
先に結論:拍動性耳鳴は「静脈・動脈・腫瘍・骨の欠損」に分けて探す。耳の診察と画像を合わせて、危険な硬膜動静脈瘻を見逃さない
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな耳鳴りか | 心臓の拍動(脈)に合わせて聞こえる。通常の耳鳴りと違い、血流や血管の音など、実際の音源があることが多い |
| 主な原因 | 静脈性(S状静脈洞の憩室・裂開、高位頸静脈球、頭蓋内圧亢進、静脈洞狭窄)、動脈性(頸動脈狭窄・解離、異所性内頸動脈)、動静脈短絡(硬膜動静脈瘻)、腫瘍(グロムス腫瘍)、上半規管裂隙 |
| 画像検査 | 側頭骨CT・CTA、MRI/MRA/MRV。診断がつかない、または硬膜動静脈瘻が疑わしいときは血管造影 |
| 見逃してはいけない病気 | 硬膜動静脈瘻。皮質静脈への逆流があると、脳出血などの危険が高い |
| 受診の目安 | 脈と同期する耳鳴りが続く、頭痛・視力の変化・ふらつきを伴うときは、耳鼻咽喉科や脳神経の専門医に相談する |
拍動性耳鳴とは
拍動性耳鳴は、脈拍に合わせて聞こえる耳鳴りです。通常の耳鳴り(自分にしか聞こえない、体の外に音源のない音)と違い、血管の中の血流の乱れや、血管と耳の位置の近さなどによって、実際の音(体の中の音)が発生していることが多く、原因が見つかりやすい症状です。まれに、診察する医師にも聴診で音が聞こえることがあります。
原因は、音が生まれる場所によって、動脈性、動静脈短絡(動脈と静脈が直接つながる)、静脈性に分けられます。動脈性の原因には動脈硬化、解離、線維筋性異形成があり、動静脈の接合部では動静脈瘻や血管の豊富な頭蓋底の腫瘍、静脈性では頭蓋内圧亢進や、頭蓋底の静脈・静脈洞の変異が代表的です(Hofmann 2013)。
どんな原因が多いのか
著者らの自験例では、拍動性耳鳴の原因は、血管の豊富な側頭骨の腫瘍が16%で最多、次いで静脈の正常変異・奇形が14%、血管の狭窄が9%で、硬膜動静脈瘻・炎症による充血・頭蓋内圧亢進がそれぞれ8%でした(Hofmann 2013)。耳鼻科の単一施設315人の検討でも、53%で特発性以外の診断がつき、静脈系の異常(静脈群)ではS状静脈洞の裂開が78%、動脈系の異常(動脈群)では頸動脈の狭窄が36%、外耳・中耳に病変がある群ではグロムス腫瘍が56%を占めていました(Cavarocchi 2024)。
| 分類 | 代表的な原因 |
|---|---|
| 静脈性 | S状静脈洞の憩室・壁の裂開、高位頸静脈球・頸静脈球の骨壁欠損、特発性頭蓋内圧亢進症、横静脈洞などの狭窄、静脈洞の変異 |
| 動脈性 | 頸動脈の狭窄(動脈硬化・線維筋性異形成)、頸動脈解離、異所性(走行異常の)内頸動脈 |
| 動静脈短絡 | 硬膜動静脈瘻 |
| 腫瘍 | グロムス腫瘍(鼓室型・頸静脈型)などの血管に富む腫瘍 |
| 骨の欠損 | 上半規管裂隙、S状静脈洞壁・頸静脈球壁の裂開 |
静脈性:いちばん相談の多い原因
S状静脈洞の憩室・裂開
S状静脈洞は、耳のすぐ後ろ(乳突蓋)を通る脳の太い静脈の通り道です。ここに小さな袋状の突出(憩室)ができたり、耳と接する骨の壁が薄く欠けたり(裂開)すると、静脈の血流の音が内耳に伝わりやすくなります。拍動性耳鳴の4〜20%にS状静脈洞の異常が伴うとされ、システマティックレビュー139人では90.4%が女性で、平均年齢は39.0歳でした(Wang 2017)。
この系統は治療できる原因で、S状静脈洞壁の再建・補強(再建術が91.4%)や血管内治療が行われ、術後の再発は3.5%でした(Wang 2017)。
高位頸静脈球・頸静脈球の骨壁欠損
頸静脈球は、頭蓋底で内頸静脈がはじまる部分です。この位置が通常より高い(高位頸静脈球)、あるいは中耳側の骨が欠けている(裂開)と、中耳の近くで静脈の音が生じることがあります。頸静脈孔の解剖は頸静脈孔とは?で説明しています。
特発性頭蓋内圧亢進症・静脈洞狭窄
特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)では、頭の中の圧力が上がり、拍動性耳鳴を訴える人が多いことが知られています。横静脈洞の狭窄が音の原因になることもあります。画像所見は特発性頭蓋内圧亢進症のMRIで解説しています。
IIHの患者さんのCT静脈造影を調べた研究(拍動性耳鳴を伴う42人、伴わない37人、対照75人)では、高度な両側の横静脈洞狭窄とS状静脈洞の裂開は、対照群よりIIHで多く見られました。ただし、IIHの中で拍動性耳鳴の有無による差はありませんでした(Lansley 2017)。つまり、IIHでは静脈の変化が増えるものの、それだけで耳鳴りの原因だとは言い切れない点に注意が必要です。
動脈性・動静脈短絡:危険な原因を見逃さない
頸動脈の狭窄・解離、異所性内頸動脈
頸動脈の狭窄や解離では、狭くなった血管の血流が乱れて音になります。この場合は耳の周りやのどで血管雑音(bruit)が聞こえることがあります。異所性内頸動脈は、内頸動脈の走行が中耳側に寄ったもので、中耳内の拍動する腫瘤状の構造として見つかり、生検などをすると危険な鑑別疾患です。
硬膜動静脈瘻(dAVF)
硬膜動静脈瘻は、脳を包む硬膜の動脈と静脈洞や静脈が、直接つながる病気です。横静脈洞・S状静脈洞の近くにできると、耳の近くで高い音がして、拍動性耳鳴の原因になります。詳しい画像診断は硬膜動静脈瘻(dAVF)の画像診断に解説があります。
この病気は、静脈への血液の逆流のしかたで危険度が変わります。Cognard分類による検討では、静脈洞の本幹を順方向に流れるI型は良性の経過でした。II型のうち皮質静脈への逆流がある場合は10%で出血し、皮質静脈に直接流れ込むIII型では40%、静脈の拡張を伴うIV型では65%で出血がありました(Cognard 1995)。耳鳴りだけで済んでいるうちに見つけて、皮質静脈への逆流の有無を評価しておくことが大切です。
臨床の特徴も参考になります。血管造影を受けた164人の検討では、高い音の耳鳴りと、診察で血管雑音が聞こえることが、短絡(dAVFなど)と関連し、難聴があると短絡の危険は低くなりました。一方、首の横を圧迫すると耳鳴りが弱まる場合は静脈性が示唆されました。診察で、短絡の有無を判断するAUROCは0.882でした(Cummins 2024)。
症例 65歳男性 後頭蓋窩の硬膜動静脈瘻

引用:Radiopaedia(Posterior cranial fossa dural arteriovenous fistula – pulsatile tinnitus)
拍動性耳鳴の症例ページに掲載された頭部MRA(横断像)です。画像の右下、後頭蓋窩の横静脈洞のあたりに、細い血管が絡まった異常な血管網が見えます。症例ページでは、以前の横静脈洞血栓症のあとに、硬膜の細い動脈が静脈洞の中へ入り込んで再開通し、多数の小さな瘻を作る、外頸動脈の枝(硬膜を栄養する血管)から横静脈洞への短絡と説明されています。
腫瘍:グロムス腫瘍
グロムス腫瘍(傍神経節腫)は、血管の豊富な腫瘍で、中耳の鼓室にできる鼓室型と、頸静脈球にできる頸静脈型があります。拍動性耳鳴の原因として代表的で、中耳・外耳に異常がある群の56%がグロムス腫瘍でした(Cavarocchi 2024)。CT・MRIの所見は鼓室グロムス腫瘍とは?CT・MRI画像所見と頸静脈型との違いで説明しています。血管に富むため、診察で鼓膜の奥に赤みを帯びた腫瘤が見えることもあり、むやみに生検をしてはいけません。
上半規管裂隙症候群
上半規管を覆う骨が薄く欠けると、耳の中の音の伝わり方が変わり、大きな音でめまいが起こる(Tullio現象)ほか、自分の体の音が聞こえることがあります。拍動性耳鳴の原因の一つとしても知られます(Cao 2023)。側頭骨の薄いスライスCTで骨の欠損を確認します。詳しくは上半規管裂隙症候群の画像診断を参照してください。
画像検査の使い分け
拍動性耳鳴では、診察(鼓膜、聴診、首の圧迫、頭位での変化)で動脈性・静脈性・耳の病変を見当づけ、そのうえで画像を選ぶのが効率的です(Cavarocchi 2024、Cummins 2024)。
| 検査 | 得意なこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 側頭骨CT(薄いスライス) | S状静脈洞・頸静脈球の骨壁欠損、上半規管裂隙、異所性内頸動脈、中耳の腫瘤、骨の変化 | 血流の情報は少ない。造影CTA・CTVを併用すると血管の評価が加わる |
| CTA・CT静脈造影 | 頸動脈の狭窄・解離、静脈洞狭窄、憩室、血管に富む病変の評価 | 造影剤を使う。腎機能・アレルギーの確認が必要 |
| MRI/MRA/MRV | 腫瘍、頭蓋内圧亢進のサイン、静脈洞血栓、硬膜動静脈瘻を疑うflow signal(TOF元画像) | 骨の欠損の評価は側頭骨CTが向く。所見は血流の向きや速さまでは示さない |
| 血管造影(DSA) | 硬膜動静脈瘻の診断と、流入動脈・静脈への逆流の評価、治療 | 侵襲がある。診断がつかない、または短絡が疑わしいときに行う |
報告された診断率(診断がついた割合)は、頸動脈エコー21%、側頭骨CT65%、CT血管造影86%、MRI/MRA58%でした。ただし研究の対象や基準がそろっておらず、数字の幅が広い点に注意が必要です(Cao 2023)。単一施設の315人では、診断率が高かったのはCT静脈造影44%、血管造影42%、MR静脈造影40%で、特異度は血管造影0.82、CTAとCT静脈造影0.67でした(Cavarocchi 2024)。
「静脈性」と決めつけない
MRAで硬膜動静脈瘻が見つかった80人の検討では、横静脈洞・S状静脈洞のdAVFが、S状静脈洞壁の異常(裂開など)や頸静脈球の異常を伴った割合が40.8%でした。S状静脈洞壁の異常が見えても、首の圧迫で音が消えても、静脈性と決めつけず、硬膜動静脈瘻を除外してから手術を考えるべきだと述べられています。CTでS状静脈洞の骨がまだらに欠けた「moth-eaten sigmoid plate」所見もdAVFを示唆します(Hsieh 2025)。
治療
治療は原因によります。S状静脈洞の憩室・裂開は再建術や血管内治療(Wang 2017)、硬膜動静脈瘻は血管内治療を含む専門的な治療、グロムス腫瘍は腫瘍への治療、頸動脈の狭窄・解離は血管の治療が検討されます。IIHは頭蓋内圧に対する治療が中心です。いずれも、画像で原因を特定してから方針を決めます。
よくある疑問(Q&A)
Q. 脈と同じ耳鳴りは、すぐ危険ですか?
A. 原因は、静脈の変異のように治療で改善が見込めるものから、硬膜動静脈瘻や腫瘍まで幅があります(Hofmann 2013)。放置してはいけない病気もあるため、続くときは耳鼻咽喉科で診察と画像検査を受けてください。
Q. まずどの画像検査を受けますか?
A. 診察の所見によります。耳の病変や静脈性が疑わしければ側頭骨CT・CT血管造影、頭蓋内の病変や腫瘍・圧の上昇を調べるならMRI/MRAが選ばれます。診断率は検査や施設で差があります(Cao 2023、Cavarocchi 2024)。
Q. 首を押すと音が小さくなります。静脈性でしょうか?
A. 首の圧迫で弱まるのは静脈性を示唆する所見です(Cummins 2024)。ただしdAVFでも圧迫で変わることがあり、画像での確認が必要です(Hsieh 2025)。
Q. 検査で何も見つからないことはありますか?
A. あります。原因が特定できない拍動性耳鳴もあり、単一施設の315人の検討では、特発性以外の診断がつかなかった人が47%でした(Cavarocchi 2024)。気になる症状が続くときは、医療機関に相談してください。
参考文献
- Hofmann E, Behr R, Neumann-Haefelin T, et al. Pulsatile tinnitus: imaging and differential diagnosis. Dtsch Arztebl Int. 2013;110(26):451-458. PubMed
- Cao AC, Hwa TP, Cavarocchi C, et al. Diagnostic Yield and Utility of Radiographic Imaging in the Evaluation of Pulsatile Tinnitus: A Systematic Review. Otol Neurotol Open. 2023;3(2):e030. PubMed
- Cavarocchi C, Wong K, Cao AC, et al. Toward a Diagnostic Imaging Algorithm for Undifferentiated Pulsatile Tinnitus. Otol Neurotol. 2024;45(8):895-900. PubMed
- Cummins DD, Caton MT, Hemphill K, et al. Clinical evaluation of pulsatile tinnitus: history and physical examination techniques to predict vascular etiology. J Neurointerv Surg. 2024;16(5):516-521. PubMed
- Wang AC, Nelson AN, Pino C, et al. Management of Sigmoid Sinus Associated Pulsatile Tinnitus: A Systematic Review of the Literature. Otol Neurotol. 2017;38(10):1390-1396. PubMed
- Lansley JA, Tucker W, Eriksen MR, et al. Sigmoid Sinus Diverticulum, Dehiscence, and Venous Sinus Stenosis: Potential Causes of Pulsatile Tinnitus in Patients with Idiopathic Intracranial Hypertension? AJNR Am J Neuroradiol. 2017;38(9):1783-1788. PubMed
- Cognard C, Gobin YP, Pierot L, et al. Cerebral dural arteriovenous fistulas: clinical and angiographic correlation with a revised classification of venous drainage. Radiology. 1995;194(3):671-680. PubMed
- Hsieh YL, Liu X, Wang S, et al. Intracranial Dural Arteriovenous Fistula Can Mimic Sigmoid Sinus Wall Anomalies Induced Pulsatile Tinnitus: Caution Before Considering It’s Venous. Ear Nose Throat J. 2025 May 20 (Online ahead of print). PubMed
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