【胸部】症例25
【症例】80歳代男性
【主訴】全身倦怠感
【現病歴】本日起床時から全身脱力があり、起き上がれなかった。改善しないため救急要請。
【既往歴】好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、原発性単純性肝硬変で当院通院中。
【内服薬】プレドニン5mg、ランソプラゾール、ガバペン、酸化マグネシウム、メチコバール、ウルソ、ムコソルバン
【身体所見】意識清明、やや辛そう、SBP 50台、HR 110台、頸部:外頚静脈拡張あり、胸部:呼吸音清、心雑音なし、腹部:平坦、軟、圧痛なし、四肢:浮腫なし、網状皮斑あり。
【データ】WBC 11800、CRP 0.33、GOT 307(13-33)、LDH 762(119-229)、CK 1193(62-287)、CK-MB/定量 191.5(0-7.2)、心筋トロポニンⅠ 41.885(0-0.032)。
【検査】心電図:V2-5 ST上昇、T波は陰転化しつつある。ベッドサイドエコー:anteroseptum mid~apex akinesis、輝度上昇、心嚢水貯留
画像はこちら
今回レントゲンは撮影されていません。CTを見ていきましょう。
明らかに高吸収な血性心嚢水を認めており、心タンポナーデ(疑い)の状態です。
(※症例24でも質問がありましたが、よほど量が多い場合でないあとCTのみで心タンポナーデ!と診断できませんので、CTではその可能性があると指摘できればOKです。)
今回は大動脈解離を疑う所見は認めていません。
ではなぜ血性心嚢水を認めているのでしょうか?
血性心嚢水による心タンポナーデにはいかの原因が知られています。
- 心筋梗塞に伴う心破裂
- 大動脈瘤の心膜腔への破裂
- 大動脈解離の心膜腔への逆行性解離:症例24
- 心膜の血管性腫瘍
- 胸壁外傷
- 抗凝固療法
- 胸部手術後
今回は、検査所見から、心筋梗塞が疑われます。
ですので、心筋梗塞後の心破裂による心タンポナーデが疑われます。
診断:(心筋梗塞後の心破裂による)心タンポナーデ(疑い)
さて、腹部の所見ですが、
胆嚢に結石および漿膜下浮腫を認めています。
また軽度ですが、門脈周囲の浮腫性変化であるperiportal collarを認めています。
これらは右心不全で見られることがあり、今回もそれを反映していると考えられます。
※緊急冠動脈カテーテル検査(CAG:Coronary angiography)が施行され、#7(左前下行枝(LAD)中間部)の完全閉塞を認めました。
循環器内科医記載カルテ
LDHまで上昇してMIは完成しているが、胸痛の自覚なく、いつ発症かは不明。
MIにともなうruptureとして心嚢穿刺を試みたが、肝や肺がかぶるため安全な穿刺部位が確認できなかった。
ショック状態だが意識は保たれているため、IABP挿入して外科的に止血していただく方針となった。
「LDHまで上昇してMIは完成している」の部分ですが、心筋梗塞(MI)が起こると
WBC→CK→GOT→LDH→ESRという順番で上昇してくるのでした。頭文字を取って、WACOLE(ワコール)と覚えようとyear noteには記載があり、国家試験の勉強でも覚えましたね。
そしてこのLDHが上昇するのは発症から12-24時間経過した後で、正常化するのには8-14日かかると記載があります。
ですので、LDHが上昇していると言うことは少なくとも24時間以上経過して8日以内であろうということがわかります。
心臓血管外科手術記録より抜粋
ショック状態でERに搬送。UCGにて心嚢水貯留あり。またCAGにてLADの閉塞を認めたため、左室自由壁破裂(oozing type)と診断し緊急手術となる。
- median sternotomy
- 胸骨周囲の出血傾向著明。
- 心膜を一部切開すると血液噴出あり。完全に心タンポナーデの状態であった。
- 血圧を診ながら徐々に解除。
- 心膜をfullに切開。
- 心臓を脱転すると、LAD末梢領域の右室寄りに梗塞による心筋内血腫を認めた。
- また心臓左側に大量の血腫を認めた。
- 梗塞部位にタコシール貼付後フィブリン糊を噴霧しさらにタコシールを貼付。
- 血腫を可及的に除去。
- 大動脈前面のみ心膜を閉鎖。
- 型のごとく閉胸。
※その後入院から1ヶ月後に退院となっています。
関連:
【胸部】症例25の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
心嚢液が血性であることを見誤りスタート地点からずれていました。MIからの心損傷ということ自体、頭になく私にとって新鮮な症例でした(勉強不足ですね)。ありがとうございました!
アウトプットありがとうございます。
>心嚢液が血性であることを見誤りスタート地点からずれていました。
単純CTですのでなおさら血性であることに気づきたいですね。
>MIからの心損傷ということ自体、頭になく私にとって新鮮な症例でした(勉強不足ですね)。
頻度はそんなに多くないかもしれませんが、是非覚えておいてください。
上行大動脈に濃度差があるように見え、大動脈解離 → 心タンポナーデと間違えました。
心筋梗塞は考えましたが、単純CTのみだから違うんだろうなとクイズ特有の除外をしました(笑
HNさん同様、心筋梗塞からの心タンポナーデの機序を知らなかったので勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>心筋梗塞は考えましたが、単純CTのみだから違うんだろうなとクイズ特有の除外をしました(笑
心筋梗塞はなかなか造影CTであっても診断したり言及することは難しいので、常にその可能性は考えなくてはならないですね。
血性心嚢水→心タンポナーデ?
かなと予想はしていましたが
血性心囊水の原因がわかりませんでした。
他の方々同様
心筋梗塞→血性心囊液は知りませんでした。
出血性脳梗塞と同様に
「脳梗塞を起こした後につまってい
た血栓が溶けて血流が再開した際に、
血管の弱った部分から血液が漏れることなどによって起こる」
ような感じなのでしょうか?
今日も勉強になりました。
もう少し調べてみました。
心筋梗塞により心室壁が壊死を起こし腐りかけて心室の壁の一部が裂けて出血する
と記載されてました。
https://www.tokushukai.or.jp/treatment/heart/sashitsu_haretsu.php
補足ありがとうございます。
今回も左室自由壁破裂(oozing type)でしたね。
今日もありがとうございます。
カテ後に血性心嚢水は見たことがあるのですが受診時に心筋梗塞からの心破裂は初めて見ました。想像で答えることは出来ましたが個人的に衝撃的な症例でした。
アウトプットありがとうございます。
>想像で答えることは出来ましたが個人的に衝撃的な症例でした。
同じくです。
最初この画像を見たときに何が起こっているのだろう?と同僚たちと議論しました。
今回は血液データや心電図所見が参考になりました。
心タンポナーデの印象が強すぎて、periportal collarには気づかず…胆嚢は慢性胆嚢炎かなとしか思いませんでした。まずは、所見を一元的に考え、その後、多元の可能性を考える読み方をしてみようかと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>periportal collarには気づかず…胆嚢は慢性胆嚢炎かなとしか思いませんでした。まずは、所見を一元的に考え、その後、多元の可能性を考える読み方をしてみようかと思いました。
そうですね。
右心不全などでも見られる所見で、逆にこれらの所見が右心不全を疑う手がかりにもなることもありますので、肝障害などともに復習しておきましょう。
なんとなくMIからの心タンポナーデとは分かりましたが、ほかの所見を見落としてしまっていました。
肝臓なども見なければだめですね。
アウトプットありがとうございます。
>ほかの所見を見落としてしまっていました。肝臓なども見なければだめですね。
派手な心臓の所見に目が行ってしまいますが、腹部からもヒントが得られることがあるので、今回の
・periportal collar
・胆のうの漿膜下浮腫
といった所見も復習しておきましょう。
心筋梗塞と心タンポナーデまではすぐに予想できましたが自由壁破裂ですか・・・
心破裂にしては経過が悠長だと考え同じようなパターンで冠動脈瘤破裂でも起こったか?と思ってしまいました。
アウトプットありがとうございます。
画像のみでは診断できないですので、心筋梗塞と心タンポナーデまではすぐに予想できたら十分です。
こんにちは.いつもお世話になっております.
そういえば右心不全でもperiportal collar…と思い出して肝臓に着目したところあったので嬉しかったです!
腹部編での練習がここで活かされました.
EGPAでも好酸球浸潤に伴う虚血性心疾患,心外膜炎,好酸球性心内膜炎(Loffler心内膜炎)等きたすので,今回のイベントもひょっとしてEGPAの影響があるのかもしれない,と思ったりもしました.
アウトプットありがとうございます。
>右心不全でもperiportal collar…と思い出して肝臓に着目したところあったので嬉しかったです!腹部編での練習がここで活かされました.
腹部編でも何度か出てきましたね。
>EGPAでも好酸球浸潤に伴う虚血性心疾患,心外膜炎,好酸球性心内膜炎(Loffler心内膜炎)等きたすので,今回のイベントもひょっとしてEGPAの影響があるのかもしれない
なるほど、確かにあるかもしれませんね。
心タンポナーデのために下大静脈と上大静脈が拡大しているように見えるのですが、胆のう周囲の漿膜下浮腫の前に大静脈の拡大が起こると思います。CTでの下大静脈径の拡大は心エコーでの下大静脈の拡大と同じ診断基準で良いでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>胆のう周囲の漿膜下浮腫の前に大静脈の拡大が起こると思います。
おっしゃるとおりです。
>CTでの下大静脈径の拡大は心エコーでの下大静脈の拡大と同じ診断基準で良いでしょうか?
そうですね。エコーの基準と同じと考えていただいて大丈夫です。
腹部の質問になってしまい申し訳ございません。
peri portal collarに関してですが、肝内胆管拡張との違いはCT画像上どのような所にありますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
肝内胆管拡張の場合は、門脈の両側だけではなく片側の低吸収が目立ち、肝門部の胆管と連続性を認めるのが通常です。
一方でperiportal collarは門脈の両側となります。
ただし、併存している場合は区別できないこともあります。
ショック状態であるし、心電図、心エコーなどから心筋梗塞はかなり疑われました。
心タンポナーデになっているので心筋梗塞による心破裂?と考えました。
CTで破裂部位の同定は難しいのですね。
心不全を支持するPeriportal collarや胆嚢の漿膜下浮腫などもチェックできるようにしたいものです。
アウトプットありがとうございます。
>CTで破裂部位の同定は難しいのですね。
これは難しいですね。よほどでないと。特に単純ですし。
>心不全を支持するPeriportal collarや胆嚢の漿膜下浮腫などもチェックできるようにしたいものです。
今回それほど目立つ所見ではありませんが、心臓の負担がこれらのところに出てきますので腹部もチェックするようにしましょう。