
先に結論:影の形だけで決めず、「時期・薬・前回との比較」と組み合わせる
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 最初の検査 | 好中球減少時の発熱では、胸部X線が正常でも肺炎は除外できない。CTのほうが影を拾いやすい(Gerritsen 2017) |
| 感染 | 細菌・真菌・ニューモシスチスなど。結節と周囲のhalo、air crescentは真菌を示唆するが特異的ではない(Alexander 2021) |
| 薬剤性肺障害 | 画像のパターンは多様で、これだけという所見はない。感染や腫瘍の進行を除いて診断する(Dinkel 2024) |
| 腫瘍の進行・肺水腫 | 前回CTとの比較、左右対称か、胸水・心拡大などの付随所見で考える |
| CTを依頼するとき | 好中球の数、使用中の抗がん剤や免疫療法薬、発熱の時期を伝える(Dinkel 2024) |
治療中の発熱と肺の影で考える6つの原因
抗がん剤治療中は、骨髄抑制で好中球(細菌や真菌から体を守る白血球の一種)が減るだけでなく、薬そのものが肺を傷つけることもあります。さらに、もともとのがんが進んだり、点滴や心臓・腎臓の状態で肺に水がたまったりもします。まず全体像を表にします。
| 原因 | 起こりやすい状況 | CTの手がかり(傾向) |
|---|---|---|
| 細菌性肺炎 | 好中球減少時の発熱・咳 | 区域性〜葉性の浸潤影、気管支に沿う影 |
| 真菌感染(アスペルギルスなど) | 好中球減少が続く、血液のがん | 結節(周囲にhalo)、楔状の浸潤影、のちにair crescent |
| ニューモシスチス肺炎 | 細胞性免疫の低下(ステロイド併用、血液のがんなど) | 両側びまん性のすりガラス影 |
| 薬剤性肺障害 | 抗がん剤・分子標的薬・免疫療法薬の使用中 | パターンは多様(すりガラス影、器質化肺炎様の斑状影など) |
| 腫瘍の進行 | 既存の腫瘍がある、治療効果が乏しい | 前回からの腫瘤・結節の増大、小葉間隔壁の肥厚、胸水 |
| 肺水腫 | 補液、心機能や腎機能の低下 | 両側対称のすりガラス影、小葉間隔壁の肥厚、胸水、心拡大 |
注意したいのは、これらが同時に起こりうることです。ニューモシスチス肺炎675例のCTを調べた研究では、呼吸器の重複感染が31.9%にありました(Pulsipher 2026)。「ひとつ見つけたら終わり」にせず、説明できない影が残っていないかを最後まで確認します。免疫不全の肺炎全般の特徴は免疫不全の肺炎の画像診断の特徴にまとめています。
最初に知っておきたい:胸部X線だけでは見逃す
好中球減少時の発熱は、原因がわからないまま抗菌薬を始めることが多い状況です。その中で肺炎は最も多い感染巣のひとつで、胸部X線(特に寝た姿勢で撮るもの)は感度が低く、薄いスライスのCT(HRCT)が好中球減少のある患者の標準的な検査になっている、と総説で整理されています(Heussel 2004)。
化学療法による発熱性好中球減少の67人を、発熱の初日にX線と低線量CTで比べた研究があります。肺の感染があったのは11人(16.4%)で、検出の成績は次のとおりでした(Gerritsen 2017)。
| 指標 | 胸部X線 | 低線量CT |
|---|---|---|
| 感度 | 36% | 73% |
| 特異度 | 93% | 91% |
| 陽性的中率 | 50% | 62% |
| 陰性的中率 | 88% | 94% |
(Gerritsen 2017)
侵襲性の真菌症があった5人のうち4人は、初日のCTで疑わしい異常がありましたが、X線ではどれも異常がありませんでした。ただし人数が少なく、X線とCTの差は統計的には示されていません(Gerritsen 2017)。
一方、血液のがんの発熱性好中球減少412エピソード(259人)を調べた別の研究では、X線の結果に基づいて抗菌薬を変えたのは、呼吸器症状のある群で6.9%、ない群で3.4%にとどまりました。X線のあとにCTで異常が見つかり抗菌薬が調整された割合は、呼吸器症状のある群で17.2%、ない群で6.2%でした。著者らは、症状のない患者ではX線を省略できる可能性を述べています(Dijkshoorn 2025)。
つまり、症状があるのにX線が正常なら、そこで安心せずCTを考える、というのが実際の使い分けです。
感染のCT:パターンから考える
細菌性肺炎
区域や葉に沿った浸潤影(白く均一な影)に、中の気管支が白抜きに見える(エアブロンコグラム)ことが典型です。好中球減少時は炎症の反応が弱く、影が薄い・小さいことがあります。ここは一般の肺炎と同じ読み方です。
真菌:結節とhalo、air crescent
好中球減少が長引く血液のがんの患者で心配されるのが、アスペルギルスなどの真菌による肺炎です。CTでは次のような所見が知られています。
| 所見 | 見え方 | 意味・注意 |
|---|---|---|
| halo sign | 結節や腫瘤の周りを、淡いすりガラス影が縁取る | 適切な臨床状況では侵襲性肺アスペルギルス症を強く示唆し、病期との関係がある |
| air crescent sign | 病変の中に三日月状の空気 | 特異的ではなく、感染が進んだ時期に出る |
| reversed halo sign、hypodense sign | 中心が淡く周囲が濃い輪状の影、病変内の低吸収域 | ムーコル症に典型だが頻度は高くない |
(Alexander 2021)
画像診断のためのガイダンスでは、肺のCTは体積データのHRCTが第一選択で、どの画像パターンも真菌症に限った所見ではないとされています(Alexander 2021)。halo signの見方はair crescent signとは?侵襲性肺アスペルギルス症のCT所見とhalo signで詳しく説明しています。
好中球減少のある患者で、開胸肺生検を行った11人(12回の生検)の前向き研究では、侵襲性肺アスペルギルス症が確認されたのは5例でした。CTで多かったのは、区域性の浸潤影とすりガラス影の合併(4例)と、周囲にhaloのある結節(2例)です。ただし同じような所見は、ムーコル症、器質化肺炎、肺出血でも見られたと報告されています(Won 1998)。halo signがあっても、それだけで真菌と決めないことが大切です。
症例 10歳代男性 侵襲性肺アスペルギルス症(急性骨髄性白血病の治療中)

引用:Ghadirioghani A, et al. Int Med Case Rep J 2026(Figure 4)、CC BY-NC 4.0
急性骨髄性白血病の初回化学療法のあとに発熱と好中球減少をきたした15歳の男性の症例です。症例の記載では、A(CT撮影時)は右中葉に、周囲にすりガラス影のhaloと中心部のair crescentを伴う結節状の浸潤影があり、右下葉には斑状のすりガラス影、左下葉には中心に空洞を伴う肺胞性の浸潤影があります。B(治療4週間後)では、ほとんどの影が消えています。
ニューモシスチス肺炎:びまん性のすりガラス影
ニューモシスチス肺炎は、細胞性免疫が低下した人で起こる真菌性の肺炎です。免疫不全のある675例のCTでは、びまん性に分布するすりガラス影が96.7%で最も多く、分布は軸方向にランダムが80.1%、末梢優位が14.2%、浸潤影の合併が51.1%でした(Pulsipher 2026)。
| 所見(675例) | 割合 |
|---|---|
| びまん性のすりガラス影 | 96.7% |
| 浸潤影の合併 | 51.1% |
| 軸方向にランダムな分布 | 80.1% |
| 末梢優位 | 14.2% |
| 呼吸器の重複感染 | 31.9% |
(Pulsipher 2026)
この研究では、免疫不全の原因(血液のがん、固形がんの化学療法、移植、ステロイドなど)ごとにCTの所見は大きく重なり、HIV感染の有無でも見分けられませんでした(Pulsipher 2026)。CTだけで原因の免疫状態は推測できないと考え、臨床情報と検査を合わせます。
薬剤性肺障害:除外診断が基本
抗がん剤などの治療薬は、薬剤性の間質性肺疾患の主な原因で、全体の23〜51%を占めるとされます。原因薬としてはブレオマイシン、エベロリムス、エルロチニブ、トラスツズマブ デルクステカン、免疫チェックポイント阻害薬などが多く挙げられています(Conte 2022)。
診断の進め方は、問診・診察、呼吸数と酸素飽和度、血液検査、呼吸機能検査とCTです。臨床像も画像も肺炎や他の間質性肺疾患に似るため、感染を除外する検査も行います。管理では原因となった薬の中止が中心になります(Conte 2022)。
薬剤性肺障害のCTでは、次の4つのパターンが主なものです(Dinkel 2024)。
| パターン | CTの特徴(一般的な見え方) | 見分けのポイント |
|---|---|---|
| AIP/ARDS型 | 両側びまん性のすりガラス影・浸潤影 | ARDSに似て重症になりうる。肺水腫や重い肺炎と似る |
| 器質化肺炎(OP)型 | 胸膜下や気管支周囲の斑状の浸潤影 | 感染による肺炎と区別しにくい |
| 過敏性肺炎(HP)型 | 淡い小結節とすりガラス影 | 他の原因の過敏性肺炎と画像が似る |
| 非特異性間質性肺炎(NSIP)型 | 下肺優位のすりガラス影と網状影 | 胸膜のすぐ下を避ける分布が手がかりになることがある |
(パターン名は Dinkel 2024。特徴と見分けのポイントは一般的な見え方で、例外があります)
症状のない軽い時期(グレード1)の障害は、腫瘍の効果判定のために撮った定期CTで見つかることがあります。薬剤性肺障害を疑うときは、2mm未満の薄いスライスのHRCTが最も適しているとされ、依頼票には間質性肺疾患の危険がある薬を使っていることを書くよう勧められています(Dinkel 2024)。各パターンの詳しい見え方は薬剤性肺障害(薬剤性肺炎)のCT画像パターンにあります。
腫瘍の進行と肺水腫
腫瘍の進行
治療中に熱と咳が出て影が増えたとき、感染と決めつける前に、前回のCTと並べて既存の腫瘍がどう変わったかを見ます。見るのは次の点です。
- もともとあった腫瘤や結節が大きくなっていないか
- 新しい結節が増えていないか(肺転移)
- 気管支血管束や小葉間隔壁が数珠状に太くなっていないか(リンパ管に沿った進展)
- 胸水やリンパ節の腫大が増えていないか
がんの進行は抗菌薬では変わりません。経過を追うときは、病変の大きさだけで判断せず、他の指標を組み合わせる必要があると指摘されています(Heussel 2004)。
肺水腫
抗がん剤治療中は、点滴量が多くなる、心臓や腎臓の働きが落ちる、といった理由で肺に水がたまることがあります。CTでは両側対称のすりガラス影、小葉間隔壁の肥厚、胸水、気管支周囲の浮腫、心拡大がそろうほど肺水腫らしくなります。また、重力に沿って背側が濃いのも手がかりです。両側びまん性の影を来す疾患の鑑別はびまん性浸潤影・すりガラス影を来す疾患の鑑別に、息切れでの最初の見分け方は息切れ・呼吸困難の胸部画像にまとめています。
CTを読む順番とチェックリスト
| 順番 | 見ること | よくある見落とし |
|---|---|---|
| 1 | 好中球の数と時期、使用中の薬、発熱の経過を確認 | 臨床情報なしで「肺炎」と決める |
| 2 | 前回のCTと並べて、新しい影か既存病変の変化かを見る | 腫瘍の進行を感染と読む |
| 3 | 分布:片側か両側か、局在性かびまん性か、胸膜下か中心か | 左右差だけで感染と決める |
| 4 | パターン:結節(halo)、浸潤影、すりガラス影、網状影 | halo signだけで真菌と断定する |
| 5 | 付随所見:胸水、リンパ節、心拡大、気道の異常 | 心不全や容量過多の見落とし |
| 6 | 原因が複数ないか、説明できない影が残っていないか | 重複感染を見逃す |
| 7 | 経過CTでは大きさ以外の指標も使う | 縮小しないことだけで「治療失敗」とする |
よくある疑問(Q&A)
Q1. 胸部X線が正常なら、肺炎はないと考えていいですか?
いいえ。好中球減少時の発熱の初日では、X線の感度は36%、低線量CTは73%でした(Gerritsen 2017)。呼吸器症状があるのにX線が正常なら、CTで確認する意味があります。
Q2. halo signがあれば真菌感染ですか?
適切な臨床状況(好中球減少のある血液のがんなど)では強く示唆されますが、このサインだけの特異的な診断はできません(Alexander 2021)。同じような所見が、ムーコル症、器質化肺炎、肺出血でも見られています(Won 1998)。
Q3. 薬剤性肺障害はどんなときに疑いますか?
薬の開始後に出てきた咳・息切れ・酸素飽和度の低下、定期CTで出てきた新しいすりガラス影などです。ただし画像だけでは決められず、感染や腫瘍の進行を除いて診断します(Conte 2022、Dinkel 2024)。
Q4. 治療中に熱が出たら、どうすればいいですか?
治療中の発熱は、早めの対応が必要なことがあります。自己判断で解熱薬だけに頼らず、治療前に伝えられている連絡先や主治医に早めに相談してください。気になる症状があれば医療機関を受診してください。
あわせて読みたい:肺ヘルニアとは
参考文献
- Heussel CP, Kauczor HU, Ullmann AJ. Pneumonia in neutropenic patients. Eur Radiol. 2004;14(2):256-71. PubMed
- Gerritsen MG, Willemink MJ, Pompe E, et al. Improving early diagnosis of pulmonary infections in patients with febrile neutropenia using low-dose chest computed tomography. PLoS One. 2017;12(2):e0172256. PubMed
- Dijkshoorn-Fokker D, Marina M, van Bruchem-van de Scheur A, et al. Limited Diagnostic and Therapeutic Value of Chest X-Rays in Hematological Patients With Febrile Neutropenia. Open Forum Infect Dis. 2025;12(8):ofaf419. PubMed
- Alexander BD, Lamoth F, Heussel CP, et al. Guidance on Imaging for Invasive Pulmonary Aspergillosis and Mucormycosis: From the Imaging Working Group for the Revision and Update of the Consensus Definitions of Fungal Disease from the EORTC/MSGERC. Clin Infect Dis. 2021;72(Suppl 2):S79-S88. PubMed
- Won HJ, Lee KS, Cheon JE, et al. Invasive pulmonary aspergillosis: prediction at thin-section CT in patients with neutropenia–a prospective study. Radiology. 1998;208(3):777-82. PubMed
- Pulsipher AM, Ham K, Vikram HR, et al. Chest CT Findings of Pneumocystis jirovecii Pneumonia in a Large Cohort of Patients Who Are Immunocompromised. Radiol Cardiothorac Imaging. 2026;8(2):e250361. PubMed
- Dinkel J, Kneidinger N, Tarantino P. The radiologist’s role in detecting systemic anticancer therapy-related interstitial lung disease: an educational review. Insights Imaging. 2024;15(1):191. PubMed
- Conte P, Ascierto PA, Patelli G, et al. Drug-induced interstitial lung disease during cancer therapies: expert opinion on diagnosis and treatment. ESMO Open. 2022;7(2):100404. PubMed
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