馬尾症候群とは 腰痛に排尿障害・股のしびれは緊急MRI

腰痛があるうえに、おしっこが出にくく、股のあたりがしびれています。ただの腰痛とは違うのでしょうか?
腰痛に「排尿の異常」と「股(会陰部)の感覚の低下」が加わるときは、馬尾症候群という緊急の病気が隠れていることがあります。腰の神経の束が強く圧迫されている状態で、早く画像(MRI)で確認して手術を考える必要があります。症状と検査の考え方を整理します。

先に結論:腰痛に「股のしびれ・排尿や排便の異常・両足の症状」が加わったら、時間帯を問わず緊急でMRIを撮れる医療機関へ

項目 ポイント
どんな病気か 腰の高さの脊柱管の中で、馬の尻尾のように束になった神経(馬尾)が圧迫され、足の症状と膀胱・直腸の障害が出る緊急の状態
赤旗症状 股・肛門まわりの感覚低下(サドル麻痺)、尿が出にくい・漏れる、便の異常、両足の力の低下やしびれ、座骨神経痛
主な原因 大きな椎間板ヘルニアが代表的。ほかに腫瘍、硬膜外膿瘍、硬膜外血腫など
画像検査 緊急のMRIが基本。MRIが使えないときはCTミエログラフィー。単純X線だけでは神経の圧迫は判断できない
治療の時間 圧迫の原因を取り除く減圧手術が基本。尿閉に至る前の段階で早く手術できるほど、膀胱機能が保たれやすい

馬尾症候群とは

脊髄(せきずい)は、背骨の中を通る太い神経の束で、成人では腰の上のほう(第1〜2腰椎のあたり)で終わります。そこから下では、足・膀胱・直腸・性器を支配する神経が、脊髄から離れて何本もの神経根として下へ伸びています。この束が馬の尻尾に似ているので馬尾(ばび)と呼ばれます。

馬尾症候群は、この馬尾が腰の脊柱管の中で圧迫され、足の感覚・力の障害、膀胱や直腸の障害が起こる状態です。決まった定義はなく、感覚の低下、筋力の低下、膀胱・直腸の機能障害が組み合わさって現れ、診断には膀胱・直腸の障害が重要とされています(Kuris 2021)。腰痛そのものは非常に多い症状ですが、馬尾症候群はまれです。世界的な発生率は10万人に年1〜3例とされ、専門病院へ緊急紹介された353件のうち、馬尾症候群と確定して手術が必要だったのは6件(1.7%)だったという報告もあります(Rao 2025)。

まれだからこそ、見逃さない仕組みが大切です。腰痛に加えて重要な症状が出たときに「いつもの腰痛」と思い込まないことが、最も大切なポイントです。

見逃したくない赤旗症状

赤旗(red flag)は、重い病気が隠れている可能性を知らせる症状です。馬尾症候群の疑いに関する国際的なガイドライン9本を整理した系統的レビューでは、すべてのガイドラインが、赤旗症状があるときは緊急にMRIを行うことを推奨していました。9本すべてに含まれていた赤旗は、肛門・会陰部・股の感覚の異常(サドル麻痺)と、膀胱または直腸の機能障害です。8本には座骨神経痛(お尻から足にかけての痛み)、5本には新しく出た筋力低下が挙がっていました(Hennessy 2025)。

赤旗症状 具体的な感じ方
サドル麻痺 股や肛門のまわり、内ももの感覚が鈍い。拭いても紙の感じがわからない、座面に触れる感覚が薄い
排尿の異常 尿意がわからない、尿が出にくい、いきまないと出ない、漏れる(尿閉・失禁)
排便の異常 便意がわからない、便が漏れる、便が出にくい
両足の症状 片足だけでなく両側の痛み・しびれ・力の入りにくさ。進行すると足が上がらない
性機能の異常 勃起や性器まわりの感覚の低下

日常の腰痛(ぎっくり腰など)の初期対応や、一般的な赤旗の考え方は腰痛への初期対応|急性腰痛症(ぎっくり腰)のレントゲン・画像所見とred flagsで解説しています。赤旗のない腰痛では、初期からMRIを撮る必要は通常ありません。一方で、馬尾症候群・がん・骨折・感染を疑う赤旗があるときは、初期から画像検査が検討されます(ACR 2021年版)。

原因:何が馬尾を圧迫するのか

原因は、馬尾のある脊柱管の中を狭くする病気すべてです。代表的なものを示します。

原因 特徴
大きな椎間板ヘルニア 代表的な原因。椎間板の一部が後ろへ大きく飛び出し、脊柱管をふさぐ。下の腰椎(L4/5、L5/S1)で多い
腫瘍 脊椎への転移、馬尾の腫瘍、硬膜の外にできる腫瘍など。経過はゆっくり進むことが多く、がんの既往が手がかりになる
硬膜外膿瘍 発熱・背部痛に続いて足の症状が出る。糖尿病や免疫の低下、菌血症が背景にある
硬膜外血腫 脊柱管の中に出血がたまる。抗凝固薬を使っている人、腰椎穿刺や硬膜外注射の後、外傷などで起こる
脊柱管狭窄・外傷 高度な狭窄に椎間板が加わる、腰椎の骨折・脱臼など

最も多いのは椎間板ヘルニアですが、症状が似ていても、原因によって治療も緊急度も変わるため、MRIで圧迫の原因を調べることが重要です。感染が疑われる場合の画像は脊髄硬膜外膿瘍のMRI|化膿性脊椎炎との関係、造影で見る膿の範囲と緊急度で詳しく説明しています。

なぜ緊急でMRIを撮るのか

MRIが基本になる理由

馬尾は神経の束で、単純X線では写りません。X線で骨の変化(骨折、すべり、骨の破壊)は分かっても、神経の圧迫の有無や原因は判断できません。MRIは神経・椎間板・硬膜外腔・脊髄を直接見られ、圧迫の位置と程度、原因(ヘルニア、腫瘍、膿瘍、血腫)を1回で調べられます。馬尾症候群の疑いでは、MRIまたはCTミエログラフィーによる画像検査と、緊急の脊椎外科への紹介が行われます(Kuris 2021)。MRIが使えない人(体内に入れた機器など)ではCTミエログラフィーが代わりになります。

前述のガイドラインのレビューでも、すべてが「赤旗があれば緊急にMRI」で一致していました(Hennessy 2025)。英国の2025年の経路をまとめた総説では、24時間いつでもMRIを撮れる体制を目指すことが書かれています(Conte 2026)。

撮る範囲

MRIは腰椎部分だけでなく、状況に応じて上方も含めます。英国の2025年の経路の総説では、馬尾に圧迫が見つからないときは、さらに上の高さ(脊髄の下端の円錐部など)も撮影することが挙げられています(Conte 2026)。脊髄の下端の病変でも、似た症状が出るためです。感染や腫瘍が疑われるときは、造影剤を使った撮影を追加することがあります。脊椎MRIの全体の読み方は脊椎MRIの読み方|年齢と症状の確認から椎体・椎間板・脊髄・傍脊椎まで見落としを減らす順番を参照してください。

MRIを撮っても「馬尾症候群」とは限らない

赤旗症状は感度を高めて拾うため、疑いで撮られたMRIの多くは、緊急手術が必要な状態ではありません。ある三次医療機関の8年間の検討では、疑いで紹介された1,188人のうち、診療チームが最終的に馬尾症候群と判断したのは163人(13.7%)で、紹介数が増えても確定例の頻度は変わりませんでした(Najjar 2026)。別の15週間の調査では、緊急紹介353件のうち馬尾症候群の疑いは102件でしたが、確定して手術が必要だったのは6件(1.7%)でした(Rao 2025)。MRIで圧迫がなければ、別の原因を探します。「疑われた=病気」ではなく、見逃さないためにまず撮るという考え方です。

症例 20歳代女性 L5/S1の大きな椎間板脱出

L5/S1の大きな椎間板脱出による馬尾症候群 腰椎MRI T2強調像 矢状断
引用:Alshanqity M, et al. Cureus 2025 (Figure 1)(CC BY 4.0)

馬尾症候群の症例報告に掲載された腰椎のMRI(T2強調像・矢状断)です。矢印は、第5腰椎と第1仙椎の間(L5/S1)で、椎間板が後ろへ大きく突き出し、脊柱管の中の神経(馬尾)を圧迫している部分を示します。症例報告では、バーベルのデッドリフトのトレーニング後に、左足の痛み・力の低下・しびれと、膣と直腸のしびれが出た女性で、診察では左足の筋力低下と肛門の緊張の低下があり、緊急で手術が行われたと説明されています。

2つのタイプ:尿閉に至る前と、尿閉に至ったあと

馬尾症候群は、膀胱の障害の程度で2つに分けて考えます。

タイプ 膀胱の状態 ポイント
不全型(CES-I:incomplete) 尿意が鈍い、出にくい、尿の勢いが弱いなど、膀胱の症状はあるが、まだ尿閉に至っていない 早期発見の最後の機会。早く減圧すると膀胱機能が保たれやすい
尿閉型(CES-R:with retention) 尿がたまっても感じず出せない(尿閉)。あふれて少しずつ漏れる(溢流性失禁)ことも 神経の障害が進んでいて、手術後も膀胱機能の回復が不十分になりやすい

この区別が大切な理由は、早く手術した効果が両者で異なるためです。ヘルニアによる馬尾症候群の研究をまとめたメタ分析では、尿閉に至った群と不全型の群は、まとめて解析しないほうがよいと述べられています(DeLong 2008)。英国の2025年の経路では、膀胱の超音波スキャン(残尿の測定)は、尿閉を確認するために使う位置づけが示されています(Conte 2026)。

手術までの時間と予後

治療の基本は、馬尾を圧迫している原因を取り除く減圧手術です。タイミングについての研究は、次のようにまとめられます。

文献 対象 結果
Ahn 2000 ヘルニアによる馬尾症候群のメタ分析(42研究、322人) 発症から48時間以内に減圧した群は、48時間より後の群より、感覚・運動・排尿・排便の回復が有意によかった。24時間以内と24〜48時間の間には、有意な差は見つからなかった
DeLong 2008 尿閉に至ったヘルニア例のメタ分析(16研究) 手術が遅いと、排尿の転帰が「fair(まずまず)またはpoor(不良)」になる相対リスクが、区切る時間によって1.77〜2.19と高かった。早期手術を支持する
Srikandarajah 2015 手術した200人(尿閉型61人、不全型139人)の後ろ向き研究 不全型では、排尿症状の出現から24時間以内の手術で、初回の外来時に膀胱機能が正常だった割合が高かった(24時間以内の群で膀胱障害が残ったのは11.1%、24時間より後の群で46.6%)。尿閉型では、24・48・72時間のどの区切りでも、はっきりした差はなかった

これらの研究は後ろ向きの観察研究が中心で、「発症」の時点の決め方がまちまちです。それでも、尿閉に至る前に減圧するほど膀胱機能が保たれやすいという点はおおむね一致しています。診断は遅れやすく、神経の障害が戻らない段階で診断されることもあるため(Kuris 2021)、疑った時点で夜間・休日も含めて迅速に画像診断を進める必要があります。英国の2025年の経路の総説は、画像で圧迫が確認されたら、通常24時間以内の緊急減圧を目指すとしています(Conte 2026)。

似た病気との見分け

病気 馬尾症候群との違い
脊髄円錐症候群 脊髄の下端(円錐)の障害。排尿・排便障害が早く目立ち、足の症状は軽く両側同時が多い。MRIの範囲が上に広がる
ギラン・バレー症候群など末梢神経の病気 足の力が両側で落ちる。神経根が造影される。圧迫病変はなく、GBSとCIDPのMRIで解説している
腰部脊柱管狭窄症 歩くと足がしびれ、休むと楽になる(間欠跛行)。慢性の経過。MRIで馬尾が蛇行する所見(馬尾弛緩(redundant nerve roots))は、神経が緩んで見える別の概念で、緊急の馬尾症候群とは区別する
前立腺肥大・膀胱の病気・糖尿病など 排尿障害の原因はほかにもあり、馬尾の圧迫のサイン(サドル麻痺・足の症状)がない
急性の脊髄の病気(脊髄炎・脊髄梗塞) 脊髄そのものの障害で、MRIの範囲を上へ広げて判断する

受診の目安:どんなときに急ぐか

次のような症状が腰痛に重なるときは、翌日の外来を待たず、時間帯を問わず救急外来(整形外科・脳神経外科・脊椎外科のある病院)に連絡してください。

  • 股や肛門のまわりの感覚が鈍い、触れてもわかりにくい
  • 尿が出ない、尿意がわからない、尿や便が漏れる
  • 両足の痛み・しびれ・力の低下が出た、足が上がらなくなった
  • 発熱を伴う背中・腰の強い痛みの後に、足の力が落ちた(膿瘍の可能性)
  • 抗凝固薬(血をサラサラにする薬)を使っている人や、腰の注射・穿刺のあとで、強い腰痛と足の症状が出た

「腰痛が強いこと」より、排尿・排便・股の感覚の変化と、両側の足の症状のほうが重要な手がかりです。恥ずかしさから伝えにくい症状ですが、受診のときは、尿や便の変化と股の感覚をはっきり医療者に伝えてください。気になる症状があれば、早めに医療機関へ相談してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 腰痛とヘルニアがあるだけなら、すぐMRIは必要ですか?
A. 赤旗のない急性の腰痛では、初期にMRIを撮る必要は通常ありません。馬尾症候群・がん・骨折・感染を疑う赤旗があるときは、初期から画像検査が検討されます(ACR 2021年版)。

Q. MRIで大きなヘルニアがあれば、すぐ手術になりますか?
A. 画像だけでは決まりません。足・膀胱・直腸の症状と、圧迫している部位が合っているかを合わせて判断します。馬尾症候群と診断された場合は、通常は緊急の減圧手術が検討されます(Kuris 2021)。

Q. 手術が間に合わなかったら、どうなりますか?
A. 排尿や排便の障害、性機能の障害、足の麻痺が残ることがあります。早期に手術しても改善が一定でない場合もあります(Kuris 2021)。回復の程度は原因や圧迫の強さ、症状の出方で異なります。

Q. 救急で「馬尾症候群ではない」と言われました。それでも注意することは?
A. 疑いで撮影した検査の多くは、緊急手術が必要な状態ではありません(Najjar 2026、Rao 2025)。ただし、帰宅後に症状が進んだり、新しい症状(尿が出ない、股のしびれ、足の力の低下)が出たりしたら、再度受診してください。

あわせて読みたい:症状別・最初に受ける画像検査の早見表

参考文献

  1. Ahn UM, Ahn NU, Buchowski JM, et al. Cauda equina syndrome secondary to lumbar disc herniation: a meta-analysis of surgical outcomes. Spine (Phila Pa 1976). 2000;25(12):1515-22. PubMed
  2. DeLong WB, Polissar N, Neradilek B. Timing of surgery in cauda equina syndrome with urinary retention: meta-analysis of observational studies. J Neurosurg Spine. 2008;8(4):305-20. PubMed
  3. Srikandarajah N, Boissaud-Cooke MA, Clark S, et al. Does early surgical decompression in cauda equina syndrome improve bladder outcome? Spine (Phila Pa 1976). 2015;40(8):580-3. PubMed
  4. Kuris EO, McDonald CL, Palumbo MA, et al. Evaluation and Management of Cauda Equina Syndrome. Am J Med. 2021;134(12):1483-1489. PubMed
  5. Hennessy O, Devitt AT, Synnott K, et al. Assessment and early investigation of cauda equina syndrome- a systematic review of existing international guidelines and summary of the current evidence. Eur Spine J. 2025;34(4):1545-1551. PubMed
  6. Najjar E, Khan S, Masarwa R, et al. Rising suspicion, stable disease: an 8-year analysis of suspected and confirmed cauda equina syndrome. Spine J. 2026;26(10):1969-1976. PubMed
  7. Hutchins TA, Peckham M, Shah LM, et al. ACR Appropriateness Criteria® Low Back Pain: 2021 Update. J Am Coll Radiol. 2021;18(11S):S361-S379. PubMed
  8. Conte A, Jain R, Lingham A, et al. Cauda Equina Syndrome-A 2025 Narrative Review. Br J Hosp Med (Lond). 2026;87(4):52970. PubMed

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