【胸部】TIPS症例33
【症例】60歳代男性
【現病歴】当院内科通院中。スクリーニングのCTで縦隔異常所見を指摘された。
画像はこちら
MRI
異常所見と診断は?
胸部CTから見ていきましょう。
単純CTで前縦隔に1.8cm大の境界明瞭な類円形腫瘤を認めています。
内部は筋肉よりやや低吸収ですが、漿液性の嚢胞としてはやや高吸収です。
(皆さんの環境では測定できませんが)腫瘤のCT値を測定してみますと、平均34HU程度であり、嚢胞だとしても漿液性ではないことがわかります。漿液性の場合は0−10HU程度です。
出血や蛋白濃度の高い液体貯留を伴った胸腺嚢胞や心膜嚢胞の可能性もありますが、胸腺腫など充実性腫瘍の可能性もありますね。
CTだけでは何とも言えないので今回はMRIも提示しました。
まずT2強調像では筋肉よりはやや高信号ですが、液体の高信号ではないということがわかりますね。
また脂肪抑制T1強調像と造影後の画像を並べて見ました。
すると、
- 造影前の脂肪抑制T1強調像で腫瘤は高信号
- 造影で腫瘤はやや造影されている
ということがわかります。
これらからやはり嚢胞ではなく充実性腫瘤が疑われます。
次に、T1強調像のIn phaseとOpposed phaseを比較してみましょう。
すると、前回の奇形腫で見たような内部の信号低下は認めていません。脂肪を含有していないと言うことです。
また、DWI/ADCはどうでしょうか?
DWIではやや高信号を示していますが、ADCでの信号低下は明らかではありません。
さて、縦隔に認める頻度の高い腫瘤としては以下のものがあります。
今回は、腫瘤の形状、CT値、MRIで造影効果を認めており、嚢胞よりは充実性腫瘤が疑われるという点、さらには頻度を考慮すると、
胸腺腫
が疑われます。
診断:胸腺腫の疑い
※呼吸器外科にて手術が施行されました。
※手術所見に基づく分類である正岡分類では最も予後のよいⅠ期(完全に被膜に覆われている)、WHOの組織分類では、Type B1と診断されました。
ちなみにWHOの組織分類では以下の様にtype AからB3まであります。
このうち、
- type A,AB,B1は5年生存率が90%以上あり低リスク群
- type B2,B3は70%程度で高リスク群
と呼ばれます。
最終診断:胸腺腫(正岡分類Ⅰ期、type B1)
※手術後3年経過していますが、再発所見はありません。
関連:
【胸部】TIPS症例33の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
胸腺腫は基本、手術が選択されるんでしょうか?
そうですね。切除可能ならば基本手術が選択されます。
胸腺腫と回答しましたが悪性リンパ腫との区別がついていない状況です。おそらく近々来ると信じていますので、その時に学びたいと思います。今回の提示で区別がついていないことに気が付きましたのでためになりました。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
リンパ腫は近々来ないです(^_^;)
縦隔シリーズはこれで終わりです。
MRIが鑑別に有用ですね。
しっかり鑑別できたというよりは、他の鑑別疾患があまり浮かばず、よく見る胸腺腫として矛盾がないことから胸腺腫と答えられた感じでした。引き出しが相当少ないと自覚しました。
アウトプットありがとうございます。
画像のみでは難しいことが多いです。
まずは嚢胞性病変なのか充実性病変なのか、
脂肪を含有するのかや石灰化を含有するのかなどをチェックしましょう。
鑑別が多いですが,やはりどんな疾患でも頻度は重要ですね.
画像でわかること・わからないことを区別できるようにしたいと思います.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
好発部位もありますので、頻度は重要です。
画像的な特徴を拾えるところは拾いますが、どうしても限界がありますね。
最終的には生検となりますね。
CTで前縦隔腫瘍が見られた場合(今回は境界明瞭、内部は均一でいかにも良性という感じですが・・・)、MRIでの精査は基本的に必要なのでしょうか?(年齢等にもよるとは思いますが)
答えにくい質問で申し訳ありませんがよろしくお願いします…!
アウトプットありがとうございます。
>今回は境界明瞭、内部は均一でいかにも良性という感じです
ですね。形状からは良性が疑われます。
ただし、嚢胞とはCTではいえないため、MRIで内部の性状を精査したいところです。
明らかな嚢胞の場合は、サイズなどにもよりますがMRIで精査されずCTでフォローされることもありますね。
胸腺がんではないという判断はADCの低下がないことからでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
形状が辺縁平滑で円形、類円形、紡錘形で境界明瞭→低リスク胸腺腫(A型、AB型、B1型)の可能性が高い。特にA型はサイズが小さいことが多い。
MRIでほぼ全周性の被膜様構造が見られ、内部の隔壁様構造がはっきりしている場合は、低リスク胸腺腫が多い。
一方で、
内部に嚢胞変性、腫瘍壊死、出血などが混在し、内部不均一→高リスク胸腺腫や胸腺癌のことが多い
周囲臓器浸潤がある→高リスク胸腺腫や胸腺癌のことが多い
と報告されています。
今回は形状からも低リスクが疑われますね。
なお、高リスク胸腺腫と胸腺癌の区別は画像では難しいです。
こんにちは。本日もご解説ありがとうございます。
本日は、以下の点に注目して読影してみました!
①脂肪成分・石灰化成分の有無:T1 in phaseでもout of phaseでも信号強度は変わらないこと、脂肪抑制T1WIで脂肪抑制が認められないため、脂肪性病変の可能性は低く、また石灰化等もないので成熟奇形腫を除外しました。
②嚢胞成分の有無:明らかに嚢胞性ではなく、心膜嚢胞、胸腺嚢胞を除外しました。
③形状への注目:リンパ腫にしては、内胸リンパ節など他のリンパ節の腫脹が目立たず、可能性は低そうと判断しました。それに、腫瘍内部を貫通する血管や、腫瘤の癒合傾向なども認めらないのも典型的ではないのかなと思いました。
Hammer MM, Miskin N, Madan R, Hunsaker AR. Predictive Features for Anterior Mediastinal Mass Diagnoses. J Comput Assist Tomogr. 2019;43(1):98-103. doi:10.1097/RCT.0000000000000782
④部位への注目:thymomaは大動脈弓よりも下方に突出することは少なく、また曲線を描く石灰化像など典型像も呈していないことから可能性は低そうと考え、
胸腺腫が最も疑わしいとしました。
一つ一つ合致する点と合致しない点を照らし合わせながら読影するのは大変でしたが、時間の許す限り、面倒くさがらずやっていきたいです!
詳細なアウトプットありがとうございます。
④のthymomaは胸腺腫という意味ですが・・・。
①-③はその通りですね。
嚢胞ではない、奇形腫でもないと除外していくことが重要ですね。
失礼致しました…
thymomaをthyroid tumorと勘違いしておりました…
部位としては「大動脈弓より下」というよりは大動脈弓と同じくらいなので除外の根拠にはならなそうでした…
早く医学英語に慣れるよう努力します!
本日も勉強になりました。ありがとうございます。
胸腺過形成は、T1のin phase, opposed phase画像において有意な信号低下がないことから除外されるのでしょうか?他にも鑑別に役立つポイントがあればご教授いただければと思います。
アウトプットありがとうございます。
>胸腺過形成は、T1のin phase, opposed phase画像において有意な信号低下がないことから除外されるのでしょうか?
そうですね。MRIで内部に脂肪を含まないという点もそうですが、形状も今回は過形成の形状ではないですね。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/412
いつもありがとうございます。
提示された画像の種類の多さに圧倒されました^^; in phase, opposed phase 本当にMRIは撮影法が無限にありますね。
今回の病変は、DWIで高信号、ADCでの信号の低下ははっきりしないので、水の拡散運動は制限されていないという理解でいいですか?
では、DWIが高信号になっているのは何故なのでしょうか。。T2WIが高信号というわけでもないので、T2 shine throughでも無いでしょうし。。
アウトプットありがとうございます。
>今回の病変は、DWIで高信号、ADCでの信号の低下ははっきりしないので、水の拡散運動は制限されていないという理解でいいですか?
ですね。
>では、DWIが高信号になっているのは何故なのでしょうか。。T2WIが高信号というわけでもないので、T2 shine throughでも無いでしょうし。。
T2WIは水の高信号ではないですが、筋肉ほど低信号ではなくやや高信号ですね。
拡散制限は今回ないので、やはりT2WIの高信号を拾っていると考えますね。
とても勉強になりました。ありがとうございますm(__)m
勉強になりました。ありがとうございました。
基本的な質問で恐縮なのですが、inphaseとopposed phaseとは何か。どのような時に撮像するのかを教えていただけないでしょうか。よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
詳細は教科書を見ていただきたいですが、gradient echo法による化学シフトイメージング(chemical shift imaging)と呼ばれるものです。
脂肪の含有を調べるものと覚えておけばとりあえずOKです。
in→opposed で信号が落ちていたら(霜降り状の)脂肪を含有していると判断することができます。
縦隔や腹部のMRIや軟部腫瘍などの精査のためのMRIなどで撮影されます。
本日も勉強になりました。食道壁が肥厚しているように見えるのですが、このようなものでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
食道はとくに肥厚していないようですが、気になるスライスがあればおっしゃってください。
縦隔腫瘍はいっぱいあってめまいがしています。
まずは正常にはないものが写っていないか、
それはどこにあるのか、
それは膿瘍か充実性のものか、
石灰化を含んでいないかというところからのスタートですね。
リンパ節腫大との区別はわかりやすいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>縦隔腫瘍はいっぱいあってめまいがしています。
ですね(^_^;)
>まずは正常にはないものが写っていないか、
それはどこにあるのか、
それは膿瘍か充実性のものか、
石灰化を含んでいないかというところからのスタートですね。
おっしゃるとおりです。
>リンパ節腫大との区別はわかりやすいのでしょうか。
サイズが小さい場合など区別がわかりにくい場合もあります。