【胸部】症例26
【症例】30歳代女性
【主訴】呼吸困難
【現病歴】3日前より鼻汁、喀痰、咳嗽あり。今朝より呼吸困難を自覚。16時頃にクラリネット演奏中に症状が増悪し、救急外来受診。
【既往歴】小児喘息、季節の変わり目など年に数回は喘鳴を自覚していたが定期的な治療を行ったことはない。最終発作は2ヶ月前。虫垂炎
【アレルギー】複数のアレルゲンあり
【内服薬】なし
【生活歴】飲酒:機会飲酒のみ、喫煙:5本×9年、現在は禁煙中。
【身体所見】意識清明、SpO2 98%(RA)、BT 37.4℃、HR 89bpm、BP 114/68mmHg、RR 16回、両肺野にwheeze++、四肢浮腫なし、皮疹なし。
【データ】採血なし。
画像はこちら
レントゲンでは特記すべき異常所見を認めていません。
(縦隔気腫もちょっと今回は指摘できないと考えます。)
次にCTを見てみましょう。
頸部および縦隔に気腫を認めていることがわかります。
また気腫に加えて、両側の気管支壁がやや肥厚していることが分かります。
気管支喘息(によるリモデリング)に矛盾しない所見です。
他、急性気管支炎や慢性気管支炎による変化の可能性もあります。
冠状断像で見てみると、頸部から縦隔に連続する気腫の様子がよく分かります。
また気管支壁の肥厚もよくわかります。
またよく見ると右優位に両側中枢側にすりガラス影を認めています。
これは、いわゆるmosaic patternであり、閉塞性肺疾患の存在を疑う所見です。
ところで、気管支喘息と縦隔気腫に関連はあるのでしょうか?
縦隔気腫は、
- 気道・気管の破裂
- 咳嗽
- 陽圧呼吸
- 努責
- 気管支喘息
- 間質性肺炎
- 神経性食思不振症(間質が脆弱化している疾患)
- 医原性(術後、内視鏡、胸腔・腹腔鏡、人工呼吸、胸腔ドレナージ、中心静脈穿刺)
などが原因となる事が知られています。
つまり、喘息発作による咳嗽により縦隔気腫が起こったと考えられます。
※その他、クラリネット演奏による気道内圧上昇に伴う縦隔気腫の可能性も考えられます。
喘息には投薬されますが、縦隔気腫は通常経過観察されます。
2ヶ月後のフォローのCTです。
気腫はすべて消えていることがわかりますね。
また気管支壁の肥厚も軽減しています。
診断:縦隔気腫+(気管支喘息による)気管支壁肥厚
関連:
【胸部】症例26の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
縦隔気腫はよく見ますが、経過観察されることが多いように思え、深く掘り下げたことがなかったので詳細な説明を学ぶことができ、勉強になりました。気管支壁の肥厚に関しては注意してみていなかったです。
アウトプットありがとうございます。
>経過観察されることが多いように思え
そうですね。縦隔炎などになっていなければ、特に加療されることもないので、そのまま経過観察されますね。
>気管支壁の肥厚に関しては注意してみていなかったです。
喘息患者では、気管支壁肥厚しか所見がないこともありますので、注目してみてください。
縦隔気腫は何かしら物理的な交通があって起こるものだと思っていましたがそうでもないんですね。今回は喘息発作による咳嗽が原因ということで、気管支壁が破れたということでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
どこかには物理的な交通があるのでしょうけど、一瞬で閉じてしまうのかもしれませんね。
経過を追って、増えるようだと閉じていないと言うことだと思います。
ただし、その瘻孔がどこにあるのかというのは通常同定できないかと考えます。
CTであれだけ縦隔気腫を認めるのに、X-Pではわかりにくいですね…。
アウトプットありがとうございます。
>X-Pではわかりにくいですね
そうなんです。
偉い先生にしか見えないのかもしれません(^_^;)
もちろん私は見えな(略)
今日もありがとうございます。
気管支壁の肥厚まで見ていませんでした。気管支喘息の所見も合わせて確認します。
過去に何例か縦隔気腫の症例に当たりましたが吹奏楽部率が高いイメージでした。
アウトプットありがとうございます。
>気管支喘息の所見も合わせて確認します。
その目で見ると喘息やCOPDで撮影された人は結構壁肥厚があることが多いです。
>過去に何例か縦隔気腫の症例に当たりましたが吹奏楽部率が高いイメージ
まじですか。症状もなく、気腫に気づかず治癒していくケースもあるんでしょうね。
縦隔炎かどうかを判断するのも少しむずかしそうです.
縦隔炎は、心臓・血管手術後に発症することが多いですね。
WBCの上昇や、縦隔に脂肪織濃度上昇、液体貯留、気泡状のガスなどを認めた場合は要注意ですね。
皮下気腫や縦隔気腫は臨床でよく遭遇することがあります。
今回の提示は病態と画像所見を合わせて、また原因と経過まで、系統的に理解することができました。とてもよかったです。
一つひとつやっていきます。
アウトプットありがとうございます。
>今回の提示は病態と画像所見を合わせて、また原因と経過まで、系統的に理解することができました。とてもよかったです。
良かったです。ありがとうございます(^^)
今さらで申し訳ありませんが、気管支壁肥厚の判断が難しいです。
今回のCTでも注目した上で壁肥厚はないと判断してしまいました。
明確な基準か、或いは何かコツのようなものがあればご教授いただけないでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>明確な基準か、或いは何かコツのようなものがあればご教授いただけないでしょうか?
慣れるまでは難しいかもしれませんね。いかに正常例を見て、正常ではないことに気づけるかですね。
末梢ではほとんど壁は見えない(airを認めるのみ)なのですが、それが見えること自体が肥厚と判断できます。
どこでもいいのですが、横断像の30 / 124 で右のS6の気管支など気管支壁がバッチリ見えますよね。
このような所見は肥厚と診断します。
https://imaging-diagnosis.com/view/cTFQc7kL
症例1のマイコプラズマ肺炎です。
33 / 146 などで左S6の気管支壁が肥厚していることを確認してください。
右もうっすら見えますが左では明瞭に太いですよね。
こういった所見を壁肥厚と診断します。
抹消では気管支壁が見える事自体が壁肥厚
反対側の対称気管支と比較する…目からうろこでした。
今後はこの2点に注意して気管支を見ていきたいと思います。
ご教授ありがとうございました。
気管支壁肥厚は微妙なこともありますが、今回の症例や症例1で肥厚のイメージを掴んでいただけると幸いです。
慌てそうな所見ですけど慌てなくていいんですね
アウトプットありがとうございます。
・門脈気腫
・腸管壁内気腫
・気腫性胆嚢炎
・気腫性腎盂腎炎
・壊死性筋膜炎
などは慌てないといけないですが、縦隔気腫は慌てなくて大丈夫なことが通常です。
本日もありがとうございました。
今回のCTは吸気時に撮影されたものとのことですが、吸気時なのか呼気時なのかどうやって判断すればよいのでしょうか?
(何度かCT撮影の現場を見学させて頂いたのですが、CTの自動アナウンスが、「大きく息を吸って、止めてください♪」と言ってから撮影していたので、CTは吸気時に取るものだとばかり思っていました。。)
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように通常、吸気時に撮影します。
呼気撮影の場合は、呼気撮影でと主治医から依頼があります。
そういった依頼がないので、吸気と判断したまでです。
左下葉の中枢側気管支周囲に透過性が低下している領域が散見されますが、これはair trappingをみているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
そうではないかと推測しています。
これは別のものを見ているのではないかというご意見や文献があれば教えていただきたいです。
こんばんは.一日遅れで本日もよろしくお願いたします.
トランペット演奏で特発性縦隔気腫は有名なのでピンときて,読影できました.
外傷や人工呼吸器関連などの二次性と異なり,特発性の場合まれとは言われているようですが,緊張性縦隔気腫による静脈還流障害からの循環不全がないか慎重に読影しました(心臓の圧排所見がないかなど).
アウトプットありがとうございます。
>トランペット演奏で特発性縦隔気腫は有名なのでピンときて,読影できました.
素晴らしいですね!
>緊張性縦隔気腫による静脈還流障害からの循環不全がないか慎重に読影しました(心臓の圧排所見がないかなど)
そうですね。
補足ありがとうございます。縦隔気腫をフォローしていたら、気胸を合併して、緊張性縦隔気腫となることもあるので、少なくともレントゲンでのフォローが必要となり、レントゲンで数日で改善を認めない場合は再度CT撮影も考慮するべきですね。
ですので、縦隔気腫は通常経過観察で問題ないことが多いですが、
・縦隔炎
・緊張性縦隔気腫
は時として致死的となるので注意ということですね。
この場合は、
縦隔切開や胸腔・皮下ドレナージ、気管切開などの外科的処置が必要となることもあります。
ただし稀ですが。
(参考:画像診断 Vol.29 No.13 2009 P1507)
閉塞性肺疾患ですりガラス影を呈するのは、どういう機序なのでしょうか?
air trappingであれば低吸収になると思うのですが…。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。
ですので機序ははっきりしないのですが、吸気で撮影されていますので同部のみ気管支に炎症があり吸えない結果なのかとも考えています。
あくまで推測の域をでません。
いつもありがとうございます。初歩的な質問で申し訳ありません。xpで第7後肋骨、第2~3前肋骨の高さの肺門部に、右は低吸収域、左は高吸収域の円形の陰影があり、気管支B3bの拡張かと思ったのですが、誤った認識だったでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
そうですね。おっしゃるように気管支壁の肥厚がありますので、B3bの拡張というよりは、壁肥厚を認めています。
問診で縦隔気腫の疑いがあり、問診の重要さがわかります。触診や胸部レントゲンで異常がなさそうに思えてもCTを撮ろうとする動機になります。
また2ヶ月後のCTではmosaic patternを示すすりガラス影は消失していますが、見えたり見えなかったりするものでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>問診で縦隔気腫の疑いがあり、問診の重要さがわかります。
そうですね。演奏中に増悪というのは気になるエピソードですね。
>また2ヶ月後のCTではmosaic patternを示すすりガラス影は消失していますが、見えたり見えなかったりするものでしょうか。
閉塞性肺疾患が軽減したためと考えられます。
いつも新しい知識を授けてくださり感謝しています。
放射線科で指導していただいているようです。2点ご質問です。
CXRではperibronchial cuffingを左右で認めていると考えたのですが、有意でしょうか?
また、冠状断像で21/86などで肺尖部と頸部の気腫とが交通しているように見えたのですが、肺尖部のblebの破裂ということは可能性として考えてもよいのでしょうか。今回は気胸と見る所見もないので、ないだろうと考えてはいます。
アウトプットありがとうございます。
>CXRではperibronchial cuffingを左右で認めていると考えたのですが、有意でしょうか?
別の方が質問されているようにB3bの肥厚ですね。ありますね。
左の方がわかりやすいですね。喘息による壁肥厚であり、有意です。
>冠状断像で21/86などで肺尖部と頸部の気腫とが交通しているように見えた
これは交通はしていないですね。胸膜腔とも肺実質とも交通はしていない縦隔気腫です。
今回肺尖部にブラやブレブを疑う所見は認めていません。
こちらも参照ください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/12701