【胸部】症例28
【症例】80歳代女性
【主訴】発熱
【現病歴】1週間前より発熱、倦怠感あり。昨日近医受診し、胸部X線にて異常陰影を指摘され、ロセフィンの点滴を受けた。精査目的で紹介受診となる。
【既往歴】なし
【生活歴】喫煙なし、飲酒なし、粉塵ばく露なし。
【身体所見】意識清明、BT 37.1℃、BP 127/70mmHg、SpO2 96%(RA)
【データ】(前日他院分)WBC 5200、CRP 3.6、Hb 12.2、PLT 38.7万
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まず胸部レントゲンから見てきましょう。
すると左肺が真っ白であることにまず目が行きます。
大量胸水を疑う所見です。
右側への縦隔の偏位はほぼ認めていません。
また、右優位に両側肺尖部に結節影を認めています。
次にCTを見てみましょう。
左にのみ大量胸水を認めています。
一部胸膜の肥厚を認めています。
左下葉や舌区の一部は無気肺となっています。
両側の肺尖部〜上葉には陳旧性の炎症性瘢痕を疑う所見を認めています。
明らかな活動性肺炎は認めません。
左上葉では石灰化を伴っています。
今回胸水は片側性であり、また心不全を疑うような心拡大も認めていません。
心不全(症例13)や低蛋白血症による胸水貯留は一般に両側性で、今回のように大量に貯留することは通常ありません。
胸膜病変(細菌性、結核性、癌性など)が疑われ、胸水の精査が必要となります。
診断:左大量胸水→なんらかの胸膜病変が疑われ、胸水の精査が必要
※精査加療目的で呼吸器内科に入院となり、胸腔ドレナージが施行されました。
胸水は
- 滲出性胸水
- リンパ球優位
- ADA 52.8と上昇あり
採血では、
- 腫瘍マーカーは陰性
- 自己抗体陰性
- IGRA(結核菌特異的IFN-γ) 陽性
喀痰(3連痰)・胸水の培養からは抗酸菌は検出されませんでしたが、これらの結果から結核性胸膜炎と診断されました。
これを受けて入院6日後より、結核治療が開始されました。
胸水はドレナージされ、入院16日後に退院し、外来で加療が続けられました。
最終診断:左結核性胸膜炎(左結核性胸水)
【胸部】症例28の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
この症例は、重力に逆らった被包化された胸水として、膿胸とは表現できないのですか?
アウトプットありがとうございます。
膿胸の可能性があると言ってよいと考えます。
結果、膿汁はドレナージされなかったですが。あくまで結果論です。
膿胸の一辺倒でなく、胸膜の癒着による可能性も頭に入れて起きます。ありがとうございました。
肺尖病変の痕や石灰化で結核の可能性を考えなければいけませんでした。確定診断は臨床検査としても画像から予測はできたのですね。私も胸水より膿かと思ってしまいました。
アウトプットありがとうございます。
結核の可能性は常に考慮に入れなければならないという点を今回認識していただければ幸いです。
ただし、結核性胸膜炎一本釣り(これだけで結核疑いとする)をするのは微妙ですね。
画像だけではやはり、左大量胸水→なんらかの胸膜病変が疑われ、胸水の精査が必要 くらいが限界かと考えます。
今日もありがとうございます。
前回からのつながりもあり最初から結核の可能性を考えましたがやはり画像だけで最終診断までは厳しいんですね。
ただ今回のような症例は何度か見かけたことがあるので胸水や胸膜肥厚の影に隠れた結核の痕跡を次からは意識したいと思います。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。画像だけで最終診断は厳しいですね。
>胸水や胸膜肥厚の影に隠れた結核の痕跡を次からは意識したいと思います。
ですね。加えてリンパ節腫大など手がかりがないかを見るようにしましょう。
結核性胸膜炎の頻度が想像以上に多くてびっくりしました.
ですね。一側性の胸水を認めた場合、常に念頭に置く必要がありますね。
膿胸としてしまいました。
画像所見だけでは胸水か膿か見分けるのは難しいのでしょうか?
また、無気肺の見方を教えて頂きたいです。
アウトプットありがとうございます。
>画像所見だけでは胸水か膿か見分けるのは難しいのでしょうか?
隔壁構造や胸膜の肥厚が強い場合は膿胸の可能性がありますが、難しいこともしばしばあります。
今回は、凸レンズ状の液貯留を認めていますので画像から膿胸を疑ってもよいと思います。
救急外来などでこのような場合に「胸水あり!終わり。」ではなく、精査の方向に持って行くことが重要だということですね。
>また、無気肺の見方を教えて頂きたいです。
ちょっと漠然とした質問ですが、胸水によって肺野が圧排されると押しつぶされて受動性無気肺を形成します。
含気のない肺野が多くなれば葉単位で無気肺となることもあります。
今回は特に左の下葉はかなり押しつぶされており、無気肺の領域が多いですね。
本日もありがとうございました。
すみません。すごく基本的なことだと思うのですが、確認させてくださいm(_ _)m
前回の症例は、split pleural signが見られたので、胸腔に溜まった胸水だろうと判断できました。
今回の症例では、(CT画像75枚目等で)胸膜と胸水の濃度がほぼ同じように見え、区別が難しく、split pleural signとは言えないのかなと思いました。
では、なぜ胸腔に溜まった胸水と判断できるのか?
陰影の辺縁が滑らかになっていることから判断できるのかなと思いました。(肺内の病変だったらそんな風にはならなさそうです)
それと他の方も質問されていますが、私も膿胸としてしまったので、膿胸と胸水をどう見分けたらいいのか知りたいです!
アウトプットありがとうございます。
>今回の症例では、(CT画像75枚目等で)胸膜と胸水の濃度がほぼ同じように見え、区別が難しく、split pleural signとは言えないのかなと思いました。
ちょっと難しいかもしれませんが、このスライスの胸水は周りの筋肉と比較すると低吸収ですよね。
なので、このレベルでは胸膜がはっきりせず、胸膜と胸水の濃度がほぼ同じというよりは、いずれも胸水のみを見ていると考えた方がよいです。
胸水と胸膜が同じ濃度であればそれは液貯留ではなく何らかの腫瘤が存在しているということになりますので。
CT値を測定したり、造影CTがあればその辺りはより明瞭になると思いますが。
>私も膿胸としてしまったので、膿胸と胸水をどう見分けたらいいのか知りたいです!
膿胸疑いとしてもよいと思います。
癒着を伴った胸膜炎による胸水と膿胸は画像だけでは鑑別は難しいと考えます。
お忙しい中、ありがとうございます。
なるほど。今回のように胸膜がはっきりしない場合もあるし、前回の症例のように胸膜が肥厚してしっかり見える場合もあるということですね。
やはり陰影の辺縁の形で胸腔内の病変だと判断するのが良さそうですね。
「腹側に胸水がたまるということは癒着をしている」とありましたが、具体的には何と何が癒着している状態なのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
臓側胸膜と壁側胸膜の癒着です。
残すところ2症例となりました。長い期間ありがとうございます。
質問なのですが、全肺野にわたって肺動脈と小葉間隔壁が目立つように感じたのですが、読み過ぎでしょうか。
あとは、両側上肺野優位の線状無気肺(? 陳旧性炎症性瘢痕 のほうが表現として適切ですか?)+肺内の石灰化病変を踏まえると、結核既往にあるのでは・・・・?となる画像だったのでしょうか?
細菌性肺炎±胸膜炎しか思いつかず、今後は結核性胸膜炎を忘れずにいようと思います。
アウトプットありがとうございます。
>全肺野にわたって肺動脈と小葉間隔壁が目立つように感じたのですが、読み過ぎでしょうか。
肺動脈は確かにやや目立ちますね。
小葉間隔壁の肥厚は肺尖部で一部そのよう見えますが、陳旧性炎症性瘢痕で特に左側では胸膜肥厚や器質化肺炎のようなそれ以外の陰影も見えており有意ではないと考えられます。
>両側上肺野優位の線状無気肺(? 陳旧性炎症性瘢痕 のほうが表現として適切ですか?)+肺内の石灰化病変を踏まえると、結核既往にあるのでは・・・・?となる画像だったのでしょうか?
陳旧性炎症性瘢痕でまとめてよいと思います。おっしゃるように左肺尖部に石灰化を認めており、陳旧性結核性変化が疑われます。
>細菌性肺炎±胸膜炎しか思いつかず、今後は結核性胸膜炎を忘れずにいようと思います。
そうですね。結核性の頻度も少なくないので、鑑別に挙げましょう。
基本的なことかもしれず恐縮ですが陳旧性結核性変化の画像所見についてお聞きしたいです。
肺尖部に主に認める細気管支での線状の無気肺といった所見なのでしょうか?
今回の症例にはないのですが、間質性肺炎を背景肺に認める患者において、陳旧性炎症性変化なのか上葉の間隔壁肥厚(上葉にのIPがあるパターン?)なのか判断にに迷うことがありました。特徴的な所見についてございましたらご教授お願いします。
アウトプットありがとうございます。
>肺尖部に主に認める細気管支での線状の無気肺といった所見なのでしょうか?
肺尖部の陰影は、おっしゃるように陳旧性の細気管支炎に加えて、胸膜肥厚、器質化肺炎、石灰化肉芽腫などが混在していると考えられ、まとめて「陳旧性炎症性瘢痕」や「陳旧性胸膜肥厚」などと記載されることが多いです。
>間質性肺炎を背景肺に認める患者において、陳旧性炎症性変化なのか上葉の間隔壁肥厚(上葉にのIPがあるパターン?)なのか判断にに迷うことがありました。
具体例を見てみないと何とも言えないところはありますが、間質性肺炎ならば胸膜直下に網状影などの線維性変化を認めるのが特徴です。また頻度として上葉のみに間質性肺炎を認めると言うことは少なく、上記の陳旧性炎症性変化が圧倒的に多いのでほとんどは後者です。
確かに、特発性上葉限局型肺線維症として網谷病というのが知られていますが、頻度は少ないです。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5808
胸水は背側に貯まるものとしか思ってませんでした、癒着して腹側に貯まることもあるんですね。
「静水力学的な機序による漏出性胸水・炎症性機序による滲出性胸水」について、いまいち機序が理解できません。稚拙な質問で申し訳ありませんが、わかりやすい解説をお聞きしたいです。
アウトプットありがとうございます。
>癒着して腹側に貯まることもあるんですね。
そうですね。被包化胸水と呼ばれることもあります。
>「静水力学的な機序による漏出性胸水・炎症性機序による滲出性胸水」
一つ前の症例27の動画でも少し解説しています。
1、静水圧が高くなるとリンパ管が水分を回収しきれなくなり溢れてくるのが漏出性胸水(静水力学的以外にも血漿膠質浸透圧の低下も漏出性胸水を引き起こします)
2、何らかの炎症により血管透過性が亢進して溢れてくるのが滲出性胸水
となります。
1、コップの容量で間に合わない水を注ごうとするので溢れる
2、コップに穴が開いているので出て行く
というイメージです。