肺癌の手術を受けた後に起こりうる合併症について、頻度の多い順に列挙しました。
肺癌の術後合併症
- 治療を必要とする心房性不整脈 11%
- 5日を超えるエアリーク 8%
- 肺炎 4%
- 気管支鏡検査を必要とする無気肺 3.5%
- 再挿管 3.5%
- その他の呼吸器のイベント 3.5%
- 尿路感染症 1.5%
- 腎障害 1.5%
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS) 1%
- 気管切開
- 48時間を超える人工呼吸管理
- 治療を必要とする心室性不整脈
- イレウス
- 敗血症
- 再手術を必要とする出血
- 気管支胸腔瘻
- 肺塞栓症
- 心筋梗塞
- 治療を必要とする深部静脈血栓症
- 膿胸
- 創感染
- 中枢神経のイベント
- 反回神経麻痺
- 乳び胸
- せん妄
- その他
肺炎
高齢者や、ヘビースモーカー、リンパ節の郭清例に特に多い。術後変化や炎症により気管支壁浮腫をきたし閉塞性肺炎を起こすこともある。
気管支断端瘻(bronchopleural fistula)
- 気管支に瘻孔が形成され、特に胸腔と連続することがある。
- 後期の合併症として右に多い。
- 右に多いのは右主気管支の解剖学的な特徴ゆえと考えられる。
- このため気管支断端瘻予防のための気管支断端の脂肪織の被覆は右に多い。
- CTでは約半分の症例で気管支と胸腔の交通そのものが確認できる。
膿胸(empyema)
- 気管支断端瘻が主な原因。
- CTで残存する肺野に吸い込み肺炎像を認めた場合は有瘻性膿胸の確率が高い。
肺瘻(persistent air leak)
- 肺実質から胸腔への空気の漏れ。
- 術後24-48時間に残存肺が拡張し胸腔が埋まることで通常は消失する。
- 5−7日後も続く場合は肺瘻と見なされる。画像検査では気胸や皮下気腫として認められる。
乳び胸(chylothorax)
- リンパ節郭清などによる胸管損傷により起こる。食事摂取時から胸腔ドレーンの排液が白濁し、量が増える。CTでの吸収値は蛋白や脂肪の吸収値に依存するため胸水との鑑別は画像上は容易ではない。
- 治療はドレナージ、胸膜癒着術、外科的手術、リンパ管造影による漏出部位の同定およびそれによる塞栓がある。
合併症を理由とした再手術(3ヶ月以内)
- 肺瘻
- 膿胸
- 断端瘻
- 乳び胸
などが主。
後期合併症
- 気管支断端瘻
- 気管支吻合部狭窄
- 肺静脈血栓
- 肺全摘後症候群
- 断端再発・再発
- 術後胸壁肺ヘルニア
- 慢性膨張性血腫
気管支吻合部狭窄(bronchial anastomotic stricture)
- スリーブ切除術後で最も多く認められる晩期合併症。18%程度で見られる。
肺静脈断端静脈血栓(thrombosis in the pulmonary vein stump)
- 肺切除後の肺静脈の断端に血栓ができるもので、まれに脳梗塞の塞栓源となることがある。
- 術後数日〜数ヶ月後に起こりやすい。
- 特に左上葉切除後で起こりやすい。
術後胸壁肺ヘルニア(lung herniation)
虚系術後の脆弱な部分に肺実質が飛び出してヘルニアを形成する。CTで同定可能。
慢性膨張性血腫(chronic expanding hematoma)
- 持続的に1ヶ月〜数年にわたり増大する血腫。
- 結核性膿胸による血腫が有名だが、術後や胸膜炎、外傷後にも起こりえる。
- CTでは被膜を有し石灰化を伴うことが多く、造影CTでは辺縁に結節状に造影される部位が散在性に見られる。
- MRIでは新旧の血腫を反映し特にT2WIでモザイク状に見られるため、モザイクサインと呼ばれる。悪性腫瘍と誤認しないように注意が必要。
関連:
参考)
- 画像診断 Vol.33 No.11 臨時増刊号 2013 s31-36
- 臨床画像 Vol.38 No.7増刊号 2022 p27-34