
【頭部】症例29
【症例】70歳代女性
【主訴】右顔面のしびれ、右上肢のしびれ
【現病歴】2時間前より体の震えと右手・顔面右半側にしびれ認められ症状改善せず当院救急搬送となる。
【既往歴】高血圧、糖尿病、脂質異常症
【内服薬】バイアスピリン、アトルバスタチン、オメプラゾール、アバプロ、グラクティブ、ロラタジン
【身体所見】意識清明、発語明瞭、BP 192/126mmHg、HR 94回/分、SpO2 96%(RA)、BT 37.2℃、瞳孔径 3/3mm、対光反射+/+、眼球運動異常なし、複視なし、眼振なし、めまいなし、顔面筋の運動異常なし、右顔面の痺れ、カーテン徴候陰性、舌偏位なし、右手指ミオクローヌス、上肢Barre徴候陰性、Mingazzini陰性、上肢MMT4/5、下肢MMT5/5、上肢感覚:右は痺れあり。
画像はこちら
MRI
まず、頭部CTでは頭蓋内出血やearly CT signなどの脳梗塞を疑う所見は認めていません。
また視床においても異常信号を認めていません。
一見見落としがちですが、左の視床にDWI高信号/ADC信号低下を認めています。
しかし、T2WIやFLAIRでは同部には高信号はまだ認めていない状態です。
超急性期の脳梗塞の画像パターンです。
またMRAでは
- 左後大脳動脈が左後交通動脈(P-com)から分岐している(胎児型)。
- その左後大脳動脈がP1-P2に相当する部位で狭窄を認めている。
- 右後大脳動脈にも軽度狭窄が疑われる。
といった所見があります。
とくに左の後大脳動脈の狭窄が目立ちます。この狭窄と今回の脳梗塞に関連はあるのでしょうか?
ところで、視床を栄養する血管は何でしょうか?
左を栄養する血管は後大脳動脈の穿通枝です。
ややこしいですが、穿通枝には上の4つがあります。
※正直ここまで覚える必要はありません。ただし視床を栄養するのは後大脳動脈の穿通枝であることは覚えておきましょう。
そして、それらの分岐部および支配域は以下の通りです。
イラストで示すと、脳の血管を横から見た図で以下のようになります。
そしてこれらの穿通枝が支配する視床の場所を画像に落とし込むと以下のようになります。
では今回どの穿通枝が梗塞に陥ったと考えられるでしょうか?
梗塞部位は視床の中でも外側の中間部あたりですので、視床膝状体動脈(TGA)が支配血管であることが推測されます。
視床膝状体動脈(TGA)は後大脳動脈P2から分岐しますので、今回のMRAでの狭窄部位にもおおよそ一致します。
※ちなみに上のDWIは3日後に撮影されたフォローのものを用いています。3日後のMRIの画像は以下の通りです。
※こちらでは解説しませんが、DWI/ADCが明瞭化していること、FLAIRで認めなかった高信号を認めていることなどを確認ください。
また今回の症状についてです。視床では梗塞に陥った穿通枝と症状には
- TGA領域→半身感覚障害、視床痛、運動失調
- TPA領域→意識障害、認知機能低下、眼球運動障害、(運動麻痺や感覚障害はあっても軽度)
などが知られています。
今回は、TGA領域梗塞が疑われ、右顔面のしびれ、右上肢のしびれに合致します。
診断:左視床ラクナ梗塞(超急性期、左視床膝状体動脈領域の疑い)
関連:
その他所見:下垂体のサイズがやや目立ち、腺腫などの可能性あり。(コメント受けて追記しました。)
【頭部】症例29の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今日もありがとうございます。
初回のDWI/ADCを見逃してしまいました。DWIでは分かりづらくてもADCではひっかけたかったです…
視床の動脈支配についても深く勉強したことがなかったのでまた復習します。
アウトプットありがとうございます。
>DWIでは分かりづらくてもADCではひっかけたかったです…
そうですね。DWIはややわかりにくかったかもしれませんが、ADCでは明瞭でしたね。
DWIで何もなければ、なかなか見ないかもしれませんがADCもしっかり見るようにしましょう。
左視床梗塞には気がつきませんでした。
左椎骨動脈に狭窄様の所見があり、解離か低形成か悩みました。解離か低形成の判断には、椎骨動脈の外観を見るための撮影が必要なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>解離か低形成の判断には、椎骨動脈の外観を見るための撮影が必要なのでしょうか?
そうですね。BPASがあることが望ましいですね。
あとはMRA元画像や他のシークエンスから判断しますが、なかなか判断が難しい例もあります。
視床を栄養する穿通枝がPCAからということを知らず、MRAでもMCAばかり確認してP2の狭窄に気が付きませんでした。
アウトプットありがとうございます。
後大脳動脈の穿通枝が栄養することをこの機会に覚えておいてください。
DWIでははっきりと梗塞を指摘できませんでした.
視床の血管支配はややこしくて苦手でしたが,今回の動画で整理されたので,今後の症例でも意識して読影したいと思います.
アウトプットありがとうございます。
>視床の血管支配はややこしくて苦手でしたが,
救急の現場ではここまではいらないと思いますが、後大脳動脈からの穿通枝が4つあって栄養している、ということくらいを知っておけば良いかと考えます。
視床のDWIはこれまでの症例よりも淡い変化ですね…見逃してしまいました。
同じく、後大脳動脈の評価も甘かったかな、と思います。
逆に、椎骨動脈について狭窄としか考えていませんでしたが「低形成」という場合もあるんですね。ちょっと難しかったです^^;
アウトプットありがとうございます。
>視床のDWIはこれまでの症例よりも淡い変化
ですね。時間が経っていないものは今回のように薄く、経時的に明瞭化してくるケースも結構ありますので、
辺縁などアーチファクトが生じやすい場所でない場合は、薄くてもしっかり陽性と取ることが大事ですね。
>椎骨動脈について狭窄としか考えていませんでしたが「低形成」という場合もある
そうですね。椎骨動脈はしばしば片側の低形成があります。
こんにちは!本日もお世話になります。
左視床の梗塞は見逃しました。発症2時間ということで、ごろ〜先生の脳梗塞の画像変化の表とは厳密にあわないものの、「発症直後の脳梗塞画像として有意な所見なし」としてしまいました…。
視床核やそれを栄養する動脈の解剖は全く覚えていませんでした。
①右上肢の感覚を支配する脊髄視床路(脊髄で交差)
②右顔面の感覚を支配する三叉神経核視床路(延髄で交差)
→①、②の到達地点である左視床がやられているので、右にだけ感覚障害が生じているのですね。
身体所見からある程度この場所にありそうだなとあたりをつけて臨んだのですが、見逃して悔しいです!
これを機に視床の解剖の勉強も少しずつやりたいです!
なんども失礼いたします。
ごろ〜先生の後大脳動脈穿通枝の絵を描いて覚えようとしていたのですが、
後大脳動脈穿通枝とは?の表で、
視床穿通動脈の英語つづりがperorate(→perforate)になっているようです。
その下のthalamogeiculate→thalamogeniculateのようです。
失礼しました!
ご指摘ありがとうございますm(_ _)m
アウトプットありがとうございます。
>発症直後の脳梗塞画像として有意な所見なし」としてしまいました…。
ちょっとこれまでの症例よりはDWIの高信号がわかりにくかったかもしれませんね。
ADCと合わせると有意であることがわかりますね。
>視床核やそれを栄養する動脈の解剖は全く覚えていませんでした。
ぶっちゃけここまで覚える必要はないと思います。後大脳動脈の穿通枝領域と、まずは覚えましょう。
本日も大変勉強になりました。
発症当日の中脳の傍正中部(右側)、DWI高信号、ADC低信号に見えたのですが、これは発症3日目にFLAIRやT2で高信号となっていません。これは読み違えだったのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
確かに今回の病変と同程度の高信号であり、
難しいところですが、同部は辺縁であり、右だけでなく左にも高信号を認めています。
この部分は(磁化率)アーチファクトと思われます。
いつも非常に勉強になっています。
今回の症例の解答とは直接関係はないのですが、頭部CTの5-6/32の脳幹の右側に写っているHDAは何でしょうか??
骨と考えましたが周囲との連続性もなく、同部位にあるものとしたら椎骨動脈が考えられるのですが、T2、FLAIRでも特に異常所見認められませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>頭部CTの5-6/32の脳幹の右側に写っているHDAは何でしょうか??
こちらは右椎骨動脈の石灰化ですね。
4/32で、右椎骨動脈が頭蓋外から頭蓋内に背側に突出するカーブを描きながら入っている様子がわかります。
左視床梗塞は診断できましたが、、
血管の支配領域を把握してなかったです。。
しっかり、復習してアウトプットしたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
正直ここまで細かいところは必要ないかも知れませんが、
視床の梗塞を見たら、この図に戻って血管支配域をチェックすると言う形で良いと思います。
いつもありがとうございます。
見事にDWIの所見を見逃しました。
過去のコメント欄も参考にして
①皮質以外はアーチファクトと解釈しない(でない?)
②ADCの方が明瞭に出る症例があるのでチェックする。
という形で見逃さないようにします。
何か他にDWIで微妙な変化を捉える良い方法はありますでしょうか?(階調を変えるという手も考えましたが、無駄に気になる場所が増えそうな気がしました。)
アウトプットありがとうございます。
>見事にDWIの所見を見逃しました。
ちょっとDWIの高信号がわかりにくかったですね。
>①皮質以外はアーチファクトと解釈しない(でない?)
②ADCの方が明瞭に出る症例があるのでチェックする。
という形で見逃さないようにします。
そうですね。ADCのチェックは必須です。
>何か他にDWIで微妙な変化を捉える良い方法はありますでしょうか?(階調を変えるという手も考えましたが、無駄に気になる場所が増えそうな気がしました。)
この講座の環境では変えられませんがわかりにくい場合は、おっしゃるように階調を変えることは重要です。
あとは、撮影中に微妙だと感じた場合はDWIのthin sliceを別に撮影してもらったり、冠状断像のDWIを撮影してもらうこともあります。ただし、CTと異なり撮影後には再構成やthin sliceを送ってください!とはいかないのがMRIですので、注意が必要です。
ご返信ありがとうございます。
thin sliceのDWIなんてのもあるのですね。
仰るように、この症例では冠状断だと穿通枝に沿って、高信号が分布していそうで、指摘できる可能性が上がりそうです。
当院では脳梗塞だとルーチンで冠状断のDWIが入ってくるのですが、
どう使うのか分かってませんでした。
今回も大変勉強させて頂きありがとうございました。
>thin sliceのDWIなんてのもあるのですね。
あまり知られていませんがあります。
thin sliceのDWIで高信号で、普通のDWIでは高信号がないということもあります。
となると普通のDWIで高信号がない→脳梗塞はない!!とは言えないとも言えますね(^_^;)
かといって、全例thin sliceを撮影するわけにもいかないですし・・・。
左視床梗塞、見逃しました(^_^;)
早い段階の脳梗塞だと淡く出ることがあるのですね。
左の後交通動脈と後大脳動脈の狭窄には気付いたのですが・・・。
番外編、息子さんのかわいい関西弁に癒されました(*^_^*)
アウトプットありがとうございます。
>早い段階の脳梗塞だと淡く出ることがあるのですね。
そうですね。脳梗塞にも虚血〜梗塞のグレーゾーンにあるものと、塞栓性のように強い脳梗塞があり、脳梗塞の各シークエンスの経時的変化が表通りにならないこともあるので注意が必要ですね。
>番外編、息子さんのかわいい関西弁に癒されました(*^_^*)
画像診断と全く関係ないのに見ていただきありがとうございます(^^)
なるほど。
アテローム血栓性のように時間をかけて狭窄していく脳梗塞は虚血~梗塞のグレーゾーンがあって、超急性期には淡い高信号を呈する場合があり、塞栓性の梗塞では急激に梗塞を起こすから信号の出方は変わってくるってことですよね。
そりゃ、そうですよね。
脳梗塞が起こる過程からどのように画像にあらわれるのかを考えるのは大切ですね。
なにげにごろー先生の追記や動画楽しみにしています(笑)
>信号の出方は変わってくるってことですよね。
そうですね。
強い梗塞と弱い梗塞があるということですね。
>なにげにごろー先生の追記や動画楽しみにしています(笑)
ありがとうございます(^^)
連休明けましたね。よろしくお願いします。
T2WI, FLAIR像のP11、淡蒼球あたりに見られるT2WIで高信号、FLARで低信号となっている点状病変は何ですか?MRAでは出入りする血管構造は見られなさそうだし、陳旧性ラクナ梗塞かなと思っていました^^;
DWIの信号に気付けなかったのは悔しいです。MIP像で後大脳動脈の狭窄には気づいたし、後大脳動脈から視床への穿通枝があることを知りながら、思考が繋がっていかなかったのが心残りですね。
番外編もありがとうございます。修学旅行を思い出しました。「そうだ、京都行こう」(^^)
アウトプットありがとうございます。
>T2WI, FLAIR像のP11、淡蒼球あたりに見られるT2WIで高信号、FLARで低信号となっている点状病変は何ですか?MRAでは出入りする血管構造は見られなさそうだし、陳旧性ラクナ梗塞かなと思っていました^^;
陳旧性ラクナ梗塞との鑑別が難しいことも実際はしばしばあるのですが、今回は場所からも血管周囲腔ですね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/2899
>DWIの信号に気付けなかったのは悔しいです。MIP像で後大脳動脈の狭窄には気づいたし、後大脳動脈から視床への穿通枝があることを知りながら、思考が繋がっていかなかったのが心残りですね。
あと一歩ですね。
>後大脳動脈から視床への穿通枝があることを知りながら
https://imaging-diagnosis.com/view/Hj3kxRzn
https://twitter.com/radiology_cafe/status/1305751286185259008
おっしゃるとおりです。この血管支配域は正答率が悪かったです。
>番外編もありがとうございます。修学旅行を思い出しました。「そうだ、京都行こう」(^^)
追伸への感想ありがとうございます(^^)
山登りには良い季節になってきましたね。
また期間外にすみません。ラクナ梗塞について復習しています。
ラクナ梗塞は穿通枝の梗塞によるものだからMRAでは異常を認めないと思っていたのですが、どうなのでしょうか。
よくわかる脳MRIに超急性期脳虚血(発症24時間以内)の項にもMRAで狭窄や閉塞を認めないと、アテローム血栓性梗塞と対比して書かれています。
そもそも分けられるものなのでしょうか?いつも含めて脳梗塞とまとめていました。
アウトプットありがとうございます。
狭窄や閉塞した穿通枝そのものは見えませんが、穿通枝を分枝する皮質枝に狭窄があればそこから出ている穿通枝にも影響があるというものです。
日々勉強になっております。
本症例は、視床性手口感覚症候群といえますでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>視床性手口感覚症候群
「手口感覚症候群は片側の手と同側の口を取り囲む領域の自覚的しびれを中心とした特異な分布の感覚障害である。大半は視床を含む血管病変により生じるとされるが、その症状が軽微なこともあり見逃されることも多い。」
とありますので該当しますね。
引用
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics1964/43/1/43_1_126/_pdf/-char/ja
さらっと見て、最初は何もないなあと見落とし、でもしびれもあるし左に何かあるはず…とゆっくりDWI/ADC画像を見ていたら見つかりました。
左PCAの狭窄があり、前回のラクナ梗塞の解説動画で、好発部位としてPCAから視床への視床穿通動脈が挙げられていたので、それなのかと思いましたが、五種類あるんですね。。勉強になります。(^^;
すみません、それと一点お聞きしたく…この方の下垂体は正常範囲でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>でもしびれもあるし左に何かあるはず…とゆっくりDWI/ADC画像を見ていたら見つかりました。
淡い高信号で一見見落としそうになりますが、ADCを見れば落ちていますね。
>五種類あるんですね。。
ここまでは覚える必要はありませんが、たくさんあることおよびPCAからの穿通動脈が支配域であることは覚えておきましょう。
>それと一点お聞きしたく…この方の下垂体は正常範囲でしょうか?
確かにサイズが大きいですね。
腺腫などがあるのかもしれません。
矢状断像は撮影されていないので、チェックしたいところですね。
追記します。ありがとうございます。
いつもお世話になりありがとうございます。間違えてしまいました・・・。
T2強調画像の2/24-5/24で内頸静脈が高信号になっていますが、これは何でしょうか。
ご教授いただけると幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>T2強調画像の2/24-5/24で内頸静脈が高信号になっていますが、これは何でしょうか。
pseudolesionですね。
内頸静脈はこのように左右差をしばしば認めることがあるので注意が必要です。
頭部TIPSでも扱いました。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5656
ありがとうございます。
しっかり復習したいと思います。
こうやって質問できる機会をつくっていただけて、有難いです。
毎日ありがとうございます。他の方の質問と一部重なるのですが、今回の症例はアテローム血栓性脳梗塞のBADという可能性はあるのでしょうか?穿通枝領域の脳梗塞を診断した時にBADとラクナ梗塞をどのように区別すればよいかご教授ください。
アウトプットありがとうございます。
アテローム血栓性脳梗塞のBADの場合は穿通枝の根元で狭窄が起こるため、梗塞範囲が長いのが特徴です。
そのため縦方向に走る穿通枝ならばDWIで3スライスくらいで梗塞範囲を追うことができるのが典型的で、中でも外側線条体動脈領域に起こる頻度が高いです。
今回はDWIで1スライスのみですし、場所が視床ですので、BADよりは穿通枝の末梢が詰まったラクナ梗塞と診断されます。
関連記事
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/33634