
先に結論:ドライバー遺伝子の画像所見は「傾向」で、診断は遺伝子検査で行う
| 遺伝子 | 画像の傾向 | 補足 |
|---|---|---|
| EGFR変異 | すりガラス成分・エアブロンコグラム・胸膜陥入・小型 | 女性・非喫煙者に多い。脳転移は小さく多発しやすい報告がある |
| ALK融合 | 充実性・分葉状・エアブロンコグラムなし・リンパ節転移・下葉 | 若い人に多い。FDG集積が高く転移が多い報告がある |
| ROS1融合 | 充実性・リンパ節転移・心膜転移・胸水 | 症例数が少ない報告が中心 |
| 予測の精度 | 臨床情報とCT所見を合わせても曲線下面積(AUC)は0.7台 | 画像だけでは遺伝子検査の代わりにならない |
ドライバー遺伝子変異とは
ドライバー遺伝子変異とは、がん細胞の増殖を強く後押ししている遺伝子の異常のことです。肺腺癌ではEGFR変異やALK融合、ROS1融合などがよく知られています。これらがあるかどうかは、組織や血液などを用いた遺伝子検査で調べるもので、CTやX線で診断するものではありません。画像診断医の役割は、遺伝子検査で想定される傾向を知ったうえで、腫瘍の性状・進展・転移を正確に記載することです。
頻度は集団によって異なります。手術した肺腺癌827例の検討では、EGFR変異が59.1%、ALK陽性が7.0%でした(Han 2021)。肺腺癌385例の別の検討では、EGFR変異は43.6%でした(Liu 2016)。いずれも手術例なので、進行例の頻度とは異なります。
どんな患者さんに多いか
画像を見る前に、患者さんの背景を知っておくと所見の意味づけがしやすくなります。827例の検討では、次のような違いがありました(Han 2021)。
| 項目 | EGFR変異あり | EGFR変異なし | ALK陽性 | ALK陰性 |
|---|---|---|---|---|
| 年齢(平均) | 59歳 | 59歳 | 54歳 | 59歳 |
| 女性の割合 | 61% | 34% | 60% | 49% |
| 喫煙歴のある割合 | 23% | 49% | 33% | 33% |
EGFR変異は女性と非喫煙者に偏り、ALK陽性は年齢が若いという点が目立ちます。ただし、ALK陽性では喫煙歴や性別に有意な差はありませんでした(Han 2021)。EGFR変異は、腫瘍の組織型が鱗屑状(lepidic)優位であること、小さな腫瘍であることとも関連していました(Liu 2016)。
つまり、若い人の肺癌、非喫煙の女性の肺癌を見たときは、画像の傾向とあわせて「遺伝子検査が重要な患者さんだ」と意識することが、読影とその後の診療の橋渡しになります。
EGFR変異の画像所見
手術した肺腺癌385例のCT所見を調べた研究では、EGFR変異は次のような腫瘍に多くみられました(Liu 2016)。
| 所見 | 意味 |
|---|---|
| すりガラス成分(GGO・混合GGO) | 肺胞を置換して進む成分。淡い濃度上昇 |
| エアブロンコグラム | 腫瘍内を気管支の空気が通る。air bronchogram(気管支透亮像) |
| bubble-like lucency(空胞状透亮) | 腫瘍内の小さな空気の泡のような低吸収 |
| 血管収束・胸膜陥入 | 周囲の血管や胸膜が腫瘍に引き込まれる |
| 小型・辺縁の棘状突起 | 小さな腫瘍に多い |
| 気管支血管束の肥厚 | 腫瘍の周りの気管支や血管が太く見える |
多変量解析で独立した因子として残ったのは、非喫煙者、小さい腫瘍、bubble-like lucency、均一な造影、胸膜陥入でした。臨床情報にCT所見を加えるとAUCは0.778となり、臨床情報だけの0.690より高くなりました(Liu 2016)。
手術した827例の別の検討でも、EGFR変異の独立した因子は、女性、非喫煙者、すりガラス成分、エアブロンコグラム、胸膜陥入でした。AUCは臨床情報のみの0.682から、CT所見を加えると0.758になりました(Han 2021)。エクソン21変異のほうが19変異よりすりガラス成分の腫瘍に多いとも報告されています(Han 2021)。
症例 53歳女性 EGFR変異陽性の肺腺癌

引用:Han X, et al. Sci Rep. 2021;11(1):5679(Figure 2)、CC BY 4.0(図は加工していません)
右上葉に混合すりガラス状の結節があり、内部にエアブロンコグラムを認め、胸膜陥入を伴っています。病理は鱗屑状(lepidic)優位型の腺癌で、エクソン21のL858R変異が確認されました。
典型的な早期肺腺癌のすりガラス・部分充実結節の見え方は肺がんのCT画像|初期の見え方を参照してください。
ALK融合の画像所見
ALK陽性は、先ほどの827例で7.0%でした。独立した因子は、年齢(ALK陽性のほうが若い)、充実性優位型または粘液性腺癌、エアブロンコグラムがないことなどでした。臨床情報にCT所見を加えるとAUCは0.657から0.739になりました(Han 2021)。この検討ではリンパ節転移の頻度にALKの有無で差がなく、次に示す小型腺癌の検討と結果が異なります。研究ごとに対象や方法が違うため、所見は「傾向」として読む必要があります。
3cm未満の手術した肺腺癌で、ALK陽性56例と陰性57例を比べた研究では、ALK陽性はリンパ節転移、病期の進み、下葉、分葉状、気管支血管束の肥厚、均一な腫瘍、すりガラス成分がないこと、エアブロンコグラムがないこと、造影効果が小さいこと、リンパ節の短径が大きいことと関連していました。1cmより大きい空洞はALK陽性の3例にみられ、陰性にはありませんでした(Wang 2020)。
| 見る点 | EGFR変異で多い | ALK融合で多い |
|---|---|---|
| 腫瘍の性状 | すりガラス成分を含む | 充実性・均一 |
| エアブロンコグラム | ある | ない |
| 胸膜陥入 | ある | 少ない(エアブロンコグラムがない) |
| 形 | 辺縁が棘状 | 分葉状 |
| リンパ節 | リンパ節腫大は少ない傾向(Liu 2016) | 転移・短径の大きいリンパ節(Wang 2020)。ただしHan 2021では差なし |
| 患者 | 女性・非喫煙者 | 若い人 |
(Liu 2016、Han 2021、Wang 2020)
FDG-PET/CTでは、肺腺癌331例のうち、ALK陽性18例はEGFR変異やどちらもない群よりSUVmaxが高く、リンパ節や遠隔臓器への転移が多いと報告されています(Choi 2013)。ALK陽性は転移が速いことがあるため、リンパ節や遠隔転移の見落としに注意が必要です。
ROS1融合の画像所見
病期IIIb/IVの腺癌169例(ROS1 23例、EGFR 120例、ALK 26例)の比較では、ROS1融合の腫瘍はEGFR変異と比べてエアブロンコグラムと胸膜陥入が少なく、胸水、心膜転移、胸腔内外のリンパ節転移、脳転移が多くみられました。多変量解析では、年齢、心膜転移(オッズ比10.50)、リンパ節転移(オッズ比8.55)がROS1融合で多い因子でした(Woo 2020)。例数が少ない検討なので、傾向として扱ってください。
脳転移の見え方
遺伝子のタイプで脳転移の見え方にも傾向があります。診断時に脳転移のあった57例の検討では、EGFRのエクソン19欠失例は、野生型より小さな脳転移が多発し、周囲の浮腫が小さい傾向でした。研究は、症状がなくても定期的な頭部MRIを考えるべきとしています(Sekine 2012)。
EGFR陽性68例とALK陽性24例のMRIの比較では、髄膜播種はEGFR群で18/68、ALK群で2/24、脳実質病変の不均一さや中心壊死はALK群で8/24、EGFR群で2/68でした(Batra 2019)。
画像で推定するときの限界
ここまでの所見は、いずれも集団で見たときの統計的な傾向です。AUCは0.7台で、個々の患者さんで遺伝子型を言い当てられる精度ではありません。ALKを予測する別のモデルも、AUC 0.794と「中程度」と評価されています(Wang 2020)。CT所見や放射線画像を数値化するラジオミクスは、画像から遺伝子変異を予測する研究が盛んですが、臨床の指標としてはまだ研究段階で、標準化が必要とされています(Araujo-Filho 2022)。
このため、画像で変異を推定して遺伝子検査を省くという使い方はできません。報告書には腫瘍の性状・大きさ・胸膜やリンパ節の状態を、TNM第9版の病期にそって過不足なく書くことが大切です。見逃しやすい部位は肺がんがCTで見逃されやすい場所と形、病期の組み立ては肺癌のCT画像とステージにまとめています。
読影のチェックリスト
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 腫瘍の性状:すりガラス成分の有無、充実部の割合、エアブロンコグラム、空胞状の透亮 |
| 2 | 辺縁・周囲:胸膜陥入、血管収束、棘状突起、分葉状、気管支血管束の肥厚 |
| 3 | 部位と大きさ:小型の末梢病変か、下葉の充実性腫瘍か |
| 4 | リンパ節:縦隔・肺門の短径、PETの集積。ALK・ROS1で目立つことがある |
| 5 | 胸膜・心膜:胸水・心嚢液・心膜転移 |
| 6 | 遠隔転移:脳(MRI)・骨・副腎・肝。症状がなくても評価する |
| 7 | 前回画像との比較:腫瘍の増大、新しい転移 |
よくある疑問(Q&A)
Q. すりガラス結節があれば、EGFR変異があるのですか?
A. すりガラス成分はEGFR変異に多い所見ですが、それだけでは決まりません。EGFR変異の独立した因子は、すりガラス成分に加え、非喫煙者・エアブロンコグラム・胸膜陥入などとの組み合わせで評価されています(Han 2021、Liu 2016)。
Q. 若い人の充実性の腫瘍はALKですか?
A. ALK陽性は若い人の充実性腫瘍、エアブロンコグラムなし、リンパ節転移に多い傾向があります。ただし予測モデルのAUCは0.7台で、診断は遺伝子検査で行います(Han 2021、Wang 2020)。
Q. 遺伝子検査はいつ必要ですか?
A. 治療方針を決めるために、主治医や呼吸器内科・腫瘍内科が判断します。画像の傾向から検査が不要になるわけではないので、担当の医師の説明に従ってください。気になる症状があれば医療機関に相談してください。
あわせて読みたい:ICUのポータブル胸部X線の読み方、院内肺炎・NHCAPの画像診断
参考文献
- Liu Y, Kim J, Qu F, et al. CT Features Associated with Epidermal Growth Factor Receptor Mutation Status in Patients with Lung Adenocarcinoma. Radiology. 2016;280(1):271-80. PubMed
- Han X, Fan J, Li Y, et al. Value of CT features for predicting EGFR mutations and ALK positivity in patients with lung adenocarcinoma. Sci Rep. 2021;11(1):5679. PubMed
- Wang H, Wang Y, Zhang H, et al. Preoperative CT features for prediction of ALK gene rearrangement in lung adenocarcinomas. Clin Radiol. 2020;75(7):562.e21-562.e29. PubMed
- Woo JH, Kim TJ, Kim TS, et al. CT features and disease spread patterns in ROS1-rearranged lung adenocarcinomas: comparison with those of EGFR-mutant or ALK-rearranged lung adenocarcinomas. Sci Rep. 2020;10(1):16251. PubMed
- Choi H, Paeng JC, Kim DW, et al. Metabolic and metastatic characteristics of ALK-rearranged lung adenocarcinoma on FDG PET/CT. Lung Cancer. 2013;79(3):242-7. PubMed
- Sekine A, Kato T, Hagiwara E, et al. Metastatic brain tumors from non-small cell lung cancer with EGFR mutations: distinguishing influence of exon 19 deletion on radiographic features. Lung Cancer. 2012;77(1):64-9. PubMed
- Batra U, Mahawar V, Jajodia A, et al. Patterns of brain metastasis in anaplastic lymphoma kinase – rearranged and epidermal growth factor receptor-mutated lung cancer patients in magnetic resonance imaging. South Asian J Cancer. 2019;8(3):189-190. PubMed
- Araujo-Filho JAB, Mayoral M, Horvat N, et al. Radiogenomics in personalized management of lung cancer patients: Where are we? Clin Imaging. 2022;84:54-60. PubMed
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