急性虫垂炎は、虫垂(ちゅうすい)に炎症を起こした状態で、一般的にはしばしば盲腸(もうちょう)と呼ばれます。

(※厳密には虫垂は盲腸から連続する小さな管腔構造です。)

非常に小さな構造であるため、CT画像ではしばしば指摘が難しいこともあります。

そのようなときは、

  • 薄いスライス厚を作成してもらう。
  • 多方向(特に冠状断像)から観察する。
  • 造影剤を用いて検査をする。

ことで、診断能は上がりますが、内臓脂肪の少ない患者さんだとそれでも苦戦することがあります。

またそもそも、上行結腸の固定が悪く、盲腸が通常と異なる部位にあることもありますし、虫垂の分岐の仕方にもバリエーションがあります。

とはいえ、基本を押さえておけば、ほとんどの虫垂炎は診断できます。

今回は、そんな急性虫垂炎のCT画像診断の基本についてまとめました。

急性虫垂炎とは?

急性虫垂炎とは、虫垂の内圧が上昇したところに感染を伴ったものです。

虫垂の位置については下のイラストを参照ください。

 

虫垂のCTでの同定の仕方は?

慣れてくると、典型的ならば虫垂独特の構造をすぐに見つけられるようになりますが、慣れるまでは以下のstepに沿って同定するようにしましょう。

step1 後腹膜に固定されている上行結腸を同定する。

上行結腸は後腹膜に固定されていますので、まず上行結腸を同定します。

参考画像)

小腸イレウスの画像ですが、上のように上行結腸、下行結腸は後腹膜に固定されていますので、同定し易いことが多いです。

すぐにわからない場合は、直腸から逆行性に結腸を追っていくことでほとんどの症例は同定可能です。

Step2 尾側へたどり、回腸末端が上行結腸に合流する回盲弁を見つける。

上行結腸を見つけることができれば、その尾側に盲腸があるはずです。

ですので、上行結腸を尾側に追います。

すると、回腸が上行結腸に開口する回盲弁(バウヒン弁)を同定できます。
これを虫垂と勘違いしないように注意しましょう。

Step3  さらに尾側にたどり、盲腸に連続し先端が盲端となっている管腔を見つける。

回盲弁(バウヒン弁)を見つけるとそこから尾側の結腸が盲腸です。

この盲腸から出る先端が盲端となっている小さな管腔を探します。
それが虫垂です。

正常の虫垂のCT画像は?

虫垂炎を起こしている虫垂を同定するためには、普段から正常な虫垂を同定する訓練をするのが良いです。

ここでは虫垂炎を起こしていない正常の虫垂のCT画像を見てみましょう。

症例 60歳代男性 スクリーニング

単純CTのポイントとなる横断像の3スライスと、冠状断像です。

どこが上行結腸で、どこが回盲弁(バウヒン弁)でどこが盲腸で、どこが虫垂でしょうか?

次のようになります。

上行結腸を見つけて、尾側に追って、回盲弁(バウヒン弁)を見つける。
それよりも尾側が盲腸。
盲腸から出て行く盲端となっている構造を見つける。
それが虫垂です。

 

虫垂の中には空気があることがわかります。
通常の虫垂はこのように空気が入っていることが多いです。

一方で虫垂炎の場合は液体貯留を伴うことが多いのです。

虫垂が同定できない!?なんで?

このように探しても虫垂が見つからないことがあります。

その場合は、以下のことを思い出しましょう。

  • 虫垂の走行にはバリエーションがある。
  • 盲腸自体の位置にもバリエーションがある

虫垂の走行にはバリエーションがある。

Carmine  D:Clemente anatomy, a regional atlas of the human body. 3rd ed,Urban and Schwartzenberg.Baltimore-Munich,1987より引用改変。

虫垂の走行は、盲腸の背側で後腹膜に固定されて頭側に向かうものが6割です。

そして、下方に向かうものが3割。

他にもさまざまな方向を向くことがあります。

いろんな方向を向いていますので、最も多い盲腸の背側で後腹膜に固定されて頭側に向かうものがなくても、空気の入った小さな管状構造をいろんな方向で探してみましょう。

盲腸自体の位置にもバリエーションがある。

盲腸は通常右下腹部にありますが、右下腹部ではなく、肝下面レベル、正中部、骨盤内などに存在することがあります。

ですので、右下腹部ばかりを見て虫垂を探すのではなく、そもそも盲腸は本当に右下腹部にあるのか?をチェックしてみましょう。

虫垂炎の分類は?

虫垂炎は、病理学的には、炎症の程度により以下の3つに分類されます。

  • カタル性
  • 蜂窩織炎性
  • 壊疽性

下に行くほどより進行した状態です。

カタル性虫垂炎

炎症が粘膜表層のみに見られる状態です。

蜂窩織炎性虫垂炎

炎症が筋層、漿膜や虫垂間膜まで全層へ及ぶ状態です。

壊疽性虫垂炎

虚血が進行し、粘膜は破壊され、穿孔をきたす状態です。

 

それぞれの段階で見られるCT所見が違います。

急性虫垂炎のCT所見は?

それぞれの段階に分けて説明すると次のようになります。

虫垂自体の炎症を示唆する所見=カタル性虫垂炎に相当

  • 径が6mmを超えて拡張。
  • 壁肥厚および壁造影効果増強。

周囲炎症波及を示唆する所見=蜂窩織炎性虫垂炎に相当

  • 周囲脂肪織濃度上昇(dirty fat sign)。
  • 盲腸の粘膜下層の肥厚。
  • 終末回腸の壁肥厚。
  • 外側円錐筋膜の肥厚。

虫垂の穿孔を示唆する所見=壊疽性虫垂炎に相当

  • 虫垂の壁外のairの存在。
  • 虫垂壁の一部欠損。
  • 虫垂結石の逸脱。
  • 膿瘍形成。

※なお、虫垂結石(糞石)を伴う虫垂炎は穿孔する確率が高く手術適応を示唆する重要な所見とされています。

文字だけだとわかりにくので、急性虫垂炎のCTでの様子をイラストで表すと次のようになります。

虫垂の腫大を認め、壁の造影効果増強を伴います。

また虫垂周囲の脂肪式濃度上昇を認め、外側円錐筋膜に肥厚・盲腸の粘膜下層の肥厚を認めます。
いずれも、周囲への炎症の波及を示唆する所見です。

さらに虫垂根部に高吸収な虫垂結石(糞石)を認めます。

蜂窩織炎性虫垂炎に相当するイラストです。

では、実際の症例を見ていきましょう。

症例 30歳代男性 反跳痛を伴う右下腹部痛

腹部造影CTのポイントとなる冠状断像と横断像です。

ポイントとなる構造に色をつけると次のようになります。

回腸末端よりも尾側の盲腸から虫垂が分岐しており、その虫垂は腫大していることがわかります。

周囲に軽度脂肪織濃度上昇あり。虫垂炎を疑う所見です。

手術の結果、蜂窩織炎性虫垂炎でした。

症例 50歳代男性 右下腹部痛

腹部造影CTの横断像です。

回腸が結腸に合流するバウヒン弁よりも尾側の盲腸から連続する虫垂は、腫大し、周囲脂肪織濃度上昇および外側円錐筋膜の肥厚を伴っており、蜂窩織炎性虫垂炎と診断されました。

症例 50歳代女性 右下腹部痛、嘔吐にて来院

腹部造影CT 横断像

骨盤内右側に辺縁に造影効果を呈する膿瘍腔を認めており、そこに入り込む虫垂が描出されています。

壊疽性虫垂炎により、虫垂の穿孔および膿瘍形成を来した症例です。

症例 20歳代女性 腹痛

小腸の拡張及び壁の造影効果の増強を認めています。

腹水貯留および腸間膜の脂肪織濃度上昇を認めており、腹膜炎による麻痺性イレウスを疑う所見です。

尾側に虫垂の軽度腫大を認め、造影効果の増強を認めています。

腹膜の肥厚と腹水貯留もあります。

急性虫垂炎穿孔による腹膜炎、それに伴う麻痺性イレウスと診断されました。

最後に

急性虫垂炎のCT画像診断のポイントについて

  • 虫垂の同定の仕方
  • 虫垂が見つからないときに考えること
  • 虫垂炎の分類とそれぞれのCT所見

をまとめました。

ここにまとめたところをチェックするとほとんどの虫垂炎は診断することができます。

ただし、

「冠状断像がなかったらわからなかった・・・」

「薄いスライス(thin slice)を作ってもらわなかったら分からなかった・・・」

ということもあります。

必要に応じて、これらを作り(作ってもらい)、診断能を上げていきましょう。

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