先に結論:肺癌手術後の合併症
- 肺癌手術後に多い合併症は心房細動などの不整脈・長引く空気漏れ(肺瘻)・肺炎・無気肺です
- 画像で重要なのは気管支断端瘻と膿胸(胸腔内の液体・ガスの増加)、乳び胸、肺静脈断端の血栓(特に左上葉切除後で、脳梗塞の原因になりうる)です
- 遅れて起こるものとして気管支吻合部の狭窄・肺全摘後症候群・胸壁の肺ヘルニア・慢性拡張性血腫や、断端・リンパ節の再発があります
- 気管支断端瘻は気管支の切り口に穴が開き胸腔とつながる合併症で、右肺全摘・右下葉切除後や男性に多くみられます
※手術後に発熱、咳や痰の増加、息苦しさなどが出たときは、手術を受けた病院に早めに相談してください。
肺癌の手術を受けた後に起こりうる合併症について、頻度の多い順に列挙しました。
肺癌の術後合併症
- 治療を必要とする心房性不整脈
- 5日を超えるエアリーク
- 肺炎 4%
- 気管支鏡検査を必要とする無気肺
- 再挿管 3.5%
- その他の呼吸器のイベント
- 尿路感染症 1.5%
- 腎障害 1.5%
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS) 1%
- 気管切開
- 48時間を超える人工呼吸管理
- 治療を必要とする心室性不整脈
- イレウス
- 敗血症
- 再手術を必要とする出血
- 気管支胸腔瘻
- 肺塞栓症
- 心筋梗塞
- 治療を必要とする深部静脈血栓症
- 膿胸
- 創感染
- 中枢神経のイベント
- 反回神経麻痺
- 乳び胸
- せん妄
- その他
肺炎
高齢者や、ヘビースモーカー、リンパ節の郭清例に特に多い。術後変化や炎症により気管支壁浮腫をきたし閉塞性肺炎を起こすこともある。
気管支断端瘻(bronchopleural fistula)
- 気管支に瘻孔が形成され、特に胸腔と連続することがある。
- 後期の合併症として右に多い。
- 右に多いのは右主気管支の解剖学的な特徴ゆえと考えられる。
- このため気管支断端瘻予防のための気管支断端の脂肪織の被覆は右に多い。
- CTで気管支と胸腔の交通そのものが確認できることがある。
気管支断端瘻とは(読み方・意味)
気管支断端瘻(きかんしだんたんろう)は、肺を切除したときに切り離して縫い閉じた気管支の切り口(断端)がうまくふさがらず、気管支と胸腔の間に穴(瘻孔)ができてしまう状態です。「瘻(ろう)」は、本来つながっていない場所の間にできた異常な通り道を意味します。
- 頻度と危険因子:解剖学的肺切除4794例の検討では32例(0.67%)に起こり、男性、右下葉切除、右中下葉切除、右肺全摘、周囲臓器の合併切除が危険因子で、女性では0.1%とまれだった。90日以内の死亡は15.6%と重い合併症である(Matsunaga 2024)。
- 肺全摘436例の検討では全体で10.8%、右肺全摘後22.8%・左肺全摘後4.8%と右に多く、結核の既往がある例では33.3%だった(Gursoy 2018)。
- 症状:発熱、咳、膿性や水様の痰、皮下気腫、ドレーンからの空気漏れの再出現など。
- 画像所見:肺全摘後なら胸部X線で液面が下がる・新しいガスが出る・縦隔が健側へ戻ることが手がかり。CTでは断端と胸腔をつなぐ瘻孔や、残った肺の吸い込み像をみる。
症例 50歳代男性 肺腺癌に対する右上葉切除後

引用:Radiopaedia(Bronchopleural fistula – postoperative complication)
右上葉切除後の右胸腔の背側に空気の貯留があり、右の気管支とつながる瘻孔を認めます。胸腔内の空気が気管支と交通している、気管支胸腔瘻(気管支断端瘻)の所見です。
膿胸(empyema)
- 気管支断端瘻が主な原因。
- CTで残存する肺野に吸い込み肺炎像を認めた場合は有瘻性膿胸の確率が高い。
肺瘻(persistent air leak)
- 肺実質から胸腔への空気の漏れ。
- 術後24-48時間に残存肺が拡張し胸腔が埋まることで通常は消失する。
- 5−7日後も続く場合は肺瘻と見なされる。画像検査では気胸や皮下気腫として認められる。
乳び胸(chylothorax)
- リンパ節郭清などによる胸管損傷により起こる。食事摂取時から胸腔ドレーンの排液が白濁し、量が増える。CTでの吸収値は蛋白や脂肪の吸収値に依存するため胸水との鑑別は画像上は容易ではない。
- 治療はドレナージ、胸膜癒着術、外科的手術、リンパ管造影による漏出部位の同定およびそれによる塞栓がある。
合併症を理由とした再手術(3ヶ月以内)
- 肺瘻
- 膿胸
- 断端瘻
- 乳び胸
などが主。
後期合併症
- 気管支断端瘻
- 気管支吻合部狭窄
- 肺静脈血栓
- 肺全摘後症候群
- 断端再発・再発
- 術後胸壁肺ヘルニア
- 慢性膨張性血腫
気管支吻合部狭窄(bronchial anastomotic stricture)
- スリーブ切除術後で最も多く認められる晩期合併症。
肺静脈断端静脈血栓(thrombosis in the pulmonary vein stump)
- 肺切除後の肺静脈の断端に血栓ができるもので、まれに脳梗塞の塞栓源となることがある。
- 術後数日〜数ヶ月後に起こりやすい。
- 特に左上葉切除後で起こりやすい。肺葉切除193例の検討では3.6%に肺静脈断端血栓がみられ、全例が左上葉切除後(左上葉切除の13.5%)だった。左上肺静脈の断端が長いことが関係すると考えられ、左上葉切除後は造影CTでの確認が勧められている。術後早期(中央値6日目)に造影CTを行った解剖学的肺切除176例の検討では肺静脈断端血栓を12.5%に認め、左上葉切除後が25.0%と最も多かった。肺葉切除以上1670例の検討では術後脳梗塞は0.60%で、左上葉切除後は1.47%と高く、80%が術後4日以内に起きていた。
肺全摘後症候群(post-pneumonectomy syndrome)
- 肺全摘後に縦隔が大きく偏位・回転し、気道が圧迫されて息切れ・喘鳴を起こすまれな合併症。術後どの時期にも起こりうる。
- CTで縦隔の偏位と気道の圧迫を確認する。治療はプロテーゼで縦隔を戻す方法が中心(Christodoulides 2023)。
術後胸壁肺ヘルニア(lung herniation)
開胸術後などの胸壁の脆弱な部分に肺実質が飛び出してヘルニアを形成する。CTで同定可能。
慢性膨張性血腫(chronic expanding hematoma)
- 持続的に1ヶ月〜数年にわたり増大する血腫。
- 結核性膿胸による血腫が有名だが、術後や胸膜炎、外傷後にも起こりえる。
- CTでは被膜を有し石灰化を伴うことが多く、造影CTでは辺縁に結節状に造影される部位が散在性に見られる。
- MRIでは新旧の血腫を反映し特にT2WIでモザイク状に見られるため、モザイクサインと呼ばれる。悪性腫瘍と誤認しないように注意が必要。
肺癌の術後合併症でよくある疑問
Q. 気管支断端瘻と肺瘻はどう違いますか?
A. 肺瘻(はいろう)は肺の表面から空気が漏れる状態で、多くは自然に止まります。気管支断端瘻は気管支の切り口に穴が開く状態で、膿胸につながりやすく、処置や再手術が必要になることが多い点が違います。
関連:
参考)
- 画像診断 Vol.33 No.11 臨時増刊号 2013 s31-36
- 臨床画像 Vol.38 No.7増刊号 2022 p27-34
参考文献
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- Kim EA, Lee KS, Shim YM, et al. Radiographic and CT findings in complications following pulmonary resection. Radiographics. 2002;22(1):67-86. PubMed
- Chae EJ, Seo JB, Kim SY, et al. Radiographic and CT findings of thoracic complications after pneumonectomy. Radiographics. 2006;26(5):1449-1468. PubMed
- Ohtaka K, Hida Y, Kaga K, et al. Thrombosis in the pulmonary vein stump after left upper lobectomy as a possible cause of cerebral infarction. Ann Thorac Surg. 2013;95(6):1924-1928. PubMed
- Okami J, Higashiyama M, Tokunaga T, et al. Formation of pulmonary vein stump thrombus after anatomical lung resection and anticoagulant therapy. World J Surg. 2024;48(9):2090-2097. PubMed
- Hattori A, Takamochi K, Kitamura Y, et al. Risk factor analysis of cerebral infarction and clinicopathological characteristics of left upper pulmonary vein stump thrombus after lobectomy. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2019;67(2):247-253. PubMed
- Matsunaga T, Suzuki K, Hattori A, et al. Risk factors for bronchopleural fistula based on surgical procedure and sex in 4794 consecutive patients undergoing anatomical pulmonary resection. Surg Today. 2024;54(6):617-626. PubMed
- Gursoy S, Yazgan S, Ucvet A, et al. Postpneumonectomy bronchopleural fistula in non-small cell lung cancer patients: incidence, survival, mortality, and treatment analysis. Surg Today. 2018;48(7):695-702. PubMed
- Christodoulides N, Fitzmaurice GJ, Bukowska I, et al. Post-pneumonectomy syndrome: a systematic review of the current evidence and treatment options. J Cardiothorac Surg. 2023;18(1):119. PubMed
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