【胸部】症例30

【胸部】症例30

【症例】80歳代女性
【主訴】発熱
【現病歴】中枢神経原発悪性リンパ腫(DLBCL)の診断で血液内科にて入院中。1週間前より、Bonn protocolによる治療を開始していた。2日前より37℃前半のspike熱認めていたが、昨日より37.8℃の熱発あり。
【身体所見】意識清明、BT 38.1℃、BP 139/76mmHg、HR 96bpm、SpO2 99%(RA)

【データ】WBC 2600、CRP 10.61、βーDグルカン 63.74(11以下)

画像はこちら

右下肺野に5cm大の腫瘤影を認めており、周囲にはすりガラス影を認めています

また右内頚静脈からCVカテーテルの留置があることがわかります。

心陰影の拡大を認めますが、ポータブルで半坐位ですので有意ではない可能性があります。

非提示でしたが、10日前の画像があります。10日前にはこのような腫瘤影は存在していなかったことがわかります。

次にCTを見てみましょう。

右下葉に5cm大の腫瘤影を認めており、周囲にはすりガラス影(いわゆるCT halo sign)を認めています。

サイズ大きいですが、いわゆる気道散布性病変である肺炎像とは異なり、単発の腫瘤が出現したといえます。

悪性リンパ腫に対して化学療法中という免疫抑制患者でβーDグルカンの上昇を認めており、このような結節影や腫瘤影を認めた際に考えなければならないのが、

 

侵襲性肺アスペルギルス症(血管侵襲性)

 

です。

※感染の場合、通常の細菌性肺炎で結節が主病変となることは極めてまれであり、敗血症性塞栓(症例9)やノカルジア症にほぼ限定されます(画像診断 Vol.39 No.13 2019 P1396)。

※レントゲン、CTでアスペルギルス感染が疑わしいと考えられ、ファンガードからアムビゾームに変更されました。

※その後、数日してアスペルギルス抗原は陽性と結果が出ました。

 

2週間後CTです。

すると、右下葉に認めた腫瘤内に三日月状の空洞が出現していることがわかります。

いわゆるair crescent signです。

これは、2-3週間後の好中球が回復する時期には、内部の凝固壊死巣に接する組織へ好中球が浸潤し、弧状の膿瘍形成が起こるために見られる所見で、これが見られないと予後不良とされる。

つまりこの空洞が見られた方が予後がよいと言われています。

この時点では、βーDグルカンは正常範囲内まで低下しています。

入院当日(来院時)βーDグルカン 63.74(11以下) ←初回CT撮影時
5日後 βーDグルカン 14.7(11以下)
15日後 βーDグルカン 9.15(11以下) ←2週間後CT撮影時
29日後 βーDグルカン 6.95(11以下)

ですので、アスペルギルスは鎮静化していると考えられますが、肺うっ血所見に加えて、前回認めていない浸潤影も出現しており、細菌感染合併が考えられました。

—————————————————

入院3ヶ月後、頭部MRIで脳の悪性リンパ腫の増大あり、意識状態悪化し、CO2貯留認めBiPAP装着。

入院から4ヶ月後、突然の頻脈と血圧低下、尿量低下あり。輸血、アルブミン製剤敷施行も改善なく徐々に循環動態が悪化。血圧維持困難となり、酸素状態も悪化し、永眠されました。

関連:

【胸部】症例30の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。