【新腹部救急】症例14
【症例】70歳代女性
【主訴】嘔吐、腹痛、左下肢痛
【現病歴】2日前より腹痛・嘔吐あり。昨日排便あり。今は症状がやや軽減しているが下腹部痛を認め、左足が痛い。近医受診し、レントゲンにて腸閉塞疑いで当院紹介受診。
【既往歴】急性肝炎、高脂血症、橋本病、子宮外妊娠
【身体所見】vitalに異常なし。腹部:平坦、軟、左下腹部を最強点とし腹部全体に圧痛あり。反跳痛なし。
【データ】WBC 7700、CRP 1.03
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小腸の拡張像及びニボー像を認めており、腸閉塞を疑う所見です。
閉塞機転はどこでしょうか?
左閉鎖孔に小腸の嵌頓を認めています。
閉鎖孔ヘルニアの状態です。
同部が閉塞機転となっていることが分かります。
嵌頓している腸管には造影効果は保たれており明らかな虚血を疑う所見はこの時点では認めていません。
この様子を冠状断像で見てみましょう。
すると左閉鎖孔で嵌頓した腸管を認めており、そこから連続する
- 拡張した口側の腸管
- 虚脱した肛門側の腸管
の様子がよく分かります。
閉鎖孔ヘルニアは外ヘルニアの一つで、鼠径ヘルニアのように用手的に嵌頓の解除は難しく、緊急手術となるのが通常です。
診断:左閉鎖孔ヘルニア
※同日、閉鎖孔ヘルニア嵌頓修復術施行。
手術記録より抜粋。
- 腹腔内は黄色漿液性腹水を中等度認めた。
- 小腸の拡張を認めており、追っていくと左閉鎖孔にRichter型に嵌頓あり、用手では解除できなかった。
- 周囲の腹膜を切開すると解除された。
- 左閉鎖孔を子宮で被覆した。
- 小腸は明らかな虚血を認めず、色調の回復を認めたため、切除しなかった。
※翌日腹部症状改善し飲水開始。翌々日食事開始、7日後退院。
※Richter型とは腸管全体ではなくて、腸管壁の一部のみがはまりこんで、絞扼をきたすヘルニアで、閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアなどに見られるとされます。腸管壁の一部のみですので、CT画像診断で指摘が困難なことが多いので注意が必要です。
関連:
その他所見:
- 肝嚢胞あり。
- 腎嚢胞あり。
- 少量腹水あり。
【新腹部救急】症例14の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
狭窄部より口側が拡張するので、拡張小腸の尾側をしっかり確認しないといけませんでした。大腿部までの確認を怠り、閉鎖孔の嵌頓に気が付きませんでした。反省です。
アウトプットありがとうございます。
>大腿部までの確認を怠り、閉鎖孔の嵌頓に気が付きませんでした。反省です。
閉塞機転をひたすら探すか、以前動画でも紹介したこの方法で系統的に閉塞部位を探すかですね。
https://twitter.com/radiology_cafe/status/1230745101485297664
今回のケースですと、4で外ヘルニアを除外することで引っかけることができます。
ひたすら追うのを最終手段にしようという方法ですね。
今回の症例は、下肢痛を伴ったヘルニアということで、閉鎖孔ヘルニアが疑えるかもしまなせん。
そうですね。
症状からも閉鎖孔ヘルニアを鑑別に挙げることができますね。
ヘルニアは全体を見通す前に腸を追っかけ始めると時間が非常にかかりますので全体をしっかり見てから腸を追っかけたいです。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
外ヘルニアを除外→仕方ないので拡張腸管を追う という順番で読影すると時間短縮になりますね。
今日もありがとうございます。
Richter型の存在を初めて知りました。調べてみると腸管壁の嵌頓する程度によっては口側の腸管拡張が無く、下肢や鼠径部の痛みの症状だけの場合もあるとか…。ルーチンで閉鎖孔や大腿の外ヘルニアの有無を見る癖をつけなければと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>Richter型
教科書にも割と記載がありますね。
>ルーチンで閉鎖孔や大腿の外ヘルニアの有無を見る癖をつけなければと思いました。
腸閉塞がある場合は、ルーチンに入れて見たいところですね。
癒着性イレウスとして、イレウス管やマーゲンチューブで様子を見られても嵌頓している場合は治癒しないですね。
系統的読影法では、まずSMA/SMVを確認するとのことですが、腸閉塞を疑った場合は動脈相もルーチンで撮影すべきでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
単純で腸閉塞を疑う所見があれば、理想はダイナミックCTを追加したいですね。特に絞扼性腸閉塞を疑う場合はです。
ただし、ダイナミックCTをオーダーすることのハードルは施設によっては厳しいこともありますが。
主訴もヒントになっていたため見逃さずに済みましたが、上記指摘のとおりしっかりルールを作って順番に探せていけば、ヒントがなくてもしっかり見つけることができそうです!
やはり、腸閉塞ブートキャンプも必要…?笑
アウトプットありがとうございます。
>上記指摘のとおりしっかりルールを作って順番に探せていけば、ヒントがなくてもしっかり見つけることができそうです!
そうですね。闇雲に腸管を追うよりは、最終手段にするのが気分的にもよいですね。
>やはり、腸閉塞ブートキャンプも必要…?笑
う・・・・。あれば需要がありそうですね。しかし準備が・・・・(^_^;)
いつかやります。いつか。
結腸ではなく小腸閉塞であることには気づいたのですが、caliber changeは画像の22~26くらいでの左側で狭小化する部分かと思ってしまいました。
それをみつけて満足して、明らかな閉鎖孔ヘルニアを見逃してしまったのを強く反省しているのですが、同部分は特にcaliber changeというわけではないのでしょうか?
そもそも腸閉塞の画像が苦手でESPRESSOを始めた経緯があるのですが、未だにやはり腸閉塞は苦手です・・・。
ご教示いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>それをみつけて満足して、明らかな閉鎖孔ヘルニアを見逃してしまったのを強く反省しているのですが、同部分は特にcaliber changeというわけではないのでしょうか?
同部はトライツ靱帯の先の空腸ですので拡張した口側腸管ですね。つまり、空腸の近位まで拡張していることがわかるということです。
>そもそも腸閉塞の画像が苦手でESPRESSOを始めた経緯があるのですが、未だにやはり腸閉塞は苦手です・・・。
腹部を一通り学んだあと、最後やはり難しいのは腸閉塞ですね。
次作るとすれば、腸閉塞講座だなと思っているところです。
いつも勉強させていただきありがとうございます。
Richter型で画像上の指摘・診断が難しい場合は、手術所見での診断となるのでしょうか?手術前に外来で診断するよい方法などあるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
手術所見での診断となります。