先に結論:肛門挙筋(こうもんきょきん)とは
- 肛門挙筋(levator ani muscle)は、骨盤の底をハンモックのように支える骨盤底筋群の中心の筋肉で、恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋の3つからなります。尾骨筋とあわせて骨盤隔膜をつくります
- 起始:恥骨の後面・肛門挙筋腱弓(内閉鎖筋の筋膜)・坐骨棘、停止:尾骨・肛門尾骨靱帯・直腸や肛門のまわり。左右の筋が真ん中で合わさって漏斗(じょうご)形の底をつくります
- はたらきは、膀胱・子宮・直腸などの骨盤内臓器を下から支え、排便・排尿をコントロールすること。ゆるむと骨盤臓器脱や尿失禁の原因になります。CTでは直腸・肛門管を左右から囲む板状の筋として見え、外側に内閉鎖筋があります
肛門挙筋(こうもんきょきん:levator ani muscle)は、骨盤底を構成する主要な筋群であり、恥骨および肛門挙筋腱弓(内閉鎖筋膜の肥厚部)などから起こり、直腸・肛門周囲および尾骨へ向かって走行する筋である。
骨盤隔膜(pelvic diaphragm)の主体を形成する筋群であり、骨盤内臓器を支持し、排便機能や骨盤底の安定化に重要な役割を担う。一般に恥骨直腸筋、恥骨尾骨筋、腸骨尾骨筋の3つの筋から構成される複合筋として理解される。ただし文献によって名称は一定せず、起始・停止の組み合わせで整理した総説では、恥骨尾骨筋を恥骨内臓筋(pubovisceral muscle:恥骨会陰筋・恥骨腟筋・恥骨肛門筋)と呼び、恥骨直腸筋・腸骨尾骨筋とあわせて記載することが提案されている。論文を読む際は用語の違いに注意が必要である。
骨盤CT、骨盤MRIでは骨盤底を形成する板状の筋として描出され、骨盤臓器脱、直腸疾患、肛門疾患、骨盤内腫瘍、炎症、術後評価などにおいて重要なランドマークとなる。
肛門挙筋のCT、MRI画像の解剖
骨盤CTやMRI画像を読む上で肛門挙筋がどの場所にあるのか解剖をチェックしましょう。
CTの横断像では以下の場所に肛門挙筋があります。

肛門挙筋は骨盤底を形成する左右対称の板状筋として描出されます。骨盤内腔を下方から支える構造であり、直腸や膀胱などの骨盤内臓器の支持に重要です。
内側には直腸および肛門管が位置し、外側には内閉鎖筋が存在します。前方には膀胱や前立腺(男性)あるいは膣(女性)、後方には尾骨が位置します。
このため骨盤CTでは、直腸周囲を囲む筋構造として観察されることが多く、骨盤底の構造を理解するうえで重要なランドマークとなります。
CT画像をスクロールしてコロコロ連続画像で見たい方はこちら→肛門挙筋(levator ani muscle) のCT画像の解剖
肛門挙筋の起始と停止
起始
- 恥骨後面
- 肛門挙筋腱弓(arcus tendineus levator ani)
- 坐骨棘
停止
- 尾骨
- 肛門尾骨靱帯
- 直腸壁周囲
実用上は、肛門挙筋は骨盤側壁から起こり、内下方へ向かって骨盤中央へ収束し骨盤底を形成する筋群と整理すると理解しやすい。
左右の筋が中央で合流し、骨盤臓器を下方から支持する構造を形成する。
肛門挙筋を構成する筋ごとの起始・停止
| 筋 | 起始 | 停止・走行 | 主なはたらき |
|---|---|---|---|
| 恥骨直腸筋(puborectalis) | 恥骨後面 | 直腸肛門移行部の後ろを回り、反対側と合わさってU字形のつり革をつくる | 直腸肛門角をつくり、便をためる |
| 恥骨尾骨筋(恥骨内臓筋) | 恥骨後面 | 会陰体・腟壁・肛門周囲、肛門尾骨靱帯・尾骨 | 骨盤内臓器の支持 |
| 腸骨尾骨筋(iliococcygeus) | 肛門挙筋腱弓・坐骨棘 | 肛門尾骨靱帯・尾骨 | 骨盤底の後方を板状に支える |
肛門挙筋の線維走行の特徴
肛門挙筋の線維は骨盤側壁から内下方へ向かって走行し、直腸および肛門周囲を取り囲むように配置される。
筋全体は漏斗状あるいは皿状の形態をとり、骨盤底を支える構造として機能する。
CTでは骨盤内腔の下方に位置する板状筋構造として観察される。
MRIでは特に骨盤底筋群の評価が重要であり、筋萎縮や断裂、骨盤臓器脱との関連を評価する際に重要な解剖学的指標となる。
肛門挙筋のMRI:経腟分娩後の損傷
- 未産婦80人と初回の経腟分娩後の女性160人のMRIの比較では、未産婦には肛門挙筋の欠損が見られなかったのに対し、経腟分娩後では32人(20%)に欠損があった。欠損は恥骨内臓筋(恥骨尾骨筋)が29人、腸骨尾骨筋が3人で、32人のうち23人(71%)は腹圧性尿失禁のある群であった(DeLancey 2003)。
- 便失禁の女性68人と対照68人のMRIの検討では、恥骨直腸筋の損傷は肛門を締めるときの動きの低下と関連したが、便失禁の独立した危険因子ではなかった(Bharucha 2012)。
関連記事:直腸癌のMRI画像診断で知っておくべき周囲の筋肉(恥骨直腸筋、肛門挙筋)の解剖
肛門挙筋の作用
- 骨盤臓器の支持
- 骨盤底の安定化
- 排便機能の調整
- 腹圧上昇時の臓器支持
- 肛門管の角度維持(恥骨直腸筋)
肛門挙筋の主な役割は骨盤底の支持機構である。特に恥骨直腸筋は直腸と肛門管の角度(直腸肛門角)を形成し、排便機能の制御に重要な役割を果たす。
腹圧が上昇する際には骨盤臓器を下方から支えることで、膀胱や直腸などの位置を保持する。
神経支配
肛門挙筋は主として仙骨神経(S3〜S5、多くはS4を含む)の直接枝である肛門挙筋神経に骨盤内面から支配され、陰部神経の関与は一部にとどまる(S2〜S4)。骨盤底筋群の神経支配は複雑であるが、一般に仙骨神経根レベルはS2〜S4とされる。
このため骨盤底筋群の萎縮や機能障害を評価する際には、仙骨神経領域の神経障害の可能性も考慮する必要がある。
CT読影で肛門挙筋を評価する意義
肛門挙筋は骨盤CT読影において以下のような場面で重要である。
- 骨盤臓器脱の評価
- 直腸腫瘍の局在診断
- 肛門周囲膿瘍や瘻孔の深達度評価
- 骨盤底筋群の萎縮評価
- 骨盤内腫瘍の局在診断
- 術後評価や外傷評価
特に直腸癌や肛門周囲感染症の評価では、病変が肛門挙筋を越えて骨盤底外へ進展しているかを確認することが重要である。また骨盤MRIでは骨盤底筋群の解剖理解が診断精度に直結するため、肛門挙筋の位置関係を把握しておくことが重要である。
実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。全体の見方は腹部CTの解剖にまとめています。
参考文献:
- Standring S. Gray’s Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 42nd ed.
- Moore KL, Dalley AF, Agur AM. Clinically Oriented Anatomy. 8th ed.
- Gowda SN, Bordoni B. Anatomy, Abdomen and Pelvis: Levator Ani Muscle. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2022. PubMed
- Bharucha AE, Fletcher JG, Melton LJ 3rd, et al. Obstetric trauma, pelvic floor injury and fecal incontinence: a population-based case-control study. Am J Gastroenterol. 2012;107(6):902-911. PubMed
- DeLancey JO. Anatomy and biomechanics of genital prolapse. Clin Obstet Gynecol. 1993;36(4):897-909. PubMed
- Barber MD, Bremer RE, Thor KB, et al. Innervation of the female levator ani muscles. Am J Obstet Gynecol. 2002;187(1):64-71. PubMed
- Kearney R, Sawhney R, DeLancey JO. Levator ani muscle anatomy evaluated by origin-insertion pairs. Obstet Gynecol. 2004;104(1):168-73. PubMed
- DeLancey JO, Kearney R, Chou Q, et al. The appearance of levator ani muscle abnormalities in magnetic resonance images after vaginal delivery. Obstet Gynecol. 2003;101(1):46-53. PubMed
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お世話になっております。
肛門挙筋のCT画像について勉強させていただきました。
肛門挙筋と外肛門括約筋(できれば内肛門括約筋も)の区別が可能かどうか、またCT画像での部位について教えていただければ幸いです。
お忙しい中恐縮ではございますがどうぞよろしくお願い致します。
ご質問ありがとうございます。
通常のCTでも、肛門挙筋と外肛門括約筋は位置関係からある程度区別できます。肛門挙筋は肛門直腸移行部を後方から取り囲む筋で、外肛門括約筋はその尾側で肛門管を輪状に囲みます。内肛門括約筋はその内側にありますが、薄いため通常CTでは明瞭に分離できないことも多いです。詳細な評価にはMRIが適しています。
お答えいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願い致します。