高所脳浮腫のMRI 脳梁膨大部の浮腫と微小出血

登山のあとに意識がもうろうとして運ばれた患者さんの頭部MRIで、脳梁に小さな出血が点々とありました。高所脳浮腫ってこういう画像になるのですか?
高所脳浮腫(HACE)では、脳梁の膨大部(後ろの端)を中心とした白質のT2高信号と、その後に残る微小出血が特徴として報告されています。ただし似た見え方をする病気もあるので、病歴と合わせて読むコツを整理します。

先に結論:高所脳浮腫のMRIは「脳梁膨大部を中心とした白質の浮腫と微小出血」。診断は高所への登高歴と症状から

項目 ポイント
何か 高所に登って起こる脳の浮腫。歩行失調(ふらつき)と意識の低下が目安
急性期のMRI T2強調像で白質の高信号。脳梁膨大部に好発し、灰白質は目立たない
後に残る所見 SWI・T2*で脳梁膨大部などに微小出血。長い年月残ることがある
注意 重症の呼吸不全後などにも似た微小出血があり、病歴の確認が必須
画像より 高所では画像が撮れないことも多く、診断と対応は臨床が先

高所脳浮腫とは

標高2,500m以上に登ったあと1〜5日のうちに、急性の高山病が起こることがあります。頭痛・だるさ・めまい・吐き気などの症状を起こす急性高山病(AMS)、運動失調と意識の低下を伴い致死的にもなる高所脳浮腫(HACE)、高所肺水腫(HAPE)の3つが代表です。HACEは、MRIに特徴的な変化を伴う病気として知られています(Luks 2017)。

急性高山病の診断・研究では、Lake Louise AMSスコアがよく使われます。2018年の国際コンセンサスで、睡眠障害は高所の低酸素そのものによる影響が大きいとして、質問項目から外されました(Roach 2018)。MRIの研究では、HACEを『補助がないと歩けないほどの失調、または意識の低下』と定義して対象を選んだ報告があります(Schommer 2013)。急性高山病の頻度は、3,500mまで登った人で最大25%、6,000mで50%を超えると報告されています(Medhi 2018)。

MRI所見:何が、どこに見えるか

HACEのMRI所見を明らかにした代表的な研究は、救助された9人の男性(18〜35歳)を調べた報告です。9人中7人で、白質に強いT2高信号があり、とくに脳梁膨大部が目立ち、灰白質には異常がありませんでした。高所に行って体調が良かった対照では異常がなく、全員が回復し、追跡できた4人では所見がすべて消えました。この所見から、主な機序は血管から水分と蛋白が漏れ出す血管原性浮腫と考えられ、血液脳関門の関与が示唆されています(Hackett 1998)。

この9人のうち8人は肺水腫も併発していました(Hackett 1998)。HACEと高所肺水腫は同時に起こることがあるため、頭部だけでなく胸部X線・CTの所見も合わせて確認します。

時期 見える所見 使う撮像
急性期 白質のT2高信号。脳梁膨大部に好発。灰白質は目立たない(Hackett 1998) T2強調像・FLAIR
回復期 T2高信号は消える(追跡できた4人)(Hackett 1998) T2強調像・FLAIR
後遺的所見 脳梁、とくに膨大部の微小出血・ヘモシデリン沈着(Kallenberg 2008、Schommer 2013) SWI・T2*

HACEは、脳の水分量が増える血管原性・イオン性の浮腫によって起こるとされます。一方、急性高山病(AMS)の段階では、同じ種類の浮腫の証拠は乏しいと整理されています。AMSの終末像がHACEなのか、別の疾患として扱うのかは、血液脳関門の変化を含めて研究が続いています(Turner 2021)。読影では、浮腫の性質を断定するより、白質・脳梁の変化と出血の有無を拾うことが実用的です。

なお、AMSの段階ではHACEのような浮腫の証拠は乏しいとされます(Turner 2021)。MRIが正常でも、HACEの手前の状態や軽い高山病を否定する材料にはなりません。症状の評価は臨床が優先です。

微小出血:長く残る「足跡」

HACEの後に残る所見として重要なのが、SWIなど磁化率に敏感な撮像で見える微小出血です。HACEや重症の急性高山病を経験した人のMRIを2〜31か月後に調べた検討では、HACEの人で脳梁を中心に多数のヘモシデリン沈着(微小出血を示唆)があり、急性高山病の3人にはありませんでした(Kallenberg 2008)。

さらに登山者37人を4つのグループ(HACE 10人、高所肺水腫8人、重症の急性高山病11人、高所に登っても発症しなかった8人)に分けた3テスラMRIの検討では、脳梁膨大部に明らかな微小出血があった人はHACEで8人、疑わしい人が2人でした。5人の重症例では脳梁の外にも出血がありました。重症の急性高山病で脳梁膨大部に微小出血を認めたのは1人、他のグループではほとんど見られませんでした。微小出血は12〜50か月後の再検でも変わらず、HACEの長く残る足跡とされています(Schommer 2013)。

SWIとT2*強調像の基本はT2*強調像・磁化率強調像(SWI)とは、脳梁の場所の復習は脳梁とは?吻部・膝部・体部・膨大部の場所も参考にしてください。

数年後に見つかったときの読み方

脳梁膨大部の微小出血は、発症から1〜4年たっても再検で変わらなかったと報告されています(Schommer 2013)。そのため、別の理由で撮られた頭部MRIのSWIで、脳梁膨大部に小さな黒い点を見つけたとき、過去の高所での重い体調不良が背景にある可能性があります。ただし前述のとおり、重症呼吸不全などでも同じ分布が報告されています(Riech 2015)。『高所での重い病気の既往はありませんか』と尋ねることが、画像の意味づけに役立ちます。

レポートには、微小出血の分布(脳梁膨大部が中心か、皮質下白質や内包、小脳脚にも及ぶか)と、T2強調像・FLAIRでの浮腫の有無を分けて書きます。外傷や血管性の出血との区別が必要な場合は、SWIの基本の記事も役に立ちます。

症例 50歳女性 致死的な高所脳浮腫

致死的な高所脳浮腫 MRI 微小出血とT2・FLAIR高信号
引用:Medhi G, et al. Indian J Radiol Imaging 2018(Figure 2)、CC BY-NC-SA 4.0(PMC6319098)

約3,000m(9,900フィート)まで順応なしに登ったあと、昏睡状態で搬送された症例のMRIです。A〜Cの磁化率に敏感な画像で、皮質下白質、脳梁の膝部〜体部〜膨大部、内包、中小脳脚に多数の微小出血が黒い点として見えます。D〜HのT2強調像・FLAIR像では、両側大脳半球の皮質下白質、脳梁、内包を中心に広い高信号があり、浮腫が示唆されます。

似た所見をつくる病気:読み間違えないために

脳梁膨大部の微小出血は、HACEに特有とは言い切れません。重症の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)から生還した3人で、脳梁膨大部に多発する微小出血が見られ、HACEの登山者で報告された分布と同じだったという報告があります(Riech 2015)。外傷によるびまん性軸索損傷でも脳梁に点状出血が出ます。

鑑別 画像の手がかり 確認する病歴
高所脳浮腫 脳梁膨大部の白質T2高信号、のちに微小出血 高所登山・急な登高、失調、意識低下
重症呼吸不全後 脳梁膨大部に多発微小出血(Riech 2015) ARDS・人工呼吸・ECMOなど
びまん性軸索損傷 皮髄境界・脳梁の点状出血。DAIのMRI 頭部外傷の既往
可逆性脳梁膨大部病変(MERS) 脳梁膨大部の拡散低下。多くは可逆的。MERSのMRI 感染症、薬剤など

どの場合も、依頼票の登山・高所滞在の有無を確認します。頭部MRIの全体の見方は頭部MRIの読み方を参照してください。

画像診断の実際:高所では撮れないことが多い

HACEは遠隔地で起こりやすく、高所の現場にはMRIなどの設備がないことが多いと指摘されています(Medhi 2018)。そのため、HACEの診断と初期対応は病歴・症状(失調、意識障害)が中心となり、MRIを撮れるまでに搬送の時間がかかることも少なくありません。画像診断は、救助されて医療機関に搬送されたあと、他の病気(脳出血、脳梗塞など)の除外や、重症度、後遺的な変化の評価に使うのが実際的です。

研修医向け:読影チェックリスト

  • 依頼票・問診で高所への登高歴(標高・日数・順応)を確認する
  • T2強調像・FLAIRで、白質(とくに脳梁膨大部)の高信号を探す。灰白質が目立たないことも手がかり
  • SWI・T2*で、脳梁膨大部とその周囲の微小出血を拾う
  • 他の部位(内包、中小脳脚、皮質下白質)の出血や浮腫も記載する
  • 重症呼吸不全・外傷・MERSなど、似た所見をつくる病気を病歴で除外する
  • 発症から時間が経った撮像では、浮腫は消えていても微小出血だけが残ることがある
  • 微小出血の検出には、高分解能のSWI(3テスラなど)が使われた研究が多い点を意識し、撮像条件の違いを考慮する(Schommer 2013)
  • 胸部の画像で肺水腫の合併がないかも確認する(Hackett 1998)

よくある疑問(Q&A)

Q. 高所脳浮腫のMRIは、症状が治ったらどうなりますか?
A. T2強調像の白質の高信号は、回復後の追跡で消えたと報告されています(Hackett 1998)。一方、SWIなどの微小出血は12〜50か月後も変わらず残っていました(Schommer 2013)。

Q. 急性高山病でも脳にMRI異常は出ますか?
A. 重症の急性高山病でも、脳梁膨大部に微小出血を認めたのは11人中1人でした(Schommer 2013)。HACEと違い、MRIでの異常は少ないと考えられます。

Q. 脳梁膨大部に微小出血があれば、高所脳浮腫と確定できますか?
A. できません。重症呼吸不全の後にも同じ分布の微小出血が報告されています(Riech 2015)。病歴とあわせて判断します。

Q. 高所で頭痛・ふらつきが出たらどうすればいいですか?
A. 歩行が不安定になる、意識がぼんやりする場合は重症のサインです。登高をやめ、安全な標高へ下りて医療機関を受診してください。

あわせて読みたい:脊柱管内の髄外造血とは、減圧症(潜水病)の画像診断、透析患者の脳症のMRI

参考文献

  1. Hackett PH, Yarnell PR, Hill R, et al. High-altitude cerebral edema evaluated with magnetic resonance imaging: clinical correlation and pathophysiology. JAMA. 1998;280(22):1920-5. PubMed
  2. Kallenberg K, Dehnert C, Dörfler A, et al. Microhemorrhages in nonfatal high-altitude cerebral edema. J Cereb Blood Flow Metab. 2008;28(9):1635-42. PubMed
  3. Schommer K, Kallenberg K, Lutz K, et al. Hemosiderin deposition in the brain as footprint of high-altitude cerebral edema. Neurology. 2013;81(20):1776-9. PubMed
  4. Luks AM, Swenson ER, Bärtsch P. Acute high-altitude sickness. Eur Respir Rev. 2017;26(143). PubMed
  5. Roach RC, Hackett PH, Oelz O, et al. The 2018 Lake Louise Acute Mountain Sickness Score. High Alt Med Biol. 2018;19(1):4-6. PubMed
  6. Turner REF, Gatterer H, Falla M, et al. High-altitude cerebral edema: its own entity or end-stage acute mountain sickness? J Appl Physiol (1985). 2021;131(1):313-325. PubMed
  7. Medhi G, Lachungpa T, Saini J. Neuroimaging features of fatal high-altitude cerebral edema. Indian J Radiol Imaging. 2018;28(4):401-405. PubMed
  8. Riech S, Kallenberg K, Moerer O, et al. The Pattern of Brain Microhemorrhages After Severe Lung Failure Resembles the One Seen in High-Altitude Cerebral Edema. Crit Care Med. 2015;43(9):e386-9. PubMed

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