【胸部】症例27
【症例】50歳代男性
【主訴】右上腹部痛
【現病歴】2週間程前から臥位時に右上腹部痛が出現し、自身で経過観察していたが、疼痛が持続するため2日前に当院消化器内科受診。採血にてCRPの軽度上昇と腹部エコーで少量の右胸水貯留を認めた。抗生剤処方の上帰宅となった。その後症状増悪し、本日外来再受診。胸水の増大とCRP上昇を認めたため紹介受診となる。
【既往歴】痔核(手術後)、鼠径ヘルニア(手術後)
【内服薬】クラビット
【身体所見】意識清明、全身状態良好、BT 37.1℃、P 75bpm、 R 17回、 17BP 139/81mmHg、肺音:清、呼吸音減弱、明らかな雑音聴取しない。頭頸部・腹部・四肢に特記事項なし。
【データ】WBC 11700、CRP 12.59、インフルエンザ迅速反応:陰性
画像はこちら
まずはレントゲンから見ていきましょう。
すると右の肋骨横隔膜角が鈍(dull)で、右第5肋骨前縁が辺縁と接していることがわかります。
※横隔膜は第10後肋間、第6肋骨前縁にあり、第6-7肋骨の前縁が横隔膜にさわる程度が正常です。
つまり、何らかの原因で右肺が押し上げられていることがわかります。
これは、胸水貯留(もしくは横隔膜挙上)を示唆する所見です。
2日前に消化器内科を受診したときのレントゲンがありますので、それと比較してみましょう。
すると2日前と比べると右の肋骨横隔膜角の鈍化および横切る肋骨前縁のレベルが右第6肋骨から第5肋骨に上がっていることがわかります。
次に胸部CTを見てみましょう。
右の胸水貯留および一部胸膜肥厚(+一部受動性無気肺)を認めていることがわかります。
症状や採血結果などと合わせて胸膜炎と診断されました。
診断:胸膜炎(細菌性疑い)
※ちなみに2日前の消化器内科受診で右少量胸水を認めており、症状からも胸膜炎疑いと診断され、抗生剤が投与されています。それでも症状軽減しないため今回受診となっています。
※呼吸器内科入院の上、ABPC/SBT(スルバシリン1.5g×4回/day)にて加療開始されました。治療後4日目で解熱あり、退院となっています。
その他所見:右胸部脂肪腫あり。
【胸部】症例27の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
腹痛で腹部を撮影して、胸膜炎だったということは、まれに遭遇します。そのような場合、肺野条件を追加して送信しています。(患者が検査室を出ていない場合は、追加が必要か連絡しています)
アウトプットありがとうございます。
>腹痛で腹部を撮影して、胸膜炎だったということは、まれに遭遇します
ありますね。消化器からの依頼で、肺底部に胸膜炎ぽいのがあるという。
>肺野条件を追加して送信しています。(患者が検査室を出ていない場合は、追加が必要か連絡しています)
素晴らしいですね!患者よし、依頼医よし、でみんなに喜ばれますね。
腹部依頼なのに、毎回写っている肺野を肺野条件にして追加してくる人もいますが(^_^;)
何か所見がある場合のみ追加してくれるのが優しさですね。
肝表面にフリーエアっぽいものがあるのはいかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
肺野のairだと思われます。肺が収縮してるのでそのように見えるのでしょう。
TIPSになりそうですね。
split pleural signは知りませんでした.胸水の性状などだけではなく,形も診断の一助になるのですね.
アウトプットありがとうございます。
今回は、split pleural signというには少ししょぼいですが、膿胸を疑う所見として覚えておいてください。
胸膜炎は画像だけでなく、症状なども診断には非常に重要ですね。
同じ画像所見でも症状がないこともありますし。
痛みがあるときは胸膜というのを忘れていました。
受動性無気肺も忘れていて、胸水に膿が混ざっている状態かと思ってしまいました。
アウトプットありがとうございます。
>痛みがあるときは胸膜
ですね。同じ画像でも痛みがあったりなかったりするので、画像だけではなんとも言えないですね。
>胸水に膿が混ざっている状態
概ねその考えでよいです。
今日もありがとうございます
胸膜炎のは画像を初めて見ました。split pleural signなるものも初めてで勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
胸水貯留だけでくる胸膜炎もありますので意外と実は見ているのかもしれませんね。
本日もありがとうございました。
患者さんの主訴が、”臥位時の上腹部痛”なのに、実は、胸膜炎だったというのがとても教育的だなと感じました。
最近解いた国家試験の問題でも「のど」が痛いと言って受診した患者さんが、実は、甲状腺炎だったという問題がありました。
CTで右肺の胸水の辺縁が胸水だけにしては凸凹しているなと思いましたが、胸膜炎まで気づけなかったですね。でもただの胸水だとしたら、右側だけに存在する理由が説明できませんね。。
次からは、「胸水を認める。」で終わらないようにしたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>患者さんの主訴が、”臥位時の上腹部痛”なのに、実は、胸膜炎だったというのがとても教育的だなと感じました
ありがとうございます。
腹痛で消化器内科を受診したら、胸部領域の胸膜炎だったというのは、専門科が異なるので主治医が気づいていない場合は画像の読影が診断の大きなヒントになりますね。
>でもただの胸水だとしたら、右側だけに存在する理由が説明できませんね。。
特に過去の画像がなく初回の場合はですね。
説明ができない(原因がよくわからない)胸水を認めることもあります。
ただし片側性の場合は、単に胸水あり!ではなく、原因をできる限り考えたいですね。
胸膜炎と膿胸の違いについて教えていただけますでしょうか?
胸膜炎は肺炎や悪性腫瘍などが胸膜に進展して胸水貯留を伴う場合もあるかと思います。炎症性胸膜炎で胸水貯留している際に胸水からの細菌が陽性であった場合に膿胸との鑑別はどのように考えればよいのでしょうか?結局のところはCT画像で被包化、split pleural signの有無を確認して被包化されていなければ胸膜炎、被包化されていれば膿胸という風になるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
両者を混合しがちですが、それもそのはずです。
急性膿胸とは?
→細菌性肺炎、細菌性胸膜炎の経過中で、高熱、咳嗽、胸痛、膿性喀痰を呈し、胸部Xpで胸水貯留を認め、血液検査で、WBC↑、CRP↑、赤沈↑などを呈したとき、急性膿胸を疑う。
となっています。
つまり、肺炎や胸膜炎が胸腔に及んで、膿瘍を形成すると膿胸となります。
では、胸膜炎で水が溜まって滲出性胸水となっている場合と膿胸との違いは何なのかというと、
「胸腔穿刺で採取した胸水が肉眼的に膿性である場合、膿胸と診断することが多い」
と記載があります。
>CT画像で被包化、split pleural signの有無を確認して被包化されていなければ胸膜炎、被包化されていれば膿胸という風になるのでしょうか?
この傾向はありますが、胸膜炎の延長に膿瘍があり、明らかな膿瘍を形成している場合以外は両者は鑑別できないこともあります。
参考:病気がみえる 呼吸器(第1版)P234
右の胸鎖関節のガス像が気になるのですが、これはなんなのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
関節間にガスを認めることはたまにあります。特に有意ではありません。
左にもわずかですがあるかもしれませんね。
いつもありがとうございます。復習しています。
その他の所見とある胸部の脂肪腫が見つけられずにいます…。
何スライス目か教えてもらえないでしょうか。
復習ありがとうございます。
85-97/191くらいのところで、右の広背筋と前鋸筋の間ですね。
胸膜肥厚の所見が捉えられず…胸水はあるけど辺縁が不整?としか分かりませんでした…
アウトプットありがとうございます。
胸膜の肥厚については特に今回は単純CTですのでわかりにくいですね。
画像よりも臨床症状との整合性が重要な疾患ですね。
片側性の胸水を見た場合は胸膜炎の可能性を考えましょう。
毎日貴重な症例をありがとうございます。
以前に指導医より「(特に高齢者では)肺尖部の陰影は陳旧性結核を疑え」と言われたことがあるのですが、解説動画でごろ〜先生が「肺尖部の陰影は大方スルーで良い」とおっしゃっていたので、少し混乱してしまいました。
確かに陳旧性結核だとしても、呼吸器症状がなく排菌もしていなければ臨床的に問題になることはないと思いますし、陳旧性炎症の中に陳旧性結核も含まれていると思うので、厳密な区別は必要ないのかもしれませんが、陳旧性結核の可能性を念頭に置く意義などあれば、ご教授いただきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>「(特に高齢者では)肺尖部の陰影は陳旧性結核を疑え」と言われたことがある
結核とは限らないということですね。
石灰化があれば結核を疑うきっかけになりますが。
肺尖部だけでなく、肺実質やリンパ節にも石灰化肉芽腫として残っていることが日常臨床でしばしばありますが病的意義は低いです。
こちらも参照ください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/34702
①壁側胸膜と臓側胸膜の肥厚は、高吸収のラインが見えた時に「肥厚あり」でよろしいですか。
②他の先生もコメントしていますが、肝表面あるいは肝円索に沿って、遊離ガスのようにみえて、「胸痛が主訴の腹膜炎症例」なのかと思いました。
③心拡大はよく出てきますが、漠然と大きいなあと感じたら「拡大」としていましたが、
目安はあるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>①壁側胸膜と臓側胸膜の肥厚は、高吸収のラインが見えた時に「肥厚あり」でよろしいですか。
そうですね。通常は見えない胸水と比べると高吸収なラインを認めたときに胸膜肥厚を疑います。
>②他の先生もコメントしていますが、肝表面あるいは肝円索に沿って、遊離ガスのようにみえて、「胸痛が主訴の腹膜炎症例」なのかと思いました。
濃度が変更できず恐縮です。
胸部救急ですので、いくらいらんことしいの私でもそこまでは・・・(^_^;)
>③心拡大はよく出てきますが、漠然と大きいなあと感じたら「拡大」としていましたが、
目安はあるのでしょうか。
CTRが50%以上を心拡大とします。
右横隔膜挙上所見に関して、2日前の胸部レントゲンとの比較では、左右の横隔膜の高さの関係にはあまり変化はないようです。また、肋骨前縁の角度と肋間の間隔に差があり、肋骨の走行とX線の照射角の違いが推察されますが、管球の高さは同じくらいです。心陰影も拡大しているため、吸気不足で肋骨の角度が変わったことによる影響が大きいのではないでしょうか。胸膜炎の痛みで吸えなかったということならば…
アウトプットありがとうございます。
>心陰影も拡大しているため、吸気不足で肋骨の角度が変わったことによる影響が大きいのではないでしょうか。胸膜炎の痛みで吸えなかったということならば…
確かに左の横隔膜のラインも少し上がっており、おっしゃる影響が大きいのかもしれません。
貴重なご意見ありがとうございます。