「北回り (Supraportal type)」と「南回り (Infraportal type)」 という概念は、胆道外科手術において、胆管や肝動脈の走行を理解する上で重要。

これらの走行が 切除範囲の決定や術後合併症のリスク管理に直結する ため、術前のCT画像診断が極めて重要となる。

北回り・南回りとは?

「北回り・南回り」は、主に 門脈に対する胆管や肝動脈の走行位置 に基づいて分類される。

  • 北回り (Supraportal type):門脈の頭側を走行
  • 南回り (Infraportal type):門脈の尾側を走行

この分類は、右後区域胆管枝 (B6, B7) で用いられることが多いが、肝動脈や左外側区域胆管 (B3)、左尾状葉胆管枝 (B1l) などにも適用されるため、胆道外科手術において広く応用される。

胆管の北回り・南回り

(1) 右後区域胆管枝 (B6, B7)

右後区域胆管枝は、門脈との相対的な位置関係により以下のように分類される。両者が混合する混合型もある。

  • 北回り (Supraportal type):約85%
    • 右門脈の頭背側を走行し、右前区域胆管枝に合流
    • 左肝切除時、胆管断端が右門脈の左背側に位置する
  • 南回り (Infraportal type):約15%
    • 右門脈の尾側を走行し、より上流で合流
    • 左肝切除でも左三区域切除を行わずに根治切除が可能な症例もある

手術への影響:南回りの症例では、通常よりも高位で切離が可能となり、胆管断端の処理に影響を与える。

(2) 左外側区域胆管 (B3)

B3の北回り・南回りは左門脈臍部 (UP) に対する走行位置で分類される。

  • 北回り (Supraportal type):約94%
    • 門脈臍部の頭側を走行し、通常の合流パターンをとる
  • 南回り (Infraportal type):約6%
    • 門脈臍部の尾側を走行し、胆管像では下に凸のカーブを描く特徴的な形態を示す

手術への影響:右三区域切除の際、B3が南回りの場合は、B2とB3を別々に切離する必要があり、吻合操作に注意が必要となる。

肝動脈の北回り・南回り

(1) 右肝動脈後区域枝 (RPHA)

  • 北回り (Supraportal type):約15%
    • 右門脈の頭側を走行
    • 左肝切除時に中肝動脈や尾状葉動脈枝と誤認しやすい
  • 南回り (Infraportal type):約85%
    • 右門脈の尾側を走行し、通常の解剖を示す

手術への影響:北回りのRPHAは、腫瘍に浸潤されるリスクが高く、注意が必要。

(2) 左肝動脈 (LHA)

  • 通常型 (約95%):門脈臍部の左側を走行
  • R-UP type (約5%):門脈臍部の右側を走行

手術への影響:R-UP type のLHAは、左肝管と接する距離が長いため、腫瘍浸潤のリスクが高くなる。

北回り・南回りのCT画像診断のポイント

北回り・南回りの分類を術前に正確に把握するためには、MDCTによる3D画像解析 が不可欠です【8】。

(1) 右後区域胆管枝 (B6, B7) の評価

(2) 肝動脈の評価

  • CT血管造影 を用いて、肝動脈の走行を確認
  • RPHAやLHAの異常走行を術前に認識 し、術中の血管損傷リスクを低減

北回り・南回りが胆道癌手術に与える影響

北回り・南回りの解剖学的変異は、胆道癌手術において以下のような影響を及ぼす。

構造 北回り (Supraportal type) 南回り (Infraportal type)
右後区域胆管枝 (B6, B7) 通常型、標準的な切除 高位で切離可能、左肝切除のみで対応可
左外側区域胆管 (B3) 標準的な胆管走行 右三区域切除時に胆管吻合操作が複雑化
右肝動脈後区域枝 (RPHA) 誤認リスクあり、腫瘍浸潤リスク高 通常の手術計画が可能
左肝動脈 (LHA) 一般的な走行 R-UP typeでは腫瘍浸潤の可能性あり

まとめ

  • 「北回り・南回り」は、胆管や肝動脈の門脈に対する走行位置を示す重要な分類である。
  • 術前のCT画像診断により、北回り・南回りの評価を行うことで、手術の安全性・根治性が向上する。
  • 特に胆道癌手術では、まれな変異も手術方針に大きな影響を与えるため、詳細な術前シミュレーションが必須。

参考文献:胆道33巻1号 48~53(2019)

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