
先に結論:直腸の粘膜脱症候群(孤立性直腸潰瘍症候群)は若い人に多い良性の病気で、直腸癌と誤られやすい。MRIでは拡散制限が目立たない、T2の高低混在または低信号、層状の造影・粘膜下浮腫が手がかり。排便造影で重積や排便協調障害を確認する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな病気か | 粘膜の脱出(目に見える・見えない)が共通の原因と考えられる病気のまとまり(du Boulay 1983) |
| 患者像 | 平均37歳で、直腸癌(平均62歳)より若い。症状の期間が長い(Xie 2025) |
| MRIの手がかり | 拡散制限なし、T2の高低混在または低信号、層状の造影または粘膜下浮腫。組み合わせでAUC 0.97(Xie 2025) |
| 誤診 | MRIで最初に直腸癌とされた人が30人中6人(Xie 2025) |
| 排便造影 | 直腸の重積、排便協調障害、前方・中央区画の下垂が見つかる(Abdelatty 2021) |
粘膜脱症候群と孤立性直腸潰瘍症候群
孤立性直腸潰瘍症候群(solitary rectal ulcer syndrome、SRUS)は、症状・臨床所見・組織所見の組み合わせで診断される、まれな良性の病気です(Zhu 2014)。名前に「孤立性」「潰瘍」とありますが、潰瘍があるのは患者の40%だけで、1つだけの潰瘍は20%です。残りは粘膜の発赤から、幅の広いポリープ状の隆起まで形も大きさもさまざまです(Zhu 2014)。
du Boulay(1983)は、典型的な孤立性直腸潰瘍19例と直腸粘膜脱16例の組織と組織化学の特徴が似ていることから、粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome、MPS)という呼び方を提案しました。はっきり見える脱出でも、見えない(潜在的な)脱出でも、粘膜の脱出が共通の原因だという考え方です。この考え方では、孤立性直腸潰瘍も、潰瘍のない隆起型の病変も、同じ病気のまとまりとして扱います。
症状と組織
症状は、直腸からの出血、多量の粘液、長く強いいきみ、会陰部や腹部の痛み、残便感、便秘で、直腸脱を伴うことはまれです。性差はほとんどなく(やや女性に多い)、小児や高齢者にも見られます(Zhu 2014)。
組織では、粘膜固有層が線維と平滑筋線維で置き換わり(fibromuscular obliteration)、厚くなった粘膜筋板から内腔に向かって平滑筋線維が伸びるのが特徴です(Zhu 2014)。原因ははっきりしていませんが、骨盤底の機能障害を伴うことが多いとされます(Zhu 2014)。
直腸癌と間違えられやすい
粘膜脱症候群の画像が問題になるのは、直腸癌によく似ることです。直腸癌として紹介されてきた人を調べたBlanco(2011)の報告では、大腸外科の登録5,035人のうち14人(0.28%)が最終的にSRUSで、そのうち9人は最初に直腸癌と診断されていました。術前に病期診断を受けた6人では、経直腸超音波で5人、MRIで4人中3人が直腸癌と判断され、深く取る鉗子生検(macrobiopsy)で癌が否定されました(Blanco 2011)。
著者らは、画像検査を使っても誤診は減らず、臨床の判断と深い生検が欠かせないと述べています(Blanco 2011)。また、前壁の厚い潰瘍性の粘膜病変のMRIは悪性と区別できなかったものの、前壁に起こりやすいことから、臨床の状況が合えば疑うきっかけになるとした報告もあります(Amaechi 2010)。
MRI所見と直腸癌との違い
MRIをまとめて調べた報告として、SRUS 30人と、病期の早い直腸癌(pT2N0以下)120人を比べた研究があります(Xie 2025)。SRUSの人は平均37歳(直腸癌は平均62歳)と若く、CEAは低く、症状の期間は長めでした(12か月と3か月)。30人中6人(20%)は、MRIで最初に直腸癌と診断されていました(Xie 2025)。
| MRI所見 | SRUS 30人での頻度 |
|---|---|
| T2の高低混在の信号 | 16人(53%)で最多。ほかは低信号、やや高信号 |
| 拡散制限なし | 23人(77%) |
| 潰瘍 | 19人(63%) |
| 層状の造影(layer enhancement) | 12人(40%) |
| 粘膜下浮腫 | 11人(37%) |
| 持続的な造影パターン | 25人(83%) |
| 固有筋層が保たれている | 30人全員 |
| 直腸間膜リンパ節の腫大 | 4人(13%) |
| 粘膜下の嚢胞 | 1人(3%) |
(Xie 2025)
直腸癌と比べて、潰瘍、粘膜下浮腫、拡散制限なし、T2の低信号または高低混在、層状の造影はSRUSで有意に多く見られました。「拡散制限なし」「T2の低信号または高低混在」「層状の造影または粘膜下浮腫」の3つを組み合わせると、直腸癌との区別のAUCは0.97、感度93%、特異度100%でした(Xie 2025)。
SRUSは前壁に起こりやすいとされてきましたが(Amaechi 2010)、Xie(2025)の検討では全周性の壁肥厚が多く見られました。また、粘膜下の嚢胞はSRUSを示す所見とされてきたものの、この検討では1人だけでした(Xie 2025)。粘膜下に粘液を含む嚢胞ができる深在性嚢胞性大腸炎(colitis cystica profunda)はSRUSや直腸脱に伴うことがあり、MRIで浸潤しない多数の粘膜下嚢胞として見えた報告があります(Inan 2007)。
直腸癌の壁深達度の読み方は直腸癌のT分類の記事、直腸周囲の筋肉の解剖は直腸癌のMRIで知っておく筋肉の記事で説明しています。
症例 30歳代男性 前壁の潰瘍を伴う孤立性直腸潰瘍症候群

引用:Xie P, et al. Solitary rectal ulcer syndrome: MRI findings and differentiation from rectal cancer. Insights Imaging 2025;16(1):126 (Fig. 4). CC BY 4.0。PMC12170985
2か月前からの直腸出血で受診した人です。T2強調横断像(A)で中部直腸の前壁に潰瘍を伴う限局性の壁肥厚があり、低信号で長さは約26mmです。拡散強調像(B)とADC map(C)では拡散制限がなく、T1強調像(D)は等信号、造影(E〜I)では持続的に増強されます。経直腸超音波(J)では粘膜下層と固有筋層が厚くなっていますが保たれ、内視鏡(K)では幅の広い病変があり、組織(L)で悪性は否定されました(Xie 2025)。
CTの位置づけ
CTで直腸の壁肥厚として見つかることもありますが、粘膜脱症候群のCT所見を系統的に調べた報告は、調べた範囲では見当たりませんでした。CTで直腸の壁肥厚を見たときの一般的な考え方は直腸壁が厚く見える理由の記事にまとめています。若い人の直腸の壁肥厚で症状が長い場合は、MRIと内視鏡・生検の結果を合わせて考えます。
排便造影でわかること
粘膜脱症候群の背景には、いきみ方や骨盤底の問題があります。排便造影(defecography)は、この背景の排便障害を見るための検査です。
組織で確かめられたSRUS 5人に排便造影を行った報告では、2人で排便時に骨盤底の筋肉がゆるまない状態(spastic pelvic floor syndrome)、3人で直腸の壁が内腔に折れ込み、しだいに重積になる様子が見られました。注腸造影は正常か非特異的で、ヒューストン弁の肥厚、結節状の変化、狭窄が見られることがあるとされます(Goei 1987)。
MR排便造影(MR defecography)では、組織で確かめられたSRUS 28人(女性18人)を調べた報告があります(Abdelatty 2021)。
| MR排便造影の所見 | 28人での頻度 |
|---|---|
| 直腸の内重積(internal intussusception) | 16人 |
| 直腸脱(肛門の外への脱出) | 3人(11%) |
| 前方の直腸瘤 | 女性12人(全体の43%) |
| 前方・中央区画の過度な下垂 | 18人(64%) |
| 膀胱瘤/子宮脱 | 14人(50%)/7人(25%) |
| 小腸瘤/腹膜瘤 | 各5人(18%) |
| 排出の遅れ/排出が残る(排便協調障害を示唆) | 16人(57%)/13人(46%) |
(Abdelatty 2021)
著者らは、MR排便造影で直腸の重積と排便協調障害の両方を評価でき、構造の問題と機能の問題を分けることが治療方針に関わると述べています(Abdelatty 2021)。下垂の測り方(PCLなど)は骨盤臓器脱のMRIの記事で説明しています。
読影のポイント
- 若い人、症状の期間が長い、CEAが高くない、という臨床像なら、直腸癌のほかに粘膜脱症候群を挙げる(Xie 2025)
- 拡散制限がない、T2の低信号または高低混在、層状の造影・粘膜下浮腫の有無を確認する(Xie 2025)
- 画像で癌を否定しきれないときは、深い生検を含む組織診断が必要(Blanco 2011)
- 排便造影やMR排便造影で、重積・直腸瘤・排便協調障害を確認する(Abdelatty 2021)
Xie(2025)の30人では、3分の1が保存的治療でよくなり、3分の1は6か月の保存的治療のあとに症状がぶり返し、3分の1は症状の再燃で最終的に手術を受けました。治療の選び方は主治医と相談します。排便時の出血が続くときは、自己判断せずに医療機関で診てもらいましょう。
よくある疑問(Q&A)
Q. MRIで直腸癌と区別できますか?
A. 手がかりはあります。3つの所見の組み合わせで特異度100%という報告がありますが(Xie 2025)、画像を使っても誤診が減らなかったという報告もあり(Blanco 2011)、最終的には組織で確かめます。
Q. 「孤立性」なのに、潰瘍がないことがあるのですか?
A. あります。潰瘍があるのは40%で、発赤やポリープ状の隆起の形もあります(Zhu 2014)。
Q. 排便造影は何のために行うのですか?
A. 病気の背景にある直腸の重積、直腸脱、排便協調障害を見るためです(Goei 1987、Abdelatty 2021)。
Q. 直腸間膜のリンパ節が腫れていれば癌ですか?
A. SRUSでも30人中4人で直腸間膜リンパ節の腫大がありました(Xie 2025)。リンパ節だけで決めず、壁の所見と合わせて考えます。
参考文献
- Xie P, Lou X, Fu S, et al. Solitary rectal ulcer syndrome: MRI findings and differentiation from rectal cancer. Insights Imaging. 2025;16(1):126. PubMed
- Abdelatty MA, Halligan S, El Sayed RF, et al. Solitary rectal ulcer syndrome (SRUS): observational case series findings on MR defecography. Eur Radiol. 2021;31(11):8597-8605. PubMed
- Blanco F, Frasson M, Flor-Lorente B, et al. Solitary rectal ulcer: ultrasonographic and magnetic resonance imaging patterns mimicking rectal cancer. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2011;23(12):1262-6. PubMed
- Amaechi I, Papagrigoriadis S, Hizbullah S, et al. Solitary rectal ulcer syndrome mimicking rectal neoplasm on MRI. Br J Radiol. 2010;83(995):e221-4. PubMed
- Zhu QC, Shen RR, Qin HL, et al. Solitary rectal ulcer syndrome: clinical features, pathophysiology, diagnosis and treatment strategies. World J Gastroenterol. 2014;20(3):738-44. PubMed
- du Boulay CE, Fairbrother J, Isaacson PG. Mucosal prolapse syndrome–a unifying concept for solitary ulcer syndrome and related disorders. J Clin Pathol. 1983;36(11):1264-8. PubMed
- Goei R, Baeten C, Janevski B, et al. The solitary rectal ulcer syndrome: diagnosis with defecography. AJR Am J Roentgenol. 1987;149(5):933-6. PubMed
- Inan N, Arslan AS, Akansel G, et al. Colitis cystica profunda: MRI appearance. Abdom Imaging. 2007;32(2):239-42. PubMed
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