肺ヘルニア 咳・外傷・手術後に肺が胸壁の外へ

咳をしたあとから胸の横が膨らむようになり、CTで「肺ヘルニア」と言われました。肺が飛び出しているということでしょうか?
そのとおりです。空気を含んだ肺が、胸壁の隙間(肋骨の間など)から胸の外へはみ出した状態です。まれな病気ですが、咳や外傷、手術のあとに起こることがあります。CTでの見え方と、読むときの要点を整理します。

先に結論:肺ヘルニアは肋間からの例が多く、CTの肺野条件で「胸壁の外に出た肺」を確認する

項目 ポイント
何か 空気を含む肺が、胸郭の出口(頸部)・胸壁・縦隔・横隔膜の欠損部から胸郭の外へ出る状態(Muldiiarov 2026)
どこに多いか 胸壁(肋間)が大半。頸部はそれより少なく、縦隔や横隔膜はまれ(Muldiiarov 2026)
原因 外傷、胸部の手術後、咳などで胸腔内の圧が急に上がったとき、生まれつきの欠損
画像 CTが中心。咳やいきみ(Valsalva)で飛び出しが大きくなる場合は、その状態で撮影する(Joshi 2001、Muldiiarov 2026)
経過 小さく戻せるものは経過観察もあるが、痛み・増大・戻らない場合は手術を考える(Muldiiarov 2026)

肺ヘルニアとは

肺ヘルニア(lung hernia、pulmonary hernia)は、肺が本来の胸郭の枠を越えて外に飛び出す、まれな病気です。肺そのものの病気ではなく、胸郭を包む壁に弱い場所や欠損ができ、そこから肺が出てくる状態です(Muldiiarov 2026)。胸壁の腫れとして気づかれるため、「胸壁にしこりがある」と受診して見つかることがあります。

お腹の臓器が胸に入り込む先天性横隔膜ヘルニアとは向きが逆で、別の病気です。ここでは、肺が胸の外に出るものを扱います。

どこから出るか

部位 通り道 特徴
胸壁(肋間) 肋骨と肋骨の間、骨折や手術の創部 報告の大半を占め、外傷・手術後・咳に関連する(Muldiiarov 2026)。ある報告では、肺ヘルニアの最大83%が肋間とされる(Vinck 2024)
頸部 胸郭の上の出口(鎖骨より上) 胸壁よりまれ。先天性の例が多く、症状が軽いことも(Weissberg 2002、Weissberg 2013、Muldiiarov 2026)
縦隔 左右の肺の間の壁 まれ(Muldiiarov 2026)
横隔膜 横隔膜の欠損 まれ(Muldiiarov 2026)

どんなときに起こるか

後天的な肺ヘルニアは、外傷・手術後・病的(胸壁の病気)・自然(自発)に分けられます(Vinck 2024)。昔は外傷によるものが中心でしたが、近年は手術後や、咳などで胸腔内の圧が繰り返し急上昇する状況での報告が増えています(Muldiiarov 2026)。

原因 内容
外傷 肋骨骨折などで胸壁に欠損ができる
手術後 開胸手術や胸腔鏡手術、低侵襲の心臓手術の創部から。傷の閉じ方が関係する
自然(咳・くしゃみ・重い物を持つ) 胸腔内の圧が急に上がって起こる。咳が強く続く人に多い
先天性 生まれつき胸壁に弱い所がある。大人になってから気づかれることもある

低侵襲の心臓手術では、小さな開胸の創部から肺ヘルニアが生じることがあります。2010年から2022年までに小開胸で心臓手術を受けた803人のうち、同じ創部に肋間の肺ヘルニアを生じたのは9人でした。5人は右の第2肋間(大動脈弁の手術)、4人は右の第4肋間(僧帽弁の手術)でした(Vinck 2024)。

手術後や外傷後の人では、元の創部の位置を確認しておくと、CTで欠損部を探しやすくなります。肺癌の手術後に気をつける合併症は肺癌の術後合併症でも整理しています。

どんな人に見つかるか

肺ヘルニアのある38人を中央値3.8年追跡した研究では、多くが過体重または肥満(31人)、喫煙者(31人)で、30人は胸部の手術歴があり、33人は症状がありませんでした(Madani 2023)。症状がなく、画像で偶然見つかる例も多いことが分かります。咳で見つかった例では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のある人が咳き込みで肋骨を折り、肺が飛び出していました(Manthey 2017)。

どんな症状で見つかるか

多いのは胸壁の膨らみと痛みです。咳やいきみで大きくなることがあります。強い咳のあとに突然の痛みが出て、肋骨骨折とともに見つかった例もあります(Manthey 2017)。一方で、前述のように症状のない人も多く、胸部X線やCTで偶然見つかることがあります(Madani 2023)。戻らず嵌頓が疑われる場合は手術が検討されるため、痛みが強まる、膨らみが戻らない、息苦しいといった変化は、診察を急ぐ目安になります(Muldiiarov 2026)。

胸部X線で疑うポイント

胸部X線では、胸壁の輪郭が外に出っ張るように見えることが手がかりです。総説の症例図では、側面像で胸壁の輪郭より外に肺が出ている様子や、正面像で左の外側の胸壁の輪郭がわずかに乱れている所見が、肺の突出を疑う所見として示されています(Muldiiarov 2026)。ただし、わずかな変化は見逃しやすく、疑ったらCTで確認します。胸部X線の見落としやすい場所は胸部レントゲンで見落としやすい場所も参考になります。

CTでの見え方と読み方

肺ヘルニアの診断は、臨床の所見に加えて、胸部X線またはCTで確認します(Weissberg 2013)。CTが主な診断法で、必要に応じて、飛び出しを再現する操作を加えます(Muldiiarov 2026)。

見るもの CTでの見え方・コツ
はみ出した肺 肺野条件で、胸壁の外側のラインを越えて、肺の血管や肺の組織が見える
欠損部(出口) 肋間の開大、肋骨骨折、手術創の位置。冠状断・矢状断の再構成で通り道を確認する(MPR・MIP・VRの使い分け)
飛び出しの大きさの変化 安静時と、咳・いきみ(Valsalva)のとき。咳をしたときにだけ見える例もある(Joshi 2001)
体位 手術創のヘルニアでは、半側臥位でValsalvaをかけて撮影し、はっきり描出できた報告がある(Sawada 2012)
合併所見 皮下気腫、気胸、血胸、骨折の有無。肺が戻らない・痛みが強い場合は嵌頓も意識する

症例 51歳男性 咳に伴う肋間肺ヘルニア

右肋間肺ヘルニア 胸部X線とCT(肺野条件・矢状断)
引用:Manthey D, Nickle AW. Clin Pract Cases Emerg Med 2017;1(2):142-143 (Image) CC BY 4.0・PMC

胸部X線(左上)と軸位CTの肺野条件(右上)、矢状断(下)です。矢印の部位で、右の胸壁の外に肺がはみ出しています。症例ページによると、COPDがあり、咳き込みのあとに右の後ろ側方の胸が痛くなりました。押すと痛む腫瘤を触れ、吸気で膨らみが大きくなっていました。CTでは第8・第9肋骨の骨折と、第8肋間を通る胸壁のヘルニアが確認され、胸腔鏡下に第8肋骨のプレート固定とヘルニアの修復が行われました。

見間違えやすいもの

  • 皮下気腫:胸壁の皮下に空気が溜まった状態で、空気だけが見え、肺の血管や構造は見えません。肺ヘルニアでは、はみ出した部分に肺の血管が追えます。
  • 胸壁の腫瘍:肺のはみ出しではなく、肋骨・軟部組織・胸膜外の病変が胸の膨らみの原因のことがあります(胸壁腫瘍のCT・MRI)。
  • 生まれつきの胸壁の欠損:胸壁の筋肉や肋骨が生まれつき欠けている場合の画像は、ポーランド症候群の記事が参考になります。

治療と経過

経過は人によって差があります。前述の38人の追跡では、ヘルニアの大きさは20人で変わらず、12人で大きくなり、6人で小さくなりました。60歳より若いことが、増大を予測する要因でした(Madani 2023)。

治療は、症状と解剖で決まります。小さく、戻せるものは経過観察が選ばれることがあります。一方、増大する、痛みがある、戻らず嵌頓が疑われる、人工呼吸器が必要、胸壁が不安定、といった場合は、胸壁の再建を含む手術が検討されます(Muldiiarov 2026)。肋間のヘルニアは通常症状があり手術での閉鎖が勧められる一方、頸部(鎖骨の上)のヘルニアは症状が軽く、経過観察でよいことがあると報告されています(Weissberg 2002)。閉鎖には、自分の組織を使うか、使えない場合は人工素材が使われます(Weissberg 2013)。

状況 考え方(Muldiiarov 2026)
小さい、戻せる、症状が軽い 経過観察もある
増大、痛み、戻らない、嵌頓の疑い 手術(再建)を検討
人工呼吸器の管理中、胸壁が不安定 手術を検討

肺ヘルニアを疑ったときの確認リスト

  1. 胸壁の膨らみ・痛みがあるか。咳やいきみで大きさが変わるか。
  2. 胸部の手術歴、外傷、肋骨骨折、咳が続く病気(COPDなど)があるか。
  3. CTの肺野条件で、肋骨の外側のラインの外に肺が出ていないかを見る。
  4. 冠状断・矢状断で欠損部(出口)の位置と大きさを確認する。
  5. 皮下気腫、気胸、血胸、骨折を合併していないかを見る。
  6. 見えにくいときは、咳やValsalvaをかけた状態での撮影を提案する。
  7. 過去のCTがあれば、大きさの変化を比べる。

よくある疑問(Q&A)

Q. 咳をしただけで肺が飛び出すことがありますか?
A. まれですが、あります。強い咳が続くと胸腔内の圧が上がり、肋骨が折れたり肋間が開いたりして、肺が出てくることがあります。COPDのある男性の咳き込みのあとに起こった報告があります(Manthey 2017)。

Q. 肺ヘルニアは放っておいてもよいですか?
A. 症状がなく小さいものは、経過を見る場合があります。ただ、大きくなる例もあるため、画像で経過を追うことが多くなります(Madani 2023)。痛みが強くなる、膨らみが大きくなる、戻らない、息苦しいといった変化があるときは、早めに受診してください。

Q. CTを撮っても見つからないことはありますか?
A. あります。普段は肺が戻っていて、咳をしたときにだけ飛び出す例も報告されています(Joshi 2001)。このため、症状があるときは、咳をした状態での撮影が選ばれることがあります。

Q. 手術のあとに膨らみが出てきたら肺ヘルニアですか?
A. 手術の創部から肺ヘルニアが生じることはありますが、傷の腫れなどほかの原因も考えられます。創部の腫れや痛みが続くときは、手術を受けた医療機関に相談してください。

あわせて読みたい:成人の横隔膜ヘルニア

参考文献

  1. Muldiiarov V, Shacker M, Biswas Roy S, et al. Lung hernia: an updated narrative review. J Thorac Dis. 2026;18(6):674. PubMed
  2. Madani MH, Abdelhafez YG, Nardo L. Natural History of Lung Hernias. Respiration. 2023;102(9):843-851. PubMed
  3. Weissberg D. Lung hernia – a review. Adv Clin Exp Med. 2013;22(5):611-3. PubMed
  4. Weissberg D, Refaely Y. Hernia of the lung. Ann Thorac Surg. 2002;74(6):1963-6. PubMed
  5. Manthey D, Nickle AW. Intercostal Lung Herniation. Clin Pract Cases Emerg Med. 2017;1(2):142-143. PubMed
  6. Joshi VM, Shetty PG, Shroff MM, et al. Intercostal lung herniation–depiction on spiral CT. J Assoc Physicians India. 2001;49:470-2. PubMed
  7. Sawada T, Taniguchi D, Ryu C, et al. [Intercostal lung hernia diagnosed by computed tomography images under the semilateral position]. Kyobu Geka. 2012;65(7):538-41. PubMed
  8. Vinck EE, Zapata RA, Tarazona CA, et al. Intercostal Lung Hernias Presenting After Minimally Invasive Cardiac Surgery. Braz J Cardiovasc Surg. 2024;39(5):e20230403. PubMed

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