骨盤内感染症・骨盤内炎症性疾患(PID:pelvic inflammatory disease)とは?
- 小骨盤を占める腹膜の炎症を総称するが、広義には子宮・付属器・小腸・直腸など骨盤内臓器、あるいはそれらを覆う臓側腹膜や壁側腹膜の炎症をいう。
- 婦人科領域では、卵管炎、卵巣周囲炎、卵管・卵巣膿瘍を含む非特異的感染症。
- 婦人科領域での感染症としては、他に外陰・膣部への感染症があり、性器ヘルペス感染症、尖圭コンジローマなどがあるが、画像診断が必要になることはない。
- 原因は子宮を介しての上行性感染(主に性行為感染症)がほとんどであり、淋菌、クラミジア、大腸菌や膣・頸管の常在菌群の感染が原因となる。
- 近年、大腸菌やバクテロイデスなどの一般細菌が増加している。
- 多くは複合感染。結核性は血行性。
- 危険因子は若年者、複数の性行為パートナー、経膣的医療行為(人工授精など)、子宮内膜細胞診、子宮内避妊器具(intrauterine cotraceptive device:IUD)。
- IUD装着患者では放線菌感染(actinomycosis)の頻度が高い。起炎菌のActinomycesisraeliiが産生する蛋白分解酵素により、腹膜や筋膜などの臓器境界を越えて浸潤性に進展する特徴を有する。悪性腫瘍との鑑別が問題。
症例 30歳代女性 IUD
子宮内にIUDあり。
骨盤内感染症を疑う所見は認めません。(IUDを提示した画像です。)
- 罹患した生殖年齢女性の20%が不妊症となり、子宮外妊娠の罹患率も正常の6-10倍といわれる。また癒着性子宮後転症も合併しやすい。
- 発熱、下腹部痛、内診による付属器領域の圧痛、帯下の増量などを症状とするが、無症状のことも少なくなく、特にクラミジア感染の2/3は無症状と言われている。
- またクラミジアは卵管に炎症が波及しても、他の菌と比べて激烈な症状に乏しく、下腹部痛のみで、白血球増加や発熱などの炎症所見を認めないことが20%程度ある。結果、パートナーとの間で感染を反復、慢性化し、卵管狭窄をきたし、20%が不妊症となる。画像で診断されるのはかなり進行してから(クラミジアが卵管におよび拡張をきたしてから)。
- クラミジアの診断は、子宮頸管擦過検体からの病原体の同定、抗原検査が第一選択だが、コストなどの理由で血清抗体検査(IgA,IgG)がスクリーニングで用いられることが多い。
- 治療は抗生剤投与。骨盤腹膜炎は、重症感染症へ移行することが多いため、外科的処置を念頭に治療をする必要がある。
- 適切な治療が施されずに慢性化すると、慢性骨盤部疼痛、子宮外妊娠、不妊症などの後遺症を生じることがある。
- 鑑別診断は、子宮外妊娠、卵巣出血、卵巣腫瘍茎捻転、虫垂炎、憩室炎、結核性腹膜炎など。
骨盤内感染症の診断基準
必須診断基準:
- 下腹痛
- 子宮付属器周辺の圧痛
付加診断基準:
- 発熱>38℃
- WBC,CRPの上昇
特異的診断基準:
- 経腟超音波やMRIにおける膿瘍像の確認
- 腹腔鏡による炎症の確認
※画像は必須ではない。なので難しい。
※PID疑いとのことですが、膿瘍はありません。程度しか言えない。
骨盤内感染症・骨盤内炎症性疾患(PID)の画像所見
子宮頸管炎・子宮内膜炎
子宮頸管がSTDにおいて初期に感染する部位である。
MRI画像所見としては、
- 子宮頸部の腫大
- T2強調像での頸部の信号上昇
などを認める。
卵管炎、卵管留膿腫、卵管卵巣膿瘍
卵管は骨盤内臓器で最も炎症が起こりやすい部位であり、子宮から上行性に付属器に炎症が及ぶと卵管炎となる。
卵管炎
MRI画像所見としては、
- 卵管壁の浮腫・肥厚・造影効果
を認める。
周囲への炎症波及を反映し
- 骨盤内脂肪織濃度上昇
- 仙骨子宮靱帯に沿った濃度上昇・造影効果増強
を認める。
卵管炎が遷延すると、慢性卵管炎となり、線維化・癒着を認める。
これにより卵管采が閉鎖すると、炎症が治まっても漿液性の液体貯留が残って、卵管水腫(hydrosalpinx)となる。
卵管留膿腫
卵管に膿が溜まると、卵管留膿腫となる。
MRI画像所見としては、
- 水よりもやや信号強度の高い内溶液を含む壁の厚い、C型あるいはS型の管状(ソーセージ状)の嚢胞性腫瘤として認められる。
- 卵管壁は厚く、造影効果を認める。
- なお卵管内には線状の粘膜ヒダが認められる。
- 膿瘍成分を反映して、拡散強調像で高信号、ADC信号低下を認める。
卵管卵巣膿瘍
卵巣に炎症が及ぶと、卵巣にも膿瘍形成を来たし、卵管卵巣膿瘍となる。
MRI画像所見としては、
- 壁の厚く、多数の隔壁で境された多房性嚢胞性病変として認められる。
- 仙骨子宮靱帯に沿った濃度上昇・造影効果増強がさらに明瞭化
- 膿瘍壁の内層がT1強調像で高信号となることが多く、鑑別に有用な所見である。(壁内層の微小出血を混在した肉芽組織を反映)。
骨盤腹膜炎
さらに炎症が広がると、小骨盤腔に到達し、骨盤腹膜炎となる。
Douglas窩などに腹腔内膿瘍を形成したり、腹腔内に炎症が波及することにより麻痺性イレウスを起こすことがある。
画像所見としては、
- 腹膜の肥厚・造影効果増強
- Douglas窩膿瘍形成の場合、MRIの拡散強調像で高信号、ADC信号低下
などを示すようになる。
まとめ
参考:臨床画像 vol.34 No.4 2018 P412-416