
症例52
【症例】50歳代男性
【現病歴】C型肝硬変でフォローしている。
画像はこちら
10年後
10年後どのような変化がありましたか?
まずは10年前の画像から見てみましょう。
肝臓は辺縁がやや鈍です。また左葉の肥大を認めており、肝硬変が疑われます。
また脾腫を認めています。さらに、胆嚢の漿膜下浮腫を認めており、いずれも肝障害による影響が疑われます。
この時点では側副血行路は認めていない状態です。
10年後の画像ではどうでしょうか?
まず脾腫が消失しています。脾臓自体を認めずクリップを認めていますので、脾摘が行われたことがわかります。
(10年前に脾腫による血球減少があり、脾摘が行われています。)
さらに同じスライスでは、上腸間膜静脈(SMV)に造影欠損を認めており血栓を認めていることがわかります。
血栓を追うと、上腸間膜静脈(SMV)から肝外門脈へと割と広範に認めていることがわかります。
また肝周囲には腹水貯留を認めています。
また10年の間に肝左葉の肥大および右葉の萎縮が進んでいる様子が分かります。
では側副血行路はどうでしょうか?
肝門部の門脈を見ると非常に細かな血管が集簇しており、一部では血栓を疑う低吸収を認めています。
境界が不明瞭でちょっと見えにくいですね。
この状態が、cavernous transformation、です。
つまり、求肝性に肝門部の細かな血管が発達している状態です。
この求肝性の血管の発達は今回のように門脈に閉塞〜閉塞(肝外門脈閉塞)を来した場合に起こりやすいとされています。
10年前には太い門脈本幹および門脈右枝および門脈左枝を認めていました。
ですが10年後には門脈には血栓を認めており、門脈周囲に細かな血管の発達を認めている様子がよくわかります。
診断:cavernous transformation、上腸間膜静脈〜門脈血栓
cavernous transformationの側副血行路の状態をシェーマで示すと以下のようになります。
これまで見てきた症例と異なり、遠肝性(門脈へ入るのを諦めて遠回りして大循環系に還流するタイプ)ではなく、求肝性(門脈から肝静脈へ入ることを目指すタイプ)ということになります。
関連:
10年前のその他所見:
- 左鼠径ヘルニアあり。中身は大網のみ。
- 腎嚢胞あり。
10年後のその他の所見:
- 両側女性化乳房あり。肝硬変による影響疑い。
- 腎嚢胞あり。
- 膵嚢胞あり。
- 腹水貯留あり。腸間膜浮腫あり。
- 腸管浮腫あり。肝硬変による影響疑い。
- 傍大動脈や腸間膜沿い、鼠径部など腹部全体に小リンパ節散見。
門脈圧亢進に伴う側副血行路の解説動画
主に見られる側副血行路の解説をしています。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
変化が多すぎて…所見を読むのに大変でした。とりあえず、門脈血栓症があり、求心性の側副血行路が発達している所見は大事かなと思いました。
>門脈血栓症があり、求心性の側副血行路が発達している所見は大事かな
その通りです。そこが今回の大本質です!
まぁ、そろそろさすがに求肝性だろう…と思った方も少なくないはず…
関連ページもこれまでに5回くらい見た気がしますw
ただ、門脈圧亢進、というよりも、肝硬変の変化全般が見れて、とてもいい復習になったと思います。脾機能亢進もとてもよく経験されるので、学生さんとかにもすごくいい症例ですよね(^▽^)/
>まぁ、そろそろさすがに求肝性だろう…と思った方も少なくないはず…
関連ページもこれまでに5回くらい見た気がしますw
問題を差し替えるのを忘れてました(違)
>門脈圧亢進、というよりも、肝硬変の変化全般が見れて、とてもいい復習になったと思います。脾機能亢進もとてもよく経験されるので、学生さんとかにもすごくいい症例ですよね(^▽^)/
ありがとうございます。こういった門脈圧亢進シリーズはどの書籍にもあまりまとまって掲載がなく作りたいと思っていたものでしたので、需要があってよかったです。
脾腫→血小板減少症を起こすと脾摘するんですね。
肝門部の血管に違和感を感じましたが、機序が分からず指摘できませんでした。肝臓経由して肝静脈から還るのですね。
cavernous transformationという言葉も知りませんでしたが、胆嚢周囲静脈は胆嚢炎のときに早期相の胆嚢周囲浮腫で習っていたのでイメージできました。
アウトプットありがとうございます。
>脾腫→血小板減少症を起こすと脾摘
脾機能亢進がある場合は、PSEをしたり、場合によっては脾摘をするようですね。
>胆嚢周囲静脈は胆嚢炎のときに早期相の胆嚢周囲浮腫で習っていたのでイメージできました。
それはよかったです!!と言いたいところですが、胆嚢炎の時に早期相で見られるのは、胆嚢床の造影効果ですね!
求肝性の側副血行路の画像ははじめて見ました。
遠肝性ばかりに見慣れてるとよくわからなくなりそうですが、今後は意識して探そうと思います。
アウトプットありがとうございます。
肝門部の門脈が追えない!細かい血管ばっかり!というときにはこの可能性があります。
あとは門脈腫瘍栓や塞栓がある場合ですね。
いつもありがとうございます。
SMVや門脈内に血栓ができることは、肝硬変の方ではよくあるのでしょうか?また起こる機序が分かれば教えて欲しいです…!
アウトプットありがとうございます。
■SMV血栓の原因
一次性:脾摘後、凝固亢進状態(真性多血症、アンチトロンビン3欠乏症、プロテインC,S欠乏症など)
二次性:門脈圧亢進、腹腔内炎症性状態(憩室炎、腹腔内膿瘍、腸炎、胆嚢炎など、)悪性腫瘍など
が知られています。
参考:画像診断 Vol.24 No.5 2004 P572
機序とすれば、大雑把ですが、肝硬変→門脈圧亢進→門脈血栓症 という機序です。
出血や脱水などの症状があると発生しやすいと言われています。
また、門脈血栓→肝前性の門脈圧亢進を引き起こし→門脈圧はさらに亢進します。
SMVや門脈内血栓は肝硬変の方でたまにみられます。
SMVと膵嚢胞と総胆管と肝動脈とが、正解がわかっていれば追えるのですが、最初ごっちゃになってしまって、全然ダメでした。
アウトプットありがとうございます。
この辺りの解剖は慣れるまでは難しいかもしれませんね。オマケに今回の症例ではそもそもの解剖がわかりにくいですね。
10年後のCT横断像で胆嚢がよくわからなかったのですが、81-84/265や187-190/265の肝右葉の尾側に見えている低吸収域でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
75-77/265で右葉と左葉の間にあるものですね。
ありがとうございます。
側副血行路はどこだろう。流れからある程度予想をしていましたが、cavernous transformationがこんな感じになるのか想像外でした。実際のCT画像を覚えておきます。
今回は遠肝性の側副血行路は作らなかったのですね。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように私も最初cavernous transformationを見たときは想像外でした。
>今回は遠肝性の側副血行路は作らなかったのですね。
そうなんです。これまでの症例を振り返ると遠肝性の方が自然な感じもありますが、このように求肝性側副血行路を形成することがあります。
いつも貴重な症例をありがとうございます。
お腹一杯体系的に学べ、とても有意義でした。
他のシリーズ期待してしまいます。
アウトプットありがとうございます。
しばらくすると別のシリーズが始まります。
よろしくお願いします。
いつも貴重な症例をありがとうございます。
楽しく勉強させていただいております。
一つ質問よろしいでしょうか。
10年後、201スライス目で下大静脈に流入しているのは精巣静脈でしょうか。
また、その静脈に腸管からの静脈が合流しているようにも見えるのですが何でしょうか。
見当違いの質問でしたら申し訳ありません。ご教授いただけると幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>10年後、201スライス目で下大静脈に流入しているのは精巣静脈でしょうか。
この血管を見つけるのに苦労しました(^_^;)
右側から合流する血管ですね。
これを尾側に追うと多数の数珠状の血管と連続して途中から追えなくなる様な気がしますので、精巣静脈なのかもしれないですが、何とも言えないです。
たくさんの側副血行路ができている状態ですね。
いつも大変貴重な症例をありがとうございます。
199/265のSMVの背側の円状の低吸収域はなんでしょうか。
膵嚢胞でしょうか。
よろしくお願い致します。
アウトプットありがとうございます。
嚢胞で良いと考えます。
また、上腸間膜動脈沿いにはリンパ節を認めていますね。