
先に結論:骨粗鬆症のある高齢者では、痛む場所と違う骨に骨折があることがある
| 痛む場所 | 実際の骨折 | 見つけやすい検査 |
|---|---|---|
| お腹・わき腹 | 背骨(胸椎・腰椎)の圧迫骨折 | CTの矢状断(縦切り)、MRI |
| 膝 | 股関節(大腿骨近位部)の骨折 | 股関節のレントゲン、写らなければCT・MRI |
| 腰・お尻・足の付け根・お腹 | 仙骨・骨盤の脆弱性骨折 | レントゲンでは写りにくい。CT・MRI |
| 胸(心臓の病気のような痛み) | 胸骨の脆弱性骨折 | 胸骨の側面レントゲン、CT |
転んだあとや力んだあとに痛みが続くときは、痛む場所だけでなく、その原因になりうる骨も調べてもらうことが大切です。
脆弱性骨折とは
脆弱性骨折(不全骨折、insufficiency fracture)は、骨粗鬆症などで骨が弱くなっているために、普通なら折れないような弱い力で起こる骨折です(Horikawa 2007)。はっきりしたけがのきっかけがないことも多く、痛みが骨折の場所と離れて感じられると、診断が遅れやすくなります。
お腹が痛い:背骨の圧迫骨折
高齢者の腹痛は内臓の病気を考えがちですが、背骨の圧迫骨折が腹痛だけで現れることがあります。80代前半の女性が2週間続く右上腹部の痛みで受診し、造影CTや内視鏡では原因がわからず、MRIで新しい第8胸椎の圧迫骨折が見つかった例が報告されています。痛みの場所はこの骨から出る神経の支配領域(デルマトーム)と一致していました(Li 2026)。胸椎や腰椎から出る神経はお腹やわき腹の皮膚にも広がっているため、背骨の痛みが「お腹の痛み」として感じられることがあります。
CTで見逃されやすい理由
55歳以上の192人の胸部CTを見直した研究では、19.8%に中等度〜高度の椎体骨折がありましたが、正式な報告書で骨粗鬆症性骨折として記載されていたのは13%だけでした。輪切り(横断像)だけでの検出感度は0.35と低く、矢状断(縦切り)再構成を見ることが強く勧められています。骨折は将来の骨折や死亡率の上昇と関連するため、偶然見つかった骨折でも記載する意味があります(Williams 2009)。
新しい骨折か古い骨折かはMRI(STIR像など)で見分けます。詳しくは脊椎圧迫骨折の画像診断|新しい骨折と古い骨折の見分け方(MRI・STIR)と原因をご覧ください。
膝が痛い:股関節(大腿骨近位部)の骨折
大腿骨頸部骨折などの股関節の骨折は、ふつう転倒のあとに股関節まわりの痛みや、足が短く外に向くといった所見で気づかれます。しかし、高齢女性が膝の前側の痛みだけを訴え、実際には股関節の骨折だった例が報告されています(Guss 1997)。膝を調べても原因がないときは、股関節も確認する必要があります。
レントゲンに写らない股関節の骨折
股関節の痛みがあるのにレントゲンで骨折が見えない「潜在骨折(occult fracture)」もあります。レントゲンが正常で骨折が疑われた179人(平均82歳)をCTかMRIで調べた研究では、71人に股関節の骨折、34人に骨盤や寛骨臼の骨折が見つかりました(Rehman 2016)。「レントゲンで折れていない」と言われても痛くて歩けない場合は、CTやMRIでの追加検査が検討されます。
骨折の種類と治療は大腿骨頸部骨折と転子部骨折の違い|レントゲン・CT画像所見と治療、骨頭の脆弱性骨折は大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(SIF)とは?で解説しています。
腰・お尻・お腹が痛い:仙骨・骨盤の脆弱性骨折
仙骨の脆弱性骨折では、腰やお尻の痛みのほか、お腹の痛み、坐骨神経痛のような足の痛みやしびれ、足の力が入らない、尿が出にくいといった、神経の病気に似た症状も出ます。68〜95歳の女性25人の検討では、診断までに平均9日かかっていました。恥骨や腸骨の骨折を伴う例もありました(Schindler 2007)。
60歳以上の77人(平均80.3歳)の検討では、仙骨脆弱性骨折の検出感度はレントゲンで28.5%、CTで94.2%、MRIでは全例が検出されました。腰の痛みで撮る腰椎MRIで仙骨の骨折を見つけられることが示されており、撮像範囲の下端にある仙骨まで確認することが大切です(Yamauchi 2022)。
| 検査 | 仙骨脆弱性骨折の検出感度(Yamauchi 2022) |
|---|---|
| レントゲン | 28.5% |
| CT | 94.2% |
| MRI | 全例検出 |
骨盤の脆弱性骨折の分類は骨盤脆弱性骨折(FFP)のRommens分類とHONDAサイン、CT・MRI、骨盤骨折の全体像は骨盤骨折とは?原因・症状・治療と分類をご覧ください。
症例 60歳代女性 仙骨の脆弱性骨折

引用:Radiopaedia(Sacral insufficiency fractures)
腰痛で撮ったMRIで、仙骨の左右の翼の部分に骨髄のむくみ(白い信号)が広がっています。

引用:Radiopaedia(Sacral insufficiency fractures)
T1強調像では仙骨の左右に黒っぽい帯が見えます。症例ページでは、骨粗鬆症の骨に起こった仙骨の脆弱性骨折で、T1の線状の低信号を骨折線と考えると記載されています。
胸が痛い:胸骨の脆弱性骨折
胸骨(胸の真ん中の骨)の骨折は交通事故などの強い外力で起こるイメージがありますが、骨粗鬆症と背中が丸くなる変形(胸椎後弯)を背景に、けががなくても起こることがあります。報告された高齢女性2人は、心筋梗塞を思わせる強い前胸部痛で受診し、心電図や血液検査は正常で、胸骨の側面レントゲンで骨折が見つかりました(Horikawa 2007)。高齢者の急な胸痛では、心筋梗塞や肺塞栓症とあわせて胸骨の脆弱性骨折も鑑別に挙げることが勧められています(Horikawa 2007)。
胸骨骨折の画像は胸骨骨折とは?CT画像の見え方と症状・治療・合併症で解説しています。
次にすること
- 骨粗鬆症がある・背中が丸くなってきた高齢の方で、原因のわからない腹痛・膝の痛み・胸の痛みが続くときは、骨折の可能性も主治医に相談する
- CTを撮ったときは、背骨を縦切り(矢状断)で確認してもらう
- レントゲンで骨折が見えなくても痛みで歩けないときは、CT・MRIでの追加検査を相談する
- 骨折が見つかったら、骨密度の検査と骨粗鬆症の治療について相談する
急な胸の痛みは心臓や大血管の病気のこともあるため、まず救急を含めて医療機関を受診してください。気になる症状があれば医療機関を受診してください。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 転んでいないのに骨折することはありますか?
あります。骨粗鬆症で骨が弱くなっていると、はっきりしたけががなくても胸骨や仙骨などに骨折が起こることがあります(Horikawa 2007、Schindler 2007)。
Q2. レントゲンで骨折はないと言われたのに痛みが続きます。
股関節や仙骨の骨折はレントゲンで写らないことがあります(Rehman 2016、Yamauchi 2022)。痛みが続く、歩けないときはCT・MRIを主治医に相談してください。
Q3. 歩けているなら股関節の骨折ではないですよね?
歩けるかどうかだけでは判断できません。レントゲンで写らない潜在骨折もあります(Rehman 2016)。転倒後に股関節や膝の痛みが続くときは受診してください。
Q4. CTで偶然「背骨の骨折」と書かれていました。
椎体骨折は将来の骨折や死亡率の上昇と関連するため(Williams 2009)、症状がなくても骨粗鬆症の評価と治療を主治医に相談してください。
参考文献
- Li N, Zhang Y, Han X, et al. Spinal-origin abdominal pain secondary to silent osteoporotic compression fractures: A case report. J Int Med Res. 2026;54(3):3000605261431611. PubMed
- Williams AL, Al-Busaidi A, Sparrow PJ, et al. Under-reporting of osteoporotic vertebral fractures on computed tomography. Eur J Radiol. 2009;69(1):179-83. PubMed
- Guss DA. Hip fracture presenting as isolated knee pain. Ann Emerg Med. 1997;29(3):418-20. PubMed
- Rehman H, Clement RG, Perks F, et al. Imaging of occult hip fractures: CT or MRI? Injury. 2016;47(6):1297-301. PubMed
- Yamauchi T, Sharma S, Chandra S, et al. Superiority of MRI for Evaluation of Sacral Insufficiency Fracture. J Clin Med. 2022;11(17):4968. PubMed
- Schindler OS, Watura R, Cobby M. Sacral insufficiency fractures. J Orthop Surg (Hong Kong). 2007;15(3):339-46. PubMed
- Horikawa A, Miyakoshi N, Kodama H, et al. Insufficiency fracture of the sternum simulating myocardial infarction: case report and review of the literature. Tohoku J Exp Med. 2007;211(1):89-93. PubMed
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