妊娠中の腹痛 超音波→MRI→必要ならCTの順

妊娠中ですが、右のお腹が痛みます。虫垂炎かもしれないと言われましたが、赤ちゃんに影響のあるCTは受けたくありません。どんな検査になりますか?
妊娠中の腹痛では、まず超音波(エコー)、それで診断がつかなければ造影剤を使わないMRI、どうしても必要なときにCTという順番が一般的です。赤ちゃんへの影響を減らしながら、お母さんの病気を見逃さないための順番です。理由と、急ぐべき症状を整理します。

先に結論:妊娠中の右下腹部痛は「超音波 → 造影剤なしのMRI → 必要ならCT」の順に調べる。造影剤(ガドリニウム)は通常使わない

項目 ポイント
最初の検査 超音波。放射線を使わず、安全に繰り返せる。ただし妊娠中は虫垂が見えないことも多い
虫垂が見えない・診断がつかないとき 造影剤なしのMRI。放射線を使わず、虫垂と周囲の炎症を調べられる
CTを使うとき 超音波・MRIで診断がつかない、または病状が急ぐなどで、診断の利益が上回ると医師が判断したとき
ガドリニウム造影剤 妊娠中は通常避ける。MRIは造影剤なしで虫垂炎の評価ができる
受診の目安 痛みが強まる、発熱、繰り返す嘔吐、右のお腹が押すと痛い、出血、赤ちゃんの動きの変化は急いで連絡

妊娠中の腹痛で、まず考えること

妊娠中は、子宮が大きくなり、お腹の中の臓器の位置も変わります。ふだんと違う腹痛が出ても、妊娠による変化と区別しにくく、診断が遅れやすい時期です。

妊娠中に手術が必要になる、産科以外の病気で最も多いのが急性虫垂炎です。約500〜635回の妊娠に1回の割合で起こり、妊娠の第2期(中期)に多いとされます。症状は妊娠していない人と似ていますが、典型的な経過をとらないことも多く、診断には画像が役立ちます(Franca Neto 2015)。画像検査の目的は、診断の迷いによる手術の遅れを減らすことで、不要な手術を減らすこと(ただし、ゼロにはできない)が次の目的です。

虫垂炎そのものの症状・診断・CT所見は、急性虫垂炎(盲腸)とは?原因・症状・診断(Alvaradoスコア・CT)と治療のまとめと急性虫垂炎のCT所見のポイントに詳しく書いています。

検査の順番:超音波 → MRI → CT

妊娠中の虫垂炎が疑われるときの検査は、「超音波が第一、診断がつかなければMRI、最後にCT」という順番が示されています(Franca Neto 2015)。米国放射線学会(ACR)の右下腹部痛・虫垂炎のガイドライン(2018年版)も、妊婦では造影剤を使わないMRIと超音波が選ばれる検査であり、MRIと超音波は経験のある術者・読影者で最もよく働くとしています(ACR 2018年版)。

順番 検査 長所 限界
1 超音波 放射線を使わない。ベッドサイドで繰り返せる。圧痛の位置を確かめながら調べられる 妊娠が進むと子宮にじゃまされ、虫垂が見えにくい。技師・医師の技量に左右される
2 造影剤なしのMRI 放射線を使わない。虫垂や周囲の炎症、虫垂炎以外の病気も調べられる 検査に時間がかかる。夜間や休日に撮れない施設がある。造影剤は使わない
3 CT 短時間で全体を調べられ、診断の精度が高い 放射線を使う。胎児への影響を考慮し、最後の手段として使う

超音波が最初になる理由と限界

超音波は放射線を使わず、すぐに行え、妊娠中の腹痛の最初の検査として適しています。ただし、虫垂は小さく、大きくなった子宮に押されて見えにくくなります。148人の妊婦のMRIを調べた研究では、虫垂炎のなかった人のうち、超音波で正常な虫垂が見えたのは2%未満(2/126人)でしたが、MRIでは87%(116/134人)で見えました。虫垂炎があった14人のうち、超音波で虫垂炎が分かったのは5人(36%)に対し、MRIは全員(14人)で陽性でした(Pedrosa 2009)。

つまり、超音波で虫垂が見えないことは「正常」を意味しません。見えないときや診断がつかないときに、次の検査としてMRIを考えます。

造影剤なしのMRIがその次になる理由

妊婦の虫垂炎の診断に使われたMRIを集めたシステマティックレビュー(34研究)では、まとめた感度は0.95、特異度は0.97でした。MRIで陽性なら虫垂炎の確率が30%から93%に、陰性なら2.2%に変わると計算されています。著者らは、造影剤を使わないMRIを、超音波で診断がつかないときの次の検査(2番手)として勧めるとしています(Habiro Alves 2026)。MRIは放射線を使わず、胎児に有害な影響を示す証拠はないとされています(Spalluto 2012)。

前述の148人の研究では、MRIの結果で手術の判断を行った場合、虫垂炎でない人の手術(陰性開腹)は30%で、CTを使ったのは4人(3%)でした(Pedrosa 2009)。MRIが使える環境では、CTを避けられることが多いと考えられます。

CTを使うとき

CTは放射線を使うため、妊娠中は最後の手段とされます(Franca Neto 2015)。それでも、超音波やMRIで診断がつかない、MRIをすぐに撮れない、病状が重く急ぐなど、お母さんの診断の利益が、胎児への影響を上回ると医師が判断したときにはCTが選ばれることがあります。妊娠中のCTでも、検査の部位や条件を工夫して線量を抑えます。妊娠中のCTや被ばくの考え方は妊婦・妊娠中のCT検査で胎児への影響は?とレントゲン・CTの被ばく量は大丈夫?で説明しています。なお、CTで使うヨード造影剤についてはCT造影剤(ヨード)を妊婦に使う場合の注意点、胎児への影響は?を参照してください。

MRIで「ガドリニウム造影剤」を避ける理由

MRIの造影剤にはガドリニウムが使われます。ガドリニウム造影剤は胎盤を通ると考えられており、胎児への長期的な安全性は確立していません。カナダ・オンタリオ州の約142万件の出産のデータを調べた研究では、妊娠中のMRIについては、妊娠初期のMRIは、胎児や幼児期の害の増加と関連しませんでした。一方、妊娠のどの時期でも、ガドリニウムを使ったMRIを受けた母親(397人)では、リウマチ性・炎症性・浸潤性の皮膚の病気が増え(調整ハザード比1.36)、死産・新生児死亡も多いという結果でした(調整相対リスク3.70)。ただし、発生はまれで、この研究は観察研究であり、稀な有害事象を検出できない可能性があることも、著者は述べています(Ray 2016)。

この結果から、妊娠中は造影剤を使わないMRIで虫垂炎を評価し、ガドリニウムはほかの方法で得られない重要な利益があるときに限って検討するという考え方になります。MRIを受けるときは、造影の有無を主治医・放射線科医と事前に相談してください。

妊娠週数と虫垂の位置

「妊娠が進むと虫垂が上に押し上げられ、痛みの場所も右上のほうに移る」という説明を見かけます。MRIで妊婦の虫垂の位置を調べた研究では、妊娠中に虫垂が徐々に上方へ移動することが確かめられました(Oto 2006)。一方、帝王切開で直接観察した77人の研究では、満期の妊婦でも、81.8%で虫垂は通常の位置にあり、上に移動していたのは18.2%で、「多くの妊婦では、虫垂は週数とともに上へ移動しない」と報告されました(Ishaq 2018)。

報告が一致していないので、痛みの位置だけで虫垂炎を決めたり、外したりしないことが重要です。画像検査では、右の下腹部だけでなく、右の上腹部までを広く調べます。

症例 20歳代女性(妊娠31週) 肝臓の下に位置する虫垂炎(MRI)

妊娠31週 肝臓の下に位置する虫垂炎と蜂窩織炎 MRI T2強調像 横断像
引用:Degastani H, et al. Cureus 2026 (Figure 2)(CC BY 4.0)

妊娠31週の初産婦で、右の脇腹の痛みから始まり、右上腹部の圧痛が出た症例のMRI(横断像)です。初めは尿路感染として治療され、超音波では胆石はあるものの胆嚢炎は否定的でした。再度の超音波で肝臓のわきに境界のはっきりしない構造が見つかり、虫垂炎を除外できなかったためMRIが行われると、肝臓の下に位置する虫垂が約1cmに腫れ、そのまわりに大きな炎症のかたまり(蜂窩織炎)を作っていました。図中の矢印(collection)は、液体のたまりを指しています。症例報告では、抗菌薬で治療され、経過観察のCTでは虫垂が正常になったと説明されています。

虫垂炎以外にも原因がある

妊娠中の腹痛の原因は、虫垂炎だけではありません。消化管、肝胆膵、泌尿器、血管、婦人科など、虫垂以外の多くの病気が腹痛の原因になります。MRIは、虫垂炎以外の原因も同時に調べられる点でも有用です(Spalluto 2012)。

原因 特徴 画像検査
卵巣捻転 卵巣の腫れ(嚢胞など)がある人で、突然の強い下腹部痛・吐き気。時間が勝負になる 超音波(血流を含む)。必要ならMRI
胆石・胆嚢炎 右上腹部痛、発熱、吐き気。食後や夜間に出やすい 超音波が第一
尿路結石・腎盂腎炎 脇腹から下腹部への激しい痛み、血尿、発熱 超音波。診断がつかなければMRI
子宮筋腫の変性 筋腫のある人で、局所の痛み。妊娠中に増大・変性することがある 超音波・MRI
妊娠に関係する病気 子宮外妊娠(妊娠初期)、切迫早産、胎盤早期剥離など。出血・お腹の張りを伴うことが多い 産科の診察と超音波
腸炎・腸閉塞など 下痢・嘔吐・便秘、腹部の張り 超音波、必要ならMRI

原因が虫垂でなくても、産科と協力して調べることが大切です。症例では、右の脇腹の痛みから始まり、尿路感染の治療や胆石の評価が先行したのち、MRIで虫垂炎と分かりました。

受診の目安:どんなときに急ぐか

妊娠中の腹痛は、様子を見てよいものから急ぐものまであります。次のような症状があるときは、かかりつけの産婦人科や救急に連絡してください。

  • 腹痛が強まる、右のお腹を押すと強く痛む、歩くと響く
  • 38度前後の発熱、寒気
  • 吐き気や嘔吐が続き、水分がとれない
  • 性器出血、破水のような水っぽいおりもの、お腹の張りが繰り返す
  • 赤ちゃんの動きが少ない・いつもと違う
  • 血尿、脇腹の激しい痛み
  • 意識がぼんやりする、冷や汗、動悸

「妊娠中だからCTやMRIは受けられない」と自分で判断して受診を遅らせることは避けてください。必要な検査は、方法や順番を工夫して安全に行えます。気になる症状があれば、早めに医療機関へ相談してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 超音波で虫垂が見えなかったので、「異常なし」と言われました。大丈夫でしょうか?
A. 超音波では、虫垂炎がなくても正常な虫垂が見えないことが多く、見えない=正常とは言えません(Pedrosa 2009)。症状が続く、悪化するときは、再度診察を受け、MRIなどの追加を相談してください。

Q. MRIは赤ちゃんに影響がありますか?
A. 造影剤を使わないMRIは放射線を使わず、胎児に有害な影響を示す証拠はないとされています(Spalluto 2012)。妊娠初期のMRIでも、胎児や幼児期の害の増加とは関連しませんでしたが、まれな有害事象は検出できない可能性があります(Ray 2016)。造影剤(ガドリニウム)は別で、通常は避けます。

Q. 造影剤なしでも、MRIで虫垂炎が分かりますか?
A. はい。妊婦を対象とした研究のまとめでは、感度0.95、特異度0.97と高い精度でした(Habiro Alves 2026)。

Q. CTを撮ったほうがよいと言われたら、断るべきですか?
A. CTは、診断の利益が胎児への影響を上回ると医師が判断したときに選ばれます。不安があれば、理由、ほかの方法でよいか、線量を抑える工夫を、遠慮せずに担当医へ確認してください(Franca Neto 2015)。

あわせて読みたい:症状別・最初に受ける画像検査の早見表、胆石イレウスとは

あわせて読みたい:妊娠中のMRIは大丈夫?(胎児への影響とガドリニウムを避ける理由)

参考文献

  1. Franca Neto AH, Amorim MM, Nóbrega BM. Acute appendicitis in pregnancy: literature review. Rev Assoc Med Bras (1992). 2015;61(2):170-7. PubMed
  2. Pedrosa I, Lafornara M, Pandharipande PV, et al. Pregnant patients suspected of having acute appendicitis: effect of MR imaging on negative laparotomy rate and appendiceal perforation rate. Radiology. 2009;250(3):749-57. PubMed
  3. Habiro Alves L, Machado GF, Martin GCC, et al. Accuracy of magnetic resonance imaging for acute appendicitis in pregnant women: an updated diagnostic systematic review and meta-analysis. Abdom Radiol (NY). 2026;51(9):4257-4267. PubMed
  4. Ray JG, Vermeulen MJ, Bharatha A, et al. Association Between MRI Exposure During Pregnancy and Fetal and Childhood Outcomes. JAMA. 2016;316(9):952-61. PubMed
  5. Spalluto LB, Woodfield CA, DeBenedectis CM, et al. MR imaging evaluation of abdominal pain during pregnancy: appendicitis and other nonobstetric causes. Radiographics. 2012;32(2):317-34. PubMed
  6. Oto A, Srinivasan PN, Ernst RD, et al. Revisiting MRI for appendix location during pregnancy. AJR Am J Roentgenol. 2006;186(3):883-7. PubMed
  7. Ishaq A, Khan MJH, Pishori T, et al. Location of appendix in pregnancy: does it change? Clin Exp Gastroenterol. 2018;11:281-287. PubMed
  8. Garcia EM, Camacho MA, Karolyi DR, et al. ACR Appropriateness Criteria® Right Lower Quadrant Pain-Suspected Appendicitis. J Am Coll Radiol. 2018;15(11S):S373-S387. PubMed

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