【胸部】症例14
【症例】70歳代男性
【主訴】呼吸困難
【現病歴】昨日より38℃台の発熱あり、近医受診。胸部レントゲンにて肺炎と診断され、抗生剤(パンスポリン)を投与された。本日21時頃、家でテレビを見ているときに突然呼吸状態悪化し、呼吸困難、ピンク色の泡沫状の痰を認め、強い咳嗽出現。当院に救急搬送となる。家人の話では普段から息切れあり、下腿浮腫も認めることがあった。
【内服薬】ハーフジゴキシン、アーチスト、ベザトール、ワーファリン、ジャヌビア、アリセプト
【既往歴】陳旧性心筋梗塞でCABG後(15年前 4枝 LITA to LAD、SGV to #14、#4PD-4AV)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、アルツハイマー型認知症
【身体所見】意識:JCS 1-2程度、BP 221/126mmHg、BT 35.9℃、HR 94 bpm、HR 94/min、SpO2 80%(RA)、頸部:頚静脈怒張あり、リンパ節腫大なし、胸部:呼吸音 軽度coarse crackleあり、腹部:平坦、軟、圧痛なし、四肢:浮腫なし
【データ】WBC 13200、CRP 13.74、BNP 817.8
画像はこちら
胸部レントゲンでは、心拡大があり、右上肺野〜中肺野に浸潤影を認めていることがわかります。
右下葉にも肋骨とかぶってややわかりにくいですが少し浸潤影があるように見えます。
また正中部に開胸術後の金属を認めています。
また両側の横隔膜周囲にやや網状影を認めています。
この時点では蝶形陰影(butterfly shadow)ははっきりしません。
この後、11時間後にCTが撮影されました。
一般的に肺水腫の陰影は時間経過で変化が著しく、数時間で悪化や治癒による消退を認める
(ビギナーのための胸部画像診断P186)
ですので、レントゲンとCTの陰影には差がある(今回の場合はCTの方がやや悪化している)と推測されます。
CTでは肺尖部から小葉間隔壁の肥厚を認めています。
それに加えて、右上葉では末梢まで至る浸潤影〜一部すりガラス影を認めています。
これは症例12,13で見てきたような基本的に左右対称な肺水腫とは異なったパターンですね。
明らかな左右差がありますので、肺水腫としては不自然であり、右上葉に肺炎があることが臨床的にも示唆されます。
一方で両下葉には中枢側優位に浸潤影や気管支血管束肥厚を認めており、基本的に左右差を認めず、これは肺水腫による陰影で良さそうです。
診断:右上葉肺炎+(肺胞性)肺水腫(心原性肺水腫)
※入院時心エコーにて、EF 11%、重度左室収縮不全、両心房拡大を認めており、感染契機の心不全急性増悪と診断されました。
※尿中肺炎球菌抗原・レジオネラ抗原ともに陰性。入院時尿培養・血液培養(2セット)で一般細菌、真菌、嫌気性菌認めず。喀痰培養からも起炎菌ははっきりしませんでした。
※ICU入院となり、挿管下人工呼吸管理、抗生剤投与(PIPC/TAZ+LVFX)、強心薬(DOB)、利尿薬(hANPなど)などの加療により軽快。2日後に抜管、4日後にICU退室。その後、抗生剤、輸液、酸素もoffになりました。最終的には1ヶ月半後に退院となっています。
関連:
【胸部】症例14の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今回は左右差がありましたが、小葉間隔壁の肥厚も右上葉にあるのでやはり肺水腫なのか?と思ってしまいました。肺炎も考えたうえで除外したのですが左右差は大切なのですね。肺炎あれば熱源の説明も付きますしね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
難しいことも多いですが、明らかな左右差がある場合や肺炎を疑うような気道区域性分布の場合は肺炎合併も考慮に入れたいところですね。
あとは採血結果なども参考にしつつですね。
肺水腫と肺炎の合併を指摘できましたが、画像だけでなく発熱や血液など臨床所見が助かりました。
肺は画像だけでの判断が難しいので、依頼に詳細があると嬉しいですね(主治医も忙しくなかなか書けないのも分かりますが)。
うちの病院は遠隔読影で読影医がカルテを確認できないため、いっそう検査依頼内容が重要だなと感じます。
アウトプットありがとうございます。
>画像だけでなく発熱や血液など臨床所見が助かりました。
ですね。ここが非常に重要で、画像だけでは難しいこともしばしばありますね。
画像はあくまで補助であり、臨床的に肺炎が疑わしいのならば、肺炎なのだろうと判断することもあります。
>うちの病院は遠隔読影で読影医がカルテを確認できないため、いっそう検査依頼内容が重要だなと感じます。
そうなんですね。その場合は読影依頼にきちんと採血結果などを記載していただけると助かりますね。
私も遠隔読影をしていますが、そもそも依頼用紙の文字が読めずに苦労することもありますが(^_^;)
以前に「『純粋な肺水腫』と『肺炎+肺水腫』の鑑別をどうすればよいのか?」という質問をさせて頂きましたが、今回、実例を出題して頂きありがとうございます。イメージがしやすいです。
アウトプットありがとうございます。
>以前に「『純粋な肺水腫』と『肺炎+肺水腫』の鑑別をどうすればよいのか?」という質問をさせて頂きました
ですね。質問をいただいたので追加したわけではなく、kenkenさんがコメントしてくださる症例が結構この後出てきたりもします(^_^;)
先日の●●で良く見る○○に合併する肺水腫も今後出てきます。
やはり難しいのは今回のような合併例ですね.
継時的変化なども参考になるかと思いますが,救急の現場での判断はなかなか難しいかもしれません.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。実際は悩ましいことも多く、肺炎合併の可能性あり。程度で所見を書くこともあります。とくに臨床情報が全く記載していない場合はですね。
仮に臨床情報が揃っていても悩ましいことは多いですね。
とはいえ、肺水腫の基本を押さえておいて、今回のように肺水腫だけの陰影としては説明ができない!不自然だ!と考えられることが重要ですね。
今日もありがとうございます。合併症例きましたね!
過去の症例のおかげで右肺の肺水腫では説明のつかない浸潤影に気づくことが出来ました。臨床でも今回のようなパターンが多いので勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>過去の症例のおかげで右肺の肺水腫では説明のつかない浸潤影に気づくことが出来ました
よかったです。
>臨床でも今回のようなパターンが多いので勉強になりました。
ですよね。
①肺水腫の陰影のみ
②肺炎の陰影のみ
③肺水腫の陰影のみでは説明できない明らかな陰影あり
④肺水腫の陰影のみではおそらく説明できない陰影あり・・・
これくらい場合分けできると思うのですが、①-③くらいは判断したいところですね。
毎回勉強になり楽しいです。
質問ですが、
気腫性変化を認める肺における肺炎では浸潤影部分の中に気腫性変化部位だけ低濃度を呈するような像を見かけますが、今回の症例でもそのように見えますが認識としては間違っていないでしょうか。
また、心不全において中枢側優位に気管支血管束肥厚、浸潤影を認めるのはなぜなのでしょうか。
また、あまり心不全のthin-slice画像を見たことがなく、大変細かい部分まで識別できることに驚きました。必要に応じて2mm程度のthin-sliceでお願いしていますが、普段カルテ上で見る画像は5mm程度です。病院でよく見かける64列のMDCTの場合MDCTのサーバー上(カルテ上にではなく)にはthin-slice画像は残っているものなのでしょうか、それともthin-sliceをお願いしなければ5mm程度の普通の厚みの画像のみが出来上がるものなのでしょうか。大変お恥ずかしい質問ですが、以前から気になっておりました。
アウトプットありがとうございます。
>毎回勉強になり楽しいです。
嬉しいお言葉ありがとうございます!!
>気腫性変化を認める肺における肺炎では浸潤影部分の中に気腫性変化部位だけ低濃度を呈するような像を見かけますが、今回の症例でもそのように見えますが認識としては間違っていないでしょうか。
おっしゃるとおりです。
気腫性変化がベースにある場合は、通常の肺炎像とやや異なる陰影となります。
swiss cheese appearanceとも呼ばれ、おっしゃるように低吸収域が残った陰影となります。
>また、心不全において中枢側優位に気管支血管束肥厚、浸潤影を認めるのはなぜなのでしょうか。
肺のリンパ流は肺門部で悪く胸膜下では良好であるため、中枢側優位に認めると言われています。
これは他の方が質問されている、末梢はリンパ流が良好なのにKerley’s Bラインを認めるという点と一見矛盾しているのですが、この場合は重力により下に水が溜まりやすいからだと説明されます。
また、あくまで中枢側優位であり、末梢に認めないわけではありません。
動画にしました。
>病院でよく見かける64列のMDCTの場合MDCTのサーバー上(カルテ上にではなく)にはthin-slice画像は残っているものなのでしょうか
これは病院にもよるかと思います。
すべての症例でthin-slice画像を残しておくと容量をくうので、数日間残しておくという施設が多いのかもしれません。
全例thin-slice画像を送ると読影する方も大変ですし、送る方も大変なので通常は5mmのみ送るのが普通だと思います。
この外層・内層の動画解説、めちゃくちゃ分かりやすいです! 上肺野、内層、外層の背側でリンパ流が留まりやすいんですね。正確な説明を受けたことがなかったので、すごくスッキリしました!!
ありがとうございます。
お役に立ててよかったです!
状況から心不全による肺水腫があるはず・・・と思っていましたが左右非対称だしコンソリデーションの場所も上葉メインだし・・・と妙に勘ぐってしまいました。
臨床ではよく見る状況なんですけどね・・・
アウトプットありがとうございます。
>臨床ではよく見る状況なんですけどね・・・
ですね。
肺炎なのか肺水腫なのかは外来ではしばしば問題となるところですね。
綺麗な肺水腫で肺炎の合併はないといえることも多いですが、肺水腫+肺炎の合併を否定できない。というなんとも微妙な所見を書かざるを得ないこともしばしばあります。
swiss cheese appearanceはモザイクパターンと見分けられるのでしょうか
アウトプットありがとうございます。
baseに肺気腫があるかどうかで変わります。
確かにモザイクパターンにも見えますが、今回は肺気腫がありますので、肺気腫をベースにした肺炎と考えられます。
他の方もおっしゃっていますが、肺炎の合併と診断するのに記載されていた検査所見がとても役に立ちました。
検査依頼を出すときには、読影する人のことを考えて、情報を記載することが大切だなと感じました。(もっとも、必要な情報を適切に選ぶためには、勉強が必要ですが、、^^;)
今回は、”網状影”という言葉の定義をチェックしました。
網状影とは、
気管支や肺動静脈や小葉間隔壁等の既存の構造と関連付けることのできない線状陰影の集合(曲がったもの、真っ直ぐなもの、太いもの、細いものなど様々な形態を含む)
アウトプットありがとうございます。
>肺炎の合併と診断するのに記載されていた検査所見がとても役に立ちました。
そうですね、画像だけでは肺炎を合併しているのかどうかはわからないこともしばしばありますので、その他の検査所見などが診断には重要ですね。
>検査依頼を出すときには、読影する人のことを考えて、情報を記載することが大切だなと感じました。
可能な限り記載いただけるとより正しい診断に近づけると思います。
ただ、現場はバタバタしていて、また検査結果も揃っていない時点でCTを撮影することもあるかと思います。
>網状影
補足ありがとうございます。
いつもありがとうございます。
復習しています。
肺炎+肺水腫は臨床でもよく遭遇するかと思います。
今回の肺炎は大葉性肺炎と画像上は考えてよいのでしょうか?(最終的な起因菌は不明ですが)
アウトプットありがとうございます。
>今回の肺炎は大葉性肺炎と画像上は考えてよいのでしょうか?(最終的な起因菌は不明ですが)
そうですね。気腫性変化があるので典型的ではありませんが、大葉性肺炎(+気管支肺炎)と考えて良いです。
いつもありがとうございます。臨床では病歴、データや身体所見にいかに助けられて診断にたどり着いているか、というのを実感する日々です(画像のみではなかなか難しい!)。小葉間隔壁肥厚、B line、など、画像の特徴を「共通言語」で表すのが難しく、そのあたりもしっかり叩き込めるようにしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>臨床では病歴、データや身体所見にいかに助けられて診断にたどり着いているか、というのを実感する日々です(画像のみではなかなか難しい!)
いえ、むしろそうされるべきです。画像のみで判断するべきではありません。
>画像の特徴を「共通言語」で表すのが難しく、そのあたりもしっかり叩き込めるようにしたいと思います。
共通言語はそれほど多くありませんので、すぐに慣れていただけると思います。
よろしくお願いします。
いつも勉強させていただいております。医学部6年です。
肺炎像からARDSとしましたが、心原性ということでした。
これは、心原性の診断は他のEFやPCWPを併せてする必要があり、ARDSか心原性かどうかはこの段階では言えず、レポートでは「肺炎+(肺胞性)肺水腫」と書くのが正解、という認識でよいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
先日の動画でも解説しているように、肺水腫の原因は心原性が多いですが、それ以外にもたくさんあります。
>心原性の診断は他のEFやPCWPを併せてする必要があり、
より正確にはそうですが、今回は画像所見や既往歴から、心原性を強く疑います。
>レポートでは「肺炎+(肺胞性)肺水腫」と書くのが正解、という認識でよいでしょうか?
そうですね。肺水腫の原因は心原性が疑わしいというところまで記載してよいと考えます。
いつも勉強させていただいております。
本症例では気腫肺の部分の濃度と比較して、全体的に淡く濃度上昇があると捉えてしまいましたが優位なものではないのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>本症例では気腫肺の部分の濃度と比較して、全体的に淡く濃度上昇があると捉えてしまいましたが優位なものではないのでしょうか。
CTの話ですか?レントゲンの話ですか?
動画でもお話ししていますが、CTとレントゲンは時間差があるのでCTでは増悪していると考えられます。
動画解説を聴くと、今回の症例のテーマがすっきり頭に入ってきます。
症例を見たとき、心肥大、小葉間隔壁の肥厚、気管支血管束の肥厚、などはわかりましたが、浸潤影は確かに症例12,13とは違い末梢側で胸膜まで達していて、あれれ・・・??
今回の肺炎は何か特殊なものかしら。特異的な陰影でもあるのかなと袋小路に入ってしまいました。
心不全とそれによる肺胞性肺水腫+肺炎とすっきり言えるようになりたいです。
アウトプットありがとうございます。
>心不全とそれによる肺胞性肺水腫+肺炎とすっきり言えるようになりたいです。
心不全に肺炎を合併しているかどうかの判断はしばしば難しいこともあるのですが、ベースに肺水腫があり、左右差があったり、末梢にコンソリデーションを認めた場合は、プラスして肺炎などがあるのではないかと考えたいですね。
“細菌性肺炎を契機としたARDS”と回答しましたが、本症例では”肺炎を契機にした心原性肺水腫”でした。
上記にも同様に回答した方がおられますが、CT画像から推測される、どちらかといえば心原性らしさもしくはARDSらしさ、というような所見はありますでしょうか、もしくは区別はほとんどできないものでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
心原性らしさというのは、
・心拡大がある。
・陳旧性心筋梗塞でCABG後という既往
と言う点です。
それ以外は肺水腫の状態ですので、画像だけでは鑑別できません。
いつも勉強させていただいてます。
素人質問で申し訳ないのですが、気管分岐の少し上方にある気管右側に沿う高吸収域は何でしょうか?
また、分岐する直前で気管の下部が圧排されているのは生理的なものなのでしょうか?
本題と関係なくてすみません。
アウトプットありがとうございます。
>気管分岐の少し上方にある気管右側に沿う高吸収域は何でしょうか?
横断像で見ると血管なのかなとも思ったのですが、冠状断像で条件を変えて見てみるとこのようになり、
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/wp-content/uploads/2021/07/case14-2021-07-11-5.47.09.jpg
気管の壁を見ているようです。
局所的な石灰化なのか、局所的なモーションアーチファクトなのかなと考えます。
>分岐する直前で気管の下部が圧排されているのは生理的なものなのでしょうか?
気管下部だけでなくその後の左右へ分岐した気管も全体的に細いですね。
吸気できちんと撮影されていれば、気管はO型になるのですが、呼気の場合は、膜様部が前方に凸となり、今回のような形態になります。
ですので、呼気で撮影されている可能性が高いと考えます。
初めまして!いつも大変勉強させて頂いております。
2つ質問がございます。
①陰影が末梢(胸膜)に達していると言及されておりましたが、陰影が胸膜に達しているかいないかは何故重要になるのでしょうか。
②気管支血管束肥厚と気管支壁肥厚は違う所見と考えてよろしいのでしょうか。
以上お忙しい中かと存じますがよろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>①陰影が末梢(胸膜)に達していると言及されておりましたが、陰影が胸膜に達しているかいないかは何故重要になるのでしょうか。
今回の症例ではそれほど重要ではないかもしれませんが、小葉中心性の分布の場合、胸膜直下は保たれる点が重要です。
症例7では胸膜にも粒状影を認めているという点が重要でした。
同様に気管支肺炎の場合も炎症が強くないところでは胸膜直下は保たれる傾向にあります。
今回保たれているところもありますが、基本的に右上葉では広範に胸膜に達するコンソリデーションを認めており、肺胞性肺炎の形態であると言うことができます。(baseに気腫性変化があるのもあり、典型的ではありませんが)
>②気管支血管束肥厚と気管支壁肥厚は違う所見と考えてよろしいのでしょうか。
おっしゃるとおり異なるものです。