
【頭部】症例66
【症例】70歳代 女性
【主訴】書字困難・計算障害・Gerstmann症候群
【現病歴】1ヶ月前から、ものを書こうとして書けなくなった。痙攣発作の既往なし。転倒などの運動障害のエピソードもない。
【既往歴】高血圧
【身体所見】意識清明で、見当識良好。言語理解良好で流暢性に問題なし。Barre sign陰性で運動麻痺なし。計算 100-7=93 OK 5+3 ×。手指は右手で失認あり。小指、母指などは把握できているが非常に反応遅い。書字は普段は名前が書けない。
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同日MRIが撮影されました。
左頭頂葉に低吸収腫瘤を認めています。
周囲には浮腫性変化を低吸収域として認めています。
MRIでは、腫瘤は、
- DWIで等信号〜一部高信号、
- ADCでは信号低下は一部であり
- T2WIは淡い高信号の腫瘤で、内部にflow voidあり。周囲浮腫性変化。
を認めています。
脳腫瘍を疑う所見です。
SWIで腫瘍内には、出血(および静脈)を示唆する無信号域を認めています。
また造影では辺縁を中心に壁は不整な分葉状の造影効果を認めています。
またよく見るとこの腫瘤から連続する造影効果を認めており、脳梁膨大部左側から脳室内にも異常な造影効果およびSWIの無信号域を認めていることがわかります。
リング状の造影効果やDWIの信号から、
- 膠芽腫(glioblastoma)
- 転移性脳腫瘍
- 多形黄色星細胞腫
などが鑑別に挙がりますが、これらの所見から、より膠芽腫が疑わしいと言うことができます。
診断:膠芽腫疑い
※膠芽腫と転移性脳腫瘍は鑑別が困難なことがありますが、膠芽腫はT2WIの高信号が、皮質に及ぶ傾向・周囲血管像が目立つ傾向があります。
※手術にて腫瘍摘出(深部の脳室内に連続する病変を残して95%以上の腫瘍を摘出)され、病理にて膠芽腫と診断されました。その後、放射線+化学療法が行われています。
- 神経膠芽腫の画像診断、症状、予後、治療
- 星細胞系腫瘍の画像診断(Astrocytic tumors)
- 脳腫瘍の画像診断-質的診断から鑑別を絞る。
- 原発性脳腫瘍の組織学的分類。発生母地から分類する。
- 脳でリング状増強効果を呈する疾患(ring-enhancement lesions)の鑑別診断
【頭部】症例66の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
FLAIRにおいて、脳梁内を進展して対側に向かって高信号が見られます(14/25)。同部位に造影効果は見られませんが、腫瘍の反対側への進展と考えて良いのしょうか?
すいません、動画を見る前にコメントをしてしまいました。動画で解説していただいたように、造影効果がなくても脳梁内進展の可能性はあるということですね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。おっしゃるように脳梁を介して対側に進展してそうですね。
膠芽腫の特徴の一つですね。
種々の悪性所見や染まり方から鑑別は間違えませんでしたが、神経膠腫、星細胞腫あたりの位置関係をよく分かっていませんでした。神経膠腫の中に星細胞からくる星細胞腫系、さらにその中の膠芽腫なんですね。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
分類と頻度を知るとたくさんある脳腫瘍の中でもどれから疑うべきかという優先順位がつきますね。
頻度が高いものはやはりできるだけ診断したいところです。
今日もありがとうございます。
腫瘍を指摘して安心してしまいましたがT2で高信号=浮腫だけではなく腫瘍が隠れている可能性があるのですね。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね、膠芽腫の場合は特にその点の意識が重要となります。
脳腫瘍の読影はややこしくてこれまで避けてきましたが、これを機会に1つずつ覚えていこう思います。
アウトプットありがとうございます。
脳腫瘍講座でなく(そんなものは恐れ多くてできませんが・・・)、救急でも遭遇する可能性がより高い頻度の多いものを取り上げていますので、この機会にそれぞれの特徴を押さえてみてください。
解剖が勉強不足なので教えてください。CTやMRI画像で側頭葉と頭頂葉は何を基準に同定すれば良いですか?
今回も腫瘍の位置をどう表現して良いのか分かりませんでした。
この前の中心溝の同定方法の動画は分かり易くて、中心溝付近の解剖は理解できたのですが。
アウトプットありがとうございます。
>CTやMRI画像で側頭葉と頭頂葉は何を基準に同定すれば良いですか?
この境界はややこしいですね。
姑息的ですが、側脳室体部レベル・放線冠レベルでは側頭葉はほぼありません。
今回ですと19/34より頭側では側頭葉はほぼないということで、腫瘍の主座は頭頂葉ということになります。
側頭葉はシルビウス裂の後方に位置していますので、その観点からもある程度は判断可能です。
明らかな腫瘍なのに、
「脳膿瘍は拡散制限あり」という付け焼き刃の知識で
脳膿瘍と回答してしまいました。
脳膿瘍の症例を見返すと、
①膿瘍なら、もっと明瞭な拡散制限が存在するはず
②周囲の浮腫性変化が膿瘍にしては強すぎる
というのが鑑別ではないかと思いました。
私の実力を考えると、まずは腫瘍を確実に腫瘍と言えるようにしたいと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>①膿瘍なら、もっと明瞭な拡散制限が存在するはず
これが特に重要ですね。膿瘍の場合はDWIで著明な高信号、ADCの信号低下を示すのが特徴です。
>②周囲の浮腫性変化が膿瘍にしては強すぎる
確かに今回浮腫がかなり強いですが、膿瘍でも周囲の浮腫はこれくらいのことはあります。
それ以外にSWIでの点状無信号なども参考になりますね。
Gerstmann症候群(手指失認、左右失認、失算、失書を4徴とする)は、頭頂葉障害で見られるので、症状も合いますね。
Ring enhancement =脳膿瘍か転移性脳腫瘍か膠芽腫のどれかと大雑把に捉えていたので、同じring enhancementでもこうやって鑑別していくのかと勉強になります。
P.S. 開講から2年おめでとうございますm(_ _)m 微力ながら応援しています(親しい友人何人かに勧めてみたり笑)
アウトプットありがとうございます。
>Gerstmann症候群(手指失認、左右失認、失算、失書を4徴とする)は、頭頂葉障害で見られるので、症状も合いますね。
そうですね。補足ありがとうございます。
>Ring enhancement =脳膿瘍か転移性脳腫瘍か膠芽腫のどれかと大雑把に捉えていたので、同じring enhancementでもこうやって鑑別していくのかと勉強になります。
ありがとうございます。難しいこともありますが、形状やMRIの信号パターンなどから鑑別していきましょう。
>P.S. 開講から2年おめでとうございますm(_ _)m 微力ながら応援しています(親しい友人何人かに勧めてみたり笑)
ありがとうございます。学生の先生にはちょっと難しいところもあるかもしれませんが、こんなのが研修医のときにあったら最高だろう、(少なくとも画像診断においては)ものすごい研修医になるだろうというのを目指して作ってます(^^)
確かに正直学生にはきつい部分もありますが笑、基礎を一つ一つ丁寧に積み上げていくような、地に足のついた感じがとても好きです。基礎的なことをきちんと出来る様になって、分からないことは自信を持って”分かりません。教えてください!”と放射線科の先生に言えるようになりたいです。(今は何が分からないのかすら分からないことがあります^^;)
>何が分からないのかすら分からないことがあります
よくわかります。私も上司の発言する連発する英単語に??となることがあり、聞くに聞けないことがたまにあります。
基本、分からないことは基本的そうなことでも恥を捨てて聞くようにしていますが。聞くは一時の恥聞かぬは末代の恥ですね。
いつも勉強させていただいております。
1つ質問ですが、脳の浮腫部分はFLAIRでも高信号になるのは水以外の成分も漏れ出ているからなのでしょうか。
よろしくお願いします。
申し訳ございません。
動画内で浮腫性変化+腫瘍の浸潤とご説明いただいているのを見逃していました。
アウトプットありがとうございます。
くも膜下腔などの脳脊髄液のみが存在するところはFLAIRでは抜けますが、脳実質が存在するところは浮腫が起こるとFLAIRで高信号にならないわけではないので注意ですね。