
先に結論:小脳梗塞
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 小脳の血管がつまって、小脳の一部が傷む脳梗塞 |
| 症状 | めまい・吐き気・ふらついて歩けない・頭痛など、ありふれた症状で始まることが多い(Edlow 2008) |
| 検査 | CTは早い時期は写りにくい。MRI(DWI)が有用(Peng 2026) |
| 注意 | 腫れ(浮腫)で脳幹の圧迫・水頭症が起こると命に関わり、手術が必要なことがある(Wijdicks 2014) |

小脳梗塞とは
小脳は後頭部の下、首の付け根に近いところにあり、体のバランス・手足の動きの調整・目の動きなどを担っています。小脳に血液を送る動脈がつまると、その先が傷んで小脳梗塞になります。
小脳や脳幹など、脳の後ろ側を養う血管(椎骨動脈・脳底動脈)の領域の脳梗塞は「後方循環の脳梗塞」と呼ばれ、脳梗塞全体の20〜25%を占め、最初の受診で見逃されやすいとされます(Peng 2026)。
症状:めまい・ふらつきが中心
小脳梗塞は、めまい、吐き気・嘔吐、ふらついて歩けない、頭痛など、よくある症状で始まることが多く、胃腸炎や耳のめまいなど心配の少ない病気と区別がつきにくいのが特徴です(Edlow 2008)。
正しく診断するには、手足の動きのぎこちなさ(運動失調)、歩き方、目の動き(眼振など)を丁寧に診ることが大切です(Edlow 2008)。救急で最初に見逃された15人の小脳梗塞をまとめた報告では、半数が50歳未満で、頭痛とめまいで来院し、ほぼ全員の最初の頭部CTは「正常」と判断されていました。片頭痛・胃炎などと誤診され、死亡率は40%でした(Savitz 2007)。
めまいの見分け方は「めまい患者への初期対応と鑑別診断」でもまとめています。
CTで見えにくく、MRI(DWI)が有用な理由
小脳は頭蓋骨の底の厚い骨に囲まれた後頭蓋窩(こうとうがいか)にあり、CTでは骨によるすじ状のノイズ(アーチファクト)が出やすい場所です。そのうえ、なったばかりの梗塞は、CTではまだ色の変化が乏しいのが普通です。
| 検査 | 後方循環の脳梗塞を見つける力(感度) | 役割 |
|---|---|---|
| 単純CT | 16〜44%と低い | 出血の除外には必須 |
| CT血管撮影(CTA) | 椎骨・脳底動脈の閉塞は約80% | 血管のつまりを見る |
| MRI拡散強調像(DWI) | まとめた推定で約80% | 梗塞そのものを早く見つける |
数値はPeng 2026のレビューより。
脳卒中が疑われた356人をCTとMRIの両方で調べた研究でも、急性の脳梗塞を見つけられたのはMRIで46%、CTで10%で、MRIが明らかに優れていました(Chalela 2007)。DWIは、細胞が傷んで水の動きが悪くなった場所が白く光る撮り方です(くわしくは「拡散強調像(DWI)とは」)。
ただし、DWIでも約2割は見つからない計算になります(Peng 2026)。症状から強く疑うときは、MRIが正常でも経過を見たり再検査したりすることがあります。CTとMRIの違い全般は「脳梗塞はCTでわかる?MRIとの違い」も参考にしてください。
症例 80歳代男性 急なめまいとふらつき
左の小脳(画像では右側)の内側から下側にかけて、白く光る部分があり、新しい脳梗塞を示しています。後下小脳動脈(PICA)が血液を送る範囲に一致しています。同じ日のCTでは淡く暗く見える程度で分かりにくく、MRIの拡散強調像ではっきり確認できました。
血管の支配と梗塞の場所
小脳は主に3本の動脈で養われています。どの血管がつまったかで、梗塞の場所と症状が変わります。
| 動脈 | どこから出る | 主に養う場所 | 一緒に傷みやすいところ |
|---|---|---|---|
| 後下小脳動脈(PICA) | 椎骨動脈 | 小脳の下面・後ろ側 | 延髄の外側(ワレンベルグ症候群) |
| 前下小脳動脈(AICA) | 脳底動脈の下部 | 小脳の前下部・中小脳脚 | 橋の外側、内耳(難聴) |
| 上小脳動脈(SCA) | 脳底動脈の上端近く | 小脳の上面 | 中脳・橋の上部 |
アメリカの後方循環脳卒中の登録研究では、椎骨動脈側(主にPICA)の小脳梗塞は回転性めまい・歩行のふらつき・手足の失調・頭痛が多く、脳底動脈の上部側(主にSCA)では手足の失調・ふらつき・ろれつが回らないが多くみられました。主な原因は心臓や太い動脈から飛んできた血の塊(塞栓)でした(Chaves 1994)。2cm未満の小さな梗塞でも、大きな梗塞と同じくらい塞栓が原因でした(Amarenco 1994)。
研修医の方は、DWIで小脳に梗塞を見たら脳幹にも病変がないか、MRAやCTAで椎骨動脈・脳底動脈(解離や閉塞)を確認しましょう。支配領域の色分け図は「脳の血管支配領域まとめ」、脳幹梗塞は「脳幹梗塞の画像診断と支配血管」にあります。
浮腫・水頭症で手術が必要になる場合
小脳のある後頭蓋窩は狭いため、大きな梗塞が腫れる(浮腫)と、すぐ前にある脳幹が圧迫されたり、髄液の通り道(第四脳室)がふさがれて閉塞性水頭症が起こったりします(Edlow 2008)。
アメリカ心臓協会/脳卒中協会(AHA/ASA)の声明では、次のようにまとめられています(Wijdicks 2014)。
- 腫れやすいのは、PICAやSCAの領域全体に及ぶような大きな小脳梗塞
- 悪くなるサインは意識が低下すること(脳幹の圧迫による)。角膜反射の消失や瞳孔が小さくなることもある
- 神経の症状が悪くなる人には、後頭下開頭減圧術(後頭部の骨を外して圧を逃がす手術)を行う
- 水頭症に対して脳室ドレナージ(髄液を外に出す管)を入れるときは、小脳が上に押し上げられて悪化するのを防ぐため、減圧術も一緒に行う
- 小脳梗塞のあとの手術では、多くの人で許容できる回復が得られる
画像では、第四脳室がつぶれる、脳幹が前に押される、側脳室・第三脳室が広がる(水頭症)といった変化に注意します。CTの水頭症の見え方は「小脳出血のCT画像所見(水頭症・手術適応)」も参考になります。
次にすること
- 急なめまい+歩けない・ろれつ・手足のしびれやまひ・二重に見える・激しい頭痛 → 救急車
- 診断後しばらくは、腫れが強くなる時期があるため入院で様子を見ることが多い
- 原因(心房細動などの不整脈、動脈硬化、椎骨動脈解離など)を調べ、再発予防の治療を主治医と相談
よくある疑問(Q&A)
Q. CTで異常なしなら小脳梗塞ではない?
A. いいえ。早い時期の小脳梗塞はCTでは写りにくく(Edlow 2008, Peng 2026)、CTが正常でもMRIで見つかることがよくあります(Savitz 2007)。
Q. 小脳梗塞と小脳出血はどう違う?
A. 梗塞は血管がつまる病気、出血は血管が破れる病気です。出血はCTですぐにわかります。小脳出血は「小脳出血の症状・原因とCT画像所見」で解説しています。
Q. 手術はみんな必要?
A. いいえ。多くは手術をせずに治療します。腫れや水頭症で意識が悪くなる場合などに手術を検討します(Wijdicks 2014)。
まとめ
- 小脳梗塞はめまい・ふらつき・吐き気・頭痛で始まり、見逃されやすい
- 早い時期はCTに写りにくく、MRI(DWI)が有用。CTは出血の除外に必要
- 主な血管はPICA・AICA・SCAの3本。場所で症状が変わる
- 大きな梗塞は腫れて脳幹圧迫・水頭症を起こし、手術が必要なことがある
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- 脳室と髄液の流れと水頭症の違い
- 脳梗塞の種類(分類)まとめ
参考文献
- Edlow JA, Newman-Toker DE, Savitz SI. Diagnosis and initial management of cerebellar infarction. Lancet Neurol. 2008;7(10):951-964. PubMed
- Savitz SI, Caplan LR, Edlow JA. Pitfalls in the diagnosis of cerebellar infarction. Acad Emerg Med. 2007;14(1):63-68. PubMed
- Chalela JA, Kidwell CS, Nentwich LM, et al. Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected acute stroke: a prospective comparison. Lancet. 2007;369(9558):293-298. PubMed
- Peng A, Mayeli M, Sison J, et al. Imaging suspected posterior circulation stroke in the emergency department: a practical modality-based review. Emerg Radiol. 2026;33(5):1177-1192. PubMed
- Wijdicks EF, Sheth KN, Carter BS, et al. Recommendations for the management of cerebral and cerebellar infarction with swelling: a statement for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2014;45(4):1222-1238. PubMed
- Chaves CJ, Caplan LR, Chung CS, et al. Cerebellar infarcts in the New England Medical Center Posterior Circulation Stroke Registry. Neurology. 1994;44(8):1385-1390. PubMed
- Amarenco P, Lévy C, Cohen A, et al. Causes and mechanisms of territorial and nonterritorial cerebellar infarcts in 115 consecutive patients. Stroke. 1994;25(1):105-112. PubMed
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