【胸部】症例2
【症例】20歳代 男性
【主訴】発熱、右胸痛
【現病歴】昨日朝より、呼吸時に胸痛出現あり。改善認めないため来院。昨夜から咳も出現あり。
【内服薬】なし。
【生活歴】喫煙40本×9年
【身体所見】意識清明、BP 125/65mmHg、BT 39.6℃、P 105bpm、SpO2 97%(RA)、咽頭発赤・腫脹なし、頚部リンパ節腫大なし、心音:整、no murmur、呼吸音:清、腹部症状なし。
【データ】WBC 15800、CRP 11.30
画像はこちら
中葉に気管支沿いに浸潤影を認めています。
軌道に沿った陰影であり、気管支肺炎のパターンでよさそうです。
しかし、中葉のS5の尾側(肺底部)は非常に濃い浸潤影を認めており、ここは気管支肺炎パターンというよりは、肺胞性肺炎のパターンであるということができます。
つまり、陰影は気管支沿いに広がっているだけではなく、肺胞を介して横方向(非区域性)にも進展していることが予測されます。
また、今回右胸痛の症状を認めており、これは肺炎だけでなく、炎症が胸膜に到達している胸膜炎を伴っている可能性が示唆されます。
縦隔条件で見てみても、陰影は非常に濃いことがわかります。
また胸膜の肥厚を認めており、炎症が胸膜に及び胸膜炎を起こしていても良さそうです。
このような肺胞性肺炎のパターンの陰影を呈している場合、
- 肺炎球菌
- クレブシエラ
- レジオネラ
が古典的に有名です。
また、
- 若年者でのマイコプラズマ
でもこのような肺胞性肺炎のパターンを示すことがあります。
さて今回は、
- インフルエンザ迅速:陰性
- 尿中肺炎球菌(+)
- 尿中レジオネラ(ー)
で、喀痰培養からは、
喀痰培養 4+
- Streptocuccus pneumoniae(PISP) 65%
- Haemophilus parainfluenzae 30%
- Neisseria species 5%
が培養され、肺炎球菌性肺炎と診断されました。
また、胸膜炎の合併も疑われました。
診断:中葉に肺胞性肺炎+胸膜炎疑い(肺炎球菌性肺炎)
※入院の上、ABPC/SBT 1.5g/回×4回/日で治療開始去れ、治療開始翌日から体温36℃台まで解熱、4日後の採血ではCRPは軽度高度でしたが、白血球は正常値になりました。また胸部レントゲン上も浸潤影も改善を認め、入院5日目に退院となりました。
起因病原体と呼吸器感染症の画像パターンの関係を今回もチェックしてみましょう。
細菌性肺炎の場合は、上のように基本なんでもありですが、肺胞性肺炎のパターンをみたらまず細菌性肺炎やレジオネラ肺炎を考えたいですね。
【胸部】症例2の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
肺胞性肺炎も、まずは経気道性に侵入するため「気管支肺炎のパターンを呈する」ということがよくわかる症例でした。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。以前ほど肺胞性肺炎というのは少なくなってきているようで、なかなか派手なのは見つからないですね。
むしろ肺炎球菌性肺炎であっても気管支肺炎のパターンの画像が多いです。
全然わからないことばかりですが、1症例目の解説やリンクのおかげで、少しだけ肺構造に着目して観察することができました。
痛みが出るのは胸膜なのですね。炎症が胸膜に及んでいるかどうかの重要性も全く意識していませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>痛みが出るのは胸膜なのですね。炎症が胸膜に及んでいるかどうか
画像で胸膜に達していそうでも症状がなければ胸膜炎と診断されないことが多いかもしれません。
あくまで症状ありきですね。
今日もありがとうございます
症例1のおかげでしっかり考えて解答することができました。いつか画像パターンの表を頭の中に完璧にインプットしたいです
アウトプットありがとうございます。
>いつか画像パターンの表を頭の中に完璧にインプットしたいです
ですね。
ただしあの表は使えるところと、それじゃ足りないでしょ!というところもあるので、大まかでよいと思います。
症例1の解説が豊富だったので、それを思い出しながら回答できました。
胸膜炎と思ってたのに肥厚などには気付けませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>胸膜炎と思ってたのに肥厚などには気付けませんでした。
肥厚はちょっと難しいこともありますね。
本日もありがとうございました。コーン孔とか、ランバート経路とか若いときに読んでその当時も思うところがありましたが、症例1.2での解説の方がはるかにピンときました。ありがたいです
アウトプットありがとうございます。
>コーン孔とか、ランバート経路とか若いときに読んでその当時も思うところがありました
実際の画像で横に広がる様子を見ると、確かにそんな経路もあるのだと納得できますね。
今回もありがとうございました。
解答と関係ない内容ですが、左第一肋骨あたりにairがあるのですが、これはブレブの破裂などで起こるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
左肺尖部で少し目立ちますが、右肺尖部にもありますね。
ブラやブレブはCTでは区別がつかないのでまとめてブラと言います。
関連動画
昨日の気管支肺炎パターンとの違いを意識して臨むことができました、ありがとうございます! 濃い浸潤影の中にの気管支内のエアーの印影は、CTでもエアーブロンコグラムと表現してもいいものでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>昨日の気管支肺炎パターンとの違いを意識して臨むことができました、
よかったです!!
>濃い浸潤影の中にの気管支内のエアーの印影は、CTでもエアーブロンコグラムと表現してもいいものでしょうか。
そうですね。レントゲンでもCTでも用いられる用語です。
中葉症候群分かりました。
今回は中葉の肺炎でしたね。
中葉症候群という用語は、基本的に右肺中葉、左肺舌区の慢性反復性の閉塞性無気肺に対して使われます。
ですので、頻度が多いのがNTM(非結核性抗酸菌症)ですね。
参考:病気がみえる呼吸器(第1版) P277
昨日の症例の解説を頭に入れて臨んだので解答できました。昨日の解説は本当に分かりやすかったです!
ただ、肺区域の場所を間違えてしましまいました。major fissureを意識して区域を見極めるのが良いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>肺区域の場所を間違えてしましまいました。major fissureを意識して区域を見極めるのが良いのでしょうか?
肺葉についてはmajor fissureと右の場合はminor fissureを意識しましょう。
肺区域については気管支を追うことが重要となります。
CTでの肺区域の同定方法についてはこちらで動画解説しています。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/chmo
中葉の肺炎なので、非結核性抗酸菌症(MAC)を考えてしまいました(場所に引っ張られすぎ^^;)
個人的には、若年者なのに肺炎球菌性肺炎になることが新鮮で驚きでした。(高齢者の肺炎やCOPDの急性増悪の原因菌のイメージがありました)
個人的に”浸潤影”の言葉の定義がよく分からなくて、調べてみました。
”(浸潤影とは)「肺内の,肺構造の破壊を伴わない,境界不鮮明な(胸膜と接すると鮮明)すべての 陰影」とされ,肺胞性・間質性に限定しないとあるが,多くは肺胞性陰影に用いられることが多い。また,特に炎症性病変に特定した用語でもない。”
“(前略)本来は(浸潤影ではなくて)陰影を使うほうが正しく,個々の陰影の性状, 広がり,濃度について記載するのが望ましいと思われる。”
“陰影は,shadow。opacityなどの英語の用語に対応する。これらについて,部位,大きさ,形態濃度などの説明を加える。”
高橋雅士 『胸部画像診断の勘ドコロ』 p51 より引用
アウトプットありがとうございます。
>中葉の肺炎なので、非結核性抗酸菌症(MAC)を考えてしまいました(場所に引っ張られすぎ^^;)
確かに場所に引っ張られましたね。
非結核性抗酸菌症(MAC)の場合はこのような肺胞性肺炎のパターンよりは気管支肺炎パターンとなるのが通常です。
症例1:気管支肺炎パターン
症例2:肺胞性肺炎パターン
であることがこの症例1,2の最大のポイントです。
その上で、症例1の場合は、気管支壁肥厚があったり、臨床所見からマイコプラズマ肺炎が中でも疑わしい。
症例2は、気管支肺炎パターンのところもあるけれど、肺胞性肺炎パターンになっているところがあり、
肺胞性肺炎パターンを来す肺炎球菌、クレブシエラ、レジオネラなどを考慮する。という流れです。
>個人的に”浸潤影”の言葉の定義がよく分からなくて、調べてみました。
他の方のコメントにも記載しましたが、私は浸潤影と言ってしまいがちですが、
CTではコンソリデーションと言う方が無難です。
S5のような気管支透亮像とべとーっとした浸潤影の場合は、air bronchogramを伴うconsolidationと表現しているのですが、先生は「浸潤影」と「consolidation」の使い分けはどのようにされていますでしょうか?教えてください!
よろしく御願いします。
アウトプットありがとうございます。
>air bronchogramを伴うconsolidationと表現している
すいません。それで正しいです。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/34930
こちらにあるように、
コンソリデーション(consolidation)とは、
・浸潤性病変(いわゆる浸潤影)
・器質化病変
・線維化病変
を含むものであり、コンソリデーション≠浸潤影です。
CTではコンソリデーションというのが無難です。
が、つい私は浸潤影ということが多いです。申し訳ないのですが、私の言う浸潤影→コンソリデーションと言った方が無難と解釈してください。
本日も症例ありがとうございます。肺野を注視してみているのですがまだ粒状影、結節影、浸潤影などのパターンがいまいち鑑別できません。症例を数多くみて覚えていきたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>粒状影、結節影、浸潤影などのパターンがいまいち鑑別できません。
難しいですよね。
今回は中葉に気管支肺炎パターンに加えて、肺胞性肺炎を疑う均一な浸潤影(厳密にはair bronchogramを伴うconsolidation)を認めています。
このような気管支を無視して広がる肺胞性肺炎であることから、肺炎球菌、クレブシエラ、レジオネラなどを念頭に置きながら肺炎であろうと考えましょう。
なお言葉の定義ですが、
・3cm以上→腫瘤影
・5mm-3cm→結節影
・2-5mm→粒状影
となっておりますので、合わせて覚えておきましょう。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/11623
肺胞性肺炎まではわかりましたが、胸膜炎は読めませんでした。
確かに、症状からは胸膜炎を疑えます。
ごろ~先生の深い読影に感動しました。
胸痛で肺炎をみたときには、胸膜にも注意するようにします。
ところで、胸膜炎の場合、胸水がでていそうな気がするのですが、なくてもいいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>胸膜炎の場合、胸水がでていそうな気がするのですが、なくてもいいのでしょうか?
肺炎が胸膜に及んで胸膜炎になる場合は、胸水が出ていなくても診断されますね。症状ありきですが・・・。
有難うございました。
覚えておきます!勉強になりました。
ありがとうございます.勉強になります.
大動脈弓から左内頚動脈と左鎖骨下動脈の間で分岐しているのは左椎骨動脈でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
左総頚動脈と左鎖骨下動脈の分岐部の間に確かに細い血管の分岐がありますね。
ちょっと連続性が追えないので何とも言えないですが、おっしゃるように椎骨動脈かもしれません。
通常は、椎骨動脈は鎖骨下動脈から分岐するのですが。
調べるとそのような変異も報告されているようですね。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma1939/65/3/65_3_259/_article/-char/ja/
看護師です。少しでも画像診断について知識を得たいと考え、分からないまでも先生のわかりやすい解説に食らいついて拝見しております。質問なのですが、なぜ肺胞性肺炎は少なくなってきているのでしょうか?抗生剤の影響なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
気管支肺炎→肺胞性肺炎へと広がっていくのですが、気管支肺炎の段階で診断されて治療されているためと言われています。
ただし、通常気管支肺炎パターンを示すマイコプラズマも若年者の場合は肺胞性肺炎を生じることが知られており、注意が必要です。
ご返信ありがとうございました!学びの機会を提供していただきありがとうございます!
「20歳代」なのに「喫煙40本×9年」というヘビースモーカーという背景から、患者さんの年齢の下一桁が気になってしまいました。本題と関係無いところですいません(笑)
アウトプットありがとうございます。
下一桁は7でした(^_^;)
肺炎のパターンを気管支肺炎パターン、肺胞性肺炎パターンと認識して、
それぞれに病原菌、あるいは疾患に迫っていけるというのは
スマートでいいですね。
所見の仕方もいろいろと覚えていきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>肺炎のパターンを気管支肺炎パターン、肺胞性肺炎パターンと認識して、
それぞれに病原菌、あるいは疾患に迫っていけるというのは
スマートでいいですね。
そうですね。まずは画像がどちらのパターンなのかを意識しましょう。
昨日の解説で若年者のマイコプラズマも肺胞性肺炎を生じるとあったので、連続でマイコプラズマ肺炎か?と深読みしてしまいました笑。若年者でも肺炎球菌性肺炎をきたすんですね。。。
アウトプットありがとうございます。
>昨日の解説で若年者のマイコプラズマも肺胞性肺炎を生じるとあったので、連続でマイコプラズマ肺炎か?と深読みしてしまいました笑。
もちろんその可能性も考えなくてはならないのですが、まずは大葉性肺炎の起炎菌から考えましょう。
肺炎球菌は混合感染することがあり、その場合若年者ではマイコプラズマとの混合感染があります。
解説ありがとうございました。
素人質問ですみません。
既出なら大変申し訳ないのですが、本症例のどの部分を入院適応としたのか教えていただきたいです。
ADROPは0点ですが、胸膜炎も伴っていたからでしょうか。
オーグメンチン内服で再診していただくのは如何でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
確認しました。胸膜炎を伴っていたためと記載があります。
症例1の詳しい解説動画集が生かされた感じでした。胸膜まで達しているかなど、肺の構造まで意識して読むことができました。これからも頑張って食らいついていきます・・・!
アウトプットありがとうございます。
>胸膜まで達しているかなど、肺の構造まで意識して読むことができました。
よかったです。
今回は肺胞性肺炎ですが、気管支肺炎であっても、炎症が強いところでは胸膜まで達することもありますので、炎症が弱いところを見るようにしてください。
復習
・大葉性肺炎+胸膜炎
・胸膜肥厚を伴っている、呼吸時に胸痛→胸膜炎
・シルエットサイン陽性、心臓の近傍に陰影がある
・肺炎球菌性肺炎は重症化する可能性あり、膿胸にはなりにくい、治療はスルバシリン、肺炎の原因1位
・両側肺尖部にブラがある
・反応性に胸水を認めることもあるが、今回はない。
・気管支周りに浸潤影が広がっていることもあり、気管支肺炎よりも肺胞性肺炎
・肺胞性肺炎をきたすのは、肺炎球菌、クレブシエラ、レジオネラ、マイコプラズマ
・喀痰が取れない時は尿中抗原。
アウトプット&まとめありがとうございます。