
症例13
【症例】20歳代女性
【主訴】発熱、右腹痛
【身体所見】体温39.7℃、右側腹部に限局して圧痛、反跳痛あり。CVA tenderness右であり。
【尿所見】白血球3+
画像はこちら
腹部造影CTです。
右腎に淡い造影不領域を複数認めています。
楔(くさび)型に見える部位もあります。
ただし、腎周囲の脂肪織濃度上昇や腎腫大ははっきりしません。
右腎盂腎炎と診断されました。
また膀胱壁も厚く、膀胱炎を伴っている可能性があります。
腎盂腎炎→CTで異常所見が必ずある! というわけではないので注意が必要です。
CTで所見があるのは25%程度とも言われ、基本的に画像ではなく、
- 臨床症状
- 尿検査・採血
などで診断をします。画像はあくまで補助的なものです。
今回は造影CTが撮影されましたが、単純CTのみの撮影の場合、腎盂腎炎を疑う所見は見られなかったと推測されます。
腎盂腎炎では画像はあくまで補助的なツールと覚えておきましょう。
診断:右腎盂腎炎(正確には急性巣状細菌性腎炎(AFBN:acute focal bacterial nephritis)相当)
その他所見:
- とくに左葉で肝のサイズ目立ちますが、20歳代であり、有意ではなさそうです。
- 右副腎偶発腫あり。
症例13の動画解説
急性腎盂腎炎の画像所見
症例13のQ&A
- 腎盂腎炎で造影CTまで撮ることがあまりなく、書籍ではなく画像データとして見るのは初めてだったのですごく面白かったです。ありがとうございます!
- それはよかったです。
単純CTではおそらく所見がない症例ですので、目に焼き付けてください。
- 腎盂腎炎の造影像は楔状に造影されていない部分が見られること知らなかったので勉強になりました。
- 必ずしも楔状ではないですが、覚えておいてください。
- 腎梗塞との鑑別はどうしたらよいのでしょうか
- 臨床像、既往歴からまず通常は異なります。
画像としては、梗塞はより低吸収域が強い傾向があります。
あとは、cortical rim signというものが見られやすいのが梗塞です。
- 膀胱壁も分厚い様に思いましたが、慢性的な膀胱炎があるのでしょうか?
- おっしゃるように厚く、その可能性がありますね。
膀胱壁が肥厚する病態
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/12102
- 腎盂腎炎は結石性のものだと勘違いしており、血尿や腎盂の拡大などがあって欲しいと考え、別の疾患を考えてしまいました。
- 男性の場合は、結石などを考慮しなくてはなりません。
- 腎盂腎炎は単純CTで周囲脂肪織濃度上昇などの所見がなくても否定は出来ないのですね。勉強になりました。
- そうですね。所見が強い場合のみ単純CTでわかります。
- 血管内の造影剤を結石と読んでしまいました。臨床では結石は単純でチェックします・・というのがいいわけで、連続性などをみると確かに違いますね。
- いえ、おっしゃるように、単純があれば単純との比較やない場合は、濃度を変えて結石なのか造影剤なのかを判別しないといけないこともあります。
- はじめ一応低吸収域で、腎梗塞??とは感じたものの、まったく異なる所見でとってしまいました。
- 画像からは、腎梗塞も鑑別に挙がりますが、臨床所見や画像所見がやや異なりますね。
ただ画像で鑑別が困難なこともときにあります。
- 腎と膀胱壁の異常や発熱から尿路感染症を疑ったのですが、CT画像の特徴理解していなかったので、腎膿瘍と回答してしまいました。腎盂腎炎、AFBN、腎膿瘍の特徴を覚えておきたいと思います。
- 膿瘍の場合は、液貯留として認め、壁の造影効果を認めます。今回はそこまでには至っていませんね。
腎盂腎炎とAFBNを鑑別する意義は微妙ですが、分類されることがあるので覚えておいてください。
- スライス32・33の右腎と肝臓の間が周囲の脂肪よりやや高吸収に感じたのですがこれは脂肪織濃度上昇ですか?
スライス68で子宮の両側(左はやや背側)にあるものが付属器ですか?
スライス30において右腎の拡張している尿管は腎盂と表現すればよいですか?
スライス64において直腸の10時方向に少量の腹水があると思ったのですが正しいでしょうか。 - >スライス32・33の右腎と肝臓の間が周囲の脂肪よりやや高吸収に感じたのですがこれは脂肪織濃度上昇ですか?
おっしゃるとおりです。軽微ですが、周囲に少し炎症波及を示唆する所見ですね。
>スライス68で子宮の両側(左はやや背側)にあるものが付属器ですか?
おっしゃるとおりです。卵巣です。
>スライス64において直腸の10時方向に少量の腹水があると思ったのですが正しいでしょうか。
これはちょっと周囲の腸管内の可能性もありやや微妙ですが、確かに少量腹水を認めている可能性はあります。
- 両側の腎盂(右優位)が拡張しているように見えたのですがこれは有意な所見ではないですか?
泌尿器科で、膀胱炎に両側水腎症を認めることがあり、炎症の波及による尿管の蠕動の低下による説が提唱されていると耳にしたことがあります。 - 確かに右腎盂が拡張しているように見えますが、腎杯の拡張は認めておらず腎外腎盂が疑われますね。
ただし、この拡張している腎盂にも壁の造影効果を認めており、炎症の存在を示唆する所見ですね。腎外腎盂についてはこちら
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5542
- 右腎の低吸収が肝まで繋がっている様に見えたため、アーチファクトかなと答えが出せないものを都合よく除外してしまいました。後で冠状断を見返せば数か所の区域性低吸収が良く認識出来ました。
- たまに染まり方のムラでわかりにくいこともありますが今回のは次からは指摘したいですね!
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
壁がやや染まって見えたので、腎外腎盂(この用語を初めて知りました!)を腎膿瘍と間違えました。腎膿瘍であれば、多分、周囲の脂肪織濃度の上昇も必発ですよね。
それとは別に、右副腎に造影効果の低い腫瘤ありでしょうか(横断18,冠状断32-33)。
アウトプットありがとうございます。
>腎膿瘍であれば、多分、周囲の脂肪織濃度の上昇も必発ですよね。
腎嚢胞であれば腎盂側ではなく腎実質側に膿瘍を形成することが多いです。
>それとは別に、右副腎に造影効果の低い腫瘤ありでしょうか(横断18,冠状断32-33)。
ありますね・・・。ありがとうございます。追記します。
不染領域は指摘できましたが、腎梗塞にしては症状や尿所見が合わないなと思い、腎外腎盂(初めて知りました)についてもどう解釈したらよいかわからず、腎盂腎炎という診断に至りませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>腎梗塞にしては症状や尿所見が合わないなと思い、
ですね。
腎梗塞の場合はもっと造影不領域が明瞭なことが多いですし、症状などが合致しません。
>腎外腎盂(初めて知りました)についてもどう解釈したらよいかわからず
割と見られますので、水腎症や傍腎盂嚢胞などと混同しないようにしましょう。
判断に迷うこともありますが。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5542
お世話になっております。いつも楽しく勉強させていただいております。
今回造影CTを撮る判断になったのは、発熱、右下腹部圧痛、腹膜刺激徴候があったため、急性腹症も考慮して~という流れでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>発熱、右下腹部圧痛、腹膜刺激徴候があったため、急性腹症も考慮して~という流れでしょうか。
そうですね。憩室炎や虫垂炎なども考慮されたのだと思います。
症例のプレゼンテーションから腎盂腎炎を疑いましたが、CTでこのように造影不良域がみられるのは初めてです。造影検査まで行っていなかったので今まで気づいていなかっただけかもしれません。これはエコーでも見られるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>造影検査まで行っていなかったので今まで気づいていなかっただけかもしれません。これはエコーでも見られるのでしょうか。
エコーでは、腎腫大、腎周囲の変化は見られるかもしれませんが、造影剤は用いないので造影不良は見られません。
肝臓が脾臓の腹側あたりまで見えるのですが、肝腫大があったり、肝臓が大きいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
確かにサイズが少し大きく見えますが20歳代ですので正常範囲です。
腎盂腎炎を疑った時には造影CTではなく、単純CTがオーダーされることが多いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
腎盂腎炎を臨床的に疑う場合は、そもそもCT自体が撮影されることが勧められていません。
身体所見、尿所見、採血データなどで診断されることが多いためです。
またCTで所見がない→腎盂腎炎がないとは全然言えません。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/archives/1361
傍腎盂嚢胞まで知っていたのですが、腎外腎盂というワードとあのように見え方になるとは知りませんでした。
今後はうっかり膿瘍と言わないように気を付けます。
アウトプットありがとうございます。
腎外腎盂は水腎症と紛らわしいことがありますので、注意しましょう。
いつも分かりやすい解説ありがとうございます。
腎盂腎炎と水腎症の画像の違いを教えてください。
アウトプットありがとうございます。
ともに腎周囲の脂肪織濃度上昇を起こす点や腎腫大を認めることがある点は同じです。
ですが、水腎症の場合は、腎杯〜腎盂が拡張します。
腎盂腎炎の場合は、水腎症を認めないこともありますが、水腎症を認めている場合は、単純CT画像からだけでは炎症を合併している腎盂腎炎なのかはわかりません。
造影をすると腎盂腎炎は楔状や斑状の造影不良域を認めることがありますが、水腎症の場合は患側の腎全体に造影遅延が起こる点で鑑別は可能です。
画像以前に、身体所見や尿所見、採血結果も重要となります。