【新腹部救急】症例15
【症例】70歳代女性
【主訴】腹痛
【現病歴】本日突然腹痛が出現。徐々に腹痛増悪し頻回の嘔吐もあったため、他院受診。その後、当院転送となる。
【既往歴】気管支喘息、急性虫垂炎、帝王切開
【身体所見】vital問題なし、腹部:平坦、軟、右下腹部を最強点とする圧痛・反跳痛あり。
【データ】WBC 13800、CRP 1.52
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肝や脾臓周囲、ダグラス窩などに中等量の腹水貯留を認めています。
その腹水は、胃液や肝嚢胞などと比べるとやや高吸収であり、血性腹水であることが示唆されます。
また、右下腹部に周囲とは明らかに異なる腸管群を認めています。
単純CTであるのに腸管壁はやや高吸収で壁肥厚を認め、また腸間膜の浮腫性変化が著明です。
このような所見を見た場合に考えなければならないのが、絞扼性腸閉塞です。
※絞扼性イレウスという言葉の方がなじみが深いかもしれませんが、閉塞機転がある場合は「イレウス」と言う言葉ではなく「腸閉塞」と言う言葉を使おうと近年変わっていますので絞扼性腸閉塞とします。
ダイナミックCTも撮影されていますので、続いてダイナミックCTを見てみましょう。
すると、この腸管群はダイナミックCT(早期相)と単純CTと比較して造影効果が非常に軽微であることがわかります。
左腹部の腸管の造影効果と比較すると明らかに造影不良であることがわかります。
つまり、腸管に血流が行き届いておらず、腸管虚血や壊死を疑う所見です。
また右下腹部を注意深く観察すると、beak signといって腸管がくちばし状に細くなっている部位があることが分かります。
そして、そのbeak signを呈する腸管と連続して腸管の拡張および糞便構造を認めていることがわかります。
これはsmall bowel feces signと言って閉塞機転を示唆する所見でした。
つまり同部が閉塞機転であることが推測されます。
冠状断像でも右下腹部に周囲と明らかに異なる腸管群を認めており、扇状の腸間膜の浮腫性変化が見やすいことがわかります。
これらの所見から、この腸管群がclosed loopを形成して絞扼性腸閉塞に陥っていることが予測されます。
- 単純CTで腸管壁がやや高吸収
- 造影CTで造影効果が不良
であるという所見から腸管虚血〜壊死に陥っていることが予測され、緊急手術の適応となります。
診断:絞扼性腸閉塞疑い
※緊急手術が施行されました。
手術記録より抜粋
- 開腹時に血性腹水あり。
- 回腸は虚血により変色しており、盲腸と後腹膜の間に大網が癒着し、それがバンドとなって回腸が入り込みclosed loopを形成していた。
- 虚血になっている回腸は回腸末端から2cmくらいから60cmの腸管であった。
- 回腸末端の距離がないため、回盲部切除し、盲腸を後腹膜から剥離を行った。
closed loopの原因には以下のものが知られています。
画像からは絞扼性腸閉塞であり、緊急手術の適応であることがわかればよく、上の原因のどれに相当するのかまでは分からないことの方が多いです。
今回は、
- 盲腸と後腹膜の間に大網が癒着し、それがバンドとなって回腸が入り込みclosed loopを形成していた
ということなので、①索状物を形成していたということになります。
※術後4日後に食事開始しましたが、胃部不快感・むかつきあり、一旦絶飲食となりました。その後術後6日から飲水開始、9日から再び食事開始。13日後に退院となっています。
関連:
その他所見:
- 肝嚢胞あり。
- 左腎より突出する結節あり。腫瘍の可能性。
- 子宮筋腫あり。
【新腹部救急】症例15の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
絞扼門から流入する動脈血が追えたので「腸管切除なし」で済むのかなと思いつつ所見を拾って行くと、腸管の造影不良や血性腹水など腸管壊死を疑う所見を認めたため「腸管切除の可能性が高い」と判断しました。今回の症例は絞扼門がわかりやすかったです。
アウトプットありがとうございます。
>絞扼門から流入する動脈血が追えた
そうですね。血管は見えますね。
>腸管の造影不良や血性腹水など腸管壊死を疑う所見を認めたため「腸管切除の可能性が高い」と判断しました。
そうですね。腸管の造影不良の評価は難しいことが多いですが、今回はややわかりやすいですね。
>今回の症例は絞扼門がわかりやすかったです。
ですね(^^)
絞扼性腸閉塞と言ったほうが良いのですね!確かに腸閉塞の方が悪そうな気もしますね。
すいませんKENKENさんのコメントで『絞扼門』とありますが、closed loopが起きている原因の索状物などの存在するところをいうのでしょうか?すなわちbeak signの先端?そこを通過後の動脈血が染まっていたら虚血になっている可能性は下がるという考えは今まで評価していなかった点でした。私なりの言葉で書いたら違うといったことはないでしょうか?システマチックでいーなと思っていたら、今回は虚血という興味深い結末でした。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>絞扼性腸閉塞と言ったほうが良いのですね!
そうですね。日本も最近その流れですね。
>『絞扼門』とありますが
ヘルニア門のことだと思います。つまり腸管や腸間膜が逸脱しているポイントですね。
>closed loopが起きている原因の索状物などの存在するところをいうのでしょうか?すなわちbeak signの先端?
そうですね。この理解で大丈夫です。
絞扼性腸閉塞であり虚血疑いまで指摘できればOKなのでしょうが、閉塞原因を考えるようにはしています。ただ内ヘルニアや索状物だと思っても、靭帯や大網、腹腔内外の解剖の理解に乏しく、「何かしらの索状物」みたいな感じで妥協してしまいます_| ̄|○
画像から特定は困難と考えると気は楽ですが。。。
アウトプットありがとうございます。
>ただ内ヘルニアや索状物だと思っても、靭帯や大網、腹腔内外の解剖の理解に乏しく、「何かしらの索状物」みたいな感じで妥協してしまいます_| ̄|○画像から特定は困難と考えると気は楽ですが。。。
何かしらの索状影によるものが多いですね。
特に大網が癒着などして絡むことが多いです。
画像から原因まではなかなかわからないので、基本分からないものとして割切った方がよいですね(^_^;)
派手な所見でわかりやすかったですが,確かに絞扼の原因同定まではなかなか難しいですね.
一つ一つ丁寧に所見を追って,後で術中の所見を確認するなどの努力が必要そうです.
アウトプットありがとうございます。
>一つ一つ丁寧に所見を追って,後で術中の所見を確認するなどの努力が必要そうです.
そうですね。
かなりの症例を振り返ってみましたが、何らかの索状物、癒着によってできた孔などに入り込むことが多く、術前の画像で原因までは特定できないことが多いです。