先に結論:骨盤内うっ血症候群(骨盤うっ血症候群)とは

  • 骨盤の中の静脈(卵巣静脈・子宮のまわりの静脈)の弁がうまく働かず、血液がたまって静脈瘤のように太くなり、6か月以上続く下腹部・骨盤の鈍い痛みを起こすと考えられている状態です。出産経験のある閉経前の女性に多く、立っていると悪化し、横になると楽になるのが特徴です
  • CT・MRIでは子宮・卵巣のまわりの曲がりくねった太い静脈と卵巣静脈の拡張(多くは左)が見られます。ただし卵巣静脈が太いだけで症状のない人も多いため、子宮内膜症・子宮腺筋症・骨盤内感染症などほかの原因を除いた上で疑います。左腎静脈が圧迫されるナットクラッカー症候群が関係することもあります
  • 治療は、カテーテルで卵巣静脈などを詰める塞栓術・硬化療法が行われます
  • 卵巣静脈の走行:卵巣から尿管に沿って上へのぼり、右は下大静脈へ直接、左は左腎静脈へ流れ込みます。左は腎静脈を経由する分、逆流や拡張が起こりやすい側です

※長く続く下腹部痛は、婦人科で原因を調べてもらってください。

骨盤うっ血症候群(pelvic congestion syndrome)

  • 卵巣静脈の拡張の目安となる径は報告によって異なり、無症状の腎提供者女性のCTでも47%に径7mm以上の卵巣静脈拡張がみられたと報告されている(経産婦では63%)。この検討で拡張がみられた16例はすべて左卵巣静脈に及び、うち6例は両側性であった(径7〜12mm)。未経産婦では10%にとどまり、拡張は経産と強く関連していた。
  • 無症候性の卵巣静脈拡張は日常臨床においてしばしば遭遇し、多くは無症状である。
  • 従って、骨盤うっ血症候群は、卵巣静脈拡張に加えて、6ヶ月以上持続する慢性的な下腹部痛・骨盤部痛があって初めて疑う疾患である。
  • 骨盤内静脈は腸骨静脈系や卵巣静脈に還流するが、これらの静脈の弁不全や閉塞による機能不全が原因と考えられている。
  • 立位で増悪し、臥位で軽減する特徴がある。
  • 経産婦の閉経前に発症することが多いが、閉経後に生じることがある。
  • 慢性的な下腹部痛、骨盤部痛を来す疾患には、子宮内膜症、子宮腺筋症、骨盤臓器の癒着、骨盤内感染症、間質性膀胱炎、過敏性腸症候群などがあり、骨盤うっ血症候群を疑う場合には、これらを除外する必要がある。つまり、除外診断により疑われる。なお近年は、骨盤うっ血症候群・ナットクラッカー症候群・May-Thurner症候群などを骨盤静脈疾患(pelvic venous disorders: PeVD)としてまとめて捉え、症状・静脈瘤・病態生理で記載するSVP分類が提唱されている。
  • 治療はIVRにより、両側の卵巣静脈の塞栓もしくは硬化療法が行われる。25研究・2038例をまとめた系統的レビューでは、塞栓術の技術的成功率は94%、合併症は9.0%(その約9割は軽微)で、痛みの評価(VAS)を報告した研究ではすべて術後に痛みが減っていた。ただし研究の質は高くない(Hanna 2024)。
  • 確定診断にはIVRにより、症状が軽減することを確認するという診断的治療によりなされる。そのため画像だけで確定診断をすることは難しい。

卵巣静脈の走行と「卵巣静脈瘤」とは

  • 卵巣静脈(性腺静脈)は卵巣のまわりの静脈叢から始まり、骨盤の外側から大腰筋の前を尿管に沿って上行する。
  • 右卵巣静脈は下大静脈の前面に斜めに直接流入し、左卵巣静脈は左腎静脈へほぼ直角に流入する。左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫される(ナットクラッカー現象)と、左卵巣静脈へ逆流しやすくなる。
  • CTでは、腎門部の高さで左腎静脈へ下から合流する細い血管を探し、尿管と並走する血管を尾側へ追うと卵巣静脈を同定しやすい。
  • いわゆる「卵巣静脈瘤」は、拡張・蛇行した卵巣静脈や子宮・卵巣周囲の静脈(骨盤静脈瘤、pelvic varices)を指すことが多い。

骨盤うっ血症候群(pelvic congestion syndrome)(を疑う)画像所見

  • 子宮周囲の骨盤内静脈の拡張や卵巣静脈(多くは左側)の拡張を認める。
  • IVRによる卵巣静脈造影で逆行性の卵巣静脈、子宮静脈、反対側の骨盤内静脈の描出を認める。これは卵巣静脈の中等度〜高度の停滞があることを示唆する所見。

症例 30歳代女性 月経周期とは関係のない慢性的な下腹部痛

引用:Radiopaedia

骨盤の左側には顕著な血管分布があり、子宮と卵巣から生じた拡張した曲がりくねった「静脈瘤のような」静脈があり、左卵巣静脈は太く曲がりくねって左腎静脈に流れ込んでいるように見えます。

骨盤うっ血症候群(pelvic congestion syndrome)疑いと診断されました。

症例 60歳代女性 慢性的な下腹部痛

引用:Radiopaedia

子宮周囲で左優位に骨盤内静脈の拡張、卵巣静脈拡張を認めています。

骨盤うっ血症候群(pelvic congestion syndrome)疑いと診断されました。

卵巣静脈の太さだけで診断できない理由

骨盤静脈瘤(5mm超)のある女性200例を調べた研究では、症状のある人とない人で卵巣静脈の太さに差はなく(平均8.89mmと9.43mm)、太さは症状と関連しませんでした。一方、腸骨静脈や左腎静脈の狭窄・閉塞(流出路の閉塞)は症状のある人に多くみられました(32.9%と2.6%)(Gonzales 2026)。卵巣静脈が太いという所見だけでなく、腎静脈・腸骨静脈の圧迫の有無や症状と合わせて判断することが大切です。

骨盤内うっ血症候群でよくある疑問(Q&A)

Q. 「骨盤うっ血症候群」と「骨盤うっ滞症候群」は違う病気?
A. 同じpelvic congestion syndromeの訳語の違いです。近年は骨盤静脈疾患(PeVD)としてまとめて扱われます(Meissner 2021)。

Q. CTで卵巣静脈が拡張していると言われました。
A. 症状のない経産婦でもよくみられる所見です(Rozenblit 2001)。長く続く骨盤の痛みがなければ、それだけで病気とは考えません。痛みがある場合は婦人科で相談してください。

関連記事:ナットクラッカー症候群のCT画像所見のポイント

あわせて読みたい:卵巣静脈血栓の症状は?原因は?画像診断のポイントは?

参考文献:

  1. 泉雄一郎, 清末一路. ここが知りたい! 画像診断2021年5月号特集「これだけおさえる胸腹部解剖─血管と管腔のvariation & anomalyを中心に─」. 画像診断 41(12):1276-1278, 2021(本記事の参照: P1276-77)
  2. 泉雄一郎, 岡田浩章, 山本貴浩, ほか. 2. 腹部(5)骨盤 卵巣静脈と精巣静脈. 画像診断 41(6):624-627, 2021(本記事の参照: P625-6)
  3. 画像診断別冊KEY BOOKシリーズ 婦人科MRIアトラス 改訂第2版 P390-1
  4. Rozenblit AM, Ricci ZJ, Tuvia J, et al. Incompetent and dilated ovarian veins: a common CT finding in asymptomatic parous women. AJR Am J Roentgenol. 2001;176(1):119-122. PubMed
  5. Meissner MH, Khilnani NM, Labropoulos N, et al. The Symptoms-Varices-Pathophysiology classification of pelvic venous disorders: a report of the American Vein & Lymphatic Society International Working Group on Pelvic Venous Disorders. J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 2021;9(3):568-584. PubMed
  6. Coakley FV, Varghese SL, Hricak H. CT and MRI of pelvic varices in women. J Comput Assist Tomogr. 1999;23(3):429-434. PubMed
  7. Hanna J, Bruinsma J, Temperley HC, et al. Efficacy of embolotherapy for the treatment of pelvic congestion syndrome: A systematic review. Ir J Med Sci. 2024;193(3):1441-1451. PubMed
  8. Gonzales E, Nguyen V, Risner V, et al. Compression and Superficial Varicosities Outperform Gonadal Vein Diameter in Differentiating Symptomatic from Asymptomatic Pelvic Venous Disorders: A Case-Control Study. Cardiovasc Intervent Radiol. 2026;49(7):1268-1277. PubMed

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