【胸部】症例15

【胸部】症例15

【症例】80歳代男性
【主訴】胸がしんどい
【現病歴】倦怠感・食欲不振で他院を受診し、右腋窩リンパ節腫大で発見されたBurkittリンパ腫にて血液内科にて入院加療中。R-EPOCH療法 3コース目が10日前に終了した。発熱性好中球減少症(FN: Febrile Neutropenia)を認めるも血球の回復に伴い熱型改善してきていたが、本日急激に酸素化悪化。
【身体所見】意識清明、SpO2 86%(15Lマスク)、右呼吸音減弱、coarse crackleなし
【データ】WBC 1700、CRP 22.39

画像はこちら

2ヶ月半前のCT

今回のCT

25日後のCT

この経過でどのようなことが起こったと推測されますか?

まずは2ヶ月半前のCTから見ていきましょう。

右肺尖部に索状の瘢痕を疑う所見を認めています。

また軽度気腫性変化を認めています。

また右下葉背側に軽度気腫性変化を認めています。

右腋窩には指摘されている右腋窩リンパ節腫大を複数認めています。

しかし、肺野には特に目立った所見は認めていないというのが、2ヶ月半前です。

 

その後、今回の急激な呼吸状態の悪化が生じた際のCTを見てみましょう。

両側肺野中枢側・背側やや優位に広範な浸潤影〜すりガラス影が出現しています。

また目立つのが牽引性気管拡張です。これはベースに慢性間質性肺炎があるなどではなく2ヶ月半には全く認めていなかった所見であると言うことに着目しましょう。

両側胸水は認めていますが、心拡大は認めていません。

また、2ヶ月半前に認めた右腋窩リンパ節腫大は消失しています。R-EPOCH療法が奏効したといえます。

 

挿管され、加療(抗生剤、ステロイドパルス、エラスポール)されました。

25日後のCTを見てみましょう。

両側肺野の浸潤影〜すりガラス影はやや軽減傾向です。

しかし、末梢を中心とした網状影や嚢胞性変化を認めており、牽引性気管拡張も残存していることがわかります。

2ヶ月半前の肺とは似ても似つかぬ姿になっています。

一体何が起こったのでしょうか?

 

こういった所見や経過を見た際に考えるべきが、

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

です。

 

ARDSの原因としては、肺炎など肺病変に増発するものと、重篤な肺外病変や全身性疾患に続発する例(敗血症、重症熱傷など)に大別されます。

今回は、「悪性リンパ腫はコントロールされていることから感染や骨髄の立ち上がり時のサイトカインストームが考えられ、G-CSFをケモ後連日投与していたことも増悪の一因である可能性あり。」と考察されていました。

また、R-EPOCH療法の中の「シクロホスファミド」はDAD patternを示すことがあることが知られており、薬剤投与により起こった可能性もあります。

 

診断:急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

 

 

関連:

【胸部】症例15の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。