【胸部】TIPS症例29
【症例】20歳代男性
健診の胸部レントゲンで異常を指摘された。
画像はこちら
画像所見と診断は?
まず症例の前に、正常像を確認しましょう。
今回見ていただきたいところは、下行大動脈と左主肺動脈との間のAP windowと呼ばれる部位です。
正常だとこのAP windowは上のように鋭角をなし、含気を認めています。
その上で今回の症例のまずレントゲンから見てみましょう。
するとこのAP windowに濃度上昇を認めており、かつ含気を認めず、外に向かって凸になっていることがわかります。
ここはボタロー(大動脈下)リンパ節が腫大することで知られています。
今回はどうでしょうか?
次にCTを見てみましょう。
すると、前縦隔に大動脈、肺動脈、肺静脈に接する分葉状の嚢胞性病変を認めていることが分かります。
レントゲンとの比較は冠状断像がわかりやすいです。
冠状断像で、大動脈と左主肺動脈の本来含気を認める部位に嚢胞を認めており、これがAP windowを埋めて外側に凸の陰影をレントゲンで形成していたことが分かります。
さて今回、前縦隔に単房性の嚢胞性病変(分葉状構造一部あり)を認めています。
壁は薄く、充実部位や壁在結節は認めていないものです。
このような嚢胞でまず鑑別に挙げるべきは、
- 胸腺嚢胞
- 心膜嚢胞
- (嚢胞性奇形腫)
ということになります。
胸腺嚢胞は割と頸部寄りに認めることが多く、心膜嚢胞は右の心横隔膜角に認めることが多いと言う特徴はありますが、じゃあ今回はどちらなのかというのは画像だけでは判断できません。
診断:前縦隔嚢胞(胸腺嚢胞や心膜嚢胞などが鑑別に挙がる。)
※手術が施行されました。病理の結果は、胸膜嚢胞でした。
最終診断:胸腺嚢胞
※ちなみにAP windowの定義ですが、教科書などによって定義が少し異なります。
大動脈弓部の下縁と左主肺動脈とのなす角と記載している教科書もあり、その場合は、下の部分がAP windowに相当します。
さて、一つ参考症例を見てみましょう。
60歳代女性スクリーニングです。
右の心横隔膜角に単房性嚢胞性病変を認めています。
心膜嚢胞の好発部位です。
よし、心膜嚢胞の症例が見つかったので、次の症例で提示しようと病理を確認したところ・・・
胸腺嚢胞・・・・。
部位からどちらの確率が高いと言うことは言えても、画像だけでは、両者の鑑別は困難だと言うことがわかりますね。
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【胸部】TIPS症例29の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
右下葉の血管周囲の細かい粒状影について、血管奇形か否かの問題かと思いました。
XPのAP-windowについては全く気が付きませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>右下葉の血管周囲の細かい粒状影について、血管奇形か否かの問題かと思いました。
ではないです。確かに細かな粒状影がありますね。何らかの炎症の瘢痕だと思われます。
嚢胞の鑑別に迷いました。結局、決定的な所見がなかったので、「前縦隔嚢胞」として気持ち的に逃げごしに感じながら解答しましたが…参考例のような胸腺嚢胞が存在することを知ると、反対に、簡単に鑑別してはいけないと感じました。
アウトプットありがとうございます。
>参考例のような胸腺嚢胞が存在することを知ると、反対に、簡単に鑑別してはいけないと感じました。
ですね。前縦隔嚢胞以上は言及するのは厳しいですね。場所から、心膜嚢胞疑いとしても参考例のように胸腺嚢胞のこともありますので。
その後も探したのですが、心膜嚢胞ぽくても手術されずにフォローされている症例がほとんどで、結局病理学的にも証明された心膜嚢胞は見つけられていません(^_^;)
APwondowは有名ですが,あまり注目せずに読影してきたなあと思います.
今回もCTを見て気づいたのですが,普段から注目して読影が必要だなあと思いました.
アウトプットありがとうございます。
>APwondowは有名ですが,あまり注目せずに読影してきたなあ
そうですね。有名ですが実際異常だった所見を見る機会は意外と少ないかもしれません。
今回の症例はかなり目立つ症例だと思いますので、これくらいならば気づきたいですね。
CTであの部位にリンパ節腫大があったり、今回のような嚢胞がある場合は、逆にレントゲンではどうだったんだろうと見直すことも大事ですね。
こんばんは。本日もご解説ありがとうございました。
X線ではシルエットサインが陰性の所見から、S1+2,S3あたりの病変と考えました。
CTでは縦隔腫瘍のうち嚢胞性腫瘍というところまでで、みなさんと同じように細かい鑑別はしませんでした。
治療方針もさほど変わるものではないので、悪性リンパ腫などの充実性成分がないことを画像所見にて確認し、経過観察でよい病変とアセスメントしてみました。
アウトプットありがとうございます。
>CTでは縦隔腫瘍のうち嚢胞性腫瘍というところまでで、みなさんと同じように細かい鑑別はしませんでした。
そうですね。CT画像でわかることはここまでですね。
ありがとうございました。
私は補足で紹介してくださったようなAPWindowの定義しか知らなかったですが、正直、全然同定できず(正常例でも難しいです)、困っていました。
今回紹介してくださった定義はとても分かりやすく、使っていけそうです。冠状断のCTと見比べるととても分かりやすく、非常に勉強になりました。ありがとうございましたm(_ _)m
少し気になったのですが、レントゲンにおいて、第一肋骨と第5後肋骨の交点で見られる陰影は、肋軟骨部によるものなのでしょうか?
症例2ほど高吸収ではないので、石灰化というほどでもないのかなと思ったのですが。。
症例2の画像↓
https://imaging-diagnosis.com/view/a4ZqtDns
アウトプットありがとうございます。
>私は補足で紹介してくださったようなAPWindowの定義しか知らなかった
こちらの方が有名ですね。
>少し気になったのですが、レントゲンにおいて、第一肋骨と第5後肋骨の交点で見られる陰影は、肋軟骨部によるものなのでしょうか?
症例2ほど高吸収ではないので、石灰化というほどでもないのかなと思ったのですが。。
症例2と同じ原因だと思いますよ。
若年でもなるんですね。
ありがとうございましたm(__)m