
【頭部】症例41
【症例】70歳代男性
【主訴】左上肢痙攣発作
【現病歴】4日前朝から左上肢の痺れあり。翌日近医受診も神経学的異常を認めなかった。2日前に左上肢の痙攣発作を認め、再び近医受診し、頭部CTを施行したところ、右頭頂葉にLDAを認めたため脳梗塞疑いで当院紹介となる。
【身体所見】軽度発語が拙い印象を受けるが、本人からすると変わりないと。視機能低下の自覚症状なし。左上肢巧緻性低下・感覚障害あり。左上肢Barre(+)、下肢に関してはMMT full
【データ】WBC 5600、CRP 3.01、腫瘍マーカーに異常なし。
画像はこちら
来院時当院で撮影された頭部MRI
当院で撮影された頭部造影CT
2日後に当院で撮影された頭部MRI
右頭頂葉に類楕円形のDWI高信号、ADC信号低下を認めています。
DWI/ADCの信号パターンは脳梗塞でも良さそうですが、形状がこれまで見てきた脳梗塞としては非典型的です。
T1WIでは高信号、T2WIでは低信号の被膜構造を認めています。
周囲にはT1WIで低信号、T2WIで高信号の浮腫性変化を認めています。
梗塞ではなく何か腫瘤が存在していることがわかります。
造影CTでは被膜に造影効果を認めており、いわゆるリング状の造影効果を認めています。
来院から2日後に撮影された造影MRIでもCTと同様にリング状の造影効果を認めていることが分かります。
このようなリング状造影効果を見た場合、
- 膠芽腫(glioblastoma)
- 脳膿瘍
- 転移性脳腫瘍
- 脳内血腫(亜急性期-吸収期)
- 脳梗塞(亜急性期)
などを考慮しなくてはいけません。
あわせて、今回は
- DWI/ADC=均一な高信号/低信号
- T1WIで高信号、T2WIで低信号の被膜構造あり
といった所見から、まず考えるべきは、脳膿瘍です。
診断:脳膿瘍
※感染経路としては、全身検索にて感染源がはっきりせず、血行性が考えられます。
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【頭部】症例41の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
「DWIで強い高信号」、「被膜が厚い嚢胞病変」、「リング状の造影効果」、「内部が造影されない」、これらの所見は特徴的でした。DWIであれだけ均一に高信号を示すものは、まず膿瘍を考えたいです。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。非常に典型的でした。
>DWIであれだけ均一に高信号を示すものは、まず膿瘍を考えたいです。
ですね。
確かに腫瘍にしては,充実成分があまり見られず,液体?膿瘍?のイメージがつく画像所見でした.
あまり出会うことも少ないですが,しっかり復習しようと思います.
アウトプットありがとうございます。
脳に限らず膿瘍はDWI高信号、ADC信号低下が著明なのが特徴の一つですね。
脳膿瘍は他の悪性腫瘍と違って、サイズや周囲の浮腫の強さの割にはシフトが少ないと感じることが多い気がします。
アウトプットありがとうございます。
確かにシフトが強い脳膿瘍は見たことがないかもしれません。
肝膿瘍の所見と、似ていたので
勘で回答したら当たっていました。
脳膿瘍でも似たような所見を
示すんですね。
勉強になりました。
大量の画像が、あるので見るのが大変でした…汗汗汗
めげずに最後まで頑張ります!
アウトプットありがとうございます。
膿瘍はどこでも同じような所見を示しますね。
>大量の画像が、あるので見るのが大変でした…汗汗汗
めげずに最後まで頑張ります!
よろしくお願いします。
今日もありがとうございます。
脳膿瘍!ドクターXで画像を見て以来初めて見ました!(ドラマでは膿瘍ではなく寄生虫でしたが…)貴重な症例ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>ドクターX
ドラマでしか見たことがないというのも面白いですね。
典型的ですので覚えておきましょう。
周囲への浮腫が目立ち直観的に脳腫瘍かと考えました。
DWIでの均一性やT1WI高信号の被膜は勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>DWIでの均一性やT1WI高信号の被膜
そうですね。今回はここがポイントですね!
前回DWI↑で転移性腫瘍と間違って、造影の評価などを見直していましたが、今回正解できてよかったです(^▽^)/
だんだん鑑別も多くなってきていますが、1つずつ身につけられるように頑張ります。
アウトプットありがとうございます。
>今回正解できてよかったです(^▽^)/
それはよかったです。
DWI高信号で典型的ですので覚えておいてください。
MRIだけで良いがするのですが、造影CTを追加で撮る意味はありますか?
アウトプットありがとうございます。
うっ!(^_^;)
確かにMRIだけでもよい気がしますが、CTでもやはり膿瘍だよなということを確認したかったのかもしれません。
石灰化の評価などはCTの方が強いですし。
神経膠芽腫のMRIの特徴は何でしょうか?(これからの講義に出てくる内容であればすみません)。また、被膜がT2強調でlowになるのが脳膿瘍の特徴とすれば神経膠芽腫含む他のものでは被膜はT2でhighになるのでしょうか。
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造影CT,MRIでring enhancementを認めていることから神経膠芽腫、脳膿瘍、転移性脳腫瘍までは絞れたのですが、脳膿瘍と答える事ができませんでした。
転移性脳腫瘍は単発というよりは癌のエピソードもないし、単発であることから除外できました。しかし神経膠芽腫と脳膿瘍に関してはどのように区別するのかわからず、なんとなくはっきりとした腫瘤であったことから勘で神経膠芽腫としてしまいました。
アウトプットありがとうございます。
両者の鑑別は難しいこともありますが、
神経膠芽腫の場合、同じようにリング状の造影効果を示しますが、不規則な厚みで「花輪状」とも呼ばれるもので、この点が脳膿瘍とは異なります。
また、脳膿瘍の場合はDWIで均一な高信号になる傾向が強いのに対して、神経膠芽腫の場合は、不均一な高信号となります。
神経膠芽腫の場合は内部に壊死や出血を認めたり、腫瘍血管のflow voidが見られることがあります。
今回の症例の場合、内部はほぼ均一で、DWI/ADCも均一で著明な高信号/信号低下となっています。
造影効果を認める辺縁の形状もほぼ整であり、T1WIで高信号、T2WIで低信号の被膜構造を認めている点からも脳膿瘍と考えるのが最も妥当と判断することができます。
ただし、鑑別が難しいケースもあります。CTが撮影されたのも念のためのその確認の意味があるのかもしれません。
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貴重な症例有難うございました。脳膿瘍は初めてで、ガッツリ間違えました。腫瘍をイメージして一生懸命長々と所見を書いてしまいました。今回血管支配域が中大脳動脈と後大脳動脈を微妙にまたいでいるように思いました。以前、腹部救急の講座で膿瘍は体のどこでも出来ると教えていただきました。今回血行性と考えたとすればBBBを通過してしまうのですね。来院2日目の造影MRIが来院初日の3段面に提示されているようです。ご確認いただけますでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>脳膿瘍は初めてで、ガッツリ間違えました。腫瘍をイメージして一生懸命長々と所見を書いてしまいました。
初めてですと腫瘍と間違えてしまいますね。
リング状の造影効果に加えてDWIの高信号、ADCの信号低下が特に重要な特徴ですね。
>腹部救急の講座で膿瘍は体のどこでも出来ると教えていただきました。
おっしゃるとおりです。どこにでもできて同じような画像所見を呈します。
>来院2日目の造影MRIが来院初日の3段面に提示されているようです。ご確認いただけますでしょうか。
申し訳ありません。おっしゃるとおりです。修正しました。
初日:単純MRI
初日:造影CT
2日後:造影MRI
という流れですね。
「単純CTがないので造影効果の評価が微妙」
→リング上の造影効果は見えますが、、、
頭の造影CTの場合は単純は必須ということでしょうか?
当直中撮影するときいつも単純をつけるか悩むので^_^;
アウトプットありがとうございます。
>頭の造影CTの場合は単純は必須ということでしょうか?
単純もあった方が造影効果や石灰化、出血を評価するにあたりよいですね。
これは頭部に限らずで、腹部においても造影を撮影するならば、単純もその前に撮影したいところです。
また頭部でも腹部でもいきなり造影ではなく単純を撮影した上で、本当に造影を撮影する必要があるのかを考えるのがベストですがなかなか現場ではそうもいかないかもしれません。
腹痛の原因が例えば総胆管結石や尿管結石である場合、
造影のみ→分からないorわかりにくい
単純をまず撮影→単純のみで診断可能で、造影必要?と検討できる
ということもありますので。
今回のケースも造影前と比較して、造影前後でリング状に造影されているということをやはり確認したいところです(単純のMRIはありますが)。