸虫症の画像

参考文献

  1. Salahshour F, Tajmalzai A. Imaging findings of human hepatic fascioliasis: a case report and review of the literature. J Med Case Rep. 2021;15(1):324. PubMed
  2. Kabaalioğlu A, Cubuk M, Senol U, et al. Fascioliasis: US, CT, and MRI findings with new observations. Abdom Imaging. 2000;25(4):400-4. PubMed
  3. Dusak A, Onur MR, Cicek M, et al. Radiological Imaging Features of Fasciola hepatica Infection – A Pictorial Review. J Clin Imaging Sci. 2012;2:2. PubMed
  4. Nishioka H, Fujita S, Hara S. Fascioliasis Presenting With Migrating Liver Masses. Am J Trop Med Hyg. 2021;105(5):1132-1133. PubMed
  5. Caravedo MA, Cabada MM. Human Fascioliasis: Current Epidemiological Status and Strategies for Diagnosis, Treatment, and Control. Res Rep Trop Med. 2020;11:149-158. PubMed
  6. Göya C, Özkaçmaz S, Özgökçe M, et al. Radiological evaluation of response to treatment in hepatobiliary fascioliasis. Gastroenterol Hepatol. 2022;45(7):507-514. PubMed
  7. Lim JH, Mairiang E, Ahn GH. Biliary parasitic diseases including clonorchiasis, opisthorchiasis and fascioliasis. Abdom Imaging. 2008;33(2):157-65. PubMed
  8. Mailles A, Capek I, Ajana F, et al. Commercial watercress as an emerging source of fascioliasis in Northern France in 2002: results from an outbreak investigation. Epidemiol Infect. 2006;134(5):942-5. PubMed

画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
無料講座

腹部画像診断を症例で学ぶ

4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。

講座に参加する(無料) →
胸部レントゲンの正常解剖を31日で
無料講座

胸部レントゲンの正常解剖を31日で

1日3分、全31日で胸部レントゲンの正常解剖の基礎を学ぶ参加型の講座です。全日程に簡単な動画解説が付いています。

講座に参加する(無料) →
画像診断LINE公式アカウント
登録特典あり

画像診断LINE公式アカウント

新しい企画やモニター募集のお知らせを配信しています。登録すると特典として、脳の血管支配域のミニ講座に無料で参加できます。

LINEで友だち追加 →