【胸部】症例29
【症例】70歳代男性
【主訴】喘鳴、右胸痛
【現病歴】気管支喘息で当院かかりつけ。本日22時頃より、突然の喘鳴、右胸痛の出現あり、救急外来受診。
【既往歴】右肺炎、気管支喘息、胆のう炎、口唇ヘルペス、脳幹梗塞・出血
【生活歴】喫煙:60本/日×30年(20-50歳)、飲酒なし。
【身体所見】意識清明、RR 20、SpO2 90%(RA)、wheezeあり、右肺coarse cracklesあり。四肢浮腫なし。血液ガス(RA):pH 7.440、pCO2 34.6、pO2 53.2
【データ】WBC 7500(Neu 87.4%)、CRP 0.17
画像はこちら
実は半月前のレントゲン、CTがあります。
これを見ると元々、気腫性変化および気管支壁の肥厚があることがわかりますね。
喘息でかかりつけであるため、気管支壁の肥厚は喘息によるリモデリングを反映していると考えることができます。
では今回の画像はどうでしょうか?
まずレントゲンを見てみましょう。
右下葉内側優位に浸潤影を認めています。
右心陰影は追えますがやや不明瞭です。
復習ですが、右のS5に心臓に接する病変がある可能性があります。
次にCTを見てみましょう。
すると、中葉に広範な浸潤影を認めていることがわかります。
内側のS5優位で心臓にも一部接していますが、通常見るような気管支肺炎パターン、大葉性肺炎パターンとは少し異なり、プツプツとairを認めています。
これはベースに気腫性変化があるためであり、気腫性変化をベースに肺炎が起きるとこのようにあたかもスイスチーズのようだということで、swiss cheese appearanceと呼ばれます。
※レントゲンで右の心陰影が完全に消えていないのはこのような気腫性変化がベースにあり、一部は心臓と接していない部位もあるためと考えられます。
また胸膜にも炎症は到達していると考えることができ、疼痛の原因は胸膜炎を起こしているからだと推測されます。
診断:(ベースに気腫性変化がある)中葉肺炎+胸膜炎
※血液検査で炎症反応の上昇に乏しいが、超急性期のためと考えられました。(入院2日後の採血では、CRP 17.70と上昇しています。)
また、尿中肺炎球菌抗原:陽性であり、その後血液培養2セットから、Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)が検出されました。
ABPC/SBT 3.0g×3回/dayで治療を開始しましたが、血液培養で肺炎球菌が検出されたため、侵襲性肺炎球菌感染症と診断し、届け出を行いました。
ペニシリン(PCG)にde-escalationし、経過は良好で、退院となりました。
※肺炎球菌は、大葉性肺炎パターンを呈する代表的病原体ですが、今回のように気腫性変化がある場合は、ベターっとした均一な浸潤影ではなく、swiss cheese appearanceを示す点に注意しましょう。
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【胸部】症例29の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
網状影と判断し、間質性肺炎?
小葉間隔壁の肥厚?としてしまいました。
気腫性変化の肺に肺炎が起こると
通常のべったりとした浸潤影にはならないのですね。
今日もありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>通常のべったりとした浸潤影にはならないのですね。
おっしゃるとおりです。チーズのようになると覚えておきましょう。
swiss cheese sign知りませんでした。浸潤影+気腫性変化というのは、意識して見ると臨床ではよくありそうな組み合わせですね。
CRP上昇にも乏しく、難しい症例でした。
アウトプットありがとうございます。
>浸潤影+気腫性変化というのは、意識して見ると臨床ではよくありそうな組み合わせですね。
そうですね。swiss cheese signとは表現しなくても意外とある所見ですね。
普通に肺炎と診断してて、言われてみれば確かにswiss cheese signだなと言うことも多いですね。
私も間質性肺炎と思い急性増悪したと思いました。胸膜炎もそれに付随したかと。ベースの気腫肺というのは今回厳しかったです。
上葉も含め気腫肺ですね。安易でした
アウトプットありがとうございます。
そうですね。今回の小葉中心性肺気腫は上葉優位に起こりますので、合わせて覚えておきましょう。
率直に、臨床に即した良い問題と思いました。「ベースに肺気腫があると肺炎の見え方が違う」というのは、普段画像を見ていると良く見かける症例ですが、実際、見慣れないと(当院には放射線科医がいないので)専門外の医師からたまに相談されることがあります。
アウトプットありがとうございます。
>「ベースに肺気腫があると肺炎の見え方が違う」というのは、普段画像を見ていると良く見かける症例
ですね。むしろswiss cheeseとも呼ばれていることの方が知られていないかもしれないですね。
>実際、見慣れないと(当院には放射線科医がいないので)専門外の医師からたまに相談されることがあります。
そういうときに正常変異なども含めて経験が重要ですね。
救急では高齢者の肺炎で比較的よく見るような画像でしたが、確かにチーズですね。
肺炎球菌性肺炎でもこのような像を来すことは経験しておかなければ、他の病気の可能性を考えてしまいそうです
アウトプットありがとうございます。
>救急では高齢者の肺炎で比較的よく見るような画像でしたが、確かにチーズですね。
見慣れていれば、よく見る画像ですね。むしろ、「これをチーズというのか。確かにそうではあるけど、よくある画像だけどな」と思うかも知れません。
肺気腫がベースにあるとこうも画像は変わるものなんですね。面白かったです。勉強になりました。今日もありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。気腫がある場合は、肺炎だけでなく、肺癌も炎症のような形で発生したりするので注意が必要です。
症例ありがとうございます。
病歴は60pack-yearと多喫煙歴で気腫性変化がありBA治療中の、ベースにCOPDがある高齢者。
所見は左方移動はあるがWBC正常範囲内とCRP低値で、換気障害と喘鳴認め、中葉のすりガラス影と以前学んだcrazy paving patternを呈しているのではと、”ウイルス性肺炎とそれに伴うBA増悪”と自信をもって答えましたら、思いっきり間違ってました(笑)
肺気腫+肺胞性肺炎=swiss cheese appearance 知りませんでした。
勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>”ウイルス性肺炎とそれに伴うBA増悪”
おっしゃるように細菌性肺炎としてはコンソリデーションが不均一なので、非定型肺炎を考えてしまいがちですが、肺気腫+肺胞性肺炎=swiss cheese appearanceを是非覚えておいてください。
Swiss cheese appearanceと間質性肺炎の蜂巣肺は類似すると説明にありましたが、見分け方はありますか?
アウトプットありがとうございます。
>Swiss cheese appearanceと間質性肺炎の蜂巣肺は類似する
類似するというよりは、稀に類似することがあるというのが正しいですね。
Swiss cheese appearanceはbaseに肺気腫がありますので、他部位をよく観察して気腫性変化がないかをチェックします。
蜂巣肺の場合は、下葉の胸膜直下に生じることが通常で、牽引性気管支拡張を伴っていたりします。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5728
炎症反応があまり上がっていないのは初期だからでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。症状が出てすぐ来られているので遅れて上がってくると考えられます。
Swiss cheese appearance… 知りませんでした。93スライス(リンパ節?)の石灰化を見て安直に結核によるものと判断してしまいました。これを機に覚えておきます!
93,94スライスの中間気管支幹分岐部辺りに見えている石灰化はどう判断されますか・・・?
アウトプットありがとうございます。
>93,94スライスの中間気管支幹分岐部辺りに見えている石灰化はどう判断されますか・・・?
おっしゃるようにリンパ節の石灰化ですね。
old Tbの可能性を考えますが、ここだけに石灰化を認めていますね。
見るのは2回目ですが間違えました!
線状影、網状影が胸膜直下まで達しているので間質が炎症で達していると思い、間質性肺炎を疑いました。
実際には肺炎が進行して
胸膜まで達していて、肺気腫が原因で線状影、網状影が胸膜に達しているように見えていたのですね…
正解するまで受講します!
アウトプットありがとうございます。
>間質性肺炎を疑いました。
間質性肺炎の場合は、中葉のみに生じるわけではないので、陰影が強くないところをチェックする、特に両側下葉の陰影がどうかをチェックしましょう。
>実際には肺炎が進行して胸膜まで達していて、肺気腫が原因で線状影、網状影が胸膜に達しているように見えていたのですね…
おっしゃるとおりです。
浸潤影~crazy paving patternとしてしまいました。crazy paving patternはもう少し濃度が低くて細かい感じでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>浸潤影~crazy paving patternとしてしまいました。crazy paving patternはもう少し濃度が低くて細かい感じでしょうか?
画像からの表現としてはcrazy paving patternでも間違いではないのですが、肺気腫がベースにある場合はあまり使わない用語ですね。
いつもありがとうございます。今更ながら「胸膜の肥厚」について教えていただきたいのですが、CT106~108で右背側に胸膜肥厚ありと思ったのですが、肋骨の上の灰色の部分が胸膜でよろしかったでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>今更ながら「胸膜の肥厚」について教えていただきたいのですが、CT106~108で右背側に胸膜肥厚ありと思ったのですが、肋骨の上の灰色の部分が胸膜でよろしかったでしょうか?
CT106~108で右背側のものは微妙で、(解説では胸水はなしとしているのですが)少量の胸水の可能性がありますね。
>肋骨の上の灰色の部分が胸膜でよろしかったでしょうか?
肥厚すると同部が胸膜なのですが、少量胸水や受動性無気肺、胸膜肥厚は鑑別困難なことがあります。
突然の胸痛ということで、感染症よりも血管病変などを1stに考えてしまいました。SMAの基部が石灰化で塞がれたように見えたのは気のせいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>突然の胸痛ということで、感染症よりも血管病変などを1stに考えてしまいました。
確かに症状からは血管系を疑ってしまいますね。
>SMAの基部が石灰化で塞がれたように見えたのは気のせいでしょうか?
動脈硬化によるものですが、もっと石灰化が目立つ症例もしばしばあります。
塞がれているかどうかは単純では判断できませんね。
いつも大変勉強になります!
画像診断とは趣旨がずれるかもしれませんが、1つ質問がございます。画像からは肺炎ないしCOPD急性増悪かと考えましたが、突然悪化する経過、気管支喘息の既往、wheezeの聴取などから、喘息・COPDオーバラップ(ACO)はどうかな?と考えました。
どちらかといえば画像所見より臨床経過・所見や呼吸機能検査からの判断になるのかなとも考えましたが、いかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>どちらかといえば画像所見より臨床経過・所見や呼吸機能検査からの判断になるのかなとも考えましたが、いかがでしょうか?
おっしゃるとおりです。画像だけで判断するものではありません。
>画像からは肺炎ないしCOPD急性増悪かと考えましたが、突然悪化する経過、気管支喘息の既往、wheezeの聴取などから、喘息・COPDオーバラップ(ACO)はどうかな?と考えました。
おっしゃるようにACOはあるかもしれません。
ただし画像からはACOとは判断できませんね。
ACOではCOPDのみの症例と比べるとair trappingが有意に多いと言う報告はあるようですが。